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汐月夜空さん

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幸せの大福

13/11/17 コンテスト(テーマ):第四十三回 時空モノガタリ文学賞【 スイーツ 】 コメント:1件 汐月夜空 閲覧数:1143

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 昔々、里から遠く離れたあるところに、三人の若い兄弟が居た。
 長男はせっかち者で、楽しいことはすぐに実行しないと気が済まない男だった。
 次男は計画上手。酸いも甘いも計画通りに行わないと気が済まない男だった。
 三男はのんびり者。楽しいことは最後まで取っておく男だった。
 そんな三人のところに唐突に神様が現れることから物語は始まる。


「それで、この大福が俺たちの最高の幸せってことか?」
 目の前で光を放つ神様の話をまとめるように、せっかち者の長男が尋ねた。
「ええそうです。これはあなたたちの人生において、最も幸せな時間を与える大福です」
 神様は柔らかな笑みを浮かべ、答えた。次男がそれに確認を取る。
「それは食べても大丈夫なものなのですか? たとえばそう、僕たちの今後の幸せが減るようなことには……」
「なりません。これはあくまで、後から与えられた付属品ですから。あなたたちの人生に用意された幸せを減らすようなことはありません」
 神様のもとにある大福は見るからにふにふにと柔らかそうで、まぶされた片栗粉によっておしろいのように綺麗に化粧されている。漂う甘い香りはこれまでに感じたことのない甘美なもので、『幸せ』が形を持つとこのようになるのか、と三人は目を丸くして眺めていた。
「それで神様、どうしてこのような貴重なものを私たちにお渡しになるのですか?」
 三男が尋ねると、神様は慈愛の笑みを浮かべた。
「それはあなたたちが、本来感じるはずだった『人付き合い』によって得るはずの幸せが、里から離れたこの場所では手に入れることが出来ないからです。あなたたちはこれから寿命を迎えるまで里に下りることをしない。それで満ち足りているからです。私はそれをもったいないと思ったのですよ」
「なるほど、確かに私たちは里まで行こうとする意欲を持ちません。天に召されるその時までここから旅立ちはしないでしょう。ですが神様、その幸せがこの大福によって得られるとは私には到底思えないのですが……」
 神様は三男の言葉に満面の笑みを浮かべて答えた。
「大丈夫です。この大福は『喋り』ますから」
「は?」
 三人が疑問に思ったその瞬間、大福はケラケラと笑い始めた。三人はその笑い声に硬直する。食べ物だと思っていたものが喋りだすのはかつて感じたことのない異様さを三人に感じさせた。
「ね、面白いでしょう? この大福はこれからあなたたちの幸せそのものでありながら、パートナーともなるのです。あ、言い忘れておりましたが、この大福は時間を置けば置くほど幸せが大きくなって、甘く、美味しくなります。いつ食べるかはあなたたち次第です。それでは私は急いでいるのでこの辺りで失礼します」
 神様は早口でそうまくしたてた後、最後にこう付け加えた。

「それではあなたたちに『幸せな人生』が訪れますように」


 三人はそれぞれに思い悩んだが、結局それぞれの性格に基づいて行動することになった。


 長男は大福が喋っていることを無視して、すぐにそれを口にした。
 自分の人生の幸せの量が変わらないのであれば、いつ口にしても損はない。楽しいことは我慢できない。それが長男の性格。
 大福は甘かった。それはこれまで味わったことのない幸せを長男に授けた。
 けれど、長男はそれを食べた後、自分の部屋から出れなくなった。自分の最高の幸せがこの程度のものだったのか、これから先の人生でこれ以上の幸せを感じられないのか。そんな絶望が長男の中で渦巻いたからだった。
 結局、長男はそれからしばらくもしないうちにその短い命を絶った。


 次男は大福に自分の将来設計を告げた。僕は君を10年後に食べるよ。大福は相槌を打った。
 酸いも甘いも計画通りに行わないと気が済まない。それが次男の性格。
 宣言通り、次男は10年後に大福を口にした。10年間、自分の計画を話しては心地よい相槌をもらっていたパートナーを口にした。
 10年間熟成された大福はとんでもなく甘かった。次男は一日間恍惚の表情を浮かべて動けなくなった。それは間違いなく幸せだった。
 けれど、次男はそれを食べた後、計画通りに動けなくなった。相槌を打つ相手が居ないことがこんなに悲しいことだったなんて、次男は知らなかったから。
 結局、次男はそれから寿命をまっとうするまで笑顔を失ってしまった。


 三男は大福と話し続けた。僕は君を死ぬ間際に食べるよ、それがきっと一番幸せだから。それが三男の口癖だった。
 楽しいことは最後まで取っておく。それが三男の性格。
 三男が寿命をまっとうするその日、大福は言った。
「これまでありがとう。さあ、僕をお食べ」
 震える手で大福を食べた三男は、こう言った。笑いながらこう言った。

「神様は嘘つきですね。この味は私の『最高の幸せ』ではなかった」


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このストーリーに関するコメント

14/03/11 リードマン

拝読しました!
そう神様は嘘吐き、いくつも伝わる神話の多くは嘘ばかり、なんてね(笑)

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