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クナリさん

小説が出版されました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より発売中です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211 twitterアカウント:@sawanokurakunar

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将来の夢 絵本作家
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ヘンデ・ホッフ、ベラルーシ

13/11/07 コンテスト(テーマ):第四十四回 時空モノガタリ文学賞【 復讐 】 コメント:18件 クナリ 閲覧数:2689

時空モノガタリからの選評

長い映画を見ていたかのような重厚な読後感がある素晴らしい作品だと思いました。「前線、銃後」での人々の飢えや苦悩、不条理が、2人の手紙のやりとりから臨場感をもって伝わってきます。特に「讃えられる男達の陰で、ただ口をつぐむ女性達には誇りすら手に入らない」という女性兵士達の境遇には同情を禁じ得ません。
想像力を掻き立てられる最終段落もよかったです。「贖いは、貴殿の胸中にて果たされり」というのが「シア」の本音なのか、それとも老人の言う通り、「緩慢な死」或は「余剰の生」を望んでいたのか‥…。
人物造型に奥行きがあり、読者がどちらの立ち場にも共感し得るだけに、より「復讐」がやり切れなさや、深みを帯びているように思いました。
ラストの一文。「老人は、泣きたくも、笑いたくもなった。しかし、祖国のどこかなのであろう冷たい大地は、泣きも笑いもしなかった。」これも完璧なラストだったと感心しました。

時空モノガタリK

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『リグルフ様へ

お目覚め、いかがでしょうか。
今貴方のいる、この窓もない小部屋は、亡父の友人の助力で建てたものです。ここから出るには、目前のドアの錠をを開けるしかありません。しかし鍵は、生きて貴方の手に届く所にはありません。
随分お歳を召した貴方をここへ閉じ込めた理由は、貴方が大戦中、同胞である私の父を撃ち殺した、その意趣返しに他なりません。
重傷の兵士が、負担にならぬ様味方に命を絶たれる慣習は、存じています。
しかし、父は兵士ではなく医師でした。負傷したのは足。生きて戻れば、どれ程の命を救ったことか。

女ながら、私も従軍した身です。何度恨みを忘れんと努めたでしょう。
しかし、とうとうご家族を持たなかった貴方が、一人悠然と生の帳を下ろすばかりの生活に至ったと聞き、私の胸の燻りは、再び炎上したのです。
それだけ、亡き母と私が戦後に受けた仕打ちは、筆舌に尽くし難い代物だったのです。父さえいればと泣き明かした日々、……あの日々!
この机上に、遺言用の筆具と、拳銃を用意しておきます。
断っておきますが、ドアの錠は、拳銃などでは壊せません。
私は、貴方がその一命を賭して贖罪せんことを切願しております。
が、もし貴方が、自分には一切の咎は無いとお考えであれば、水一滴無いその部屋で、七日間過ごして御覧なさい。
その時は、ドアを開けて差し上げます。
 シア・チェリカ 拝』


『シア様へ 老人より

お父様、あの軍医のことを、忘れた日はありません。
紛い無く、私の罪です。
私は当時、戦地の飢えと恐怖の中で、殆ど狂っていました。

あの頃、多くの少女が自ら望み、戦地へ赴きました。あの中に、貴女もいたのですね。
彼女達の運命も、私の狂気を加速しました。
彼女達を迎えたのは、命がけで弾丸の間を駆け回っても、一日に水の様なパン一つで数カ月も食い繋ぐ戦場です。
麗しかった女達が、冷たい鉄と土に寄り添ううち、極寒に病んでぼろぼろに傷み、血、泥、虱、垢に塗れ、飢えて痩せ衰え、姿も言葉も、違う人間の様になって行く。
ある少女は汚れた毛布の中で寝言で叫んだ、「家を出て戦争へ行きます、だから私を水に沈めないで、お母さん!」……前線でも銃後でも、ひもじさが、人を人でなくしていた。
行軍の途中で通った村が、再び訪れた時には廃墟となっており、餓死した死体は老人と子供ばかり。
男が絶え、次に女が征き、子は育たず、町が消える。
堪らなかった。
戦勝したとて、一度自分を水に沈めた母の下に帰る少女は、勝者なのか。
私自身も、飢えのあまり凍った馬糞を仲間と取り合って舐める有様で、鏡を見れば針金の様な奇人の相貌。
戦場で生死の狭間を這いずりながら、私の正気は殆ど失せていた。
足を撃たれたお父様を見たのは、その頃です。
戦えぬ男が増えた、と思いました。そしてそれを補う為、女が出征すると。
変わり果てる女達と、あの廃墟が頭に浮かび、私は狂乱の中で、お父様に凶行を下しました。
医師と知ったのは、その後でした。

