汐月夜空さん

切ない話が好きな空想好きです。 なんでもない日常がなんでもある日常に変わる物語を読んだり書いたりするのが特に好きです。 ブログの方でも小説やエッセイ、ネタなどを書いておりますので、よければどうぞ。 twitterの方は私生活も含めて好き放題呟いてますので、汐月夜空のことが気になる方フォローお願いします。 ブログ:http://ameblo.jp/shiotsuki-yozora/ twitter:https://twitter.com/YozoraShiotsuki

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ソラ

14/01/02 コンテスト(テーマ):第一回OC 【 猫とアオゾラ 】  コメント:10件 汐月夜空 閲覧数:1440

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「今日も綺麗な青空だねえ、ソラ」
 ソラ、それが僕の名前。
 捨て猫だった僕にとって、大事な家族の聡子おばあちゃんがつけてくれた大切な名前だ。
 おばあちゃんはいつも日差しの暖かな縁側に腰掛けて、こう言っては僕を撫でてくれていたから、自分の名前がソラだということを覚えることは簡単だった。だけど、アオゾラと呼ばれているものが何なのかを理解することは出来なかった。
 おばあちゃんが青空と呼ぶものが、この頭上に広がる青色のことだとは分かっていたけれど、それが何なのかまでは分からなかった。それが不変ではなかったから。雲と呼ばれている白いものが、僕の理解を邪魔していた。
 また日が落ちて、おばあちゃんはこう言った。
「今日も綺麗な夕日だったねえ、ソラ」
 ユウヒ。それにいたっては、僕は理解すら出来なかった。橙色、赤色、とおばあちゃんは指を指して言っていたけれど、僕はそれをどう見ても同じ白や黄色でしか認識できなかったから。
 ただ、この白の時を超えて、灰色の時間になると、世界は急に寒くなる。だから、僕はおばあちゃんの棒のように細い足をそっと叩いて、部屋に入るように促す。
 すると、おばあちゃんは「はいはい、ソラ、分かったよ。寒いねえ、お部屋に入ろうね」とくしゃくしゃな顔を更にくしゃくしゃにした笑顔で答えて、僕を抱えて暖かな部屋の中へ入っていく。今にも「仕方ないねえ」と言いそうなおばあちゃんではあるけれど、僕がおばあちゃんのことを心配してやっているんだってこと、分かってるのかな。
 ご飯を食べて、床に入ってからおばあちゃんは僕の身体を一撫でして、こう言ってから瞼を閉じる。
「今日も綺麗な夜空だねえ、ソラ」
 ヨゾラ。家の外に出れば黒色のことだって分かったけれど、障子で窓が覆われている部屋の中で、おばあちゃんは何に向かってそう言っているのか、僕には分からなかった。


 ある日のこと、おばあちゃんが布団から出られなくなった。
 だから、僕はおばあちゃんがいつも見ていた空を届けたくって、色んなものを見つけてはおばあちゃんにプレゼントした。
 青色の花。白色のハンカチ。黒色のボトル。
 一つ一つ咥えては届け、見せ終わると元の場所まで運んでいく。
 おばあちゃんは嬉しそうにそれらを見ては、青空、夕日、夜空、と言って僕の身体を撫でてくれた。
僕はおばあちゃんの暖かな手のひらで撫でられることが嬉しかったから、その日はいつだっておばあちゃんの傍に居た。いつでも手を伸ばせば届く範囲で、じっとしていた。

 だけど、次の日、おばあちゃんは似た匂いのする人に手を引かれ、この家からいなくなってしまった。
 その人が僕の餌を用意してくれたので、僕はその日を家の中で一人ぼっちで過ごした。
 きっと、おばあちゃんはこの家に帰ってこない。そんなことを想った。生まれてこの方、僕はおばあちゃん以外の存在を注視したことはなかったけれど、だからこそ分かる。おばあちゃんはもう、いつものおばあちゃんでは無くなってしまっていた。
 例えば、昔は飛び乗れたタンスの上に今は乗れないように、歳を重ねることで出来なくなることが増えるように、おばあちゃんはいつものように家には帰ってこられない。そう思った。
 それが寂しくて泣いてしまったけれど、僕の声はもう誰にも届かない。


