1. トップページ
  2. 雪響 ――ミグナッハはかく歌い――

クナリさん

小説が出版されました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より発売中です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211 twitterアカウント:@sawanokurakunar

性別
将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

投稿済みの作品

13

雪響 ――ミグナッハはかく歌い――

13/11/22 コンテスト(テーマ):第四十五回 時空モノガタリ文学賞【 雪 】 コメント:19件 クナリ 閲覧数:3175

時空モノガタリからの選評

『歌と水の町』を舞台にしたシリーズ。連作でありながら、前作を読んでいなくても物語世界に入っていくことができるようなお話に仕上がっていたと思います。
3作目ということで、設定の描写や説明が省けたせいか、人間関係が以前のものよりも丁寧に描かれていて、クナリさん独特のストーリー展開が存分に繰り広げられ、思わず物語に引き込まれます。架空の時代や場所という設定も、読み手が細かい事にとらわれなくてすむ大きな要因の一つだったかも、と思いました。
圧巻だったのは、「ミグナッハ」が南門へ向かって歌いながら駆ける場面。畳み掛けるように短いフレーズが続き、歌声の響き渡る町の緊迫感と、激しさが伝わって来ます。ミュージカルの舞台を見ているかのような、臨場感と切なさのあふれるラストでした。お題の雪と絡めた歌声の描写も非常に巧みだと思いました。
「降り来るのは、私の声を吸い込んだ、水よりも澄んだ雪。解けて流れ、いつかどこかで、歌になれたら、あなたに会いたい」
詩のような美しい最後の行に胸が一杯になりました。

この作品を評価する

私が十九歳で、合唱団最高格の歌姫を辞め、駆落ちした夜は、酷い雪だった。
大陸の端の一大都市、『歌と水の町』の冬。
貴族院付きだった私の逃亡は、団の名に泥を塗ることになる。<脱走死罪>の団の私兵をやり過ごすために私達は雪に潜り、長い時間、道端に伏せた。
追手が諦めて去る頃、私に覆い被さった恋人は凍死していた。私も寒さで病み、お腹に宿していた命が流れて散った。
歌う為に生きてきた私は、歌も、それと引き換えにしてまで求めた恋も失い、一人ふらふらと向かった街外れで暮らし始めた。生きるのに飽きれば、適当に死ぬつもりで。

次の冬。
私は小さな便箋屋で、虚ろに一人番頭をしていた。
何も考えなくて良い、起伏無き日々。けれど空に雪が舞うと、辛い記憶が、おき火の様な死への誘惑を煽る。
もう、いいかな。
その時、十代後半と思しき若者が店先に立っているのに気付いた。
「投函です……街の外の母に」
言いながら、彼はじっと私の目を見つめていた。が、見覚えは無い。
便箋屋は、郵便支局も兼ねている。若者から手紙を受け取ると、私はあることに気付いた。
「キオさんというの。革命兵なんですね」
昔偶然知ったことだけど、封筒の隅に付いた汚れにしか見えない記号は、貴族院を転覆させようとする革命兵達の隠し符丁だった。殺人すらタブーとしない程に、過激な人達の。
彼が息を飲んだ。
余計な事に勘付いた私を、殺してくれるだろうか。しかし、彼にその気配は無い。
「私を殺さないのですか」
「僕が革命兵になったのは、大切な人がこの街に殺されたからです。貴女そっくりの目をした人でした。開いたままの傷の様な瞳、……殺せるものですか」
そう呻いた彼の髪を、私は撫でた。雪に濡れ、冷たい。
「温めてあげましょうか」
「女の人に付け込む男だとでも!」
キオは店から出て行った。
人肌が恋しいのは、自分か。萎れているようでいて、寂しいものは寂しいのか。情けない。
けれど次の日、キオは店に来た。昨日は大声を出してすみません、と言うので、こっちこそ、と言って、二人で少し笑った。

