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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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イケイケ商店街

13/12/23 コンテスト(テーマ): 第二十三回 【 自由投稿スペース 】  コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1484

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 日本全国だいたいどこも、商店街はさっぱり不振、シヤッターをおろした店舗が目立ち、買い物客もめっきり減って、まさに閑古鳥が号泣している。
 ここ、ひなた商店街も例外にもれず、せっかくリニューアルした通りにも客の姿はまばらで、どの店もひまをもてあました商店主の、手持無沙汰な姿だけがうかがえた。
 ひなた商店街とおなじまちの商工会議所につとめる良夫のところにも、さえない顔の商店主たちが毎日のように相談にやってきた。
 商店街復興に、良夫もなんとか一役買いたい気持ちはあっても、スーパーや大型量販店がふえる一方の昨今では、じり貧の商店街がもりかえすのは並大抵なことではない。
「―――どうしてあそこの商店街は、あれだけ人気があるのだろう」
 と、きょうも商工会議所をおとずれた、商店街で酒屋を営む佐山が、良夫にいった。あそこの商店街というのが、となりまちにあるイケイケ商店街のことで、その人気たるや、おそらくいまの日本で一二を争う繁盛ぶりだった。
 良夫はうなずきながらも、不可解そうに首をかしげた。
「あの商店街も、つい昨年までは、おなじように寂れる一方だったのに………」
「なにか秘策でもあったのだろうか」
「秘策ねえ………」
 ここでいくら考えこんでいたところで、ひなた商店街がよくなるわけでもないので、二人はこれから、イケイケ商店街に視察にでかけることにした。
 良夫たちがとなりまちまで電車を利用したのは、イケイケ商店街周辺は、それはすさまじい賑わいぶりで、付近のパーキングは常時埋まっていて、とても車でなどいけない状況だったからにほかならない。
「わあ、これはすごい」
 駅をでたところからすでに、イケイケ商店街に続く歩道は人であふれていた。商店街入り口までのわずかな距離が、なかなか詰められそうにもないのが二人にはもどかしいぐらいだった。
「なんだか、目にみえない力でひきよせられるようだ」
 おもわず前のめりになりながら、佐山がもらした。 
 それは良夫も同様で、いや、商店街にむかっている人々すべてが、後ろから強風にあおられでもするかのようにみな、前傾姿勢になっているのだった。たちどまろうとしても、からだはそのまま勝手に、前方にたたらを踏むようにつきすすむのを、良夫も佐山もどうすることもできないありさまだった。
「繁盛する商店街というのは、こんなものなのかな」
「いきおいですかね」
 二人は周囲にごったがえす人々を、羨望のまなざしでながめた。
 しかし、これだけおびただしい買い物客を、そんなに大きくもないイケイケ商店街がはたして収容しきれるのかと、良夫はふと疑問にとらわれた。高架の駅からながめたときには、四方八方から人々がそれこそ怒涛のごとく押し寄せている。
「商店街のなかに巨大な空洞でもあって、みんなその中にのみこまれでもしているのだろうか………」
 冗談まじりの佐山のつぶやきが、まもなく現実のものになるとは、このときの二人は夢にも思っていなかった。
「おすな、おすな」
 良夫たちが商店街の入り口にさしかかったとき、まわりの連中からさかんにそんな声がとびかった。店をのぞいて買い物をする客もたくさんいたが、その客たちも店からでると、たちまちいっしょになって、さらに加速をつけて前進をはじめるのだった。
 もはやどうふんばっても、あともどりはおろか、たちどまることさえ不可能だった。
―――いったいどこにむかっているのか、いつしか佐山とはぐれてしまった良夫は、不安な面持ちであたりをみやった。
 すると、これは目の錯覚か、少しさきにある、地蔵尊らしき祠の中に人々が、次々にのみこまれていくのがみえた。そのころには彼の体も、抗いがたい力にとらえられていて、周囲の人間もろとも、想像を絶する速度で地蔵尊めざして突進していくのだった。
「わあっ」
 その叫び声がまだ消えないあいだに、良夫はなにかやわらかいもののうえに、ころがりおちるのをおぼえた。
 ―――良夫は、じぶんが、やはり彼同様、ころがりおちた人々の中にいるのを知った。みんな一様に、きょとんとした目で、まわりをみまわしている。
「大丈夫ですか」
 良夫は、声をかけてきた男のほうをみた。
「あ、佐山さん、これはいったい………」
「どうやらわれわれは、あそこから、とびだしてきたもようです」
 佐山が指さす方向にはさっき、商店街の中でみたのとはちがう地蔵尊が確認できた。
「これって、クッションをやわらげる緩衝剤ですよね」
 と良夫は、あたり一面を埋め尽くすスチロール製の、丸く小さなものを手ですくった。中央あたりに何本かの立札があって、顔をちかづけるとそこには、
『毎度ありがとうございます。またのご来店をおまちしております。イケイケ商店街』
と書き記されたポスターが読み取れた。
 困惑のあまり二人とも、途方に暮れた顔をみあわせた。

