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欽ちゃんさん

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性別 男性
将来の夢 顔が笑いじわだらけのじいちゃんになる
座右の銘 明日会えるけど今日も会いたい

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夢に堕ちる

13/12/27 コンテスト(テーマ):第四十六回 時空モノガタリ文学賞【 夢 】 コメント:0件 欽ちゃん 閲覧数:1079

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雲ひとつない快晴。
彼氏のヒロと手を繋いで海岸沿いを歩いている。
寄せる波とはしゃぎ合い、たまにキスをして、ただただ目的もなく歩く。
一緒にいられればいい。
すごく幸せ。この時間が好き。
何度目かのキスをしようとした時、ヒロが小さくつぶやく。

『・・・イ・・キテ・・』

そこで目が覚めた。

やっぱり夢か。
目尻から涙の通り道ができているのがわかる。
ここは、東栄病院の集中治療室。
部屋には『ピコンピコン』と規則的に機械音が鳴り、薄暗い病室を唯一照らしている。
この部屋にある小さな窓からは、外の景色ははっきり見えない。
入院して10日。
何とか頭を少し上げることが出来るようになった。
頭を上げて自分の体を見ると、何本もの管が体中を通っている。
足や腕に巻かれたギブスが事故の衝撃を思い出させる。
痛み止めの効果なのか、激しい痛みはないが常に意識がはっきりせず、頭がくらくらする。

「ヒロ、私は生きてるよ。でも会いたい。ツライよ・・」
涙がとめどなく溢れ出す。
私は夢が好きだ。唯一ヒロに会える時間だから。


あの日、映画を観た帰りだった。
暗くて車がギリギリすれ違えるくらいの狭い通り道。
車の通りが少ないため、二人でよく話しをしながら歩く道だった。
いつものように感想を話しながら駅まで歩いている時、突然後ろから強い光に照らされた。
振り向く間もなく景色が回転する。ぼんやりと目の前が暗くなり、意識を失った。

少しして寒くて目が覚めた。
目を開けると目の前に横たわるヒロの顔があった。
寝顔のようなやさしい顔。
ヒロの顔を見ると安心したのか、また意識が離れていった。

次に目を覚ましたのは事故から一週間が過ぎた頃だった。
病院の集中治療室。
家族や友人はすごく喜んでいたのを思い出す。
後で知ったことだが、ヒロは即死だったらしい。
飲酒運転の車による事故。

事故の日から毎日、ヒロの夢を見る。
『・・・イ・・キテ・・』
最後はヒロが必ず同じことを言って目が覚める。
生きて。
その言葉を無責任に感じてちょっとイラっとする。
いつも文句を言ってやろうと思うのだが、夢の中では忘れてしまう。

夢はヒロとの思い出を辿るアルバムのようだった。

ヒロはいつもどこかに寝ぐせがついていた。
ギュってしてくれた時、頬の剃り残しのひげが痛かった。
自分の将来の夢を語る時は、いつも活き活きしていた。
何だか置いて行かれそうで不安になる時もあった。私も頑張らなきゃって思える元気をくれた。
頼りなくて、いつもとぼけた雰囲気だった。でも、優しくてすごく好きだった。

薬の影響なのか頻繁に眠気に襲われる。


近所のカラオケボックス。
10人用の広い部屋だったがヒロと二人並んで座る。
仕事終わりで合流し、カラオケなのに歌わずに話しをする方が多かった。

「絶対、私が嫌われるんだもん。離れていくのはヒロだもん」
「僕は嫌いにならないよ。嫌われるとしたら僕だよ」
お互いにバカップルのような会話を楽しんでいる。
ふとヒロが目を閉じた。ヒロはキスする時は必ず目を閉じる。
いじわるして唇が触れる瞬間に少し離れると、キョトンとした顔で私の顔を見た。
「もー。キスしてよ」
そう言って、ギュッと私を抱きしめてくる。
改めてキスをしようとした時、ヒロの唇がいつもの言葉をつぶやく。

『・・・イ・・キテ・・』

ゆっくりと意識が現実に戻される。
この時、本当に離れる日なんて来ないと思ってた。
ヒロが離れた。こんな形で離れる時が来るなんて。
心が凍った砂の上を転がしたようにチクチクと痛む


しばらくして、また意識は遠のく。

あ、これ事故と同じ日だ。
夢の中でも夢だとわかった。
直後に車が突っ込んでくる。わかっていたが避けられなかった。
あの時と同じ。
ヒロが私の横に倒れている。眠っているような顔。
その時、ふと気付いた。
私、ヒロの寝顔見るの初めてだ。
お泊りした時、私が寝るまで頭を撫でてくれた。
目が覚めるのは何故は一緒だった。だから私はヒロの寝顔を見たことがない。
直後に、ふと頬に温かさを感じた。
ヒロから流れ出た血だった。こんな状態になっても私を心配してくれてる。夢の中にまで温かさを届けてくれた。

ヒロの口が小さく動く。
『・・・イ・・キテ・・』
もうツライよ
『・・イ・・ニキテ・・』
一人にしないでよ
『・・トイッショニキテ』
え?
『・・僕と一緒に来て』


夢から現実に引き戻される。
私に迷いはなかった。
私は力を振り絞って頭をもたげ、一番近くを通っている管を噛むと思いっ切り引いた。
大きな音とアラームを鳴らし、機械が倒れる。
意識は徐々に遠くなる。
ヒロとなら地獄でも一緒にいたい。
待ってて、もうすぐ私も行く。ずっと一緒にいられるよ。


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