泡沫恋歌さん

泡沫恋歌(うたかた れんか)と申します。

性別 女性
将来の夢 いろいろ有りますが、声優ソムリエになりたいかも。
座右の銘 楽しんで創作をすること。

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初雪

13/12/07 コンテスト(テーマ):第四十五回 時空モノガタリ文学賞【 雪 】 コメント:17件 泡沫恋歌 閲覧数:2165

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 家業の新聞販売店を継ぎたくないと思っていた。
 冬は寒いし、夏は暑いし、朝夕刊あるからまとめて寝られない。休みが極端に少ない上、チラシや集金、新聞の拡張とか雑用もいっぱいあって忙しい。おまけに職場はおじさんやおばさんばかりで冴えない。
 それなのに、俺は実家である新聞販売店を手伝っている。

 大学卒業後、会社員として他府県で働いていた。
 自営業と違って安定した生活だった。俺にも恋人ができて結婚を前提に同棲していた。それが突然、結婚式の一ヶ月前に破談にしてくれといわれた。理由を訊ねたら、結婚して、上手くやっていける自信がないというのだ。翌日、会社から帰ったら婚約者も荷物も部屋からなくなっていた。婚約者の実家に行ったら「うちの娘はお宅の家風に合わないのでお断りします」と門前払いされた。
 そう言えば、結婚の挨拶に行った時、実家の職業を訊かれて「新聞販売店です」と答えたら「新聞やぁ?」と語尾が上がって、軽蔑したような響きに聴こえたが、それも破談の一つの原因だったのかなあ? 俺の家の雰囲気にも馴染めない様子だったし……それなら、もっと早く言って欲しかった。結婚が破談になり面子を潰された俺は会社に行くのも惨めな気分だ。婚約者と暮らした部屋に独りで居ても酒の量が増えるばかりなので、退職して実家に帰ってきてしまった。
 だが、両親は内心喜んでいる様子で、同業者の集まりに俺を連れて「後継ぎの息子です」と紹介して回るのは止めてくれよ。いずれ、心の傷が癒えたら家を出ていくつもりなんだから……。

 珍しく若い女の子が新聞配達をしたいと面接にやってきた。
 まだ十九歳で化粧っ気もなく内気そうな子だった。父に配達ルートを教えてやってくれと頼まれて、翌朝から一緒に区域を回ることになった。俺はバイク、君は自転車で、一週間で百五十軒の配達先を覚えないといけない。
 無口な子だが仕事振りは丁寧だった。一度だけ「どうして新聞の仕事を選んだの?」と訊いたことがある。すると、しばらく考えて「夜明け前の空気が好きだから……」と答えた。勘だが、君は心の中に悲しみを隠しているようで、そんな様子が気になる俺だった。
 いつも配達が終わると自販機の温かい缶コーヒーを手渡す。「ありがとう」といって君は美味しそうに飲む、その素直な横顔に好感を持った。

 今年、初めて雪が降った日――。
「雪道は滑るから気を付けろよ」
 重い新聞を乗せて走るのはバランスを取るのが難しい。
 遅くなっても配達から戻らない君を心配してバイクで探しに行った。猛威を奮った初雪は道端に雪溜まりを作り、まだ配達に慣れていない彼女は難儀していることだろう。
 見つからなくて諦めて引き返そうとした矢先、引っくり返った自転車の横で倒れている君の姿が見えた。驚いて、駆け寄ったら意識はあるが痛くて動けなかったようだ。膝小僧と肘を擦りむいて血を流していた。
 バイクの後ろに乗せて病院に連れて行き、配達の続きを終わらせてから再び病院に戻ったら、治療を終えて君は帰ろうとしていた。家族を呼ぼうかと言ったら、お父さんに叱られるからと泣きそうな顔になった。そして急に……、
「あのう、私、今週で辞めます」
「どうして、早朝の仕事は辛いから?」
「違います。お父さんにお金になる仕事をしろと言われて……」
「そうか、いい仕事が見つかった?」
「……親の借金のために風俗店で働くことになったんです」
 消え入りそうな声でそう答えた。その返答に俺は驚いた。
「風俗店って……? 君はそれでいいの? 親の借金だろう?」
「お母さんが家出しました。それ以来、お父さんは仕事しないでお酒ばっかり飲んで借金ができて……。私が風俗で稼いて返済しないといけないんです。逆らったら、お父さんに殴られるから……」
 君は泣きながら話した。聴くと、日常的に父親に暴力を受けているらしい。なんて父親だ! 俺は心底腹が立った。
「風俗なんかで働きたくないだろう?」
 君は深く頷いた。
「――で、借金は幾ら?」
「二百万くらい……」
「よし! 分かった」