* *
 
 このときの摩訶不思議な体験は、いつまでも良夫の中にあとをとどめた。
 地蔵尊にのみこまれ、べつの地蔵尊からとびだしたことで、あれはやっぱり、神がかり的な出来事なのかと、ともすればそんな神秘的な思いにとらわれそうになった。
 彼はそして、あのできごとと商店街の繁盛ぶりになんらかの関係があるのだろうかと考えるようになった。
「それできょう、きみにご足労願ったというわけだ」
 と良夫は、イケイケ商店街のまちにある、商工会議所職員の池永をながめた。
 彼は良夫と同じ大学の後輩で、どちらも大の将棋好きで、きょうも良夫の家で将棋盤をはさんでむかいあい、一局終了したところで良夫がきりだしたのだった。
 将棋に勝利し、心地よい満足感にひたりながら、イケイケ商店街での良夫の体験談にじっと耳をすましていた池永は、ヘビースモーカの本領発揮とばかりすでに二箱目の煙草に火をつけた。
「あれはいったい、なんだったんだろう。もうどうすることもできなくなって、人々の奔流にまきこまれて、こう、フワッとなんだかいい気分になったとおもったら、一瞬後には緩衝剤の上におっこちていた。そこは商店街のはずれの広場だったんだ。………いまおもいかえしても、わけがわからない」
 それをきくと、池永がなにやら含み笑いをもらした。
「わたしもおなじ体験をしましたよ。というより、あの商店街にいったものはみな、地蔵尊から地蔵尊を、テレポーテーションしているはずです」
「池永にはあれがなんなのか、わかっているのか?」
「とんでもない。あれがわかっているものなど、だれもいませんよ」
「そうだよな。あんなことが人為的にできるわけがない。イケイケ商店街には、人々をおびきよせる妖怪でも憑りついているのだろうか?」
 池永は煙草をもみけしてから、ふいになにをおもったのか、じぶんの鞄から冊子をとりだした。
「これはわたしのまちがだしている広報紙です。毎回市民から公募したエッセイをのせているのですが、これにはイケイケ商店街にすむ小学生の男の子の作文がのっています。短いものですので、先輩、ちょっと目をとおしてもらえませんか」
「これが、なにか―――?」
 ききかえしたものの良夫は、いわれるままに冊子をうけとり、池永がいった男の子の作文のページをひらいた。
 見開きの部分で完結している作品を、読み終えるのに時間はかからなかった。
 以下がその全文―――