身も心も犠牲にして戦った従軍女性が、戦後、「男達と何をして来たのか」と出征経験の無い女達に嘲られるのも、私は見ました。
いわれなき屈辱から身を守るべく、補償を受ける為の戦傷記録を燃やして生きた人々。スターリンではなく、守ろうとした同胞の、しかも同性から蔑まれる日々。
男の私では、彼女らを救えなかった。
讃えられる男達の陰で、ただ口をつぐむ女性達には誇りすら手に入らない。それを思う度、私は戦中と同じ悲憤に、再び苛まれました。
私は、戦争ごっこで「ヘンデ・ホッフ(両手を上げろ)!」とはしゃぐ子供達を見ると、今でも泣きたくなります。
貴女とお母様の悲業は、男の私には、到底理解の及ばぬ処でしょう。
今、この命が、僅かでも貴女の慰めとなるのなら、進んでそうします。
詫びようもないお詫びを、永遠に。
 リグルフ・ゴア 拝』

小さな部屋の中で、筆を置いた老人は、自分が極力苦しむ様、右肺めがけて銃の引き金を引いた。
が、銃弾は出ない。代わりに、銃の中でかちりと音がして、銃口から小さな鍵と、畳んだ紙片がこぼれた。広げてみると、そこには文字。
”贖いは、貴殿の胸中にて果たされり”……

鍵を錠に差し込む。扉が開いた。
外は、荒涼と広がる夜の大地だった。

果たして、七日後に、本当に助けなど来たのだろうか。
生に執着するなら、緩慢な死を。
死を決意したなら、余剰の生を。
それぞれ、与えるつもりだったのではないか。
老人の問いに、答える者はいない。

殺さねば収まらぬ復讐を、彼女は殺さずにやり遂げたのか。
女とはつくづく男を抱ける生き物であり、男が女に報いることの何と難しきか。

老人は、泣きたくも、笑いたくもなった。
しかし、祖国のどこかなのであろう冷たい大地は、泣きも笑いもしなかった。


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このストーリーに関するコメント

13/11/07 クナリ

作中の人名などは架空のものですが、二次大戦中のソ連の従軍少女(15歳以上31歳未満)の様子や当時の情勢について、下記を参考文献といたしました。

『戦争は女の顔をしていない』
200/7/26発行
株式会社 群像社
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著
三浦みどり訳

より人々の耳目を集めるべき談話集です。
機会があれば、ぜひ読んでみてください。

13/11/07 murakami

クナリ様

こんにちは。
さきほど、作品をアップしようと思ったら、クナリさんの作品が・・・。
書簡体、かぶってしまいまして(汗)。

文章の隅々までに気を配られた練りに練った作品、さすがですね。
感銘を受けました。

こちらで切磋琢磨させていただければ幸甚です。

13/11/07 平塚ライジングバード

クナリさん、拝読しました。

読後、魔法にかけられたような素晴らしい作品でした。
細部まで練りこまれ、設定、人物、背景、演出、言葉選び…
どれを取っても非常に洗練された物語でした。

共感するような経験はもちろんありませんが、不思議なことに
読み始めて一瞬で、場面が頭に映像として浮かび、クライマックスの
シーンでは、老人とともに荒涼と広がる夜の大地を見た感覚でした。

