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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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シークレット

13/11/17 コンテスト(テーマ):第四十三回 時空モノガタリ文学賞【 スイーツ 】 コメント:14件 そらの珊瑚 閲覧数:2548

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 私は苺を潰して食べるのを無上の喜びとする女です。完全に潰すのではありません。
 
 いうなれば半殺しです。苺を半殺しにするのです。
 
半殺しなどと、物騒な言葉を知ったのは、お彼岸の時だと記憶しております。
母がおはぎの材料である小豆の潰し方で、そういう呼び名のあることを教えてくれたのです。
 おはぎとはお彼岸に食べるお八つ。今風にいえば和風スイーツです。かすかな光沢を持って出来上がったそれは、食べる前にまず仏壇に供えられます。仏壇の中には父の両親、私から見れば祖父母の写真がありました。白檀のお線香が焚かれ、その芳しい香りの中で、母はどんな気持ちで手を合わせていたのでしょうか。

 抜かりなく物事をやり通そうと思ったら、実は準備の段階が大切なのです。
 愛情という段階を踏まずに結婚したらどうでしょうか? 奇跡的に愛情が育つこともあるでしょうが、どうしてもどこかで『ひずみ』が出ることでしょう。
 
 乾燥あずきは前の晩から水につけてふやかして、柔らかくしておかなくてはなりません。でなくては硬い芯のある不味いおはぎになってしまいます。
 舌の上に載せてみれば、それはざらざらとして不快なだけのシロモノ。いくらあとからやり直そうとしても、やり直すことは出来ないのです。形だけ整えても、一口食べてあとは誰も手を伸ばさない。形だけ夫婦であったとしても、それはなんと味気ないことでしょう。
 それから小豆を鍋で煮ます。この時小豆から汚れたアクが出てきます。アクというものは実に不思議なもので、アクが強ければ強いほど個性があると珍重される一方で、それは悪とも言い換えられます。誰にも受け入れられるような美味しいものを作ろうと思ったらきっぱり捨てなければなりません。
 
 小豆が茹で上がったら砂糖を入れて煮詰めます。この時ほんのひとつまみ入れる隠し味はご存知でしょうか? そう、塩です。ほんのひとつまみの塩を入れることで、砂糖単体では到底成し得ない深い甘さを作ることが出来るのです。砂糖と塩は味覚からいったら正反対の場所にいますが、一緒になることで物語を生み出すのです。

 それと同時進行でもち米を炊いておきます。炊き上がったそれは手加減しながら潰します。言葉通りに半分ほどは粒の原型をとどめ、半分潰されます。
 
 料理というものは、命を料理するわけであり、料理される側からしたら、残酷なことであり、台所は勝者の法律のみがまかり通る、いわば裁判なしの処刑の場です。
 その時ほんのかすかではありますが、山椒の枝で作られたでこぼことしたスリコギを持つ母の口の端に、うすい笑みのようなものが浮かんでいたのを覚えています。

 母もまた、人生において潰してしまいたい、いや潰されたいものを抱えて生きていたのかもしれません。
 
 手広く商売をやっていた父は外に何人もお妾さんがいたようです。
 ただの成金だと社会から陰口を叩かれるのが嫌で、没落貴族の母と見合い結婚したそうです。囲った女の数は、男の甲斐性だと自慢にさえなった時代です。家の勝者は紛れもなくあの頃は父であったのです。
 
母は生涯子を産みませんでした。産めなかったのかもしれませんし、産まなかったのかもしれません。
 
そのため父は外で産ませたそれぞれ母親が違う男児ひとり、女児ひとりを実子として引き取りました。そして母に育てさせたのです。
 母は血のつながらない私のようなふたりの子をどんな気持ちで育てたのでしょうか。
 人を愛して、身ごもり、子を産むという準備段階を経ずに、人を抜かりなく育てる、そんなことが果たしてちゃんと出来るものなのでしょうか。

 私と母と兄に血のつながりがないと知ったのは私が中学に入った頃でした。私に笑いかける母の瞳の奥が決して笑っていないと気づいたのも、その頃です。

「苺を潰している時の君は、なぜそうも嬉しそうなんだ」
と兄は聞きます。
――潰されたがっているくせに。私が砂糖なら兄は塩。正反対の性癖を持ち上がら、こうして狭い部屋で一緒になれば、得もしれぬスイーツを生み出すのです。
 
