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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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昭和のひびき

13/12/30 コンテスト(テーマ):第四十八回 時空モノガタリ文学賞【 昭和 】 コメント:4件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1611

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 昭和研究クラブの室内で、トモヤがかばんから取り出したものをみて、同じメンバーのかの子は、うなずきながら口をひらいた。
「拍子木ね。なるほど。たしかに昭和の匂い―――音が、ふんぷんとするわ」
 きょうここに集まったメンバーたちは、それぞれもちよってきた懐かしい昭和を物語るアイテムを順番に出しては、みんなで感想をかわしていた。
 いまトモヤが拍子木を出したのは、さいしょにかの子がゼンマイ仕掛けのロボットを披露したあとのことだった。
「しかしそれ、平成のいまでも使ってるだろ。大相撲とか、火の用心とか」
 メンバーの意見に対してトモヤは、
「これは紙芝居を告げるときに打つ拍子木だよ」と、はっきり区分した。
「紙芝居そのものがあればよかったのに」
 するとトモヤは、拍子木を一回、軽く打ち鳴らした。
「ぼくはこれから町に出て、これを打ち鳴らすつもりなんだ。拍子木の響きを耳にして、昭和のDNAを刺激された大人や、その子供たちが、何人よってくるかを知りたくてね」
「おもしろそう」
 かの子ひとりが大乗り気だった。
 他のメンバーたちも、半信半疑ながら、トモキといっしょにおもてにでると、はやくも拍子木を打ち鳴らしはじめた彼のあとについて、あるきはじめた。
「なにしてるんですか?」
 行き交うひとたちが、ふと足をとめて、こちらにちかづいてきた。
「この拍子木の音に、紙芝居だとおもってついてくる人が何人いるかの実験なんです。わたしたちの中には、これをきくと紙芝居を連想する遺伝子が組み込まれているというのが、そこで拍子木を打っている彼の考えなんです」
 かの子の説明に、興味をかきたてられたのかかれらもまた、トモキたちのあとを、ぞろぞろとついてきた。
 路上であそんでいたこどもたちが、拍子木の音をききつけて、あちこちから集まってきた。
 そんな子供たちにむかってかの子が、またしても物知り顔で口をひらいた。
「昭和の時代はこうやって、紙芝居のはじまりを、みんなにおしえるの。そうしたらあなたたちのような子供たちが、目を輝かせて紙芝居屋さんのまわりをとりかこんだのよ」
 そんなやりとりをそばからみていたトモヤは、ふいに辺りの建物が軒の低い、重たげな瓦屋根におおわれた家屋に変化していくのをみた。大きなマンションが次々に消え、道路際の電柱がコンクリートから木に様変わりし、走る車がみた目にクラシックに古ぼけていった。
 トモヤはなおも拍子木を鳴らしつづけた。
 家々の戸口がいきおいよく開いて、ばらばらと子供たちがはじけるようにとびだしてきた。頬を赤く染めたかれらは、甲高い歓声をあげながら、こちらに向かって我さきにかけよってきた。

◇  ◇  ◇

「このように未来の人間――トモキたち昭和クラブの面々が、昭和の時代に全盛をきわめた紙芝居を、みんなにおしえるために、拍子木を鳴らしながら道をあるいていると、あちこちから人々が集まってきました………さて、この先ははたしてどうなることやら、つづきは次回を乞う、ご期待!」
 紙芝居屋は終わりをつげると、ラストの一枚の絵を、舞台から引き抜いた。
 絶妙な紙芝居屋の口上に、かきたてられた好奇心も冷めやらない面持ちで子供たちは、帰り支度をはじめた紙芝居屋の一挙手一投足をじっとながめている。
 水あめをなめていた一人の少年が、そのときふいに口をひらいた。
「おじさん、おしえてよ。つづきはどうなるんだい?」
 それはまだここに居残っている子供たちみんながしりたいことだった。
 紙芝居屋は、紙芝居の道具を自転車の荷台にくくりつけていた手をとめて、優しげなまなざしを少年にむけた。
「きみは、どうおもう?」
 少年は、といかけられたことが、うれしくてならないように目をきらきらさせた。
「やっぱりトモヤは、じぶんの手で紙芝居を作って、みんなにみせるんじゃないのかな」
「どうして、そうおもうんだい。参考にするから、よかったら、きかせてくれないか」
 少年は、水あめでべとつく手で、鼻の頭をこすりあげてから、こたえた。
「トモヤはきっと、ちいさいころに、紙芝居をうんとたのしんだんだ。紙芝居のおもしろさを、おじさんみたいなひとから、たっぷりおしえてもらったから」
 紙芝居屋はそれをきくと、満足そうに少年を見返した。
「きみ、名前は、なんていうんだ?」
「トモヤだよ」
 そういうとトモヤ少年は、ぺろりと舌をつきだした。


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このストーリーに関するコメント

14/01/02 朔良

W・アーム・スープレックスさん、はじめまして。
拍子木で集まってきた子どもたちがどうなるのかなと思っていたら…。昭和クラブの方が紙芝居だったのですね。
拍子木の音って用途で違うんですね、知りませんでした。紙芝居を連想する遺伝子という発想が面白かったです。

14/01/02 W・アーム・スープレックス

朔良さん、はじめまして。

紙芝居は紙芝居屋さんが一人ですべてをこなす高等演劇に思えます。これ以上人のぬくもりを感じさせるものもほかにはないのでは。私たちがやっている創作もまた、一人ですべてをこなしていますが、子供たちを魅了する紙芝居のように、一人でも多くの読者を魅了できたらと、いつも願っています。
コメントありがとうございました。

14/01/22 光石七

拝読しました。
拍子木に紙芝居、素晴らしい着眼点ですね。
拍子木の音で昭和の光景がよみがえり、ノスタルジーな結末かと思いきや……
この意外性はスープレックスさんならではだと思います。
私も子供時代に紙芝居屋さんに会いたかったなあ。

14/01/22 W・アーム・スープレックス

光石七さん、コメントありがとうございます。

現代もときどき、子供たちを前に紙芝居をやったりしているのをテレビや新聞でみかけたりしますが、拍子木で子供たちを身近に集めて紙の芝居をみせて楽しませる娯楽って、世界にもそうないですよね。IT全盛のいまだから、拍子木ののどかな調べはよく響くのかもしれません。

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