自分には、あまり語彙がないのでうまく言えませんが、クナリさんは、「血の通った世界」を描かれる方だなと思っています。
圧巻の作品でした。

13/11/07 草愛やし美

クナリさん、拝読しました。

史実に基づいた悲惨な様子を、初めて知りました。同じような事例が、戦争体験国にはきっとあることと思います。戦いというものは、究極の場面では、その目的を失ってしまいます。勝ち負けよりも人間そのものが歪められてしまうう、そんな時、国は何もしてくれないのです。戦争の前に、人間は万能でなく、ちっぽけな生き物に過ぎないでしょう。
戦争ってどうして起きるのでしょうね。自ら人間としての誇りを捨てるためでしかないのに……。悲しいというより、切なさに胸がいっぱいになりました。私のような知識のない者にも、クナリさんの想いが伝わり、感動しました、良作をありがとうございました。

13/11/07 光石七

途中、心からの悔恨に赦しが与えられたと思ったのですが……
凄まじい復讐です。ただの仇討ちでは終わらない。
どこか乾いていて、虚しさを感じる世界にすっかり引き込まれました。
ラストの文章がすごくいいです。
さすがクナリズム。脱帽です。

13/11/08 クナリ

コメント欄がまばゆいッ…。

平塚ライジングバードさん>
部屋への監禁とその開放より、戦中の有様を書くほうに注力したので、お話として総合的にはどうかな…と思っていたのですが、そういっていただけてよかったです。
いや、平塚さんの作品こそ、コメントつけるの難しいんですよ(^^;)。
圧巻て、ちょっと聞きました、圧巻ていわれましたよ、どうします(誰や)。
がんばって、これからも血を通わせまするッ。

草藍さん>
女性の立場からの戦争は、まだまだ語られていないところが多いのでしょう。
男の語る戦争論は、さまざまな切り口から語られてきたというのに。
従軍少女の話は、そうした観点から見て非常に象徴的だな、と思って今回題材にしました。
自分などには思いもよらないことがたくさんあるでしょうに、戦争を題材にするのには少なからず抵抗もあるのですが、衝動に従って書きました。
歴史上、戦争の原因となるのはつきつめれば「貧富(経済格差)」と「身分(驕り)」だけらしいですよ…。本当でしょうかね。
人間の誇りとは根源的でも本質的でも絶対的なものでもなく、とても移ろいやすいものなのだという風に思っています。
だから、一生懸命守らなければならないんだと。

光石さん>
ラストについては、荒涼とした世界に放り出して「行き倒れて死になッ」みたいなのよりは、「もうこっちの気は済んだから好きにすれば?」的なイメージっす。
まあ、この老人にやる気があればですが(こら)。
戦争が終われば、復讐心というのは理不尽にしか捉えられなくなってしまうという一面も、否定できません。
なのであまり有機的な復讐心というのは表現しづらいな、と思っていたのですが、いい具合に乾いていてくれればうれしいです。

OHIMEさん>
従軍少女については、自分も上記の本による記述の知識しか、ほとんど持ち合わせていません。
「ソ連」「従軍」「女性」などでぐぐっても、あまりヒットしませんし。
ヨーロッパでは、独ソ戦のソ連軍に女性が多くいた(しかもほとんどが、祖国のためにと自ら志願!)のは有名らしいのですけど。
復讐、というものの扱いは非常にむずかしかったです。もともと楽天家で、「復讐? めんどいっす」的な人間のクナリ。
どんな登場人物が、どういう事情を抱え、どういう結末の復讐であれば、自分は納得して書けるんだろうと悩んだ末の、この作品でした。
復讐の果たし方については、自分なりの価値観というか、願いが表れたラストだったかもしれません。




下記、参考文献の中の一文です。
「『幸せって何か』と聞かれるんですか? 私はこう答えるの。殺された人ばっかりが横たわっている中に生きている人が見つかること」
…。

13/11/08 クナリ

すみません、村上さんへのレスが切れておりました。

村上さん>
あ、本当ですね。
この手紙みたいな文面で書くやり方、書簡体というのですか。
勉強になりますッ。
いえ、これがもう、隅々くらいまでは気を配らないと、自分の場合、誤字だの脱字だの矛盾だのがひどいんですよ。
こちらこそ、しごいてやってください!

