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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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下調べ

12/05/14 コンテスト(テーマ):第六回 時空モノガタリ文学賞【 週末に。とんかつ伊勢 新宿NSビル店のモノガタリ 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:3261

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店に入るなり,はん子は、窓の外をひと目みて、

「まあ、高い!」

ぼくはあわてて、口の前に指を立てた。

「しっ。店の人に聞こえるじゃないか」

「あら、わたしのいってるのは値段じゃなくて、29階の高さのことよ」

店の人が注文を聞きにきた。

「ローストンカツ、お願いします」

「あたしは、カツカレー」

「トンカツ屋にきて、カレーかい」

「あたしの自由でしょ」

すると、店の人が気をきかして、

「カツカレーも人気がありますよ」

はん子もぼくも、この店にくるのははじめてだった。会社が終わるのを待って、ぼくのほうから誘った。最初彼女は、蕎麦が食べたいといった。

「こんどのテーマが、このお店なんだ。一度行っとかないとね」

はん子も、ぼくがwebの投稿サイトに短編を応募しているのを知っていた。どころか毎回、辛口の批評もしてくれた。

「そんなどろなわ式だから、あなたの作品どれも、評価が低いのよ」

「よけいなお世話だ」

しかし、それは本当のことだったので、返す言葉はどこか上滑りした。

「こんどは、どんな作品にするつもり?」

もともと本好きな彼女は、ぼくの書くものに興味をもってくれていた。

「こんなのは、どうかな。エイリアン―――といっても姿は人間で、人類よりはるかに高度な文明とそのうえ武力ももっていて、名前をそうだな、グッピ星人とでもしておこうか、そのグッピ星人の親善大使が日本に飛来し、庶民が食べているおいしそうな料理を所望したので、政府から派遣された案内係はこの店につれてくる。フルメタルのヘルメットをかぶり、顔は黒のスモークでおおわれてみえない。案内係は、はこばれてきたトンカツを指さし、これが庶民の大好物のトンカツですと胸をはる。そのときはじめて親善大使はスモークを上げる―――ものを食べるのだから、それは当然―――と、下から、まるっきり豚の顔があらわれるというオチがつくんだ。案内係の困惑する顔がおもいうかぶだろう」

はん子がいつまでたっても、なんの反応も示さないのに、しびれをきらしてぼくが、

「あまりに斬新なストーリーに、感動して声がでないのかな?」

「作者の自己満足ほど、みていてしらけるものはないわ」

どうやら彼女はあきれてものもいえないらしかったのだ。その理由をぼくがたずねようとしたそのとき、できたての、カリッとした衣におおわれたトンカツがはこばれてきた。

「まあ、おいしそう」

はん子がそういったのと、窓の外でなにかがピカリとひかるのがほとんど同時におこった。

「あの光、ひょっとして、UFOじゃないのか」

じじつ、接近するにつれてみるみる光は大きくなっていった。やがて、あきらかに未確認飛行物体とおぼしき球体の乗り物が、窓の外の空間に静止した。

店のフロアに、人間の姿がたちはだかったのは、その一瞬後のことだった。窓はもちろん開いていなかったが、われわれには理解不能の装置をもちいてガラスを通過したことだけは、昨今のSF映画をみなれているおかげで、辛うじて想像することができた。

黒のスモークでおおわれたフルメタルのヘルメットをかぶったその人物は、つかつかとぼくたちのテーブルにちかよってきた。

それはまったくぼくが書こうとしていたたショートストーリーに登場するエイリアンと瓜二つだった。人類よりはるかに高度な文明と、武力のもち主………

そのエイリアンが、ぼくの前で足を止め、なにやらまじまじとテーブル上のトンカツをながめだしたとき、ぼくはちょっといやな予感におそわれた。

はたしてエイリアンは、いった。

「これは、なにでできている?」

ぼくは返事に窮した。あのスモークの下にある顔をおもいえがいたら、とても口にはできやしない。

「もう一度聞く。これはなにからできているのだ?」

いっそう厳しくなる口調に、ぼくがふるえあがったとき、いきなりスモークが音もなくあがった。

ヘルメットのなかからのぞいた、肉付きのいい犬の顔をみるなり、ぼくはとたんに笑顔になって、大きな声で答えていた。

「豚です。おいしいですよ。みんな大好きです」

はん子が、ややハイテンション気味に手を打ち鳴らして、喝采した。













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