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クナリさん

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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ANY OLD PORT IN A STORM ―再会のサイン―

13/12/26 コンテスト(テーマ):第四十七回 時空モノガタリ文学賞【 再会 】 コメント:10件 クナリ 閲覧数:2225

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彼女を恨んだことはない。
共に高校を出てすぐのあの日、この国を去る彼女は酷く泣いていた。
僕らの恋が、彼女の夢を阻んでいい筈がない。彼女は正しい。

僕は、この学校の教師になると決めた。
彼女と過ごしたこの場所こそが、僕の居場所であることは、きっと永遠に変わらないからだ。



昭和のある時期。
ハインツ・コイルフェラルドが英国から東京の片隅に転校して来たのは、小学生の時だった。
彼は、外国人やその血縁が大勢いる、異国情緒あふれる、全寮制の小中高一貫校に入った。
その彼が、中学二年生の冬の時期の話。

石造りの学校の中庭では、エンジュの落ち葉が木枯らしに吹かれ、石畳を滑っている。
その中、金髪を躍らせながら、フィアがハインツに話しかけてきた。
「ねー、聞いてよ」
「なぜ君とは、校舎内では殆ど会わないのに、その外では毎日会うんだろう」
「だって私、別棟の探検に忙しいんだもの。そしたら、そこで不思議なことが起きていたのよ」
君より不思議なのか、と言いたいのを我慢して、ハインツは事のあらましを聞いた。

この学校には、今は使われていない古い教室棟がある。一応立入禁止だが、教師は楽々入れるし、厳重に施錠されているわけではない。
昨日、フィアが白昼堂々探検中に、ある教室で異変を見つけた。
そこは南向きに窓がある教室で、窓に向かうと右手が前面となる造りだった。その為右手の壁には大きな黒板が掛けられ、後面となる左手には連絡事項用の小さな黒板が掛けられている。
両黒板は落書きもなく黒一面だったが、昨日フィアが見てみると、画板程の大きさの後面の黒板に、白いチョークで大きく『?』と書かれていた。
そして今日も忍び込んだ処、今度は前面の黒板に、こちらも大きく『!』と書かれていた。

「ねえ頭でっかち、誰が何でそんなことしたか解る?」
「フィア、今週英国から来て着任したミリヤ先生、ここの卒業生だってね」
「今関係ないじゃないのよう」
「あるよ。十年前、その廃教室で学んでいたらしい。当時同じクラスだった黒岡先生と交際していたって。ミリヤ先生は卒業後、どうしても英国へ留学したくて、一方的に別れてしまったそうだけど。それが今や、揃って卒業校の教師だ。知らないの君くらいだよ」
フィアは膨れ、
「ほっといて。でも、今二人共どんな気分なのかしら」
「その答を、君は見たんじゃないかな」
フィアは歩みを止め、
「どゆこと?」
「今週西欧より帰還した誰かさんが、かつてある人と過ごした廃教室に忍び込み、東側の黒板へメッセージを書いた。極東に住まい続けている、そのある人に向けて『?』とね」
「え。じゃあ……」
「随分消極的な伝言だ。誰かさんにとっても、賭けかおまじない程度だったかもね。が、ある人はその誰かさんのメッセージを見つけた。誰かさんの着任によって十年ぶりに再会し、感傷に駆られてたまたま廃教室を訪れたのか、定期的に来訪していたのかは分からないけど」
「女々しいわねー。十年前に別れたんでしょ?」
「ロマンティックと言いなよ。で、ある人は返事を書いた。それが『!』」
「どういう意味なの?」
「二人だけの符号だ、他人には解らない。でも、昔無理やり離れた二人だ。こうかな、『恋は生きている?』……『勿論!』」
「……」
「確証はないけど、そんなとこじゃないかと」
その時、既にフィアは踵を返していた。
「今夜辺り、思い出の教室でこっそり二人きりの再会があるかもしれないのねっ! 見逃せないわ!」
「だから確証は……って、それは見ちゃだめだろ!? おい!」



彼への贖罪に、胸を焦がさなかった日はない。
けれど、恋に溺れて留学の夢を棄てたら、いつかその恋こそが毒だと認めざるを得ない日が来るだろう。それには耐えられない。
十年経ってこの学校へ戻った時、職員室で彼を見つけ、心臓が止まるかと思った。
英国では、凍りついたまま動かなかった私の恋が、温かく解け出すのを感じた。
夜、彼と共に学んだ教室に忍び込んでみた。東側の、あの日から変わらない小ぶりの黒板の前に立つ。
彼に、一言伝えたい。
けれど、今更私に何が言えたものだろう。
考えた末、私はある仏国作家の“世界一短い手紙”にあやかって、ただ一文字を黒板へ書きつけた。
意味不明な、廃教室の伝言。彼はこれを見つけるだろうか。
見つけ、理解し、軽蔑もせずに受け止めてくれるだろうか。それは、あまりに都合がよすぎるけれど。
行き所を探し求める、謝罪と慕情。
伝わらなくて当然の伝言。
身勝手を恥じながら、それでも、願わずにはいられない。
大人になっても、私の恋は恋のままだった。

