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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
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櫛 くし

13/11/04 コンテスト(テーマ):第四十二回 時空モノガタリ文学賞【 都市伝説 】 コメント:27件 草愛やし美 閲覧数:3451

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「母ちゃん、こんな綺麗な櫛落ちてた」
 母は、あからさまに曇った表情になった。
「櫛……母ちゃん」
「あのね、未奈、櫛は駄目なの」
「何で? 綺麗な櫛だよ」
「櫛は、九四の数字に当てはめて、苦や死を指すの。だから、病人や不幸な人が、自分の苦しみや不幸を誰かに代わってもらいたい時に、道端にわざと置く物なの。そして、拾った人は、その苦死を受け継ぐことになる。早く元の場所に返してきなさい」
 驚いた私は、櫛を握り締め表に走り出た。もったいないなあこんな綺麗なのにと、繰り返し心の中で呟きながら拾った所にそっと置いた。

 その櫛は、今思い返すと、鼈甲(べっこう)の品だった。今は、ワシントン条約で輸出入が禁止されてより貴重になった鼈甲は、当時も貴重品だっただろう。その人は、高価な鼈甲の櫛を捨ててまで、苦死から逃れたかったのだろうか。 
 あの櫛を拾った日から、私の運は悪くなった。一度、悪い運を授かった者は、どこまでいっても運が悪くなるに違いない。そう確信したまま私は生きてきた。その後の、父の会社の倒産、母の病死……相次ぐ家庭の不幸を私は全てあの櫛を捨てた人のせいにしてきた。その考えで私は、暗い人間に育ったようだ。運は、変わったのでなく、代わっただけ。恨み、僻み、妬み、そんな言葉しかない人生に嵌りこんだ私に、良いことなどあるはずがない。そんな自分が嫌で仕方なかったが、誰かのせいにしなければ生きることが辛すぎた。
 恋人どころか友もいない私の、唯一の楽しみは、アンティークショップを覗くことだった。古い品々には怨念が籠っているような気がした。あの櫛の都市伝説のように、私と同じように不幸になった人がいるに違いない。そう考えると骨董品を通し、私は、自分と同じ不幸仲間を見据えているような気がした。私って何て嫌な奴……、そう思いながらも、なぜか、アンティークな品々を見ることは楽しかった。

「あの櫛だ、間違いない」
 私は、何十年か振りにあの時の櫛と出会った。それは、とあるアンティーク店の奥まったガラスケースに眠っていた。紫の布に包まれ漆の箱に入れられ、かしこまって鎮座している櫛を、私はあの櫛だと確信した。鮮明な記憶が蘇る。あの櫛に施された精巧な紋様。中でも鶴と亀の細工は見事だった。恐る恐る、私はその櫛を指さし店主に尋ねた。
「この櫛は、どういう品なのでしょう?」
「ああ、これですか、お嬢さんお目が高い。これは良い物ですよ。名前は言えないですが、格式あるお屋敷の所蔵品でしてね。年代もので、素晴らしい芸術品でしょ。この品は、私が出会った骨董品の中でも、一、二を争う貴重な物でして、展示はしていますが、預かりものでして……お売りはできないのですよ」
「預かりもの……」
「実はさる有名なお屋敷から、蔵の虫干しをと、頼まれましてね、あまりにも素晴らしいお品なので少しの間だけでも店で展示させて貰えないかとお願いしたんですよ。この品は、国立美術館所蔵クラスの物。しかも、この櫛は、「幸せを呼ぶ鶴亀さん」という別名がありまして、この櫛を手にした人はみな幸せになれるという伝説の櫛なのです。その証拠に、お屋敷の方々は皆、玉の輿でお嫁入りされてましてね、此度はお嬢さんが、外洋の伯爵家に嫁がれるとかで、お祝いを兼ね蔵の整理をと仰せ使ったわけです。この櫛は、家宝の一つだそうです。その幸せをお裾分けわけして戴けたらと、厚かましくお願いしましたら、良家の方ですね、快くお貸ししてくださったのですよ。ということで、我が店の陳列が叶ったのです。これをご覧になられたので、お嬢さんもきっと幸せに巡り逢えますよ」
 驚いた私は、からからに乾いた喉元からひと時の後、ようやく言葉を絞り出した。
「これ、昔、落ちていましたよね……、でも、そんな高貴なお品が落ちているなんてあり得ないはず」
「おお、よくご存じですね。その話、先日、私もお屋敷でお聞きしましたよ。先代のお嬢様が、その日珍しく歩いてお散歩に出られ、どこかで落とされて大騒ぎになったそうです。不思議なことに、屋敷の使用人一同で、何度も探されたのですが、歩かれた道には落ちていなかったそうなのです。その品が、夕方には、あったそうでして、きっと、親切な方が戻してくださったのだと、お屋敷ではそのお方をしばらく探されていたそうですよ。どうして、この話をご存じで? もしや、あなたは」
「いえ、そんなわけないです、私は、不幸を……」
 自分がいかに愚かだったかということを思い知らされしどろもどろの言葉を繰り返すだけの私はようやく我に返った。
「都市伝説だったのに、人のせいにして生きてきた、なんて馬鹿な私」
 ひとりでに笑いがこみあがる。
「ありがとう、おじさん。私、生き直してみるね」
 きょとんとした表情のおじさんが、私の笑顔につられにっこり笑った。


