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タックさん

何を書いても平凡なのが悲しい。

性別 男性
将来の夢
座右の銘 明日の自分に期待は持たない。

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BLACK KNIFE KILLER CITY

13/11/02 コンテスト(テーマ):第四十二回 時空モノガタリ文学賞【 都市伝説 】 コメント:2件 タック 閲覧数:1388

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「――でね、友達が、見たらしいのよ」

「……ウソ? ホントに?」

 サチの目が脅えを含んで揺れ始める。ここが大事、とわたしはたっぷりの間をつかい、怪談を語る心霊おじさんのような雰囲気で、その名前を出してあげた。

「――ブラック・ナイフキラー。間違いないって。噂どおりの姿らしいよ」

 ブロッコリーが机スレスレで止まる。その上にはサチの恐怖の表情。サチは箸を止めたままわたしを見続け、ホント? と小さく息だけで問いかけてくる。なんと純粋。なんとワクワク。心がはしゃぐ。楽しい楽しい。サチの隣に座る玲はいつもどおりの無表情だけど、まあ、サチが驚いたからいいかと、わたしはサチと、ついでに玲に、そのことを話してあげた。たっぷりの誇張を織り混ぜて、爽やかな教室の一角に、旬な恐怖をお届けする。サチはひぃー、とかすかに悲鳴を上げ、玲は珍しく興味深そうにわたしを見ながら、ぽそぽそとご飯を詰め込み続けていた。

 何もない平凡普通な街、久井市。そんな久井市が最近賑わったのは、ある一人の通り魔の犯行の賜物によるものだった。

 被害者は小中学校の女子生徒。彼女たちが、夕方から夜にかけた帰宅時に、背後から大きなナイフで刺されるという事件が連続した。被害者の傷痕から、凶器は同一と断定。全員が痛かったね、と頭をなでたくなるほどのそこそこな重症らしかった。警察によれば犯行はきわめて杜撰、ということだけど、警察が言うほど馬鹿じゃない。だって、目撃証言が一つしかないし、逮捕もされていないのだから。傷が浅かったおかげで背後を振り返ることができた生徒一人にしか、姿を見られていないのだ。

 がたいが大きく、薄闇に負けないほどの全身黒づくめ。きらめく大きなナイフを持ち、逃げ足は本当に速かったと、女子生徒は証言したらしい。その風貌がけっこう強烈だったせいで、暇に飽きた久井高校内はしばらく盛り上がり、そんな犯人に、いつしか誰かがあだ名を付けた。それがこれ。

「ブラック・ナイフキラー」

 影から現れ、影に消えていくナイフ愛好者の黒い男。情報が断片的だったせいで、想像力豊かな久井高校生たちは様々にオプションをつけ始め、噂が増えて、犯人は本当の怪物のように強大でたくましいものに進化していった。みんなが事件について話すのを見て、わたしは本当に嬉しかった。そういう系の話題が、大好きだったから。わたしが事件について嬉々と話すと、不謹慎、と顔をしかめて離れていく友達もいたけど、それは仕方ない。これはわたしの性質、わたしの本質そのものだから。サチや他の人の驚く顔を見るのが、わたしは好きでたまらない。ワクワクして、止められないことなのだ。

 
――陽が落ちる。「ブラック・ナイフキラー」の時間がやってくる――


「この街に犯罪者がいると思うと、こわいね」
 
 二人っきりだと、サチと違ってあんまり間が持たない。だから、自然と話しやすい話題になってしまう。

「……うん、そうね。こわいわね」

 サチとバスの中で別れてから、わたしと玲はバス停から並んで帰途につく。玲とは中学時代からの友達だけど、なんせ無口だから、わたしが話さないと場が静まって居たたまれない気持ちになる。だから、わたしは普段よりも饒舌になってしまうんだ。まあ、話はちゃんと聞いてくれるから、空しくはないんだけど。

「犯人、すごいんだって。でっかくて、ナイフ持ってて」

 わたしが体全体で風貌を表現すると、玲はかすかに笑った。夕日が玲の白くきめ細かい顔に当たって、すごく華やかに見える。なんだか、さっきから玲は楽しそう。こういう話、好きだったっけ。あんまり記憶にはない。

「へえ、それは災難だったわね。警察に通報したの? 何時見たって?」

「……あ、いや、それは聞いてない。ただ、見たって聞いただけ」

「ふーん、そう。今度、聞いてみたら?」

 風が木を揺らして、車がすぐ横を通っていって、ちょっとだけ静寂。玲の言葉に、少しだけ胸がざわめく。暗くもなく、明るくもない黄昏時は感情も中途半端にさせて、心の切り替えが出来なくなる。なんか、感傷が心を覆っていく。

「……とても、楽しそうね?」

 唐突に、玲が尋ねてくる。顔がわたしを向いている。少しの間、わたしは意図がつかめずに、少しまごついてしまう。

「……えっ、ブラック・ナイフキラーの話? ……うん、楽しいよ。不謹慎かな?」

「ううん、そうじゃないわ」

 柔らかく言ったつもりの答えは、すぐに遮られてしまう。玲の顔は楽しそう。見ていると、不安になる笑み。鼓動。鼓動。心臓がバクバクし始めて、嫌な予感が、心を満たしていく。

 街灯がつく。玲は言う。心の底から、嬉しそうに。

「人を刺すのって、楽しい? って聞いたの。楽しいわよね、変装までして、何人も刺してるんだもの」


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このストーリーに関するコメント

13/11/15 リードマン

拝読しました!
男はいくらでも殺して下さい。腐るほどいるのですから。ですが、女子供はいけません。病められないというのであれば、私が貴方を殺します。何故かって? 私の獲物ですからねw

14/01/18 タック

まだ、殺されるわけにはまいりません。書きたいことが山ほどあるのでございます。対象に、性別の上下はないのですよ。目の前の標的。赤く、染めるだけなのでございます。

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