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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
座右の銘 今を生きる  

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記念日スイーツ

13/11/13 コンテスト(テーマ):第四十三回 時空モノガタリ文学賞【 スイーツ 】 コメント:25件 草愛やし美 閲覧数:2679

時空モノガタリからの選評

スイーツ作りを通し自らを省み、人生の危機を乗り切り力強く前に進もうとする主人公の姿が、胸をえぐる作品でした。
特に、「愛という言葉だけ見て」「中に何があるか覗」こうとせず、スイーツの甘さが「心に浸透」しなかったと家庭生活を振り返る主人公は、典型的な普通の主婦かもしれませんが、平凡だけには留まらないリアルさがあり、草藍さんの洞察力にいつもながら感心させられます。
壁に投げつけられ、絵画のように美しく崩れ落ちるケーキが、彼らの結婚生活を象徴しているようで、美しく悲しく、心に残ります。

時空モノガタリK

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 私は、ケーキを焼いている、スポンジケーキだ。さっき、クッキーも焼けた。香ばしい匂いがキッチンに漂よっている。


 夫に三か月前、離婚を言い渡された。その夜、夫に何を言ったかよく覚えていない。たぶん、罵ったのだろう。夫に女の影を感じてから、もう一年以上になる。夫は、その夜から、平気な顔をして夜遅く帰ってくるようになった。居直ったのだろう。離婚の理由を散々問いただしたが、愛がなくなったしか言わない。いや、初めから愛してなんかいなかったとまで言われた。じゃ、私は何だったのだろう? 子供までいるというのに……。愛されていれば幸せになれると勘違いして結婚したのだろうか。だけど、何を言っても愛をなくした人には伝わらない。言いたい気持ちを無理やり抑えるしかない。夫の鞄にあった、ラブホのポイントカード、どうしてこんなものを貯めるのだろう。こんなものを貯めるより近所のスーパーのポイントを貯めた方が有益だろう。それが家族のためになるはずだ、何よりも私が喜ぶのに。夜寝かさずに責めても、夫は、黙っているだけだった。


 私は、今日、パートの帰り道、抱えきれないほどの製菓材料を購入した。
「疲れただけだ、疲れには甘い物。脳が欲しがっている……」そう呟き、夕飯も作らず、クッキーを焼き始めた。バニラ、ココア、抹茶、キャラメル、色んな味、ハート、熊さん、あひるさん、四葉のクローバー、形も色々。クッキーたち、何て幸せそう、楽しいねと一人呟く。次はケーキだ。苺や、メロン、みかんなどをシロップで煮てコンポートを作る。卵白、それから、それが済めば生クリームも泡立てる。今日の泡立て器は、何て力強く動くことか、きっと、渾身のパワーが出ているに違いない。

 娘が帰宅した。
「ママどうしたの? 私の誕生日まだ二カ月も先だよ」
「いいの、記念日だから」
 私は、行事や家族のイベントなど、記念日にはスイーツを作ってきた。甘い香りに包まれると幸せを感じた。スイーツ作りが好きだった。甘い香りが立ち込める家は、ふわっとしていて温かかった。だけど、その甘さは心に浸透していたのだろうか。私は、夫を情けなく思うようになっていた。出世も遅く、容姿も……。他のママ友たちの旦那様と見比べてしまうこともあった。夫の顔を正面から見ないで話していたのかもしれない。夜の要求が嫌になって何年経つだろう。子供が泣いているのに、どうしてそんなこと考えられるのだろう、信じられない。男の性なの、だけど……。もう、うんざりだ。冷たくしてきたのは私かもしれない、薄々、気づきながら気づかないふりをしてきただけ。私は、愛という言葉だけ見ていた。中に何があるか覗くのが怖かった。

「お前、俺がそんなに憎いのか、こんな嫌味」
 遅く帰宅した夫は、テーブルいっぱい溢れているスイーツ群を見てあからさまに嫌な表情をした。
「記念日でいいじゃない、り・こ・ん・記念日」
 夫は皿に取り分けたケーキを掴むと、壁に向かって思いきり投げつけた。ケーキはべったりとクロスにへばり付き崩れ落ちていく。苺の赤や、メロンの緑、オレンジ、白いクロスに絵の具をまき散らした立体的なデコレーションが映えている。

