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辛楽さん

幻想的なもの、奇抜なもの、切ないもの。 心に直接訴えてくるような物語に憧れています。 読んでいて恥ずかしくなるような拙いところもあると思いますが、これが僕の世界です。 絵は友人にかいていただきました。タバコ吸いません!ピアス開いてません!眼帯してません!ってもはや似顔絵じゃない

性別 男性
将来の夢
座右の銘 良きにも悪しきにも忠実に、されど人道外れずに。

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忘れられた街の夢屋

13/12/13 コンテスト(テーマ):第四十六回 時空モノガタリ文学賞【 夢 】 コメント:1件 辛楽 閲覧数:991

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ボーッとしていたらしい。

ガシャン!

「…!」

足元に割れた皿が落ちている。いけない、洗い物の最中にうたた寝してしまった。

気がつくといつも頭にモヤがかかったようで、病院には行ったけれど原因は分からず、ストレスと疲労による不眠症という事でまとめられた。
宮本恵子と書かれたたくさんの袋から何種類もの薬のシートがはみ出ている。私には、なんだかこの薬が私を毒しているかのように思えた。



「お辛いようですね」

ふと青年の声がして、ハッと目を開いた。
そこはアーケード街で、多くもないが少なくもない人々が歩いている。
ここは…どこ?

「夢をお望みですか?」

また青年の声がして、私は視線下に向けた。
そこには占い師のようなテーブルを構えた美しく若い男がいて、組んだ指の上に顎を乗せている。テーブルの上には「夢」と書かれた灯篭にほうっと灯りが点いていた。

「夢屋の羊と申します」

そうして夢屋はにっこりと微笑んだ。不思議な夢だ。

「信じていませんね?」

組んでいた指をほどくと、夢屋はパチンと指を鳴らした。
街がドロドロと溶けていく。道行く人々、自分自身、全てが溶けていく。

くらりとめまいがして、カクンと膝から折れた瞬間、私は椅子に腰をおろしていた。

「あれ…?」
「ようこそ、夢屋へ」

天井がすごく高い、図書館のような場所にいた。壁一面には様々な絵がびっしりと飾られている。

「この絵たちは今までにお売りした夢の数々です」

カウンターから夢屋が立ち上がる。そして握った手を私の目の前に差し出し、開いた。キャンディの包みが乗っている。

「これが夢の素です」

中身を取り出す。ビー玉のようにツルツルとしていて、透き通っていた。

「お代はあなたが忘れている何かを一つ、勝手にいただきます」
「忘れている何か?」
「たとえば、タンスの奥の防臭剤。たとえば、針のない画鋲」
「そんな物でいいの?」
「本人が要らないものでも、他の誰かには必要な物だったりするのです。先ほどあなたがいたアーケード街、あそこに並ぶのは忘れられたものの店。ただし、あなたのような”生きたお客様”は、この夢屋にしか訪れません」
「なぜ?」
「夢だけは、生き物の世界では何を代償にしても得られないからです」

夢屋は一枚の絵をそっと撫でた。

「命屋、というのはないの?」
「……ここは忘れられたものの街。忘れられた命など、この世には無いのです」

振り返って夢屋は笑った。それがなぜか悲しげに見えて、私は軽率な事を言ってしまったと反省する。
その心情を察したのか、夢屋は明るく言った。

「お気になさる事はありません。ここにくるお客様はみんな似た事をおっしゃいます。人間だけでなく、猫やトカゲもね。死んでしまった仲間を、命を買って生き返らせたいと」

誰かの顔が脳裏をかすめた。……なにか、忘れている。漠然とそう思った。

「私たちは神様ではありません」

ハッと悪い既視感から覚めた。
深い青色の夢屋の目が私を見つめる。

「命は忘れられない限りあなたの近くで生き続けます。どうか、一度失われた命を、もう一度失うような事だけはしないでください」

私は小さくうなずいた。

「さあ、あなたに見られるべき夢が待っています。あなたが見たい夢を思い浮かべて」

手のなかの飴玉はきらきらとまるで光を放っているようだ。

「安心して夢の中へ溶け込んでください」

私はただひたすらに、安らぎを求める一心で飴玉を口に入れた。



「恵子?」

そこはいつか来た遊園地だった。窓の外には宝石をちりばめたような街が小さく見える。

「あぁ、ごめん。景色に見とれてて」
「観覧車ってベタだったかな?」
「そんなことない。私は観覧車好きだよ?」
「よかった」

見慣れない場所の夜景。無数の自動車のライト、ビルに付けられた赤いランプ。
明かりの灯った家々では、どんな団らんを過ごしているのだろう。

「なぁ、恵子」

その真剣な雰囲気にドキッとする。
分かっていた。茂がなんのために、今日ここへ誘ったのか。
ポケットから小さな箱。

「結婚しよ」

私はその言葉を噛みしめるように、そっと目を閉じた。


ありがとう茂。
あなたを亡くした悲しみで、あなたとの日々を忘れかけていた。
流されるばかりで、私は笑顔を忘れてた。

全部思いだして、私は元の部屋のベッドでひたすら泣いた。

「うん……」

あの日と同じ返事を呟く。心が少し軽くなった気がした。




「ねえ茂。こないだ私は夢屋さんに会ったんだよ」

黒い墓石に話しかける。きっと茂の両親だろう、生けた花がいきいきと咲いている。

「私、強くなるからね」

今日は暑いから、と柄杓で一杯の水をかけると、手を合わせて立ち上がった。






【終】


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このストーリーに関するコメント

14/03/21 リードマン

拝読しました!
ちょっと代償が安過ぎると思い、これなら自分も是非利用したいと思いました

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