1. トップページ
  2. ふきんとふきん掛けを巡る復讐

rug-to.さん

短い話ときどき書いてます。 読んでいただければこれ幸い。 Twitterアカウント「rug_to」

性別
将来の夢 大掃除
座右の銘 転んでもただでは起きない

投稿済みの作品

3

ふきんとふきん掛けを巡る復讐

13/11/11 コンテスト(テーマ):第四十四回 時空モノガタリ文学賞【 復讐 】 コメント:5件 rug-to. 閲覧数:3095

この作品を評価する

「た、ただいま…」
「おかえり、何をおどおどしてんの」
付き合って1年半になる彼女は、少し笑って僕を出迎えた。
「いやー、何か『ただいま』と言うのはまだ照れますなあ、はは」
「自分の家だと思えばいいのよ。それとも家賃一部払う?」
「払おうか?」
答えた僕に、彼女は一瞬の間を置いて、
「うーん、今はいいよ。大丈夫」
とだけ言って部屋に戻った。僕も靴を脱ぎ、部屋に入って荷物を置く。
 ここは彼女の部屋。僕は週の1/3くらいはここで過ごしている。もう見慣れたシンプルなワンルーム。
―――の、はずだった。
 しかし驚愕。
 壁の横木に、禍々しい風体の手作り藁人形が何体も何体もずらずらと打ち付けられているのである。
 言葉を失う僕。
「はい」
そんな僕にお茶を渡す彼女。それぞれが何本もの長いピンに貫かれている藁人形には、全て名札のように白い紙が貼り付けられていた。よく見ると、
「ふきん」
と、書かれていた。
「…ふきん?」
藁人形群を指さして彼女の方を見ると彼女は黙ってキッチンを指さした。見ると、吸盤で壁に固定する仕組みのふきん掛けが半ば外れてだらんと垂れ下がり、床にふきんが2枚落ちている。
 彼女はこのふきん掛けと長い間格闘していたのだった。引っ越して半年、前の家から持ってきたというこのふきん掛けはすでに吸盤が駄目になっているのか、よく中途半端に外れてはふきんを床に落としていた。
 古くなって吸着力の落ちた吸盤を復活させるには、まず洗剤で洗いその後50度ほどの湯につけ、水分が完全に乾いた状態にする。
 彼女は何度かこの作業を繰り返していたが、それでも吸盤は外れ続け、ふきんはもれなく床やIHの上に落ち続けていた。
 僕も一度試してみたが結果は同じだった。ふきんは音もなく床に落ちるので、ふとキッチンを覗いたとき、努力むなしくふきんが落ちて無残な姿をさらしているのを見ると、確かに落胆はする。
「呪うべきはふきんじゃないくてふきん掛けじゃないかな」
先ほどもらったお茶をすすりながら僕が言うと、
「そうね」
と言って、彼女はは全ての藁人形につけた紙の「ふきん」の文字の下に「掛け」と書き加えていった。

 その数日後、
「新しいふきん掛けを買った!」
というメールが彼女から届いたので僕はほっとした。これであの禍々しい藁人形も撤去されていることだろう。ラインダンスでもしているかのように横並びになった藁人形に見下ろされながら眠るのはさすがにいい気分とは言えなかった。
 その週末、僕は彼女の家を訪れた。
「ただいま…」
「おかえり」
彼女は少しだけ笑って僕を迎えると部屋に戻った。僕も部屋に入って荷物を置く。彼女が煎れてくれたお茶を飲んで一息つく。
―――はずだった。
 そこでまた前回以上の驚愕。
 壁には前回以上の藁人形が所狭しとひしめいて、人形に貼り付けられている紙には
「マツモトキ○シ」
という某有名ドラッグストアの名前がもれなくしたためられていた。
「…随分大きな存在を敵に回したね」
僕はつぶやいた。話を聞くと、吸盤さえ新しくなれば固定されるだろうと思って、某大手ドラッグストアで同じ型のふきん掛けを買ったものの、いくら慎重に貼り付けてもふきん掛けもふきんも落ちてくるとのこと。力のかかり具合が悪いのかと、ふきんを掛ける棒を開いてみたり上下を逆にしても無駄だったということである。