「アートだね……」
「何が言いたい、当てつけか。わかった俺はこの家を出ていく」
「ううん、あなたでなく、私が出ていくことにしたの、もうアパートも借りたから。娘を連れて出ていくよ。ごめんね……いい嫁できなくて、あなたは私がいない方が幸せだと思う。愛は欲しがるだけじゃ駄目だったね……」

 芸術作品のような絵画を描きながら、白い壁面で崩れ落ちていくぐちゃぐちゃのケーキが、一瞬動きを止める。床に崩れ落ちたケーキを拾い上げて私はクリームを舐めた。
「美味しいよ、疲れている時は脳に糖分だよ」
 夫は呆れ、軽蔑の一瞥を投げかけた。私は、そんな夫を尻目に記念日スイーツをパクパクと食べ始めた。スイーツの甘さは、人を癒す。このカラフルなスイーツが、自分自身の中で、全て色あせたモノクロームな世界に変わってしまわないうちに。

 きっと、間に合ったはず……。




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このストーリーに関するコメント

13/11/13 草愛やし美

イラストはどちらも無料素材イラストACさんよりお借りしています。左画像は、「えりすぎり」さん、右画像は、「chicca」さんのイラストです。
イラストACさんのURLは、http://www.ac-illust.com/ です。

13/11/13 泡沫恋歌

草藍さん、拝読しました。

なんだかやるせないお話ですね。
本来なら楽しく家族で食べる筈のスイーツをこんな風にしてしまうなんて悲しいね。
もう、愛がなくなったら何をやっても無駄でしょうから・・・。
きっと、主人公の女性は娘さんと二人で強く生きていかれることと思います。

13/11/13 そらの珊瑚

草藍さん、拝読しました。

記念日スイーツというラブリーな響きとは裏腹に
かなしい記念日スイーツですね。
ぐちゃぐちゃになったケーキがもう修復できない二人の関係を表しているようでした。
結婚生活をやり直すのには間に合わなかったけれど、第二の人生をやり直すのには、きっと間に合った、そう思いました。

13/11/15 草愛やし美

猫春雨さん、お読みくださり嬉しいです。

コメント励みになります、ありがとうございます。
知り合いの女性が、先日離婚を決めました。いろいろな理由があると思いますが、踏み切るのは大変なことだったと察しています。
その女性は、いつも記念日にはスイーツを焼いていました。きっと、それらの時間は、幸せだったはずと思います。でも、壊れてしまったものに執着して生きていくことは、辛く、そこから更に新しいものを築くなんてことは、とても難しいことだったのではないかと思いました。
彼女の選択を私は応援したいと思い、この作品にしました。そういう意味で、凄惨な夫婦が争う場面などはあえて抑えた表現にして書いています。

13/11/15 草愛やし美

泡沫恋歌さん、コメントありがとうございます。

そうなんです、楽しくない話なのです、スイーツなのに……。甘いスイーツの思い出だけは大事にして新しい道に進むようにと、あえてこういう日にスイーツを焼いた女性の気持ちを応援する意味合いで書きました。きっと、彼女は持てる力を目いっぱい使って頑張っていくことと思います。そんな彼女を私は応援したいです。

13/11/15 草愛やし美

そらの珊瑚さん、ラブリーな時間もあった夫婦ですが、愛がなくなってしまっては維持できません。一度、崩してしまい、そこから違ったもの=新しい道を構築していく。そういう意味の記念日があってもよいのではと思います。気構えというかそういう記念日スイーツを焼く、そんなイメージで創作してみました。
コメント嬉しいです、ありがとうございました。

