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密家 圭さん

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花かんざしを君に

12/05/17 コンテスト(テーマ):第五回 時空モノガタリ文学賞【 京都 】 コメント:0件 密家 圭 閲覧数:2122

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「桜が、咲いたのですね」
春のにおいがします、と女は上品に目尻を下げて微笑んだ。枕もとの花かんざしへと色の白い手を伸ばし、以前よりも弱々しくなった声で彼女は言う。
「見れそうにないですね」
桜は散るのが早いから、と小さな声で言う。
「また咲くよ。来年、病が治ってから見れば良い」
姿勢良く座す男が励ますが、彼の顔からは胸中の複雑な気持ちが見てとれた。女の死期がすぐそこまで迫っていることを、彼は知っているのだ。
「私が居なくなったら、この花かんざしを私だと思って大事にしてください。貴方様に頂いてからずっと、大事にしてきたものです」
桜色の花かんざしを手に、女は長い睫毛を伏せた。
そう、この花かんざしは、桜の好きな彼女を口説き落とそうと、男が都で評判の職人にこしらえさせた物だった。花の細工はもっと細かく、色味はもっと淡くなど、あれやこれやと文句を言って作らせたので、職人には恨み言も二、三言われ、彼の言い値もなかなかだったが、それで彼女と結ばれたのだから安いものだ。美しい彼女に、そのかんざしはよく似合っていた。
「桜色のかんざしなど、男の私がつけるものではないよ。 君に似合うからあげたんだ」
かんざしを握る女の細く白い手に、男は自分の手を重ねた。
「でも、貴女様……」
「長い間病に伏せていたから弱気になっているのだよ。今は辛いかもしれないが、病など直に良くなる」
女の言葉を遮り、男は手を握る力を強めた。冷たい指先に男の手の熱が伝わり、女の瞼が寝入るように心地よさそうに閉じられていく。

 
 その後、彼女が目を覚ますことはなかった。それから男は妻の言葉通り、何処へ行くにつけても花かんざしを肌身放さず持ち歩いた。 


「っていうのが俺らの前世ね。つまり、俺たち前世から結ばれる運命だったんだ! 」
「設定からやり直し。あんたの前世は貴族
 神妙な顔で始まった演説は、とんでもない方向に着地したようだ。真面目に聞いて損した気分になり、さっさとその場を離れようとする。
「待ってよ。二人きりの旅なんだし、ゆっくりして行こう! 」
「二人きり? 修学旅行なんですけど。自主研修時間終わっちゃうし、班の友達待たせてるからもう行くよ」
もう一度清水寺でも見たいなあ、なんて思いながら歩こうとすると、彼に手を掴んで引き止められた。
「これやるよ」
何処から出したのか、彼の手には綺麗な細工の施されたかんざしが握られていた。
「え、困る」
「俺もこんなピンクのあっても困る。受け取っとけ」
何がなんだか分からないまま、かんざしを手に握らされる。彼は満足そうに笑うとそのまま人の波を通り抜け、班の人たちのところまで戻って行った。

どうしたものかと、手に握った桜色に視線を落とす。花かんざしを見たのは始めてのはずなのに、何故か懐かしいもののように感じた。 


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