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Aミさん

ど素人です。山と動物と草木が好きです。朝顔を愛しています。生き物好きをこじらせてバイオテクノロジーなど学んでいました。文鳥とメダカ飼ってます。この秋にネコを拾ったので飼いはじめました。

性別 女性
将来の夢 動物保護活動のスポンサーになれるくらいの金持ちになりたい。
座右の銘 技術は見て盗め(とあるバイオ技術者から教わった、受け身では何も身に付かないという教訓)

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わらじを履いた縁結び地蔵

12/05/19 コンテスト(テーマ):第五回 時空モノガタリ文学賞【 京都 】 コメント:0件 Aミ 閲覧数:1825

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黄金の三角地帯から、偏西風に乗って東へ…

空気の妖精が独り、気流に身を任せて漂っていました。
海の泡から生まれてはや三百年。彼女は、人間たちの生活が豊かに、けれどそれに反して心は貧しく不幸になる様を、ただただ見守り続けていました。彼女にできたことはといえば、涼しい空気を運んでささやかな慈雨を招くことくらい。空気の妖精とはいえ、彼女一人の力では自爆テロの航空機を止めることも、死の灰を吹き払うことも出来なかったのです。
次の満月が来れば、人と同じ魂を得て天国へ昇ることになっている彼女は、なすすべもなく不幸になってゆくこの世界を、かつては彼女もその一部であったこの世界を忘れてしまわないように、瞳に焼き付けているのでした。
極東の小さな列島が、遥か下方に見えてきました。あれはマルコポーロがジパングと呼んだ、八百万の神が住まう国…

京、洛西の竹林。
そのまた西にある壁のような西山。
小塩山はその西山で一番高い山で、中腹にハングライダーの発射台があります。東風で条件がいい日には、京都盆地を越え、山科を越え、琵琶湖を渡って、彦根辺りまで飛べると、以前出会ったハングライダー乗りが教えてくれました。
だから、その時も、小塩山からテイクオフしたハングライダーだと思ってんです。
私は、鳥から紙飛行機までおよそ空を飛ぶものすべてに子供っぽい憧れをもっているので、金属の骨組みと強化繊維の膜で大空に挑む、その行為、挑戦者を讃える気持ちで、気が付けば大きく手を振っていました。
でもそれは、ハングライダーなんかではなかったのです。近づいてくるその姿はこれまでに見たこともないような、純白の巨大な鳥でした。
とっさに思い出したのは白鳥伝説。東北アイヌの人々が神と崇める白鳥のことでした。古代史の英雄タマトタケルも、死後に魂が白鳥となって大和まで戻ってきたという神話がありますよね。
その鳥は、飛ぶことを忘れたように、まっ逆さまに落ちてきました。私は逃げることも目を逸らすことも出来ずに、呆然と、こちらに迫ってくる白い羽根の塊を見ていました。
ぶつかる!と、そう覚悟した直後たしかに激突したと思ったのに、何の衝撃もありませんでした。白い塊のかわりに涼やかな風が、頬をなでて通りすぎて行きました。癖でほとんど自動的に横髪を耳へ掛け直し、目を瞬かせてしばし。
「今のん、なんやったの…?」
思わず声に出してしまって、私はその、自分ののどから出たはずの声に驚きました。決して自分のものではない、鈴を転がすようなという表現がぴったりの、信じられないほどの美声だったのです。
それと同時に、私の心の一部にまったく異質な人格が現れたことに気付きました。
(まあ!わたくし、声が出たわ)
「私の中におる、あなたはどなたはん?」
(わたくしは空気の妖精、名はアリエルですわ。この地にさしかかった途端、なにか魔力のようなものに引き寄せられて落ちてきてしまったのです。ああ、わたくしは貴女の内に宿ってしまったのですね)
「ええぇ、なに?なんで?」
(貴女が懐に入れている黄色い布包みから、強い魔力を感じたように思いましたけれど、わたくしも何ゆえこのような事になったのか知りたいですわ)
「黄色い…」
そう言われて思い出したのは、親友の憂い顔でした。
売れないシンガーソングライターである私の行く末を心配するあまり、半ば強引に縁結びの霊験あらたかな鈴虫寺へ連れていかれたのは、つい昨日の事でした。そこで黄色いお守りを授かり、わらじを履いたお地蔵さまに“人魚姫のような美しい歌声で歌えるようになりたいのです。どうか宜しくお願いします!”と私は願いを掛けたのでした。作詞も作曲もそれなりに評価してもらえているのに、歌唱力がいまひとつ伴わないせいでレコード会社との契約にこぎつける事が出来ず、正直焦っていて、現実味のあるお願いをしなさいと諭されたにもかかわらず、そんな事を願ってしまったのでした。
(そのオジゾウサマという神がわたくしを呼び寄せたのですね)
「あー、そうなるんかな。なんかゴメンやで。せっかく空飛べる妖精はんやったのに…」
(いいえ、これでよいのです。実は、わたくしはもうすぐ天国に昇るはずでしたが、精一杯わたくしに課せられた善行に尽くしたにもかかわらず、この世界が不幸への坂道を転げ落ちるのをまったく止められませんでした。このまま世を去ってはいけないのではないかと、思い悩んでいたのです。貴女に声を貸し、少しでも人々の心を癒すことができるなら、喜んで力になりますわ)
「不幸への坂道って…酷い言い方やわぁ。うん、でもよかった。じゃあ、これから一緒に頑張ろうな」
不思議なことに私は、アリエルと名乗った心優しい妖精の存在を、すんなりと受け入れてしまいました。

私がスターダムに駆け上がるのにそう時間はかかりませんでした。


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