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このストーリーに関するコメント

13/11/05 そらの珊瑚

草藍様さん 拝読しました。

自分が不幸であることを全て櫛のせいにして生きるなんてなんだか後ろばかりみているようで辛いですね。
二度目に櫛に出会ったことできっと未奈さんは前を向いて生きていけますね。もちろんだからといって幸せなことが起きる保証はないけれど、嫌なことがあっても何かのせいにしないぶん、それは幸せな生き方だ思います。

13/11/05 ドーナツ



なにかのせいにしたりするのは、心の弱さの表れなんだろうなと、自分への反省も込めて拝読しました。くしのせいにしなければ生きてこれなかったのは、それは悲しいというか愚かな生き方だったと思います。

でも、そういう愚かさにきがついたから、これからの人生はすばらしいものになるだろうとおもいます。

13/11/05 朔良

草藍さん、こんばんは。
拝読いたしました。
都市伝説にありがちな不幸な話…と思いきや、とっても前向きでいい話ですね。
自分の不幸をなにか・誰か・のせいにしてしまうのは、どんな人にもあることだと思います。
そこを前向きに気持ちを切り替えることができてこそ、明るい未来が見えてくるのかも…。
未奈さんに元気をもらいました。私も頑張ろうっと^^

13/11/06 猫兵器

草藍様

拝読致しました。
暗い不幸にまみれた前半から一転、新たな未来への一歩を刻む爽やかな物語でした。
櫛にまつわる逸話をひっくり返した展開も見事でしたが、何より、その後の未奈の心の動きに唸らされました。
私が彼女なら、勘違いで不幸を呼んでしまった絶望と「あのとき櫛を手放さなければ!」という悔恨に支配され、頭がおかしくなっていたかもしれません。
極限の状況で生き直そうと思える強さがとても素敵でした。

13/11/06 泡沫恋歌

草藍さん、拝読しました。

櫛は拾うなと私も聴いたことがあります。
特に女性の念が籠もっていて、人形に次いで怖ろしいのが櫛だと
昔からの言い伝えで言われています。

なんか、不運を拾いそうで櫛だけは怖いです!

13/11/06 草愛やし美

OHIMEさん、お読みくださってありがとうございます。コメントとても嬉しいです。

ほどほど、本当にそれがよろしいでしょうね。劣等感やマイナス思考なことって誰しも何かしら持っているものですが、そこに陥るとどんどん墓穴を掘る傾向にあるように思います。自覚していても、そこからはなかなか脱け出せないと思います。もし、何かのきっかけで、そこから抜け出せれば、どれだけ救われる人がいることかなあと思って書いてみました。
主人公に温かいお言葉をかけてくださってありがとうございます。彼女もきっと喜んでいることと思います。

13/11/06 草愛やし美

そらの珊瑚さん、コメントありがとうございます。

不幸は何かのせいにすれば気持ちが楽になることもありますが、それで人格まで暗くなっては辛すぎると思います。
嫌なことがある度に、不幸を連鎖と捉えてしまうと、未来が暗いものにしか見えなくなるのではないかと私も思います。生きるって良いことばかりではないですが、考え方ひとつで違った生き方になるかもですね。

13/11/06 草愛やし美

ドーナツさん、お立ち寄り感謝、コメントをありがとうございます。

心の弱さでしょうね、前向きに考えれば、何か違った捉え方ができるかもしれません。でも、その渦中にいる時は、なかなか難しいです。私も、しょっちゅう、反省の日々を過ごしています。苦笑

13/11/06 kotonoha

櫛の話は私も母から聴きました。
草藍さんの小説は少しミステリー調で刺激があっていいですね。
私達は昔からジンクスをかつぐ癖がありますね。

楽しい作品をありがとうございました。

13/11/06 草愛やし美

朔良さん、お読みくださってとても嬉しいです。

都市伝説には、ホラー系のものが多いようですね。都会は怖いところかもしれませんよ。笑
私はあまり都市伝説を知らないのですが、櫛に関しては、幼い頃から親に言われていたことなので、それをもとにして書かせていただきました。
私も、老体に鞭打って(苦笑)頑張りたいです。コメントを、ありがとうございました。

13/11/06 草愛やし美

猫兵器さん、お読みくださってコメントをありがとうございます。嬉しいです。
母親に「拾ったら、警察へ届け出るものだが、手にしてしまうことになると、そこで苦死に関わってしまうので、元へ戻してきなさい」というシーンを書こうと思ったのですが、字数制限でどうしても無理と諦めました。
でも、それはたてまえでして(大汗)、正直、私が、この主人公の立場でしたら、きっと、拾得物横領罪になっていることと思います。苦笑