 俺は銀行が開くのを待って預金を下ろし、その足で君の家に行き父親と会った。二百万円の現金を見せて、これで借金の肩代わりをする。その代わり、うちのお店で世話をみるから今後一切関わらないでくれと宣言した。金に困っていた父親はその条件に飛びついた。一応念書も取っておく。
 お店の近くにアパートを借りて君を住まわせた。母親も見つかり今は二人で暮らしている。

 金で君を買ったなんて思わないでくれ!
 この金はどうせ使い道のなくなった俺の結婚資金だったんだから……これで君を助けられるのなら惜しくないさ。
 家業を継ぐなんて最悪だと思っていたけど、生涯をかけて守りたい君を見つけたから、この仕事も悪くないと俺は思い始めた――。


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このストーリーに関するコメント

13/12/07 泡沫恋歌

写真はフリー画像素材 Free Images 1.0 by:by:www.D2k6.es 様よりお借りしました。http://www.gatag.net/


こないだ、雪道用のスパイク付きのブーツを買いました。
雪道よりも、雪が凍った時の方が滑りやすいので気を付けないといけないんだよ。

雪道の転倒事故に気を付けてくださいね。

13/12/07 草愛やし美

泡沫恋歌さん、拝読しました。

新聞のお仕事は、どうして下賤なものと思われるのか私には理解できません。でも現実は、酷いものです。朝夕の配達に加えて、集金。留守の家に何度も足を運ぶのはまだしも、居留守を使われることもあります。そんなお仕事なのに……。どうして、世の中というか、この社会は、仕事に上下をつけたがるのでしょう。そのうえ、それに従事している者まで、上下に身分を決めつけてしまう。そういうう怖さに気づかないようです。そんな社会の一面をみた思いです。
創作上とはいえ、主人公のカップルさんを、とても応援したい気持ちになりました。頑張れ!と、エールを送ります。

13/12/07 yoshiki

拝読しました。

このお話の主人公の俺はなんていいやつなんでしょう。二百万をぽんと差し出すなんて。きっと彼女に惚れたのでしょうね。(*^_^*)この後の展開が気になります。
新聞のお仕事もそれを経営しているのなら卑下はされないと思いますし、立派なお仕事です。
余談ですが、私中学生の時自転車に乗ったまま、崖から転げ落ちしばらく気絶していました(^_^;)

13/12/07 そらの珊瑚

恋歌さん 拝読しました。

考えようによっては結婚前に婚約者がそういう差別的な考えをする家だとわかって良かったのかもしれません。
彼女も自分の家族を捨ててまでという強い気持ちではなかったのでしょう。

若い女の子が主人公のことを好きになってくれれば良いけれど…。
彼女にしてみれば負い目のようなものもあるし難しそうではありますが、
主人公の真っ直ぐな想いがいつか伝わりますように。

13/12/08 泡沫恋歌

草藍さん、コメントありがとうございます。

そうですね。微妙に仕事に対する差別はあると思います。
デスクに座って、スーツを着てする仕事は立派な仕事で、汚い格好で深夜に働く仕事は
どうしても下位に思われます。
だけど、そういう人が居るからこそ社会は回っていけるのです。

13/12/08 泡沫恋歌

yoshikiさん、コメントありがとうございます。

この主人公の男がポンと出した二万百円ですが、書いた後で・・・σ( ̄、 ̄=)ンート…
世間的にみて、二万百円では結婚資金として少ないかなあ? 
三万百円くらいの方が良かったかなあ?
・・・と、ちょっと悩みました。
何しろ、自分が貧乏なので自分の金銭感覚なら二万百円は凄い大金なのです。

yoshikiさん、中学生の時はヤンチャだったんですか?
崖から落ちるのは危険過ぎるでしょう(  ̄д ̄;)ノ エー!?