13/11/09 笹峰霧子

久しぶりにここ地空を開いて、一番に読んだクナリ様の作品に圧倒されました。
文献を参考に書かれたと記されていますが、まるでリアルに体験されたかの巧みな筆致に感動しました。

13/11/10 クナリ

笹峰霧子さん>
あちらではどうもありがとうございました。
最近投稿されてないなとは思っておりましたが、そのようにおっしゃっていただけて光栄です。
自分の筆などは、実際にあった戦争の話をするにはとうていつたないものですが、そう言っていただけると、書いてよかったと思えます。




13/11/18 朔良

クナリさん、こんばんは。
読み始めてすぐ引き込まれてしまいました。
復讐する者とされる者、それぞれの苦悩。
史実に基づいた戦争の描写や、細部にまで気を配った物語の運びもすべてお見事としか言いようがありません。
ラストの一文が心にしみます。

13/11/18 クナリ

朔良さん>
ありがとうございます。
とっつきやすい題材ではなかったので、読んで頂けるか不安なまま投稿したのですが、そう言っていただけるととてもうれしいです。
祖国のために戦ったのだと思っても、やはり人が人に報いるべきだなーと思います。
大地の色を暖かくも冷たくも変えるのは、人間においては人間しだいでしかないですからね……。

13/11/18 四島トイ

拝読しました。
テーマである『復讐』をありありと描き出した秀作でした。言葉選びから結末に至るまで、読者に負担のない滑らかな展開で非常に「読ませる作品」として完成していました。
描き出される光景は、全てが色あせ、あるいは灰色かモノクロにも感じられるのですが臨場感に溢れ、かえって生々しさを覚えました。従軍女性に主眼が置かれながらも、ヒロインと老軍人との確執が、姉妹や友人の死でなく、父親であるところが巧みでした。
拙い感想になってしまいますが、御容赦ください。

13/11/19 クナリ

四島トイさん>
コメントありがとうございます。
話の内容が堅いからなー、読みやすくしないとなー、と思いながら書いておりましたので、報われる思いです。
拙いなどとはとんでもなく。

クナリは、自分のツボに超ヒット!のうえで何か申し上げたいことがあるときにようやくコメントを入れる無精者なのですが、四島さんの作品にはけっこうコメントさせていただいていますね。
失礼ながらそれは、四島さんの作品だから入れているのではなく、入れたくなる作品がたまたま四島さんの作品であるのが多いということなのです。
外見の描写がなくても登場人物たちが生き生きと読み手の頭に描けるという性質を持つ四島さんの筆が、自分の好みなのでしょう。
余計なことを言ってあの世界観作りの邪魔をしたくないので、こちらこそ役に立つ指摘などできずに浅薄な感想を述べるのみですが、またの投稿を楽しみにしております。

13/12/27 そらの珊瑚

クナリさん、遅まきながら拝読しました。

戦争の極まりない悲惨さ(敵とたたかうだけでなく同胞、そして飢え)がむき出しに描かれていて、
短いお話なのに一篇の映画を見終わったようなそんな感じさせしました。
彼女の仕組んだ復讐の仕組みに驚くとともに、毅然とした彼女の人間性をも感じさせるようでした。
素晴らしかったです。
時空モノガタリ賞、おめでとうございます!

13/12/28 クナリ

そらの珊瑚さん>
これはもうなんというか、参考文献から受けた刺激のおかげですね。
戦争のときにこれこれこういうことがありましたー、というのを
列挙するだけではお話とはいえない…と思い、いろいろ自分なりに
いじくったりつけたしたりしてこの話は出来上がりました。
祝電(?)、ありがとうございます!




14/02/16 リードマン

拝読しました。
解き放たれた老人は今度こそと、命を使うのかもしれませんね。誰かの為にこそ自分の命を使いたくなった自分の為にも

14/02/16 クナリ

リードマンさん>
とにかく実際にあった戦争を下敷きにした話というのは、意識的に避けてきたのですが、その理由のひとつに「戦争を体験していない自分には、戦争体験者の気持ちを登場人物を通して表現することは困難だし、その表現が仮に的確にできたとしても、読む人の心には響かないだろう」という価値観がありました。
老人の気持ちは、それでも、少しはリアリティを生み出したでしょうか?
コメント、ありがとうございました!

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