タックさん

何を書いても平凡なのが悲しい。

性別 男性
将来の夢
座右の銘 明日の自分に期待は持たない。

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甘味

13/11/08 コンテスト(テーマ):第四十三回 時空モノガタリ文学賞【 スイーツ 】 コメント:4件 タック 閲覧数:1248

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 真っ当にならなくてはいけません。怒られないようにしなければなりません。

 お菓子が好きです。甘くて、ふわふわして、痛いの無くなるお菓子が大好きです。お菓子はいやな気持ちをどこかに飛ばしてくれます。だから食べたいなあ、と思いますが、今は食べられないので、わたしはとっても悲しくなります。お口が苦くてしょうがないのです。
 
 こどものころは、食べました。おじさんがたまに買ってきてくれたのです。わたしはおじさんのことをあまり好きではなかったのですけど、京月堂のお菓子をもって来るおじさんは別でした。おじさんがくるといつも怒ってばかりのお母さんもよかったね、と頭をなでてくれるので、わたしはとてもうれしくたくさん食べたのです。たまにお夕飯が入らなくなって、そのときは怒られましたけど、おなかの中がお菓子でいっぱい、ふわふわだったので、お母さんのげんこつも、おじさんのいやな息も頭からなくなって、わたしはお布団の中であたたかに眠ることができたのです。

 わたしは京月堂のお菓子が大好きでした。でも、大きくなってからは食べることができなくなりました。おじさんはお菓子をもたずに家に来て、わたしをちらっとみるだけになって、お母さんとひそひそ二人だけで話すようになりました。わたしはかまってもらえません。なぜだろうと思いました。うーんと考えました。わたしが大人になったせいでしょうか。胸が、大きくなったせいでしょうか。美香ちゃんの胸は小さくて、いいね。二人っきりのとき、服をぬいだわたしの体をおじさんはほめてくれたのです。だから、大きくなったのがいけないのだとわたしは思いました。でも、わたしにはどうしようもないことです。だからわたしはひんやりお布団の中で大きくなるな、と自分に言って、お母さんのため息に、耳をふさぐしかなかったのです。
 
 お母さんがわたしをアパートから追い出したのも、大きくなったのがいけないのだと思います。美香は、お外では暮らしていけないね。そう、お母さんは言っていたのですから。アパートを出る前、戻ってきてはだめだとおじさんは言いました。ひとりで生きなさいとお母さんは言いました。きっと、それは正しいことです。たぶん、わたしがいけないのです。わたしはアパートをはなれました。こわくて、さむくて、泣きました。でも、戻ってはいけません。わたしは、大人ですから。もう、一人なのですから。いろんなところで寝ました。おなかがすきました。わたしは京月堂のお菓子が食べたく思いました。甘くて、ふわふわのお菓子を考えると、甘いのか苦いのか分からない気持ちになって、頭もきゅるきゅるして、お菓子ほしいよ、と本当に思うのでした。

 でも、京月堂のお菓子は食べられません。お金もないですし、京月堂のおじさんが怖い顔をするのです。わたしがお店にいくと外に出てきて、ここは真っ当な人間の来るところだ、てめえがくるところじゃねえ、と大きな声で怒ります。わたしは頭をさげます。ごめんなさいと言います。でも、京月堂のおじさんはわたしを手のひらで追い払います。わたしは悲しくなって、とぼとぼ帰ります。真っ当。真っ当。おじさんの言葉が胸をぎゅっとします。真っ当ってなんでしょうか、とわたしは泣きながら思いました。お金があることが、真っ当かしら。それならわたしは真っ当じゃありません。でも、どうすればいいのでしょうか。何をすれば真っ当になれるのか、わたしは分かりませんでした。

 お口が苦い。お菓子がほしい。お胸が痛くて、じっとしているのもつらくて、お菓子がないと体がいらいらします。おじさんにさわられたときより、体がむしゃくしゃするのです。お菓子はお金。お金はお菓子。おなかが怒ります。お金がほしいと思います。おなかが苦しいのは、もういやだと思います。だから、お金をもらおうと思ったのです。この人はお菓子を買えるくらいお金があるからいい、そう、わたしは思ったのです。

 お金は、手の中でチャリチャリします。わたしは京月堂のおまんじゅうをかじりました。すごく甘いのですけど、おまんじゅうを食べると子供のころを思い出して、口がしょっぱくなりました。でも、やっぱりうれしかったのです。京月堂のおじさんも、お金を持っていったらお菓子を売ってくれました。わたしは真っ当な人間とみとめられました。それもうれしくて、わたしはゆっくり、おまんじゅうをぺちゃぺちゃ味わって食べたのです。

 めいわくをかけてはだめ、お母さんが言ってました。でも、わたしはまたします。夜のうちに帽子のおばさんは埋めておきました。お財布は、ちゃんと残しました。おばさんにありがとうを言いながら、わたしはおまんじゅうをむちゃむちゃ食べました。おいしいと思いました。元気がでました。
 
 明日からまたがんばれる。きっと。そう、思いました。


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このストーリーに関するコメント

13/11/09 ふぐ屋

>タック 様

拝読させて頂きました!
ただただ、最初から世界観に引き込まれていくばかりで・・・
正直、自分には描けない作品だと驚愕しました。
世の中は本当にシビアで、お金がないと何もできません。
甘いおまんじゅうを買うことすら出来ない、それは別にいけないことじゃないのに、お金がないというだけで出来ない。
私の陳腐な言葉では言い表せないですが、読んでて非常に勉強にさせて頂ける作品でした!ありがとうございます!

13/11/12 タック

ふぐ屋さん、コメントありがとうございます。

お褒めの言葉をいただき、至極恐悦しています。楽しんでいただけたならとても嬉しいです。これからも書こう、と強く思うことが出来ました。よろしければ、これからも見てやってください。今後とも宜しくお願いします。

14/03/03 リードマン

拝読しました!
お金、稼がないとなぁ・・・と痛感しました。w

14/03/07 タック

リードマンさん、コメントありがとうございます。

そうですね、お金がなければ世の中なにもできません。決してお金だけではありませんが、お金があれば人に優しくできることも事実です。そのバランス、人の意識というものはまことに難しいものですね。

よろしければまたご一読ください。ありがとうございました。

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