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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

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快速トラック野郎物語

13/12/09 コンテスト(テーマ):第二十二回 【 自由投稿スペース 】 コメント:1件 ポテトチップス 閲覧数:1386

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(はじめに)
先日、私はユーチューブで『長距離トラック運転手の過酷な労働』というタイトルの動画を観ました。その動画の内容の一部を参考にして、この作品を書き上げました。
決して動画に映っていた方々を誹謗中傷する意図があって書き上げたつもりはありません。
これを読んで不愉快な思いをされた方がいましたら、誠に申し訳ありません。ただ、どうしてもこの題材で書いてみたいと思い書かせて頂きました。
下手な文章で書かれたフィクションだと思って読んで頂けたら幸いです。(文中の人物・会社名は架空です)





目覚まし時計が鳴った。久留米敏夫はまだ眠そうな目を無理やり開けて目覚まし時計を解除した。
ベッドから起き上がりカーテンを開いた。夕方にはまだ早いこの時間は、まだ太陽の光が冬空から射していた。寮の正面を横に伸びる道路には、学校が終わった小学生がトボトボと、友達と話しをしながら歩いていた。
久留米は窓を半分開けたまま、シャンプーや歯ブラシを入れた容器とタオルなどを持って部屋を出た。
寮の1階にある共同浴室に裸で入ると、再来月で会社を定年退職する茂樹じいさんが頭を洗っていた。
「うーす」と声を掛け、久留米は茂樹じいさんの横に並んで座り、シャワーの蛇口をひねった。
「これからかい?」と、茂樹じいさんが頭の石鹸をシャワーで洗い流しながら言った。
「そう、これからだ」
「東名高速、夜間に集中工事始まったから、ルート変えた方が無難かもしれねえよ」
「え? いつまで工事やってるの?」
「来年の1月いっぱいまでだってさ」
頭を流し終えた茂樹じいさんは、大きな浴槽に浸かった。
「まったく工事されると困るよ」と、歯を磨きながら久留米は言った。
「久留米さん、遅着しちまったんだって?」
「そう。社長からこっ酷く叱られたけど、こっちは制限速度ギリギリで走ってんだよ。そもそも運行自体に無理があるんだよ、まったく……」
「荷主に賠償請求はされてないんだろ?」
「された。だから社長は怒ってるんだよ」
茂樹じいさんは顔を両手でゴシゴシしながら「いくら賠償請求されたの?」と言った。
「8万2000円」
「あらら、それじゃあ運賃よりも高いじゃんか」
「会社はスピードを出すなって言いながら到着時間は必ず守れって、矛盾してること言いやがって」
久留米はシャワーで口をゆすぎ、頭をシャンプーで洗い始めた。
「久留米さんの気持ちも重々に分かるけど、こればっかはどうしようもねえ。うちの会社のような小さな運送屋は、大手が受けたがらない仕事ばっかりが回ってくるからな。確かに大阪から東京の江東区までは制限速度を守ったら6時間10分はかかる。渋滞にはまったら到着時間に間に合わないことは歴然だ」
「台風だろうが雪が降ろうが、1分でも遅着したら荷主は会社に損害賠償するなんて、本当にふざけてる。俺は時間に間に合わそうと必死に運んでるってのに」
茂樹じいさんは浴槽から立ち上がって「昔は長距離トラック運転手はいい仕事だったんだけどな」と言い残して浴室を出て行った。
夕方4時、久留米は寮の隣に併設されている事務所に出勤した。
運行管理者の渡辺専務が、受話器を耳にあてながら怒鳴っていた。きっと誰かが遅着してしまったのだろうと久留米は思った。
受話器を苛立たしく元に戻した渡辺専務は、立ち上がって机を音をたてて蹴った。
事務所の机に座っていた社長が言った。「どうした?」
「谷中ですよ。あの馬鹿、遅着したそうです」
「それでどうなった?」
「荷主に罵声を浴びせられたそうです。それとオマエはもう来るなって言われたそうです」
「損害賠償の話は?」
「いえ、谷中はそれに関しては何も言ってませんでしたけど、ちょっと荷主にお詫びの電話を掛けてみます」
遅着をしてしまった谷中慎也は、先々月に入社したばかりの24歳の青年だった。遅着をしたのは今回が初めてではなく、度々遅着を繰り返していた。久留米は社長と渡辺専務の会話を聞きながら、谷中慎也に哀れを感じた。
トラックのカギとタコチャートを持って、運行管理者である渡辺専務の点検を受けた。
「お酒は?」
「飲んでません」
「睡眠は?」
「8時間です」
「健康状態は?」