13/11/07 草愛やし美

凪沙薫さん、コメントしていただきとても嬉しいです。

コメントってほんと書く意欲に繋がりますね。感謝しています、ありがとうございます。 運命は心がけ次第、そうですよねえ。そう思うと気が楽になります。いろいろあっての人生、悪い時ほど、いい方へ考えて頑張りたいと思います。

13/11/07 草愛やし美

泡沫恋歌さん、ですよね〜、櫛は苦しみと死に繋がると教えられてました。昔は有名な伝説でしたから、きっと並みの櫛では誰も拾わないのではって思います。でも、この話のような高価なものだったら、私は、やはり欲が勝ちそうな気がします。苦笑
お読みくださり、コメントありがとうございました。

13/11/07 草愛やし美

月見草さん、お忙しいのにこちらまで来てくださって嬉しいです。コメントをありがとうございます。

ジンクス担ぐタイプです。星占いなどで今日は良い日なんてTVで出ていたりするだけで、喜んでしまいます。単純にできているので、良いといいのですが、悪い日はあきません。「当たるも八卦だからなあとか、凶転じて福だよなあ」なんて一人、否定するのに必死になったりしてしまいます。苦笑 

13/11/07 平塚ライジングバード

草藍様、拝読しました。

非常に興味深いお話でした。
櫛ってそういう解釈があるんですね。
きれいに起承転結が作られていて、大変読みやすかったです。

細かいことですが…
櫛は、国立美術館所蔵クラスのものですので、もし、あの日、櫛を返さなければ、
窃盗事件として扱われ、もっと不幸な目にあっていたかもしれませんね。
不幸を呼ぶものではなかったかもしれませんが、あの日櫛を拾ったというのは、
主人公の人生にとっては、やはり大きなものだったんだなぁと感じました。

13/11/08 草愛やし美

猫春雨さん、お読みくださって嬉しいです。コメント励みになります。ありがとうございました。

伝承も有益なことも確かにありますが、信じ込んでしまって暗い日々を送るなんて愚かすぎますね。占いもそうですね、信じすぎないようにと肝に銘じるようにしたいです。でも、「いいことは信じて、悪しきは信じないのよ」なんてさらりと言っている人ほど、結果が悪いと、心中穏やかでなかったりするかもです。こういうことって、ある意味洗脳に繋がるようで、怖いことかもしれませんね。

13/11/08 草愛やし美

平塚ライジングバードさん、コメントありがとうございます。

読みやすい創作は、私の目指しているところですので、そう言っていただけとても嬉しいです。
窃盗罪までなっていたかも……ほんとですね。お屋敷から被害届けなんて出てましたら、えらいことになっていたかもしれませんね。そういう意味ではこの伝説は役立ったと、主人公にとってこれは、不幸でなく、幸いなことだったと後になって、思うかもしれませんねぇ。なるほど、そうですね、そういう考え方、作者にとって、目からうろこでした、ありがとうございました。
コメントは、そういった意味でもとても勉強になります。コメントをいただけるような創作を、これからも頑張りたいと思いました。

13/11/09 yoshiki

読ませていただきました。

どんな結末が待ち受けているかと読み進めて、なるほどと思いました。

人の幸不幸はやはり心持ち次第なんだという。前向きな姿勢には大いに共感しますね(*^_^*) ありがとうございました。

13/11/10 鮎風 遊

都市伝説にとりつかれて生きた年月。
確かに今からでも遅くないですね。
それにしてもどうして再会したのだろう。
初めからそういうプログラムに沿って生きるよう、神から与えられて宿命だったのでしょね。
面白かったです。

13/11/13 草愛やし美

yoshikiさん、お読みくださり、コメント感謝いたします。

私も前向きに生きていきたいと思っています。嫌なことがあると文句ばかり言っているようで反省することしばしばです。汗

コメントを励みにして創作を頑張りたいと思います。ありがとうございました。

13/11/13 草愛やし美

鮎風遊さん、コメントありがとうございます。

初めから、そういう運命の再会──そこを読み取って戴けとても嬉しいです。彼女が、アンティーク好きだったのは、そういう転機を迎えるためのものだった。もしそうであったとしたら、素敵な偶然というか運命ではないかしらなんて作者の願いを込めてみました。ありがとうございました。

13/11/27 やっちゃん

草藍様、私改名した名前はkotonoha shizuku のつもりでしたが愛称の「やっちゃん」になっていました。ややこしいことですみません。

今後ともよろしくお願いします。

13/11/27 やっちゃん

草藍様、私改名した名前はkotonoha shizuku のつもりでしたが愛称の「やっちゃん」になっていました。ややこしいことですみません。

今後ともよろしくお願いします。

13/12/14 リードマン

拝読しました。
櫛が苦死、ふむふむ、確かに言葉の持つ音という物は、色々な文字へと転換されてしまうもの。言霊という言葉もある位ですから、吉兆を占う一つの手段なのかもしれませんね

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