 次の日、僕は彼女をドラッグストアではなくホームセンターに連れて行き、タオル掛けを買ってきてふきん掛けとしてあてがうことでそのふきんをめぐる復讐は幕を閉じた。

―――はずだった。
 次の週の半ばに、僕はまた彼女の部屋に行った。
 藁人形は、
 壁の横木の片隅に一体だけ残っていた。今度は五寸釘で打ち付けられていた。その藁人形の名札には
「千津子」
と書かれてあった。
―――千津子。
 はて、千津子。僕はこの名前を知っているけど知らない。要するに、記憶の限り知人にこの名前はない。
 彼女の名前も彼女の母親の名前も千津子ではない、はずだ。仕事先の同僚にも上司の名前としても聞き覚えがない。
「…だれ?」
 僕は藁人形でいっぱいの壁を指さして彼女に訊いた。
 彼女は少し考える様に間を置くと、
「――内緒。」
と、言った。僕は気が遠くなった。
 確かにこの部屋に一円も出していない僕に何も言う権限はない。ないけれど。
「ごめんね、気分悪いよね。来週には片付けるから、今はこのままにしておいて」
と、いつも飄々した彼女が珍しく神妙な顔でつぶやいた。そう言われるともう何も言えない。

 僕が彼女のそばにいる限り、あるいは彼女が僕のそばにいる限り、僕はこの「千津子」という名前を忘れないのだろうなと、そんなことを思った。
 来週、何がおこるのだろう。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

13/11/11 そらの珊瑚

rug-to.さん 拝読しました。

まず、「復讐」でおよそ私には思いつかないであろうタイトルに惹かれました。だって、ふきんとふきん掛けですよ。面白すぎます。

そして藁人形って。その響きのおどろおどろしいイメージとは打って変わって、なんだかコミカルな絵が浮かんできました。
だってふきんとふきん掛け…すみません、何度も。

そしてこのオチ。まさかホームセンターの名前じゃないですよね?(笑い)
なんだかわからないんだけど、実に魅力あるお話でした。

13/11/13 草愛やし美

rug-to.さん、拝読しました。

いや、ふきんと、ふきんかけですか、そこに、藁人形ですか、どこからどう考えてもこの発想は、私には想像することすらできません。
凄い内容、一見恐ろしくなる題材を使っているのに、この明るさ、面白さ、最後のオチが私、気になって検索してしまうかも……。ああ、今夜から眠れないのではないかと思います。苦笑 楽しいお話をありがとうございました。

13/11/13 rug-to.

ちなみに、我が家のふきん掛けと私との格闘はまだ終了しておりません。

>そらの珊瑚さま
読んでいただけて嬉しい限りです。
コメント本当にありがとうございます。
実はホームセンターでの出来事はさらりと流していますが、適当にふきん掛けを買う彼女を見て主人公が「このふきん掛けがうまく設置できなかったら今度はこのホームセンターの名前が貼り付けられた藁人形がずらずら並ぶことになる」と戦慄するくだりがあったのですが、しつこいかなあと思ってやめました。字数もギリギリでしたし。

>草藍さま
コメントをいただけて非常に嬉しいです。
読んでいただきありがとうございました。
時空のテーマが「復讐」…「復讐」何となくありきたりなストーリーすら思い浮かばなくて、今回は見送りかなあと思っていたのですが、
ふと自分の家の中で呪いたいものがあることに気づき、結び付けてみました。
ありきたりな話でなければ良かったです。

14/03/10 リードマン

拝読しました!
って、これもう去年の作品ですね!? ビックリしたな、オレ、コメント遅過ぎですね、皆様、ごめんなさい(涙)

14/03/10 rug-to.

>リードマンさま

お読みいただきありがとうございます!
時間が経った後のコメントも、とても嬉しいものですよ。

ログイン