また、次の冬が来た。
キオとは店先でしか会わなかったが、それが随分頻繁になった。
彼といる時の私は、よく笑う。
いつしか、一日の終わりに、明日が来るのが待ち遠しくなった。
彼に好意を抱いているのは間違いない。いつか、キオを愛する日などが来るのだろうか。あの人と、そうだった様に。

ある雪の日の夕暮、キオが店で声をひそめ、
「今晩、街の北門で火事を起こす。家から出ないで」
「危ないことはだめ」
「これから、全部始まる。そうしたら、あなたに言いたいことがある」
そして、彼は雪の中に消えた。

夜になり、店じまいをしていると、表通りに合唱団の私兵隊が、ボウガンを手に群れていた。
「全隊、北門へ集合だ。革命兵に警戒しろとよ」
血の気が引く音が聞こえた。殆ど衝動的に、私は彼らへと歩み出て、
「あなた方。ジュシュ・ミグナッハをご存知?」
二年前、合唱団の面目を潰した女の名前。隊長らしい男が私の顔と名を一致させ、顔色を変える。
私は南門へ向かって駆け出した。男達が追って来る。
もっとだ。できる限り、大勢を引きつけなくては。
私は、走りながら歌った。駆落ちした日から、初めて放つ歌声。
聴き咎めた街中の兵士達が、次々に大通りに現れた。
ミグナッハだ、と誰かが叫び、追手が膨れ上がる。所詮寄せ集めの私兵、統制など取れはしない。
夜空に音声が踊る。目抜き通りの両側の家々の窓に、人々が顔を出す。
響け。これが、かつて鍛えに鍛えた、私の歌。
この街の最高峰、貴族院付きの歌姫の絶唱。麻の服に乱れた髪、けれど砲筒の喉、声の瀑布!
あれから訓練もしていない私の歌声が、果てしなく空へ伸び、街を奔った。まるで奇跡の様に。
空気の震えが街を覆い、雪が散る。しかしこの雪に吸われ、歌声は北門までは届くまい。それでいい。
南門を目前にして、私の足を矢が射抜いた。続いて、背中。
キオは、大丈夫だろうか。北の方を見ると、ちらりと火柱が夜空に揺れた。兵達は、誰も気付いていない。胸中で、快哉を叫んだ。あとはどうか、無事に逃げて。

自分のせいで私が死んだなどとは、思わないで欲しい。
恋人と子供を失った夜、私は死んだも同然だった。
そして抜け殻の人生を終わらせようとした日に私はあなたに会って、それから今日までの一年程も、あなたは私を生かし続けたのだ。
今夜の歌は、恩返しの奇跡。
生き返らせてくれたお礼に、私もあなたを救けたい。店の便箋に一言、そう書いてあなたに渡せればいいものを、何て歯がゆい。
矢が、私の首を射抜く。
今日まで生きていてよかったな、と思った。
降り来るのは、私の声を吸い込んだ、水よりも澄んだ雪。

解けて流れ、いつかどこかで、歌になれたら、あなたに会いたい。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

13/11/22 光石七

この世界のシリーズ、大好きです。
雪の中で矢を射られながら歌う姿が、まばゆく感じます。
主人公が歌ったのはどんな歌だったのでしょう?
切ないけれど、強く輝いて美しい。そんなお話だと思います。

13/11/22 草愛やし美

ああ、クナリさん、あの『歌と水の街』の完結編でしょうか。なんてことでしょう、終わってしまわないですよね。もう私には、この街の存在が、現実のものだと思えますもの。
儚いけれど、なんという美しいお話なのでしょう。歌姫さまの最後が、あまりにも悲しくてたまりません。その歌声が、私の耳にも届いた気がしたのですが、空耳でしょうか。