13/12/08 泡沫恋歌

珊瑚さん、コメントありがとうございます。

婚約者の女性は自分の意思ではなく、両親の助言によって結婚を断ったように思えます。
主人公の実家の雰囲気に馴染めないと書いたように、自営業の家には独特の空気があります。
たぶん、サラリーマンの家庭で育った婚約者には将来、夫が家業を継いだら嫌だという
気持ちがあったと思います。
その辺りの説明は文字数の関係上書けなかったけどね(笑)

そう、主人公と君が将来結婚できるかどうか、もう少し時間が掛かると思います。

13/12/08 泡沫恋歌

猫春雨 様、コメントありがとうございます。

主人公は19歳の素直な女の子が風俗店などという、いかがわしい場所で働くことが・・・
可哀相で見て見ぬ振りが出来なったのでしょう。
その話を主人公に聞かせた時点で、君の方も助けて欲しいという願いはあったかも知れない。
案外、このふたりは惹かれあって居るのかも知れません。

私も一読者なら、絶対にふたりには幸せになって欲しいですね。

13/12/08 鮎風 遊

ホッホー、ポンと出しましたか。
これは、やっぱり好きだからですね。
嫌いだったら、知らんぷりかな。

なにかここに至るまでのすべてのことが、単なる過程だったのではと思いました。
縁ですね。結ばれるべきして結ばれたのですね。


13/12/08 朔良

泡沫恋歌さん、こんばんは
拝読いたしました。

両親から、結婚相手は自営業の人は止めなさいと言われた覚えがあります。
親からしたら、自営業だと苦労するというイメージがあったようです。今はサラリーマンも、会社は倒産するは、リストラはあるは、で気楽な仕事ではなくなってしまったので当て嵌まらないですが…。


彼が恋人と破談になってしまったのは理不尽だし悲しいことだと思いますが、あとにこんな出会いがあるのなら、それは運命の神様が間違っちゃだめだよと、導いてくれたのかもしれませんね。結婚を目的にお金をためていたおかげで、すんなり彼女を助け出すことができたわけですし…。

この新しいカップルが幸せになれるますように。

心温まるお話、ありがとうございました。

13/12/11 泡沫恋歌

鮎風さん、コメントありがとうございます。

なかなか人のために大金なんて出せませんよね?
手段としてはあざといかも知れないけれど・・・

この二人の恋の始まりになりそうな予感がします。

13/12/11 泡沫恋歌

OHIMEさま、コメントありがとうございます。

今年降った、初雪が二人の距離を縮めて、更に君を救うために主人公は大金を叩いた。

いかにも的な話ではありますが、現実にもありえる話だと思って書いてみました。

最後は主人公の君を守る宣言で終われて、何だかほのぼのした気分ですよ。

13/12/11 泡沫恋歌

朔良さま、コメントありがとうございます。

自営業はサラリーマン家庭で育った娘さんには気苦労が多いと思います。
休みも不規則だったり、商売上の付き合いは多いし、第一、仕事と休みの切り替えが
難しいと思います。

たいていの親なら、安定したサラリーマンと結婚する事を望むことだと思います。
そういう理由で結婚が破談になった主人公ですが、これも素晴らしい伴侶を見つける
ための試練だと思えば良かったのでしょうか。

14/03/14 リードマン

拝読しました!
出会いってやっぱりいいもんですねぇ

14/03/15 泡沫恋歌

リードマン 様
コメントありがとうございます。

出会いって大事なことですよね。
ネットでも、こうやって知らない人と繋がりあえます(笑)

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