13/11/15 草愛やし美

OHIMEさん、お読みくださり感謝しています。

OHIMEさんのコメント通りです、きれいさっぱりなんです、記念日スイートを焼き、気持ちを新たにして切り替えてしまう。そういう気持ちの持ち方が離婚という莫大な労働には必要なのではないかと思います。
知り合いの女性への応援メッセージを込めて創作したものですので、私の気持ちをわかってくださってとても嬉しいです。コメントありがとうございました。

13/11/16 murakami

拝見しました。

結婚生活って難しいですよねえ。
私のまわりでも離婚したかた、たくさんいます。

最後、女性の強さ、前向きな未来を感じられるところがとてもよかったです。
離婚は失敗ではなく、やはりスタートなのでしょう。

13/11/16 草愛やし美

村上さん、お読みくださって感謝いたします。コメント凄く嬉しいです。

本当に、最近は、離婚女性が増えましたね。女性は、大抵の方が、親権を取り子供さんと一緒に再スタートを切られるようです。
みなさん、逞しく力強く生きておられますが、それでも、実際に生活していくのは女性ゆえに、大変な苦労もあると思います。
ほとんどの母子家庭の女性の場合、子育てなどでブランクなどがあり、賃金面で、男性とは差が出ますから。離婚を決めた知り合いの女性に前向きで頑張ってとエールを送りたいと思います。

13/11/18 鮎風 遊

互いのエゴがぶつかり合った夫婦、確かに間に合ったかも。

しかし、善は急げもあるし、
これで良かったのではとも思えました。

13/11/18 ドーナツ

おおおお!表紙、スイーツのオンパレード。

人生もそういう風にいけばいいけど、思うようにならないものですね。

最後の数行の描写、すごく味を感じます。
ぐちゃぐちゃになってもケーキはケーキ、やりきれない思いで、「私」は甘い味を感じてたんだろうなと思います。素の心理状態、伝わってきます。
最後の場面、映像化したいですよ。



13/11/19 草愛やし美

凪沙薫さん、お読みくださって嬉しいです。

今回は、私ではなく知人の実体験をもとにして書いた創作です。でも、スイーツを記念日に焼いていたことはよく知っています。たぶん、もうすぐ離婚成立なると思いますが、その後は、子供のためにやはりスイーツを焼くのかしら?なんて思いを馳せています。今はちょっとそんなこと聞けない状態のようですので、控えますが……。
経済的にもスイーツを焼く余裕もなくなるのが現実かもしれません。凪沙さんのおっしゃるように、スイーツは=甘い=幸せな時間を持っている証拠のようなものだと実感しています。
私はおかし作りって難しいので作ったのはホットケーキくらいですが、……それでも、その時は幸せ感じましたものね。
スイーツは多くの女性にとって元気の源かもしれませんので、甘いスイーツをムシャムシャ食べて頑張って行って欲しいものだという想いの最後にしました。
ご丁寧なコメントいつも感謝しています、ありがとうございました。

13/11/19 草愛やし美

鮎風遊さん、コメントありがとうございます。

お試しで陶芸を一度やったことがあります。ロクロでうまくやろうと思えば思うほど捻じれてうまくいかず、捏ねた土は壊れてしまいました。そうなると、修復は困難で、いいものはできないそうでやり直しを言われました。これを書いていて、何だか人生も陶芸に似ているなと思っています。
うまく土捻りできても、焼く工程も残っています。
人生いつでも、緊張して生きていかなくていけないのかもしれませんね。
そして、駄目になったものは、いったん崩してしまって、新しい土で作り直すべきなのでしょうね。そうでないと良いものは望めないのかも……。何だか悲しいです。

13/11/19 草愛やし美

ドーナツさん、お立ち寄り感謝です。コメント嬉しいです。

最後の壁に崩れ落ちていくケーキ、綺麗だと私思います。こんなアートあったりして、ケーキをぶつけて、崩れるのって、ある種、人生っぽいですよね。形あってしかも丁寧に焼かれているのに、容易に崩れる。でも、そのお色は、幸せ色している。そういうのは生きることじゃないかなあって思います。コメントありがとうございました。