 それは甘美な麻薬のように囁き、玉虫色の鈍い輝きを放ちながら今夜も私たちを誘うのです。

 兄は父の会社の跡取りとして育てられたにもかかわらず、家を捨てました。私と結婚するために。勝者は果たして誰だったのでしょう。
 
 私にもわからない永遠の謎としておきましょう。

 


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このストーリーに関するコメント

13/11/17 そらの珊瑚

4行目訂正します。小豆の潰し方→もち米の潰し方 
申し訳ありません。

画像は『写真素材足成』さまよりお借りしました。

13/11/18 朔良

そらの珊瑚さん、こんばんは。
拝読させていただきました。

半殺し…、料理の用語とは思えない物騒な言葉ですよね^^;
母親が作るぼたもちの話と人生の話が錯綜して、甘味に混ざった塩のように、深い味わいを醸し出してる作品だと思います。
血のつながらない家族の交わり。永遠の謎が解ける日は、来るのでしょうか…。
ステキな作品をありがとうございました。

13/11/18 鮎風 遊

複雑な関係はどことなく甘い味。
みんな半殺し、確かに勝者は誰かわかりません。
だけど母は不気味に微笑んでるかも知れませんね。

13/11/18 ドーナツ

冒頭から ドキッとするフレーズ。

いちごを半殺し。。。こういう発想が素晴らしいです。

誰が勝ったか。。
難しい問ですね。 謎のままのほうが幸せなのかもと思います。

13/11/18 草愛やし美

そらの珊瑚さん、拝読しました。

半殺し、驚きましたが、読み進み、思い出しました。そうですね、おはぎでした。
料理は命を戴くのですから、感謝していただきますでしょうね。半殺しになったお母さまのお気持ちを思う主人公もまた、そこに存在している。複雑なお家ゆえに、謎は謎のままでいいですよね。

余談ですが、苺大福のように、苺とあんこものを共に食するのが私は好きです。苺おはぎも食べますよ、苺の季節になるとあんこと一緒に食べたくなります。どちらも出てきて食べたくなりました。 笑

13/11/18 泡沫恋歌

珊瑚さん、拝読しました。

おはぎはうちの母もよく作ってくれました。
うちの母のおはぎは田舎風なのでとても大きくて・・・あくる日のお弁当にも
おはぎが入れられました。
私はおはぎ大好きだから嬉しいけれど・・・ちょっと恥ずかしかった。

半殺し、この言葉は知ってたけど、なんかドキリとします。
ところで全部潰すのは全殺しって言うのかなあ?σ( ̄、 ̄=)ンート…

13/11/18 小田イヲリ

料理のレシピのようになぞらえながらも、きちんと物語りになっていて、新しいなと思いました。

言葉は生活に深く、根付いているのですね……。

13/11/19 そらの珊瑚

朔良さん ありがとうございます。

そうなんですよね、半殺しなんてインパクトあり過ぎ(笑い)
洋菓子と違って、塩大福に代表されるあんこものって
あの塩加減が大切なんですよね。
人生にもたぶんそんな隠し味がありますよね〜

13/11/19 そらの珊瑚

鮎風さん ありがとうございます。

みんな半殺し! 
なんかつぼに入ってしまって笑ってしまいました。

13/11/19 そらの珊瑚

ドーナツさん ありがとうございます。

いちごは牛乳と砂糖をかけてなぜか潰して食べたくなります。
あのつぶつぶ感がたまりません!

13/11/19 そらの珊瑚

草藍さん ありがとうございます。

半殺しって聞いた時のインパクトたるや、母がなんだか怖く思えましたっけ。(笑い)
なんでもいれたもんがちで、八朔大福もなかなかイケます。
おすすめです!

13/11/19 そらの珊瑚

恋歌さん、ありがとうございます。

今は小さなサイズのものが主流ですが、昔のお八つって大きかったですよね。一個食べたらお腹いっぱいになるくらい。

全部潰したら、うーん、みな殺し?

13/11/19 そらの珊瑚

小田イヲリさん ありがとうございます。

レシピ、だいぶはしょりましたが、
今は小豆の缶詰なる便利なものがありますが、昔は手間暇かけて作るのが普通でした。
誰が言い出したか知りませんが、
生活に根付いた言葉って親から子へと受け継がれていくのでしょうね。

14/03/11 リードマン

拝読しました!
家族の形って色々ありますよね。スイーツで例えてしまえるという業に頭が下がります。

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