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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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猫のあたま

13/12/09 コンテスト(テーマ):第一回OC 【 猫とアオゾラ 】  コメント:8件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1682

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 ナミはひとり、悩んでいた。
 子供のころは学校で、みんなから「猫のあたま」とばかにされた。
 ナミは、猫のあたまをもって生まれた。両親はごく普通の人のあたまをしていて、娘のあたまのことを恥じて、彼女が学校に通うまではひた隠しにしていた。
 学校にいきだしてからのナミは、まったく悲惨なものだった。だれもナミを、自分たちと同じ人間とはみなしていなかった。彼女は、そのあたまの形からして猫で、どんなに人間を装っていても、猫以上の生き物ではけっしてなかった。みんなは面白いことがないと、ナミをいじめて楽しんだ。教師にしてもそれは同じで、夫婦の不和や、家庭内でいざこざがあると、とくに彼女に辛くあたった。そんな悲惨な環境にあってもナミは、いつかは自分も、みんなの仲間入りができるという希望を捨てずにいた。人間は、外見ではなく、内面こそが大切なのだと、つねに自分にいいきかせていた。そしていつかは、そんな自分を理解してくれる人々があらわれることを信じて疑わなかった。
 しかしその願いは、ナミが成人し、大人となって社会で生きるようになってからも、叶いはしなかった。
 それでもナミは生きていかねばならなかった。とはいえ、猫のあたまを生かせる職種などこの世にはありえなかった。世間に顔をさらすことなくやっていける学者とか、芸術家とか、そんな知性も感性も、あいにく彼女はもちあわせていなかった。なにをして生きて行こうかと悩んでいるとき、つぎつぎに両親が他界して、幾ばくかの財産が彼女にころがりこんできた。
 もしかしたら、猫のあたまをもった男性が、この地上に一人ぐらい存在するかもしれない。その考えは彼女にとって、希望に輝く青空をみる思いだった。希望は必ず絶望にかわることを痛いほどわかっているナミだったが、その希望だけは捨てる気になれなかった。彼女にしても、異性への希求は、人並み以上に強いものがあったのだ。
ナミは、猫のあたまをもった男性をみつけだす旅に出ることにした。
 そして彼女は多くの国を訪ね歩いた。どの国においても、ナミはまともな人間として扱われなかった。人道派をきどる輩がいて、彼女に同情しなにかと世話を焼いた。だが、そういう連中の腹には、捨て猫に餌を与えて悦に入っていふしがうかがえた。いちど我が家の猫とあってみないかなどと、真顔でいう婦人もいた。賢い猫なのよ、あなたと気があうかも………。
 旅に出て3年がたった。ナミが手にしたのは、猫のあたまの男性ではなく、抱えきれないほどの絶望だった。
その夜彼女が、月が恐いぐらい青く輝く丘の頂にきたのも、絶望にうちひしがれて自殺を考えてのことだった。
 ふと、だれかにみられているような気がした。だんだんとその気持ちはつよくなっていった。ナミは、頭上に目をやった。そこには、ひときわまぶしく輝く星が浮かんでいた。しだいにその輝きはましてきて、やがて彼女は目をあけていられなくなった。

☆  ☆  ☆


 地上10キロの距離で、宇宙船は停止した。五人の乗組員たちの視線は、モニターにうつしだされた『猫』のあたまをもった女性にむけられていた。
「不幸にしてあのような頭をもって生まれた彼女をとおして、この惑星の人間の心理状態を、我々はこれまで観察を続けてきたわけだが―――」キャプテンのウワラは、こみあげる同情の念におもわず目をうるませた。「このナミという女性は、だれからも理解されることなくたえず悪意のある差別と偏見にもまれたあげく、失意のあまり、自殺を決意するにいたったのだ」
「彼女を差別する側の人間が、これですからね―――」
 ツワラがモニター画面のスイッチにふれた。とたんに画面には、犬のあたまをもった人間たちがうつしだされた。
「かれらだって、これなんだ。ただ圧倒的に数が多いから、ひとり猫のあたまのナミだけが、涙をのまなきゃいけない。キャプテン、かれらが犬のあたまだということを、思い知らせてやろうじゃないですか」
 すると他の三人も、
「そうだ、そうだ。犬のあたまが猫のあたまを差別してどうするのだと、諭してやりましょう」
 キャプテンも、おおきくうなずいた。
 宇宙船は静かに、ナミの眼前に着陸した。
 まもなくハッチが開いて中から、恒星間を飛行するだけの文明を築きあげた種族の誇りを胸に、五人の隊員たちがあらわれた。あたまの形のちがいだけで人をみるようなこの惑星の連中とは、ステージがちがうのだといわんばかりの態度で、彼女のそばにちかづいていった。
 キャプテンが、ナミに声をかけた。
「もう大丈夫だよ。これから我々が、この惑星にはびこっている偏見をとりのぞいてあげるからね」
 ナミは口をぽかんとあけてきいていた。
 じぶんのまえに、口をきくカバの頭をした人間がたったら、だれだってそんな顔つきになったことだろう。



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このストーリーに関するコメント

13/12/09 猫兵器

はじめまして。猫兵器と申します。


読んでびっくり二段オチ。
思いがけないところでストンと落ちる、フォークボールのような作品でした。
先の読めない展開と緩急をつけた運び方が、実にお見事。

13/12/10 W・アーム・スープレックス

猫兵器さん、はじめまして、こんにちは。

直球勝負が苦手なだけに、これまでいろいろ変化球を投げてきましたが、今回はわりとすんなり落ちてくれました。
コメントありがとうございました。

13/12/10 草愛やし美

W・アーム・スープレックスさん、拝読しました。

これは面白すぎます。猫のあたまを想像するのに、私は時間がかかりました。猫のような耳が頭についているだけかと考え読み進んでいってしまいました。でもそれなら、猫の耳がついていると表記されるよなあとか……すみません、想像力不足でした。
頭部が猫なんですね、最後のオチでわかりました。そして、そこでドッと笑いました。楽しいお話にちゃんと教訓も込められていて良作だと感心しました、ありがとうございました。

13/12/10 W・アーム・スープレックス

草藍さん、こんにちは。コメントありがとうございます。

雑な描写で、失礼しました。けれどラストで笑っていただいたとのことで、少しは安堵しています。ミレー作「落穂拾い」ではありませんが、面白いオチが拾えた時ほど、ショートショートを書くものにとっては、またとない喜びです。

13/12/10 クナリ

冒頭からして突飛でしたが、奇抜な設定に頼った出オチでなんとなく終わるのではなく、最後の一行の締め方がとてもよかったです。
ナミやほかの地球人たちの価値観が今の自分と同じものなのかどうか、などと考えてから読み返すと、また別の味わいがありますね。

13/12/10 W・アーム・スープレックス

クナリさん、こんばんは。コメントありがとうございます。

突飛、荒唐無稽―――大好きな言葉です。あと、ナンセンスも。
それでいて、人間臭いものも好みのひとつです。ナミのひたむきさ、キャプテンの真摯さ……。そういうものがよってたかってラストまで引っ張っていってくれました。

14/03/14 リードマン

拝読しました!
予想外の展開でビックリしました。大変、面白かったです。

14/03/14 W・アーム・スープレックス

リードマンさん、コメントありがとうございます。

ビックリしていただき、また面白いといっていただき、書いた甲斐がありました。

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