1. トップページ
  2. 正当な復讐

草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
座右の銘 今を生きる  

投稿済みの作品

10

正当な復讐

13/11/22 コンテスト(テーマ):第四十四回 時空モノガタリ文学賞【 復讐 】 コメント:16件 草愛やし美 閲覧数:2090

この作品を評価する

 都会の片隅にあるH町の商店街、中程に総菜屋がある。午後八時を回ると人が集まってくる。十分過ぎる頃には、立派な行列が出来上がる。みな、半額の惣菜を狙って来ているのだ。もう誰も買わない、八時半になれば毎晩半額販売が始まることを知っているからだ。

 俺がやって来たのは、もう八時二十分を回っていた。すでに、半額狙いの奴らが、かなりの行列を作っている。「チッ、遅れちまったか」慌ててトレイに少なくなった惣菜を盛る。弁当、サラダ、揚げ物、おっと、大好きな焼売、それにチキンのから揚げ。これで三日、いや四日は持ちこたえられるだろう。トレイを捧げ行列の最後尾に並ぶ。
 俺は数日間の惣菜をそこで調達していた。ニートだった俺が、清掃作業とはいえ、何とか勤め、ようやく始めた一人住まい。だが、ボロアパートに帰っても温かい食事が待っているわけはなく、僅かな給金では、コンビニの姉ちゃんが笑顔で温めてくれる弁当より半額惣菜の方が気楽で、心も温かくなった。ああ、こんなに安く美味い物食える俺はなんてリッチで幸せなんだ。そう思うと長蛇の列に並ぶのも我慢できた。

 半額レジはまだ開かず人が増える一方だ。前の女が先程から、スマホ相手に何か話している。
「だからさ、その和君ってどういう育ち方したんだろう。えー! そんなこと言うの。ああ、最悪。親もどうしようもできないんだろうね。いやそう思うでしょあんたも。そうだよ、受験しくじったくらいで何でああなるの、たかが受験よ、やり直せばいいだけなのにさ、ニートだって、わけわからないよ」
 何なんだ、俺にだってわけがわからない。何で、和君という子はここで──こんな総菜屋の行列で非難轟々を言われなければいけないのだろうか。胸糞悪いなと並びながら思った。まだ半額タイムは始まらない、俺はイラついて前の方へとかってに足が進んでいた。前に立っているそのスマホの女と自然距離が狭まる。女のマフラーにトレイが少し触れた。とたん女の肩が左右に揺れ、俺を肩で払いのけようとした。
 何だこいつ。人前で構わずわけわからん文句垂れて、ちょっと触れただけで、まるで虫けらの如く俺を振り払った。数回、トレイが当たる度に不快そうな顔で体を揺すり、俺を払い除けようとする。あげくに俺の方を横目で睨んできた。俺は何もしちゃいない。俺だって後ろから押されているんだ。嫌だったら半額諦めて行列から離れろ。その手に持った麻婆豆腐とサラダがなくたってお前の生活にそうたいした変化はないはずだろう。そう叫びたかったが我慢した。一時の辛抱、これが終われば、美味しい半額品を食えるのだから。

「和君ってニートやって親に迷惑かけてさ、ああいうの害虫って言うんだね」
 スマホの会話は続いていた。俺はわざとトレイを前に押しやった。女が振り返って俺を軽蔑の眼差しで睨み付けた。畜生、この女許せない。
「和君が育ち損ないなんて誰が決めた。人を害虫って何だ」 
 俺はトレイで思い切り女を殴りつけた。女は、驚いた顔で俺を罵った。
「何するのよ!」
「和君の仇だ、これは正当な復讐だ。俺は、お前に復習する。もう二度とこの商店街の行列に並ばせるか、殺してやる」
 顔を引き攣らせた女はスマホを投げ出し助けてと叫んでいる。俺は、店先にあった看板を持ちあげ女目がけて投げつけた。看板は、女にスルーされて、地面にぶつかり破壊音を立てた。
「復讐ってあんたなんか知らないわよ。和の友人? あったま、おかしいんじゃない。助けてー、殺される」

