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kouさん

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リセット

13/11/04 コンテスト(テーマ):第四十二回 時空モノガタリ文学賞【 都市伝説 】 コメント:1件 kou 閲覧数:1648

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 制限速度を四十キロオーバーしていた。
 サイドミラー、バックミラーを確認し、彼らが追って来ているのを赤羽葵は念入りに確認した。
「そ、そこまでスピード出す必要があるかい?」
 助手席から恋人である岡田純が声を張り上げた。彼の父親が描くキャラクターが口コミで広まり、気づけば世界を巻き込み、権利収入が莫大に入り成功者の仲間入りを果たす。
 が、父親は十年前に他界。純は莫大な遺産と複利以上に絶大な権利収入が倍々ゲームのように増え何不自由なく暮らす。なので、正規に働いたことがなく世間知らず。今年三十三歳になるのだが、未だに子供といっても過言ではない。
「もうすぐトンネルよ」
 葵は口笛を吹き、エンジン音にメロディーを追加した。
「名士で名家で女優の君が、こんなに破天荒だとわね」
 同じく純も口笛を吹いた。
「何かを変えたいだけ。何も捨てることができない人は、何も変えることができない」
「ごもっとも」と純はサイドミラーを確認し、「彼らもしつこいな」と舌打ちをした。
 トンネルに入った。
 オレンジと影のコントラストが交互に通過する。葵は決意を固めアクセルを踏み込み、先にある光に向け、加速した。外の風景が見え、光の変化が、彼女のハンドル操作に歪みをもたらす。まっすぐに持っていたであろうハンドルを右に傾けていた。
「危ない!」
 純の声が響く。
 葵の目の前に飛び込んで来たのは、地面に突き立てられた巨大なポールだった。案内板らしいが、文字まで判別できなかった。

 大学二年の持木大和は軽音同好会の打ち上げが終わり母親を待っていた。酔いはそれほどでもないのだが、母親から近くにいる。応答せよ≠ニいうメールが携帯に入っていたので、了解。すみやかに回収願う≠ニ返信した。
 返信後三分以内に個人≠ニライトされたタクシーが猛スピードで大和の方に前進し、ブレーキ音が響き、サイドウィンドウが下げられ、お待たせ、と母親の笑みが闇に広がった。異様に歯が白い。
 車内のカーナビ兼TVから一ヶ月前に事故死した赤羽葵の報道がされていた。大和は葵のファンだった。シリアスな演技はスクリーンを釘付けにし、かといってコミカルな演技もこなす。黒髪美人で黒縁眼鏡を掛けたプライベート映像が流れたときは、彼の心を鷲掴みにした。
「大和、葵のことロックオンしすぎ。母さん妬いちゃうわ」
 冗談とも本気ともつかない声を響かせる。
「そんなんじゃない」と大和はカーナビの映像を観る。葵が乗った車はポールに猛スピードで激突し大炎上。事故から一ヶ月経った今も、あらゆる憶測が流れている。陰謀説、生存説等、最早、噂好きな人間の都市伝説化している。まあ、言ってしまえばゴシップの対象となった赤羽葵が、いない、というのが信じられないだけなのだ。
「葵も普通の子。それに恋人も働いたことはないかもしれないけど、必死で権利を守ってる」と母親。
「何を言ってるんだよ?」
「寄り道するから」
 有無を言わせぬ母親の口調と共にアクセルが加速した。

 赤羽葵はマスコミから逃げていた。必ず背後にはハイエナがはびこる。普通に恋人と会い、変装せず笑い合う。それが望みだった。息を切らせながら、一台のタクシーが停まっているのが見えた。意志を持ったかのようにドアが開き、入れと促しているようだった。
「急いでるみたいね。あれ、赤羽葵?息子がファンなのよ、隠すけど」
 中年女性は屈託のない笑みを広げた。異様に歯が白い。
 虚飾された会話ではなく、普通の会話がしたかった。中年女性は離婚歴ありの母親だった。息子の事を語り、気づけば葵自身の事も語っていた。
「あんたの恋人、働いたことないのはマイナスだけど、しっかりと著作権侵害している人達と闘ってるじゃん。いいね。ちゃんと守ってる。権利は守れ」
「追われる生活を終わりにしたい」と葵。
「捨てな!何かを捨てることができない人は、何も変えることができない。だからさマスコミを利用しなよ。あんたに好意的な何人かに協力してもらうの。SF技術も発達してるし事故に見せかけな。リセット!」
 中年女性は興奮していた。
「うまくいきますかね?」
「夢の一つも見なきゃ、朝起きる理由なんかないよ。うまくいく。そして子供つくりな。子供はいいよ。生意気だけど」
 葵の心は楽になった。

「本当かよ。母さん何者だよ」
「あんたの母親よ」
「冷静に言うなって」
 母親から一部始終を聞き大和は半信半疑でならない。赤羽葵が、生きてる。
「でも、もしかしたら本当に事故死してるかもね。報道がされてから連絡ないから。ちょっとやりすぎかも」
 大和は生唾を飲み込んだ。タクシーは進行し、森の中に入った。一軒のペンションがあった。あそこに赤羽葵がいるのだろうか。ブレーキが踏まれ、エンジンが停止した。大和は腰を上げた。


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このストーリーに関するコメント

13/12/14 リードマン

拝読しました。
スゴ、カッコ良すぎる! 子持ちだろうと! 魅力的な女性だなぁw

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