素敵なお話に浸らせていただきまして、ありがとうございました。

13/11/22 murakami

この世界観にはとても惹かれます。
『歌と水の街』はずっと心に残りそうです。

「終」の文字が切ないです…。

13/11/23 クナリ

光石さん>
ありがとうございます。
もっとめるへんちっくに作成できればいいのですが、毎回毎回人が死ぬヤなシリーズ(ほんとにな)にそのようなお言葉、うれしい限りです。
主人公の歌は、365歩のマーチです。
三歩進んで二歩下がったときに射られまくりです(おーい)。
動乱や混迷のとき、女性は常に虐げられるようなイメージがあります。その中での強さや輝きが描けたらなあと思います。

草藍さん>
いえ、これからも続けますッス。<歌と水の町
街自体が舞台だと、テーマに対して応用が利くのでけっこう便利だし…いえゲフンゲフン。
歌と水の街なのに今回水路の描写とかまったくしていないところがクナリのおぼつかなさを表現しておりますが。
聴こえていただけましたか、主人公が「じーんせいーは、ワンツーパンチッ」とキレよく歌い上げる声が!(やめい)
いえまあ、自分の中ではオペラ的な、声を太く高く放つ系の歌なんですが。
こちらこそありがとうございましたッ。

村上さん>
てなわけで続けます(^^;)。<歌と水の街
もっと世界観の描写も増やしたいのですが、この不才ではなかなかかなわず、ちょこっとずつ文明レベルなんかを匂わす程度になっておりますが、そういっていただけてとても光栄です。
この作品世界で暮らす人々の一瞬の生命の輝きを、著せていければいいのですが。

13/11/23 てんとう虫

かなしいけどミグナッハ元歌姫には幸せなんでしょうね。でもキオのことを想うとつらい。どうか彼女が歌になり彼に届きますように。

13/11/23 かめかめ

響け。これが、かつて鍛えに鍛えた、私の歌。

がつんときました

13/11/24 そらの珊瑚

クナリさん、拝読しました。

人は人によって絶望することもあるけれど
絶望から救うのもやはり人なんだと思いました。
毅然として歌姫に戻ったミグナッハの最期に感動しました。

13/11/24 クナリ

猫春雨さん>
「強い女」が好きなんですよね。
その反動で、自分の書く話はよく男がよわっちいですね(^^;)。
来世、あるといいんですけどね。
あればきっと、彼女はまた歌っているのでしょうね。

てんとう虫さん>
最悪ではない結末となった、という感じでしょうね。
でも、最後に自分のできることをやりきることができたというのは、彼女を救ったのではないかと思います。

かめかめさん>
まさに一番力を入れて書いたところでした。
とてもうれしいです、ありがとうございます。

OHIMEさん>
誤解も過不足もなく人に何かを伝えるというのは、とても難しいことで、ほとんどの場合かなわずに終わります。
彼が、主人公の意図を正確に理解することは困難でしょうが、彼女にはこの生き方しかなかったとも思います。
このシリーズでは、まあせっかく異世界が舞台ということで、ビジュアル的に印象的なシーンができたらなーというのはこっそりちょっぴりもくろんでいます。成功しているかどうかは別問題ですが。
雪の中で吼えるように歌いながら大通りを行き、兵士たちを引き連れるように走るところを、通りの両側の窓が開いて人々が見るというのは、けっこういいかなーなんて。
わんつーぱんちがだめであれば、「明日があるさ」でもいいであります!コラ)

そらの珊瑚さん>
自分が必死で身につけたものが、思いがけない形で最大に開放されるとき、人間に奇跡が起きるのかなーとか思います。あほなりに。ええ。
自分らしく生き、自分を全うすることと引き換えに命を手放すというのは、いいことなのかどうなのか。
絶望と救済の織り成す歴史は、人が潰えるときまで続くのでしょうね。

13/11/24 朔良

クナリさん、こんばんは。
拝読させていただきました。
力強く、また美しい話に引き込まれました。

先のお話は未読だったので、思わず遡って拝読させていただきました。そちらのお話もとても素敵で…。

しっかりした世界観に基づいたクナリさんの紡ぐ話、とても好きです。

こちらに参加させていただくようになって、ひとつの世界観(設定)を軸に、それぞれのテーマに基づいた話を書けないかな、と考えていたので、その点でも大変勉強になりました。