 俺は、数人の店員に抑えられ、駆けつけたおまわりに引き渡された。
「惣菜半額で争ったのか?」
 おまわりの声が虚しく響く。
「違う、これは復讐だ、殺してやる。知らないところで悪口言われた和って子の復讐だ──何だよ、育て方間違ったなんて誰が決められるんだ。受験に失敗してもやり直せば済む? 本人でもないくせに辛さわかるのか」
 全く顔も知らない和とやらをかばって俺はトレイを振り回した。

「母さん、俺は出来そこないなのか? 聖子おばさんの言うこと信じてさ、俺は、和って子と同じ害虫だって言うのか? 何だよ、育て方ってお前が育てたんだろ。父さんとかってに離婚しておいて、それもみな俺がニートになったからだって、悪いのは全部俺か。和、顔も知らないがお前だけは俺が救ってやる。見てろよお前ら、人を苛めたら復讐されるんだからな」
「午後、八時四十七分、暴行罪で現行犯逮捕だ、わかったな」
 おまわりの声が耳元でガンガン鳴り響いてくる。
「おやじもおかんも、俺を出来損ないの目で見やがった。浪人の辛さなんか知っちゃいないくせに、清掃業はごきぶり仕事だとか、寄ってたかって苛めやがって、生まれてきたのが悪いなら、俺を殺せばいいだろ」
「逮捕しましたが、犯人は相当興奮していて様子が変です。一旦病院へ搬送します」


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

13/11/22 笹峰霧子

男言葉がすんなり入ってきて、一気に読み終えました。
うまいですねぇ。
理屈は通っていても、国の法律としては手を出せば逮捕されますね。
悔しい気持ちはわかりますけど…。

13/11/23 鮎風 遊

商店街の中で起こっていそうですね。

しかし、半額セール、愛用させてもらってます。
これ味わうと、昼間には買えません。

最近思うのですが、スーパーのそばに住むか住まないかで、
暮らし方が大違いのようですな。

13/11/24 そらの珊瑚

草藍さん 拝読しました。

思い通りにならないうつうつとした不満。
それは半額セールの惣菜を買うという
小さな幸せ感によってなんとか紛らわせていたのに
ささいなきっかけで一気に決壊してしまう様子、
リアルな心の動きが手に取るように感じられ、素晴らしいと思いました。

13/11/24 泡沫恋歌

草藍さん、拝読しました。

なんかリアルな事件のように思えてきますね。
ニートだって、最初から成りたくて成った訳じゃない!
この男の怒りが伝わってきましたよ。

閉店間際に値引き商品を買うお客のことを
「値切りハンター」とかいうらしい。

13/11/24 草愛やし美

笹峰霧子さん、お立ち寄り下さいまして、コメントをありがとうございます。

本人には、通じていても、法を犯してはどうしようもできません。といっても、実際にこういう立場に置かれた場合、人は変わってしまうかもしれません。そういう怖さをえがくことができればと思い、作品にしましたが、私の頼りない構成力でちゃんと書けているか心配していましたが、わかっていただけたようでほっとしました。ありがとうございました。

13/11/24 草愛やし美

鮎風遊さん、コメント下さいまして感謝しています。

半額セール、私もセール時間間に合うように、夕方になってから買い物に出かける人間で、大昔から、よく利用しています。 そうなんです、これを知ってしまうと、通常価格で購入できなくなるというリスクがありますよねえ。苦笑
我が家は、商店街まで徒歩5分、自転車だと1分ほどの距離にあります。その中の一軒の総菜屋が、この話のモデルになっています。
そこでは、毎晩8時半から確実に始まります。残っている物が多いか少ないかは、曜日や天気に左右されるようです。特に、雨の日は、相当残っているようです。でも恒例になっているので、ほぼ、完売するようで感心します。ただ、私は、夜8時半まではいくらなんでも待てません。2割や100円引きのお店を狙って夕方に出て行きます。(って、何の話やろ、これ?あかんやろ)

13/11/24 草愛やし美

猫春雨さん、お読みくださって嬉しいです。

行き場のない怒りを持っている人々は、結構存在していて、町中、電車バスなど交通機関などの間横に立っている人かもしれません。──そういう方の、越えてはならない一線を犯してしまうことへの怖さはあると思います。
普段、人はそういう危機感を持たずに過ごしていますが、考えれば、怖いことだと思います。 コメントありがとうございました。