 『虫かごの中のブラックホール』 
 
 ぼくは妹といっしょに、うらの小川に蛍狩りにでかけました。
 笹薮が岸部をおおう小川には毎年、六月のなかごろになると、たくさんの蛍がとびかって、その光景はまるで、地上に銀河がながれているかのようです。
 本当は、昆虫アミで捕えたかったのですが、妹が、かわいそうだからやめてといったので、なにもしないでふたりで、光る蛍をながめていました。
「あれ、なにかしら」
 妹がいったときには、ぼくもそのなにかに気がついていました。
 無数の光のなかに、ひとつだけぽつんと、黒いものがただよっているのです。蛍がいなかったら、暗闇にまぎれて、決してわからなかったことでしょう。
 ながめていると、その黒いものはいつまでも、ふわふわとあたりをとびまわっています。
 ぼくは、アミを手にして、妹にいいました。
「蛍じゃないから、いいだろう」
 妹がなにもいわないさきに、ぼくはその黒いものにむかって、アミをふりました。
 かんたんにとらえることができたその黒いものを、ぼくは手づかみにして、虫かごにいれました。それはなんだかキユッとすいついて、なかなかぼくの手から離れませんでした。
 ぼくと妹はそれからも蛍をながめて三十分ほどしてから、家にもどりました。
 家の、あかるい照明のしたで、ぼくは虫かごをみました。
 すると、虫かごの中は、まだ黒いままでした。てっきり、光にあてられて、正体がわかるとばかりおもっていたぼくの期待は、みごとにうらぎられました。
「ブラックホールみたい」
 妹がとんでもないことをいいました。でも、たしかに、その黒いものは、いくら明かりに近づけても、やっぱり真っ黒でした。
 翌朝、ぼくは妹にゆりおこされました。
「おにいちゃん、大変」
 なにが大変なのか、身をおこしたぼくは、すぐにその意味がわかりました。
 虫かごを中心にして、部屋のなかのなにもかもが、ひきよせられているのです。鉛筆や、雑誌、帽子にゲーム機、テレビのリモコン、写真、セロテープなんかが、磁石をむけられた鉄粉のように、虫かごにひきよせられているのでした。
「やっぱりこれ、ブラックホールよ」
 虫かごにはいるほどちいさなブラックホールがあるのかどうか、わかりませんが、ブラックホールもこれだけちいさいと、そんなに脅威にはおもえませんでした。
 ぼくと妹は、虫かごのブラックホールを、部屋の中で観察することにしました。
 一日、一日、ブラックホールはわずかずつですが、成長していました。大きくなるとそのぶん、ひきよせる力もつよまって、三日目には、椅子がごとごと、虫かごに移動しはじめました。四日目になると、下からなんどもお母さんがあがってくるようになりました。
「あら、用もないのに、あがってきちゃったわ」
 お母さんは、てれたようにわらっては、部屋をでていきました。ブラックホールか、人間をひきよせることがわかった、それが最初でした。
 一週間もすると、いきなりしらない女の人が部屋にあがってきて、ごめん、ごめんとあやまるのです。それからも何人もの人々が虫かごにひきよせられてやってきては、なにもしらない両親をびっくりさせました。
 これ以上、部屋にはおけないことがわかったぼくは、ブラックホールのはいった虫かごをもって、いそいで家をとびだしました。
 ぼくは、すぐちかくのお地蔵様の祠のまえに、虫かごをおきました。
「かごから出してあげましょうよ」
 いつのまにきていたのか、背後から妹がいいました。きくと、しらないあいだにひきよせられていのだそうです。
 ぼくは、虫かごをあけました。とたんにぼくのからだは、マシュマロのようにソフトになったとおもうと、なにかほそながいもののなかにすいこまれたような感覚をおぼえました。一瞬後、ぼくは商店街からすこしはなれた広場に祀られた、べつのお地蔵さまのまえに、ころがりおちていました。妹が、すぐよこにおちてきました。
「お兄ちゃん、あたしたち、ブラックホールにすいこまれて、ホワイトホールからぬけだしてきたのよ」
 図書館からブラックホールのことを書いた本を借りて、熱心に読んでいた妹がそんなことをいいました。
 ぼくはそのとき、ほかのことを考えていたのです。あのブラックホールがあれば、商店街に人をあつめることができるんじゃないだろうかと。
                            おわり




 良夫が冊子から顔をあげると、こちらをみつめる池永の目と、まともにぶつかった。
「おもしろい話でしょ」
「きみは、これを書いた少年とは、会ったのか?」
「いちいち応募者とあうようなことはしません。記念品の高級ボールペンを送っただけです。高級といっても、千円ですが―――どうしました、なにか気がかりなことでも?」
「ブラックホールが成長をつづけたら、とふと考えたんだ」
「ホワイトホールというガス抜きの場がそばにあるから、大丈夫では」
「そんなものなのか………ふうん」
「先輩も、この少年の話、どこかで信じているんじゃないですか?」
「よせよ。商店街の中にブラックホールだって、ははは、笑っちゃうよ」
 本当にひとしきり笑ってから良夫は、
「その地蔵尊、もしかしたら黒穴地蔵尊というんじゃないのか。もう一方は、白穴―――」
 と、本気とも冗談ともつかない顔でつけくわえるのだった。


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このストーリーに関するコメント

14/01/02 W・アーム・スープレックス

OHIMEさん、コメントありがとうございます。

商店街の現状をおもうと、もはやブラックホールでももってこないことには集客力が望めないのではという私の、『そんなアホな』的発想からこの作品ができました。いつものようにOHIMEさんのご丁寧なご意見によって、あらためて、そうだったのかと、認識を新たにしたところです。
今年もお互い、創作に励みましょう。躍進めざましいOHIMEさんの新作、期待しています。

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