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朔良さん

のんびりまったり。 読むのは綺麗で残酷な話が好きです。 こちらで掌編・短編小説の勉強をさせていただいています。 遡って皆様の作品を読ませていただいてます。 古い作品に突然コメントすることがありますが、失礼があった時は申し訳ありません。 マイペースですが、頑張ります^^

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コアントローの昼下がり

13/11/18 コンテスト(テーマ):第四十三回 時空モノガタリ文学賞【 スイーツ 】 コメント:7件 朔良 閲覧数:3001

時空モノガタリからの選評

昼下がりのまったりとした空気感と、2人の親しげな雰囲気が上手く出ていて、ゆったりとしたリズムの文章も心地のいい作品でした。
「相馬」の告白の仕方、近づいてくる彼の指先の描写など、恋愛小説としての要素は押さえつつも、やりすぎずにどこか上品な雰囲気もあり、違和感なく物語に入っていけます。
また「コアントロー」という名前、個人的には初耳でしたが、響きが良く、物語のいいスパイスとなっていたと思います。

時空モノガタリK

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「ゆかり、シュークリーム作ってよ」

 …それを今、この場面で言う?

「ぜぇーったい、いや」

 あたしは小鼻にしわを寄せて、相馬ののほほんとした顔をにらんだ。

「やっぱり?」
「なんで、今シュークリームなんて言うかな? バカなの? 死ぬの?」

 三日前に決別した元彼の新しい彼女が「サークルのみなさんに差し入れでぇっす」って持ってきたシュークリームがクソまずかった…上にむかついたって話を聞いてなかったのか、こいつは。

「しかたないじゃんか、食べたくなったんだから」
「コンビニで買ってきなよ」
「手作りがいーの」
「あたしはいや。食べたきゃ自分で作れば?」
「ん、了解。そうする」

 さらっと言って、相馬は立ち上がった。

「ええっと…、キッチン使うぞ」

 レシピを検索してるのかスマホの画面を見ながら、勝手知ったる他人の部屋って感じで道具と材料をそろえていく。
 幼なじみの相馬とは、大学の講義のコマがぽかりと開いた平日の真昼間、元彼の愚痴につきあわせても大丈夫なくらいの腐れ縁だ。もちろん逆もあるからギブ&テイクだと思ってるけど、愚痴の割合は8:2であたしの方が多いかもしれない。
 
「んだよ、冷蔵庫ろくなもん入ってないじゃん。ちゃんとメシ食ってんの? あ、でも卵と牛乳はOKっと、無塩バターは…ないか、マーガリン使うくらいならサラダ油でいっかな」
「食べてるって。んっとにおかん体質だよね、相馬は」
「ゆかりはおやじ体質だから、ちょうどいいんじゃね?」
「誰がおやじよ、失礼だな」
「…調味料と卵と牛乳以外で冷蔵庫に入ってんの、缶ビールと塩辛とウコンって、立派なオヤジだろ?」
「うるさーい! それよか、マジで作る気?」
「うん。材料もなんとかなるし」

 オーブンを温め、菜箸で卵をときほぐし、粉をふるい、シュークリームの生地を作っていく。
 鮮やかな手つき。レシピはもう頭に入ったらしく迷う様子もない。

「いつの間にお菓子まで作るようになったわけ」
「ん? お菓子はこれが初めてだ」
「ふーん」

 相馬は昔からなんでもそつなくこなし周囲からの受けもいい。顔もスタイルも平均点超えてるし、優しくて気が利く。女の子にもモテるんだろうな。…ふん。

「なんかむかつく。相馬のそーいう要領のいいとこキライ」
「そ? 僕はゆかりのそういうはっきりものを言うところ好きだけどね。…っと、バニラエッセンスあったっけ?」
「……あるわけないじゃん」
「じゃ、これでいっか」
 
 相馬が棚から取り出したのは、いつか失敗したカクテルに使ったコアントローの瓶だった。

「そんなの代わりにならないでしょ」
「いちいちつっかかるなって。ほら、むくれてないで、サークルの話の続きは?」

 シュー皮の種をオーブンに入れ、今度はカスタードにとりかかった相馬の背中にべーっと舌をだし、あたしはぽつぽつと続きを話した。
 今更未練なんかないけどむかついたこと、イライラして不機嫌になったこと、他のメンバーに気を使わせたこと、そんな自分がすごく嫌になったこと。途中で焼き上がりの音がしたけど、気にせず、全部正直に。
 
「…なんだか失敗ばっかり。相馬も…ごめん、要領いいのがキライとか八つ当たりだよね」

 なんでも飄々とこなしてしまう相馬がうらやましかったのだ。失敗して愚痴ってばかりの自分が情けなかった。

「なぁ、ゆかり」背を向けたまま相馬「シュークリームってさ、パティシエがスポンジを作ったときに失敗した生地を焼いて出来上がったって知ってる?」
「…知らない」
「食べてみなよ、失敗の産物」