窓の外には、星が瞬いていた。
人の想いがあの星のように、時も場所も移ろっても、変わらぬものであったら。
私は廃教室を後にした。
胸中で、星に願いをかけながら。


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このストーリーに関するコメント

13/12/26 クナリ


時間軸が前後して、分かりづらくなってしまったでしょうか。

作中に出て来る“世界一短い手紙”というのは、けっこう有名なエピソードらしいのですが、
フランスの作家ビクトル・ユーゴーが『ああ無情』を出版した時、後日出版社に
「?」
とだけ書かれた手紙を送り、すると出版社からは
「!」
とだけ書かれた返事が来たというものです。
意味は、
「売れ行きはどうですか?」
「びっくりするほど売れてます!」
だったと。
おしゃれなことをするものです。

タイトルは刑事コロンボの『別れのワイン』の原題と邦題からつけました。
ANY OLD PORT IN A STORM=嵐の中の古い港、というのは「最後にすがるもの」「窮余の策」(悪あがきともいうかもしれませぬ)という意味の熟語だそうです。
こちらもしゃれていますね。

13/12/27 朔良

クナリさん、こんばんは。
拝読いたしました。
時間軸、わかりにくいということはありませんでしたよ、すんなり理解できました。
前後の彼と彼女の独白、間の謎解きを兼ねた可愛いカップルのやり取り。
“世界一短い手紙”というのは、聞いたことはありますが、それを見事に使いこなされているのが、さすがミステリ好きなクナリさんという感じです。
若い二人のやりとりも微笑ましく、楽しく読ませていただきました。
おもしろかったです。

13/12/27 泡沫恋歌

クナリさん、拝読しました。

古い言い回しをするとバタ臭い、このシチュエーション。
私の世代だと萩尾望都の「11月のギムナジウム」とか思い出します。
どこか懐古趣味だけれど、お洒落でロマンティックな、格好良過ぎるクナリさんは「!」です。

13/12/28 メラ

 上記コメントあるように、私も時間軸で混乱はしなかったです。というかとてもスリルがあって面白かったです。私も恋歌さん同様、さすが!という心境です。

13/12/28 クナリ

いい忘れておりました。
この話に登場する人物の一部(というか主人公)は、
こちらのサイトに投稿しました
『ノインテータのクリスマス』(前後編)
http://jiku-monogatari.jp/entry/?mode=disp&key=2089&lid=&sort=&word=&page=1
http://jiku-monogatari.jp/entry/?mode=disp&key=2090&lid=&sort=&word=&page=1
および
『リトル スツル ディティクティブ』
http://jiku-monogatari.jp/entry/?mode=disp&key=1924&lid=&sort=&word=&page=1
にも登場しております。
便利なやつです(←おい)。

朔良さん>
ありがとうございます。
なんだか狭い時間内で過去と現在と未来を行ったりきたりして
不親切な構成だろうか投稿後に思ったので、そういっていただけて
安心しております。
もっと内容の濃いミステリをスマートにやれればいいんですが!

泡沫恋歌さん>
もう、ちょっと古いっぽい世界観とか大好きですからね。
石畳、いいですね。
れんが造り、大好物ですね。
もちろん日本の木造家屋も好きですし。
伊達っぽい感じのする話も、うまく作れるようになりたいものです。
コメント、ありがとうございます!

メラさん>
ミステリは好きなのですが、当然自分の好んで読むような
名作ミステリは殺人事件が起こることが多いので、
このように学校を舞台にした話ではやりづらかったりするのですが、
その中でこのプチ事件にスリルを感じていただけてうれしいです!


14/01/04 クナリ

OHIMEさん>
何のキャラクタ説明もなく出てきたヤツバラに、ありがたい
コメントであります。
思い出になってくれない想い、まったく困りものですね。
2000字以上の感慨を提供できていれば、それはもう一番の幸福で
ございまする。
今年もよろしくお願いいたします。


猫春雨さん>
この小さななんちゃってミステリを、お読みいただきありがとう
ございます。
謎作りよりも、登場人物がいかに謎に気づき、解答に至るかを
構築するほうが大変ですね。
自分も論理的思考など、苦手です。
だから登場人物もほとんど直感と想像で謎を解きますッ(おい)。

14/01/06 光石七

あの学校で、こんなドラマもあったとは……
世界一短い手紙、素敵ですね。
「このお話、面白い?」「もちろん!」

14/01/10 クナリ

光石さん>
またこやつらが出てきました。
もっと殺人事件とか解決したいんですが、どんな学校だよという感じになってしまうので
このような小さな事件が頻発するばかりです。
おしゃれな感想、ありがとうございます!

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