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*さん

銀河の草原で戯れるように言葉を紡いでいます。 形式に囚われない言葉を模索していますが、特に貪欲ではありません。 本当に、ただ遊んでいたいだけです。 長編・中編は書きません。詩と文章の間を彷徨いながら、読者に小さなギフトを手渡せたらいいと思っています。

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将来の夢 ずっと幸せでいること
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薔薇の伝言

13/12/19 コンテスト(テーマ):第四十六回 時空モノガタリ文学賞【 夢 】 コメント:4件  閲覧数:1123

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いきなり名前を呼ばれて、私はその方角を振り返る。だけどそこには誰もいなかった。
微かな薔薇の香りのする風が一瞬胸元を通り抜けると再び、元の風景が広がって行く。

行くあてもないのに私の両足は誰かに導かれるようにするする動いて、前へ前へと前進して行った。心と離れた足だけが感情を持っていて、それが勝手に向かうべき場所を探っているように、二本の足の後から胴体と心がついて行くような感じで。

どのくらいの時間が過ぎただろう…。さすがに退屈になりそうだと思った時、どこからともなく声がした。それは歌のような節のような、得体の知れない天使か精霊のささやきのようにも聴こえて来るけれど、そのどれでもないような気もした。
ふと、それまで歩き続けていた私の足が止まった。まるで組み合わせを間違えた人形のように、足はぐるりと360度回転しながらある一点を指してそこで止まった。

次に動いたのは腕だった。数十メートル先にある一本の樹に向かって私の右腕が静かに伸びて行くと、その樹の中にひっそりと成っていたただ一つの銀色の林檎をもいで、口元に持って来た。

目の前の不思議な出来事に、逆らうことが出来なかった。
導かれるままに、私はその林檎を一口噛んでみた。すると今まで見えなかった声の主の姿が視界に映り込み、そして声の意味を分析し始めた。
これってどこかの映画のCGみたいだと思った。

精霊のようなその人はこう言った。「私を返して下さい。」…
その声が私の心に届いた瞬間、私をここまで連れて来た私の体が精霊自身だと気がついた。
精霊のように見えるその人は、人形だった。人形はある持ち主の元でばらばらにされた後、私は夢の中でそれを元の形に戻してここまで連れて来たのだと彼女は一気に語った。

「私は何をすればいいの?」

彼女は言葉にならない声で言った。
「ここまで私を連れて来てくれてありがとう。お願いですからその体から出て下さい。」…

私は目を閉じて、ここに来る時に最初にくぐった扉をイメージした。その扉は七色の星やガスで覆われた毛糸のようだった。それがあまりに美しくて、私はその空間に一気に吸い込まれて行ったことを思い出した。

「わかった。やってみるから。」
そう彼女に話し掛けると、それまで無表情だった彼女の顔が少しだけ薔薇色に色づいて、そして微笑んだ。
なんて美しい微笑みなのだろう。
そして彼女に再び命が宿るなら、私はその手助けをしたいと心から願った。


七色の扉は目の前にある。
この扉を再び開けたらもう、彼女には会えないかもしれない。そんな思いが過ったけれど、今はこの体を彼女に返すことが先決だ。

「さようなら… また会う日まで。」

私は一気に扉を開け扉の向こう側へと続く境界線を踏み越えて、そこで気を失った。


ありがとう、また会えるから…
ありがとう、ありがとう…
きっとまた会いに行くから…

その声で目が醒めた。そこはいつもと同じ、何の変哲もない私の寝室だった。
まだ朝になりきらない、昨日の続きの空が窓際に広がっている。
私の体にはさっきまでの、夢の感触が残っている。そして未知の果実の味が口いっぱいに満ちていた。
でも、これは夢の余韻…。


そして昨日とひとつだけ、この部屋に新しいことが起きていた。
それは今この瞬間のこの部屋に、あの夢で私を包み込んだ微かな薔薇の香りが漂っていること…。

その日から私は毎日、南向きの窓辺にピンクの薔薇を飾ることにした。
彼女がいつでも私を探してここに来て好きなだけここにいて、そしてそっと魂の休息が出来るように…。


ありがとう、ありがとう、又会える日まで…。



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このストーリーに関するコメント

13/12/26 吉原 百々

七沢さん

とても美しい夢だと思いました。美しさを表に出せるなんてうらやましいです。

14/03/22 リードマン

拝読しました!
私は基本的に、さようならという言葉が嫌いなのですが、また会うまでと続けるだけで、こんなにも違うのかと、しきりに頷いてしまいました。

14/03/23 

花井 侑理様
コメントのレスが遅くなって、本当にすみませんでした。
まだこのサイトの使い方がよく分かっていなくて、こんなに遅いレスになってしまいました。

そしてコメントに、深く感謝致します。
読んで頂き、心から嬉しいです。

14/03/23 

リードマン様
コメント、本当に有難う御座います。嬉しいです。
こういう執筆は趣味程度…というスタンスなのですが、書く意欲が湧いて来ました。

私も「さようなら」は言えない人です。
本当の「さようなら」を体験してから、その言葉を口にすることが怖くなったので。

リードマン様とも又、お目にかかれることを祈りつつ、感謝の思いをここに置いて参ります。
Thank you very much!(*^_^*)

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