13/11/24 草愛やし美

OHIMEさん、お読みくださり感謝しています、ありがとうございます。

私は、毎回OHIMEの作品を読み、この方は凄く斬新な作品を書かれる実力のある創作者さんだと感服しております。そのような素晴らしい創作者でおられるOHIMEさんに、こんなに褒めていただけ大変光栄に思います。嬉々

弟さんに灰色の時間がおありになったのですか……、ご家族の皆様方のご苦労は大変なものだったでしょうね。お姉さまのOHIMEさんもご心配されたことでしょう。一念発起されたとのこと、何よりと思います。良かったですね。
人は、どこで道を違えるかわかりません、ほんの些細なこと、他人には思いもよらぬことで躓いたりします。そんな怖さもえがければと願いましたが、私の情けない文章力ではなかなかそこまで描けていないと思います。(いえほんまに)ひとえに読みに来て下さる方々の、読解力に助けられているのだと思います。(ありがたや、大汗) コメントありがとうございました。

13/11/24 草愛やし美

そらの珊瑚さん、お立ち寄りくださいましてありがとうございます。

半額品を買える幸せは、小さなものでしたが、彼には大きかったと思います。モデルにしました商店街にあります総菜屋さんには、午後8時過ぎますと、大勢の人々がやってきますが、そのほとんどが若年層の男性――これは今の世、いかに男性独身者が増えているかという問題提起のように感じずにはいられません。
半額惣菜を大量に購入す若者達を見る度、私は、「世の中、これでいいのかしら?」という危惧感を感じてしまいます。そんな思いを作品にしてみました。
私の危機感を感じていただけて嬉しいです、コメントありがとうございました。

13/11/24 草愛やし美

泡沫恋歌さん、お読みくださってありがとうございます。

値切りハンターですか、凄い命名ですね。私もその一人によくなっています。苦笑 
ハンターは、待ちますね、半額まで。この総菜屋さんは時間が決まっているのが珍しいですが、チェーン店でして、同系列店ではみなどこも半額セールをやっているようです。
ですが、一般のスーパーなどでは、待つしかありません。昨夜は8時半だったのに、今夜はまだかまだかと……、時々情けなく悲しくなったりしました。今は家族数が減ったので、そう粘らなくなりました。──というより、体力がなく、粘れなくなっていますわ。悲・涙  コメントをありがとうございました。

13/11/24 朔良


草藍さん、こんにちは。
拝読させていただきました。

ああ、なんかわかる、わかる気がします。
普段の鬱屈で、電話の話題になっていた子に自己を投影してしまったのでしょうね…。
主人公が救いたいのは和君ではなく、自分…。だれかに救って欲しかった。そんな気がします。
何気ない日常の何気ない言葉で追い詰められて、ある日突然、何気ないことで爆発する。
案外、こういう理由で起こる事件って多いかも…。

とても面白い作品、ありがとうございました。

13/12/03 草愛やし美

朔良さん、いつも来てくださって感謝しています。コメント嬉しいです、ありがとうございます。

たぶん、日常起こっている凶悪な犯罪も突き詰めてみれば、ほんの相手の言葉じりや、態度、視線などにも原因があるのではないかと推測することがあります。人を非難したり、悪口を言ったり、案外、仔細なことだと、考えないでやっていたりするものです。この場合のように、当事者がいないと余計、やらかしそうにも思えます。
人を悪く言うのはよくないと考えます。人にはそれぞれ、そこへ至るまでの「わけ」というものがあるはずですから。友人に教えてもらった、教訓ですが、人の内面にある地雷を踏まないようにを……私自身いつも肝に命じなければと考えています。

14/03/12 リードマン

拝読しました!
こういう時、手を出すでもなく、口にするでもなく、ただ精進する事が出来たなら立派ですね

14/03/29 草愛やし美

リードマン様、お立ち寄りありがとうございます。
傍観できれば良かったのですが、本人にきっとこれをスルーできる余裕がなかったのかと残念に思います。
この話の中の女性のように、マナーのできていない、思いやりのない人もこの世には存在しているのも事実です。人は、強くならなければいけないのでしょうかね、とても悲しいことです。
コメントありがとうございました。

ログイン