 相馬はナイフで切りこみを入れた皮にカスタードを挟んだ、不格好なシュークリームを差し出した。
 黙って一口齧る。
 出来立てのシュークリームは、まだ皮もクリームも温かい。
 さくりとした皮、カスタードのやわらかな甘み。ほのかな洋酒の味とオレンジの香りが口の中に広がる。
 コアントローのシュークリームなんて初めてだ。
 
「おいし…」
「こんなおいしいものが作れるようになるなら、失敗も悪くないって思うだろ?」
「……なにそれ、慰めてんの?」
「失敗は成功の元って話。いいじゃん、少しぐらい躓いて落ち込んだって」
「…うん」
「失敗しても愚痴っても、僕はゆかりのこと好きだから、心配すんな」
「ありがと。あたしも相馬の優しいとこスキだよ」
「あのさぁ」小さな溜息「ゆかり、わかってる? 好きの意味。僕はどうでもいいヤツの愚痴に付き合うほどお人よしじゃない」
「…え? えぇぇ?」

 真剣な相馬の顔にどきりとする。
 近づいてきた相馬の指先からは、微かにオレンジの香りがした。

 幼馴染だと思ってた相手の、幼なじみじゃない顔に初めて気付いた。
 そんなコアントローの昼下がり。


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このストーリーに関するコメント

13/11/18 そらの珊瑚

朔良さん 拝読しました。

失敗の産物がシュークリームになったっていいですね!
失敗や失恋も、ひょんなことから新しいものが生みだされるようで。
コアントローの香りもきっと新しい恋の素敵な味付けになるでしょう♪
とっても可愛いお話でした。

13/11/18 草愛やし美

朔良さん、こういうお話好きです。
少女時代に夢に見ましたよ、わたくしも、こういう恋をしたいなって。ある日、突然、何とも思ってなかった人、でも、かなりのいい男、その彼が、自分を密かに思っていてくれた、ああ、もう何て素敵なの、のぼせちゃいますよねえ。
失敗でも美味しければ、それも恋の始まりの産物なら、凄くいいことじゃないですか。
コアントローってめちゃ甘いあれですよね。一度飲みましたよ。タイトルに何だろうって思いながらやってきました。なるほど、香料にできちゃうんですね。素材をとても上手く使ってあって、最後の言葉が生きています。楽しかったです、ありがとうございました。

13/11/24 朔良

そらの珊瑚さん、こんにちは。
読んでいただいてありがとうございます。

失敗した生地が…というのを知ってこの話を書いてみたくなりました。
道に迷った先で素敵なお店を見つける、とか、間違って入ったレストランがおいしかった…とか、そういうのってうれしいですよね。失敗しても案外大丈夫な世の中であって欲しいという願望も込めてますw

そらの珊瑚さんから可愛い話と言っていただけて、嬉しいです。
コメントありがとうございました。

13/11/24 朔良


草藍さん、こんにちは。
読んでいただいてありがとうございます。
そうそう、少女漫画ですよねぇ、こういうの。
恋愛小説が苦手なので、“昔の”少女漫画みたいな甘いやつ…を目指して書いてみました。
草藍さんにちょっとでも気に入ってもらえたならうれしいです。
コアントローのシュークリーム昔モロゾフで売ってました。美味しくいただいた記憶があります。それもあってこの話になったのかも…。
失敗も悪くない…そう思って貰えたなら幸いです。
コメントいただき、ありがとうございました。

13/11/24 朔良

凪沙薫さん、こんにちは。
恋愛小説が苦手で…時空モノガタリで修業させていただいてます。
なので、凪沙さんにそう言っていただけてうれしかったり…。
凪沙さんが少女漫画をお好きとは少し意外でした。

>なにより驚いたのが相馬の手際のよさ
シュークリームのレシピ、某サイトで検索しまくりましたw
ヤツの手際の良さは、筆者が水面下で足をバタバタさせた成果だと思っていただければ幸いです^^
実は最初、相馬も失敗して次は成功したシュークリーム食べたくない? ってオチに持っていく予定だったのですが、文字数制限の壁に勝てず…。少女漫画らしい完璧超人もいいかなとw

題名にした時の言感と昔コアントローのシュークリームを食べた記憶で素材にコアントローを選びましたが、焼き菓子にはグランマニエのほうがあいますよね。
凪沙さんのお作りになるお菓子、食べてみたいです。

コメントいただき、ありがとうございました。

14/03/11 リードマン

拝読しました!
急に“図書館戦争”他いくつかの本を読みたくなりました(爆)

14/03/16 朔良

リードマンさん。
こちらも読んでいただき、ありがとうございます。
図書館戦争! 実は読んだことがないのです。
どんな部分で、連想していただいたのかとっても気になります。
こちらにもコメントありがとうございました^^

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