ステキなお話をありがとうございました。
『歌と水の街』の別の話、また楽しみにしています。

13/11/25 クナリ

朔良さん>
「強い女」が好きなので、そういっていただけてうれしいです。
前作まで読んでいただけましたかッ。重ねて御礼を!
町とか大陸とか、妄想して設定するのが好きなんですよ(^^;)。架空の世界の地図作ったりとか(暗ッ!)。
今のところは、テーマに合致するキャラクタが街の中で見つかったときに投稿するという便利な使い方をしておりますが、けっこう使い勝手いいです。
なかなか楽しいので、朔良さんもぜひチャレンジしてみてください。

無頭ノ鶏さん>
ありがとうございます。
苦戦、そうですね、入れる材料は一度決めたら足し引きしたくないので、いかに効率的に字数内に落とし込むかというのは毎回苦労してますね。
ただ、これが3000字でも4000字でも、書く内容がすごく増えたりはしないんじゃないかなあという気もするので、2000字くらいが密度も高まっていいのかなと思います。
登場人物の人生を追いかけるだけで構成しているこのシリーズは特に、キャラクタを字数制限の犠牲にしたくはないので、活き活きしているというのはとてもうれしいですね。
せりふなども最小限にしているので、工夫がうまく言っているのであれば僥倖であります。


13/12/01 平塚ライジングバード

クナリさん、拝読しました。

一週間以上前に読ませていただき、衝撃を受けていたのですが、
コメントを書くのが遅くなり、ごめんなさいm(__)m

月並みな感想になりますが、本作も実に素晴らしい作品でした。
特に、印象的な台詞、シーン、言葉使いが多く、非常に興奮して
読ませていただきました。ミグナッハの生き様の格好よさ(←語彙力
が少なく変な表現でごめんなさい。)に感銘を受けました。

そして、失礼かもしれませんが敢えて申し上げますと、、、
クナリさん、巧くなっていませんか…?

クナリさんの作品をほとんど本サイトでしか見ておりませんが、
そんなことを感じてしまいました。
5月頃にこのサイトで読ませていただいた頃から本当にお上手
でしたが、その頃より描写力・ストーリー作成力ともに向上している
ように思います。
(特に、最近の作品は神がかっています(笑)!!)

劣等人類平塚の私見ですが、僭越ながら率直な感想を述べさせて
いただきました。

13/12/03 クナリ

平塚ライジングバードsなん>
このシリーズは結構、「こういうシーンが書きたいな」と思って書くことが多いので、印象的とのお言葉とてもうれしいです。
うまくなってますかね?
少しは字数や掌編に対するやり方というものを自家薬籠中のものに出来てきたのかもしれません。
ただ、慣れは常に緊張を失うリスクがありますんで、いっそう自戒しなければなりませんね。
頬はゆるみまくりですが。ええ。
劣等ぶりでは他に追随を許さないこのクナリ、次回作への励みにさせていただきます、ありがとうございました。

14/03/12 リードマン

拝読しました!
こんな素晴らしいシリーズがあったんですね、素直に嬉しいです。

14/03/13 クナリ

リードマンさん>
シリーズというほど大仰なものではありませんが(世界観しか話同士のつながりがないので)、なにやらぽちぽちと書いております。
楽しんでいただければ幸いです。
コメント、ありがとうございました!

16/07/22 あずみの白馬

素晴らしいの一言につきます。
いい作品を批評するのに言葉はいらないとはよく言ったものだと思います。

切なさの中に強さが光る。だぶってしまいましたが、最後の言葉が心に残りました。

16/07/24 クナリ

あずみの白馬さん>
こげな昔の作品にコメントいただけて、嬉しい限りです!
ハッピーエンドとは最低限「生存」が必要だと(そりゃそうだッ)思っている自分としてもちょっとひどいラストなのですが、どうしようもないものはどうしようもないという運命の中、それでも輝こうとする魂の息づきが描けていればいいのですが…。

ログイン