 それからしばらく経って。
 毎日餌を用意してくれていた人が、僕にケージに入るように促した。
 僕はそれを受け入れて、静かにケージの中に納まった。そういえば昔、同じケージに入って車というものに揺られたことがあった気がする。ひょっとしたらこの人ともその時に出会っていたのかもしれないけど、知らないや。
 しばらく車に揺られて、なんだか酷いにおいのする場所についた。皆同じ色の服を着て、ある人は笑い、ある人はぼうっとしていた。幼い人たちが僕の姿を見てはしゃいでいる。辺りを見回していると、目の前のソファにおばあちゃんの姿を見つけた。
 何か管が巻きついた腕、痩せこけた頬、変わり果てた姿に驚いたけれど、すぐにおばあちゃんだって分かった。
『おばあちゃん』
 僕が声をかけると、おばあちゃんは嬉しそうに笑った。
「おお、ソラだねえ。今日も綺麗だねえ」
 そして、僕に向かって指を指す。
「青空」僕の右目。
「夕日」僕の左目。
「夜空」僕の身体。
 僕の入ったケージを持った人が、僕を取り出しておばあちゃんへと渡した。おばあちゃんは僕を落とさないようにぐっと後ろから抱きしめた。
 その弱々しい抱擁を懐かしみながら、僕は目の前の風景の映る壁を見て、ようやく自分の名前の本当の意味を知った。
 青い瞳と白い瞳、そして、黒い身体。
 おばあちゃんにとって僕は空そのものだったんだね。


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このストーリーに関するコメント

14/01/04 そらの珊瑚

夜空さん、拝読しました。

ああ、なんて切ないのでしょう。
猫には人の言葉はきっとわからないのでしょう。
けれど心を通じ合わせることは出来る。
猫と空はこのように紡がれるとは、感銘しました。

14/01/15 汐月夜空

そらの珊瑚様、コメントありがとうございます。

切ないとの言葉、まことに嬉しいです。
まだまだ未熟な紡ぎ手ではありますが、今後とも心に響く物語を書けたらいいなと思います。
心を通じ合わせるのに、言葉は要らない。
それとは逆に、言葉が無ければ心は通じない。
私はそれを両方とも真だと思っています。

14/01/15 汐月夜空

猫春雨様、コメントありがとうございます。

日本には昔から、物や動物、植物にいたるまで『恩返し』の心を持つという文化があるような気がします。
現代人であり、昔の有名な作品もあまり読んだことがないですが、日常生活からそのような思いを感じることがあります。
そんな漠然としたものを形にしてみたく、今回のテーマに取り組んでみました。
ソラはきっと綺麗で優しい目をした猫ですね。ありがとうございました。

14/01/19 猫兵器

汐月夜空 様

ご投稿ありがとうございます。拝読致しました。
すべての「空」を内包した猫という発想がとても綺麗。
とても切ない、だけど深い優しさを感じました。

14/02/11 汐月夜空

猫兵器様、コメントいただきありがとうございます。
猫について調べた時にオッドアイが出てきたので、思いつきました。
綺麗という言葉がうれしかったです。ありがとうございました。

14/02/11 汐月夜空

OHIME様、コメントありがとうございます。
猫の目から見た空と、人が見た空は違うかなーと色々考えてみました。
ところどころなり切れてないところがあるのが未熟だな、と思いますがお気に入りの作品です。
嬉しいお言葉をありがとうございました。

14/02/11 汐月夜空

OHIME様、コメントありがとうございます。
猫の目から見た空と、人が見た空は違うかなーと色々考えてみました。
ところどころなり切れてないところがあるのが未熟だな、と思いますがお気に入りの作品です。
嬉しいお言葉をありがとうございました。

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