13/11/20 kotonoha

拝読させていただきました。愛が切れたと分りながら記念日のスイーツを作っている。
なんて悲しいんでしょう。

早く吹っ切れて新しい生活に切り替えてほしいですね。

13/11/25 猫兵器

草藍様

拝読致しました。
色鮮やかなお菓子の甘味で区切りを付けたかった妻と、それを嫌味としか捉えられない夫。
どちらが決定的に悪かったわけでもなく、些細なすれ違いが重なり、取り返しのつかない溝になってしまったがゆえの結末なのに、不思議と悲劇的とは思いませんでした。
きっと、ぎりぎりで自分にも非があったことを認め、夫を憎む気持ちが薄れたことを感じさせるからなのでしょう。
それこそが濃厚なお菓子の甘味がなせる業なのかもしれないと思いました。
面白かったです。

13/11/25 草愛やし美

kotonoha shizukuさん、お読みくださって嬉しいです、ありがとうございます。

愛は目に見えないだけにやっかいです。知らないうちに、消滅していても気づかない……でもわからないから、みな平気で生きていけるのかもしれませんね。愛の減り具合が一目瞭然でわかれば、世の中乱れるかもしれませんので、ある意味、いいのではないか、なんて思っている方々が大勢おられたりして……。苦笑
コメントありがとうございました。

13/11/25 草愛やし美

猫兵器さん、お読みくださり感謝しております。

スイーツをテーマにと考えました時、甘い物が苦手な私は、たいそう悩みました。そんな時、知人が離婚することを知り、その方が毎年お子さんの誕生日には必ずケーキを焼いておられたことを思い出しました。お子達の好みを聴き、チョコやフルーツなどのケーキを2個ほど焼くと言ってたなあ……、来年の誕生日にも、彼女はケーキを、焼くのかなあ、やはり、焼くに違いないのではないかなどと漠然と考えました。
スイーツ、甘い物を食べると、心も和むのではないかと思います。きっと、力強い母として生きて行かれるのではないかと思います。また、そう願っています。
コメントとても嬉しいです、ありがとうございました。

14/03/10 リードマン

拝読しました!
間に合ったはず・・・「当然!」
恋愛だって努力は必要だし、相互補助しなければいけませんよね

14/03/29 草愛やし美

運営K様、選評いただきましてとても勉強になりました。
主人公の女性には実在の者がおあります。先日、その人にあい、今年も子供さんの誕生日にスイーツを焼いたのかと聞きました。やはり、彼女はケーキを作ったそうです。新しい旅立ちをして前向きに生きていました。
結果はいい方向に向かったと信じたいなあと思いました。心より応援したい人だと思いました。
入賞を励みにこれからも創作頑張りたいです。ありがとうございました。

14/03/29 草愛やし美

リードマン様、お読みくださりありがとうございます。
間に合ったようです、本当良かったです。人生には、自らが進んで道を選ぶ必要がある時ってあります。ぐずぐず迷っていると新しいものを得られない可能性もありますので……。離婚自体はあまりよくないことですが、時にその道が最善ということもあるようです。
コメントありがとうございました。

15/03/09 南野モリコ

拝読致しました。

私もお菓子作りが趣味で、
疲れている時ほど、夜中にお菓子が作りたくなることがあります。

お菓子作りは、空っぽになった母性をチャージするように思います。
主人公もそんな気持ちでお菓子を作ったのでしょうね。
旦那様に届くように、と祈るような気持ちで
読ませて頂きました。

いい作品をありがとうございました。

15/03/09 草愛やし美

ミナミノモリコさん、初めまして、お読みいただきとても嬉しいです。

ミナミノさんもスイーツ作られるんですね、素晴らしい! 私は、料理はしますが、不器用でスイーツはホットケーキくらいしか作ったことがないんです。スイーツ作りってきちんと量らないと失敗すると聞いていまして、私向きじゃないかと思っています。大汗

でも、スイーツ作りって香りが溢れ、幸せな気持ちになるのではないかと想像できます。主人公のモデルとなった彼女が前向きに明るく進んでいって欲しいと、私もいつも応援しています。素敵なコメントをありがとうございました。

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