「良好です」
「じゃあ絶対に遅着しないように気をつけて、いってらっしゃい」
「行ってきます」と久留米は言って、事務所を出た。
空は夕空が綺麗に広がっていた。
10tトラックの運転席に乗り込むと、スピードをチェックするタコチャートをセットしてエンジンをかけ、午後4時25分に会社を出庫した。
会社を出庫して30分後、大阪の西区にある佐下急便のセンターに到着しトラックを止めた。
まだセンター内のベルトコンベアーには、荷物が少ししか流れていなかった。
久留米の運送会社とは別の運送会社のトラック運転手が、こちらにやって来た。
矢作と言う名前のこの運転手は「いやー参った」と言った。
「どうした?」
「昨日、遅着しちまった」
久留米は矢作を心配して「会社に怒られただろ?」と言った。
「もちろん怒られましたよ。俺、今月いっぱいでクビなんです」
矢作は久留米よりも4歳年下の49歳だった。
「そうか……、クビか……」
「まあ何とかなりますよ」
「次も長距離トラックをやるの?」
「もう長距離トラックはやりません。この仕事してたら早死にしますよ」
矢作は自分のレールに荷物が溜まったので、自分のトラックに戻った。
夕方5時を過ぎた頃から、佐下急便社員の2tトラックが続々と帰ってきて、ベルトコンベアーの上には大量の宅配荷物が流れていた。
久留米はベルトコンベアーの上を流れる荷物の中から、東京に運ぶ荷物を自分のトラックに接続したレールに引いていった。
夜8時過ぎ、久留米の10tトラックの荷台は荷物で満杯になったので、荷台の扉を閉めて佐下急便の管理者に出発の報告をした。
「吉永運送さん、絶対に遅着しないでよ。遅着したら俺達まで怒られるんだからね」
久留米はハイハイと頷きながらも、気が焦っていた。夕方、浴室で茂樹じいさんが東名高速で夜間の集中工事をしていると言っていたので、1分でも早く出発したかったからだ。
しかし、佐下急便の管理者は長々と遅着した場合の責任について話した。
ようやく話が終わり、トラックのアクセルを踏めたのは午後8時50分だった。東京都江東区東雲にある佐下急便の大型ハブセンターに到着しなくてはいけない時刻は、午前3時30分まで。順調に行けば明日の午前3時ジャストに到着する予定だ。もし午前3時30分を1分でも遅着してしまえば、吉永運輸に損害賠償が発生する場合があった。
久留米の運転する大型トラックは、名神高速道路・新名神高速道路・東名高速道路に順調に進んだが、神奈川県の海老名サービスエリアを過ぎた辺りで、工事渋滞にはまってしまった。
15分近く渋滞にはまったが、その後は順調に首都高速道路に乗れ、午前3時18分に東京都江東区東雲にある、佐下急便の大型ハブセンターに到着した。
それから3週間が過ぎ、この間に遅着したのは一度も無かった。
久留米は土曜日のこの日、昼前に起きてシャワーを浴びた後、電車で神戸駅に向かい、駅前にある一軒の喫茶店に入った。
店に入ると娘の佳代子がいた。そして隣には婚約者の男が。先週、娘の佳代子から婚約者を紹介したいと電話があった。久留米はその電話を受け、これで親の務めも果たしたと思った。
久留米は佳代子がまだ小さい頃に佳代子の母と離婚した。離婚の原因は自身のギャンブル癖と妻への暴力が原因だった。元妻は離婚する時、佳代子の面倒は見きれないのであなたが育ててと言ってきた。それからの日々はギャンブルを一切止め、佳代子を嫁に嫁がせるまで、子育てと仕事を頑張ろうと決めた。佳代子は中学生になると、父である久留米を避けるようになり、高校には進学せずに独り暮らしを始めた。
「お父さん、お久しぶりです」と、久留米が席に座るなり佳代子から言われた。
「元気にしてたか?」
「はい」
「随分、男前な男をつかまえたな」そう言って、佳代子の婚約者に顔を向けた。
「お父さん、はじめまして。木下裕也と申します。お父さんに挨拶が遅れましたが、佳代子さんと結婚させて頂きたいんです」
久留米は照れ恥ずかしさからおしぼりで顔を拭いた後「よろしく頼むよ」とだけ言った。
30分程、話をした後、佳代子と婚約者は店を出て行った。
久留米はタバコに火を点けて吸った。結婚式は急きょ、14日後の土曜日に行う予定らしい。久留米は時計で時間を確認した。会社の出勤時間まで後2時間あった。
久留米は駅前のデパートで結婚式に着ていく礼服を購入し、店の店員に仕上がったらこの住所に礼服を送ってくれと伝えた。
会社の寮に戻った久留米は、事務所で運行管理者の渡辺専務に事情を話し、13日後の金曜日と土曜日は仕事を休ませてくれと頼んだ。人手が少ないため、渡辺専務はいい顔をしなかったが、了承してくれた。
それから日にちが淡々と過ぎ、佳代子の結婚式前日の金曜日の朝、久留米の部屋のドアがノックされた。開けると渡辺専務だった。
