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タックさん

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銀河下の交点

13/12/20 コンテスト(テーマ):第四十七回 時空モノガタリ文学賞【 再会 】 コメント:2件 タック 閲覧数:1218

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――銀河の辺境、ある星にて――

「うーん」
 デスクに頬杖をついた男が何かを逡巡している。男は低く唸りを発した後、頬杖を解除しキーボードに手を伸ばした。それを、黒い液体を運んできた部下の男が見咎め、背後から冷静な声音で話しかけた。
「……ちょっと、いけませんよ。ずらしちゃ」
「……え、何が? 別に何もしてないよ」
「嘘でしょ。押そうとしてたじゃないですか、そのボタン」
 咎められた男の前には巨大なモニターがある。座標、数値、様々な情報が表示されており、その中心に、一つの交点が点滅していた。注意された男は拗ねたように指先を戻し、飲み物を置いた部下はそれを呆れた表情で見やっている。はあ、と部下は溜め息を吐き、男の真横に身を置いた。
「あのですね、PT3020さん。駄目ですよ、数値入れ替えちゃ。この二人、交差しちゃってるじゃないですか。僕も怒られるんですからね」
「……いいじゃんか、別に。地球人二人の進行方向を変えるだけだろ。何がいけないんだよ」
 ふう、と部下はもう一度息を吐き、子供に教え諭すような口調で語りかける。男はへの字口で頬杖を再開している。
「ご存じだとは思いますけどね、僕たちの仕事は観察なんですよ。対象への接近、および干渉は違反です。対象は対象のまま、随意に行動してもらわなければ困るんですよ」
「そんなこと言ったってさ、じゃあ、お前は可哀想だと思わないのかよ。この二人、ここで交差しなかったらもう一生会えないんだぞ」
「それはそれです。運命じゃないですか。僕たちが考えることじゃないですよ」
「へっ、お前は冷たいな。やーい、低温生物」
「……あなたも同じでしょ。自分に言ってるようなもんですよ」
 男は飲み物を一息で飲み干すと立ち上がり、部下に真正面から視線をぶつけた。
「いいじゃないか、悪いことじゃないだろ。この二人はな、お互い学生時代から想っていたにも関わらず、どちらも勇気が出なくて、そのまま社会人として別の道を辿ってしまった二人なんだ。でも、二人の心には未だに相手への好意が残り続けているんだよ。だからどっちも次へと進めないんでいるんだ。いじらしいじゃないか。お前は何とも思わないのかよ!」
 唾を飛ばす男は手振りを交えて激情を発散させる。はあはあと荒く息を吐く男を尻目に、部下はポケットから布を取り出し、顔を拭って、落ち着かせるように言葉を発する。
「……でも、それも彼らの人生ですし、しょうがないことじゃないですか。そんな別れなんて山ほどあるでしょう」
「お前に何が分かる! 俺は、この二人の過去も、結ばれた時の未来も知っちゃってるんだぞ! これは俺たちに与えられた宿命なんだ! そう思わないか? そう思え!」
「確かに僕らは四次元的な存在ですし、地球人それぞれの未来を変えるなんて容易なことですよ。でも、何度も言うように僕たちの職務は観察なんです。それ以上の権限は与えられていません。それにほら、この二人、次第に新しい恋に芽生えていくじゃないですか。それでいいでしょう」
「駄目だ! 二人が結婚しなかった場合、男は強欲な妻に金を絞り取られ、女は夫のDVに苦しむ未来を歩むんだ! やっぱり、二人は二人じゃなきゃ……お似合いの二人なんだよ……」
「……はいはい、もう分かりましたから。あんまり、観察対象に思い入れないほうがいいですよ。じゃ、ちゃんと数値、戻しておいてくださいね。今のままじゃ未来が変わっちゃいますから」
 部下は男が飲み干した後のカップを持ち、その場を離れ始めた。部下の後ろでは、まだ男がぶつぶつと何かを呟いている。それは当然部下の耳にも入っており、まったくあの人は、と部下が男への不満を小声で発露させようとした時である。
 よし、という剣呑な言葉が、部下の耳朶に届いた。部下が危険を察し、振り向いたときはもう遅かった。 
 いっけー! 高らかな宣言とともに、決定ボタンが強く押された。点滅していた交点がその存在を確固たるものとする。部下がわき腹をつねられたような表情で佇む中、男は満足そうな笑みを浮かべ、モニター上の交点を嬉しそうに眺めていた。

 地球。日本。男は忘れていた用事を思いだし、進路を東から北へと変更した。それは本当に忘却の彼方にあるような、記憶の奥底にしまわれていた些事であった。
「……あ」
 目的の店を探すため、周辺を見回していた男の足が止まる。視線が人込みの中の一点に集約され、訝しむ周囲の目をよそに、男は口を開けたまま一人の女性を見つめ続けた。やがて、その女性も男に気づいたのか、驚いた表情で同様に停止した。
 重なる目線。男が一歩を踏み出した。二人の距離が縮まり、進行する人々の中、声の聞こえる間近で立ち止まった一対の男女は互いに恥ずかしげな顔で、長く温めていた言葉をほとんど同時に放った。
「……久しぶり」


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このストーリーに関するコメント

14/03/23 リードマン

拝読しました!
ハッピーエンド至上主義な自分としては、好きな物語です。

14/03/24 タック

リードマンさん、コメントありがとうございます。

あまりハッピーエンドが得意ではないもので、書き終わって、どうかな、と感じていました。楽しんでいただけたなら幸いです。ありがとうございました。

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