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密家 圭さん

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罪と罰とを同じ鍋で混ぜよ

13/11/11 コンテスト(テーマ):第四十四回 時空モノガタリ文学賞【 復讐 】 コメント:0件 密家 圭 閲覧数:1371

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「止めろ! 復讐なんて虚しいだけだ!」
 つけっ放しのテレビから、大袈裟に抑揚をつけた声が響いた。徐ろに目を向けると、トサカのように髪を立てた細身の青年が、黒服の悪役らしき人物に語りかけていた。
「お前に何が分かる!」
逆上した悪役の俳優が、手から閃光を発して主人公の若手俳優を攻撃した。
 リモコンが見つかり、そこで電源を切った。何も知らない初対面の第三者に、ありきたりな一般論を尤もらしく演説されたら、悪役の先程の言い分にも頷けるだろう。「復讐に意味なんてない」などという言葉は、創作物の英雄気取りが他人事だから言えることだ。
 こんな風に言っても、姉さんは困ったように眉尻を下げつつも笑ってくれた。捻くれた私とは対照的に、姉さんは誰に対しても優しく朗らかだった。両親もそんな姉さんの方を可愛がっていたが、姉さんを疎ましく思ったり、嫉妬したりしたことはなかったように思う。所謂「問題児」の私にもニコニコと構ってくれる姉さんが、とにかく大好きだった。

  そんな姉さんは突然この世を去った。大学で就職が決まった直後のことだった。アルバイト先のレストランで1、2度顔を合わせただけの男が、ストーカー行為をエスカレートさせていった結果、包丁で刺されて姉さんは死んだ。寒い冬の冷たい路地で、たった一人で。
 事件当時、報道陣は死体に群がる蝿のように、こぞって家に押しかけた。連日続くそれに、父も母も私も疲れきっていた。その慌しい中、犯人の母と名乗る、上等な服に身を包んだ人物が家を訪れた。謝罪をするのかと思えば、「お宅のロクでもない娘のせいで息子が犯罪者扱いされてかわいそう」というようなことを一方的にわめき散らし、目元を細かいレースのあしらわれたハンカチで潮らしく抑えはじめた。彼女の言葉を指示するかのように、テレビの報道では被害者であるはずの姉さんばかりを表に出した。男は顔写真すら映されず、そのうち全く報道がなくなっていた。
 報道がなくなり、世間にその後は知られなかったが、どういった経緯があったのか、男は不起訴になった。許せなかった。老いた父母は私とは違い、連日押し寄せる野次馬に疲れ果て、世間から隠れるように、寂れた田舎の農村へ引っ越して余生を過ごした。姉さんのことを忘れようとする父母とは違い、私は何時までも忘れなかった。ニュースにならなかった犯人の顔だって、何年もかかってしまったが、私はしっかりと突きとめた。何事も適当だった私がこんなに物事に打ち込んだのははじめてだった。今になって、自分の行動力にしみじみと感動しつつ、姉の写真に手を合わせる。姉さんが死んでから、もう何十年が経っただろう。姉さんの声が聞こえないだろうかと、頭の中で何度も呼びかけてみたが、電化製品の低周波のような音だけが聞こえた。これが現実だと、合わせた手を戻して立ち上がると、玄関ベルが丁度良く来客を告げた。
 
 ドアを開けると、数名の警察。自首をしに自ら署に行く必要は無くなったようだ。
 復讐が無意味なんて嘘だ。やった側がやられた側の仕返しを恐れてそんな風に言うのだ。そうでなければ、被害者は泣き寝入りするしかないじゃないか。へらへらと笑って、社会で平和に暮らすあの男が許せなかった。だから私は、あの男を殺してやったのだ。
 殺人罪を犯したことは認めよう。それでも私は、自分が間違っていたとは思わない。

 
 


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