「久留米さんごめん、新規の仕事が急きょ入って人手が足りなくなった。今日の夜、佐下急便の仕事で東京に行ってくれない」
「俺、あした娘の結婚式なんで無理です」
「結婚式って明日の午後1時からだよね」
「はい、そうです」
「佐下急便の仕事をしても、明日の午前11時までには帰庫できるじゃん。休日手当付けるから今日の夜、出てよ」
久留米は渋々、渡辺専務の話を聞き入れた。ここで断ったら、クビになるかもしれないと思ったからだった。
急きょ仕事が入ったため、出勤時間まで睡眠をとることにした。
その日の午後、目覚まし時計で目を覚ました久留米は、洗面用具とタオルなどを持って寮の浴室に向かった。
ドアを開けると、茂樹じいさんが浴槽に浸かっていた。
「うーす」と久留米が挨拶すると
「急きょ仕事だって?」
「そうなんだ」
「明日、娘さんの結婚式だろ」
「ああ。でも明日の午後1時からだから、まあ間に合うよ」
「専務も酷い人だよな。専務が代わりに佐下急便の仕事やればいいのにさ」
「本当だよまったく。来週で定年退職できる茂樹じいさんが羨ましいよ」
茂樹じいさんは「無理するなよ」と言って、浴室を出て行った。
体を洗い終え部屋に戻った久留米は、壁に吊るしてある礼服を見て笑みが零れた。
俺も一人前に娘を育て上げられたと感慨深げに考えたら、涙が出そうになった。
作業着に着替えた久留米が事務所に出勤すると、渡辺専務は電話で誰かを大声で怒鳴っていた。
受話器を置いた渡辺専務に社長が言った。
「どうした?」
「谷中ですよ。また遅着したそうです。アイツは馬鹿だ」
「困った奴だな、何度も何度も繰り返して」
「社長、谷中はクビにしましょう」
社長はそうだなと言って頷いた。久留米は心の中で谷中の今後を心配した。
久留米はカギとタコチャートを持って渡辺専務の点検を受けた。
「お酒は?」
「飲んでません」
「睡眠は?」
「5時間です」
「健康状態は?」
「良好です」
「絶対に遅着しないように気をつけて、いってらっしゃい」
「行ってきます」
この日の夜、佐下急便の宅配荷物をトラックに積み終えたのは、夜の9時10分だった。明日の午前3時30分までに必ず到着していなければ、吉永運送に迷惑がかかる。
久留米は高速道路を制限速度ギリギリで走った。本当ならもっとスピードを出したいが、大型トラックにはタイムリミッターと呼ばれる装置が装着されているため、制限速度以上で走ろうとしても、コンピューターが速度を自動制御してしまう。
ハンドルを握る両手は、汗で酷く濡れていた。
日付が変わり午前1時を過ぎた頃、ようやく東名高速に乗ることが出来た。
突然、雨が降り出してきた。フロントガラスに強く雨があたっている。久留米はワイパーを動かした。
運転しながら思った。まだ1本もタバコを吸っていなかったことに。
ポケットからタバコを取り出し口に咥えた。ライターで火を点けようと思ったら、ライターが足元に落ちてしまった。足元に顔を向けた瞬間「ドーン!」 という音と強い衝撃を体に受けた。
何が起こったのか理解できなかった。ただ体が車に挟まってまったく動けなかった。痛みは感じないが、大量の血液が「ポタポタ」と音をたててたれているようだった。どうやら右手だけが自由に動かせた。
久留米の脳裏に遅着がよぎった。会社に電話を掛けようと、右手でポケットをまさぐると、携帯電話に手が触れた。
携帯電話のボタンを押そうと思ったら、体が急に寒くなってきて震えてきた。指先も酷く震えてボタンが押せない。
『あー俺、もう駄目だ』と、久留米は思った。
「大丈夫か?」と外で誰かが叫んでいるが、耳が機能しなくなってきたのか、声が小さくしか聞こえない。
口もガクガクと震え出してきた。
脳裏に佳代子の姿が浮かんだ。まだ佳代子に『おめでとう』と言ってなかったと思った。
右手までだんだんと動かなくなってきたが、佳代子におめでとうと言ってやりたい一心で、薄らぐ意識の中、携帯電話で佳代子に電話を掛けようとした。
突然、目の前にウエディングドレスを着た佳代子の後ろ姿が現れた。自分はデパートで買った礼服を着ている。
「佳代子!」と声を掛けたいのに声が出ない。近づきたいのに足が一歩も動けない。だんだん佳代子が向こうに歩いて行ってします。
遠ざかっていく佳代子の後ろ姿を見ながら、俺は駄目な親父だと思った。
救急車のサイレン音が、薄っすらとした意識でとらえた。生きたいと思った。でももう無理だと悟った。
すごく眠くて目を瞑った。

終わり


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このストーリーに関するコメント

14/03/14 リードマン

拝読しました!
うわ〜、壮絶ですね。

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