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洞津タケシさん

うろつたけし と言います。本と創作が好きで、妄想少年のまま大人の階段を上った感じです。 少しでも面白い物を書けるように、頑張ります。

性別 男性
将来の夢 すごいけど、アマチュア
座右の銘 半歩でも前に進む。

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あなたに伝えたいこと

13/12/22 コンテスト(テーマ):第四十七回 時空モノガタリ文学賞【 再会 】 コメント:3件 洞津タケシ 閲覧数:1494

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 どんな夢でも自由に見れる。
 そのキャッチコピーに惹かれて、わたしはこのサロンに来た。
 最近流行りだした新しい事業なのだが、有料で、客の望むままに夢を見させてくれるという。
 どんな怪しげなものかと思ったが、

「私どもは、お客様が夢の世界で自由に楽しんでいただけるよう、お手伝いをするだけ。
 夢の内容については、一才お伺いいたしませんし、モニタリングも不可能です」

 という言葉と、頭に機械を取り付けて電気信号を流すという機械的な方法は、むしろ分かりやすく、安心できた。
 私は、ベッドに仰向けになり、器具を頭に取り付けられた。手術でも受けるような、妙な気分だ。
 機械の唸る僅かな音がして、私は眼を閉じた。

 気がつくと故郷の家のベッドに寝ていた。

「私の部屋、か」

 一瞬の既視感があったが、すぐに「あぁ、これは夢だ」と分かった。
 私はサロンで寝ていて、夢を見ているのだ。
 なるほど、夢だと分かっているのに、まるで現実のような感覚。瞬きをしたら、ここにいた、とでもいうような。

「すごい、本物みたい」

 すぐに鏡の前に走ると、確かにそこには私がいた。
 かなり若く、髪も長く伸ばしていて、ハリのある肌や顔つきが何だか嬉しかった。
 ニッと笑うと、目尻のシワよりも、えくぼの方が目立っていた。
 そして、ぽっこりと飛び出たお腹。
 そう、夢の中の私は、妊娠している。

「出産で帰ってきた、って感じなのかな」

 自分の夢だが、場面設定は無意識らしい。私が、こう言うことを望んでいた、と言うことなのかもしれない。
 静かで、暖かで、穏やかな居心地のよさがある。もう家を出たのがいつだったかも忘れてしまったのに、不思議なものだ。
 だけど、私の見たい夢はこれではない。
 そう思うや否や、とんでもない激痛が全身を襲った。

「あー!!!いいいいいいい痛いいい!!」
「頑張ってー、もうちょっとよー」

 世界は、一瞬で分娩室に変わった。
 助産師の暢気な声に、下腹部の激痛の波は遠退いていった。
 夢とはいえ、いくらなんでも展開が急過ぎやしないか。
 突然の激痛に失神しそうになったではないか。

「あー、いたいぃー」

 思わず情けない声が出た。
 横に立っていた助産師が、笑顔でこっちを向く。

「頑張って、もうすぐ旦那さんも来るからね」
「旦那さん? だれ?」
「だれ?だって、やぁーねぇー」

 助産師はからからと笑う。分娩室の扉が不意に開いて、現れたのは、なるほど確かに、私の夫だった男だ。
 そうか、夢の私は、あの人の子供を生むのか。

「大丈夫か、もう少しだってさ、頑張ろう」
「...うん」

 あなたって、そんな優しい顔もできたのね。
 全然知らなかった。
 本当の私がもし、あなたの子供を生んでたら...なんてね。
 あり得ないもしもは、痛みの激流に押し流された。
 夢なのにとんでもなく痛い。
 でも、それでいいのだ。
 それこそ、私が望んだことなんだ。
 幾度かの波の果てに、からだの一部が外に飛び出ていく感触があった。 
 弾けるように、産声をあげる、小さな、小さな命。
 助産師が取り上げたその赤ん坊を、私の胸元に置いてくれた。
 赤ん坊だ。
 私の子だ。
 そう思うと、ボロボロと涙が出た。

「ごめんね、ごめんね」

 思わず口から出た、懺悔だった。

 きちんと生んであげられなくてごめんね。
 悪いお母さんでごめんね。
 会いたかったよ。
 ずっと会いたかったよ。
 こんなに小さかったんだね。
 こんな声をしていたんだね。
 爪も小さいね。
 まだ目が開かないんだね。
 お母さん、なんにも知らなくてごめんね。
 あなたに名前をつけてあげたかった。
 あなたの名前を呼んであげたかった。
 そんなことも、してあげられなくてごめんね。
 でもお母さんはあなたのことを...ううん、なんでもない。

「まぁー、笑ってるわ」

 助産師が言う。
 生まれたばかりの赤ん坊が笑うものか。
 しかし私の胸に抱かれた雪細工のような柔らかな命は、確かに微笑んでいるようだった。
 きちんと会って、謝りたかったの。
 ありがとう、ごめんね、ありがとう、でも、さよなら。

 瞬きをすると、現実のサロンに横たわる私がいた。

「いかがでしたか」
「よかったわ。ありがとう」

 こんなことで、許してもらえるとは思わない。
 だけど、会えてよかった。
 例えそれが、都合のいい夢であったとしても。

 深い皺に伝う涙を、枯れた指が拭った。


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このストーリーに関するコメント

13/12/27 てんとう虫

とても素敵でした。母親ならではの思いにジ−ンとしました。どんな状況だったのかなと考えてしまいます。

14/01/14 洞津タケシ

ありがとうございます。
望んでも、生めないことがある現実です。
トイレに生み捨てたり、虐待したり。
そんなことが世の中から無くなればいいのにと思います。

14/01/14 洞津タケシ

ありがとうございます。
望んでも、生めないことがある現実です。
トイレに生み捨てたり、虐待したり。
そんなことが世の中から無くなればいいのにと思います。

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