キリト@イェーガーさん

小説書いたり読んだり、でも本当は漫画の方ばかり描いてます。

性別 女性
将来の夢 海外に行って色々見て回ること。
座右の銘 自分の感情には素直になれ。

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13/11/01 コンテスト(テーマ):第四十二回 時空モノガタリ文学賞【 都市伝説 】 コメント:1件 キリト@イェーガー 閲覧数:1344

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 彼女からその話を聞いた時には、もう半分予想はついていた。きっともう修復は不可能だろうと分かっていながら、何度目か分からない愛の言葉を囁いて彼女のご機嫌を伺う。茶色に干からびた木の葉が空に最後の悲鳴を響かせて消えていく声が聞こえた。きっと今の俺もあの葉と同じく干からびて、遠い異国の地に憔悴しきった面持ちで出港するのだろう。

「なあ、何度も言ってるだろう。なんで別れ話なんて今この時期にもって来るんだよ」
「私を置いて海外に行くんでしょ? 悪いけど私これ以上寂しいのは耐えられない……きっと貴方は向こうで金髪のスーパースタイルの女作って私の事なんて直ぐに忘れてしまうんでしょう? ……どうして日本の大学に受からなかったのよ、もし受かってたらこんな苦しい思いしなくて済んだのに」

 彼女は目を赤く腫らして泣き叫び、俺に海外へ行くなと訴えかけた。いつもなら「愛してるからもうそんな事は言わないでくれ」と言えば何とかその場は凌げたのだが、今日は出港一週間前だった事もあり俺の言葉は彼女には届かなかった。
 彼女の気持ちは分からないわけでもない。全面的に俺が悪いのも自分で理解している。日本の一流大学志向が抜け切れず自分の偏差値では到底受かりもしないような所ばかりを受け、親や教師に大見栄を張ったが故のこのザマだ。最終的には俺の手には何も残らず、教師のみならず親にまで見捨てられ、今最後の味方さえも失われようとしていた。いや、いつかはこうなると心のどこかでは分かっていた。きっと長くは続かないのだろうと。自分の性格を一番よく分かっているのは誰よりも自分自身だ。俺なんかをいつまでも好いていてくれる酔狂な人間などそうそういないだろう。

 その日、俺は彼女を宥められず、結局別れ話を半分承諾する形で帰路に着いた。彼女が嫌いなわけではない。寧ろこれまでの誰よりも愛している。はじめて失いたくない人ができたのだ。だがそんな暖かな思いさえ、俺は自分の手で壊してしまったのだ。多分もう修復はできないだろう。このまま破局してしまうのは必然だろう。仕方がない事だったんだ……そう思うと幾分楽になれた。我ながら情けないと思う。

 暫く自室のベッドの上で横になり、渡航前の準備も何もかも放って眠りについた。疲れていた。精神的に疲れてしまった。俺はこの世の中で一番不幸な人間なんじゃないかとさえ思えた。俺より不幸な人間なんかこの世にはいないのではないか、きっとそうだ……全部そのせいだ。
 そんな都合のいい事を考えているうちに意識は体から遠退いて行く。木の葉がカサカサ泣く声を遠くに聞きながら俺の意識はとても遠くへと落ちていった。


 俺は若葉の騒ぐ音を近くで聞き目が覚めた。なんだかとても怠い。夢の世界で精神的にとても辛い経験をして来たような気がした。不意に身の回りに目を向けると、寝る前にやりかけだった大学の論文が転がっていた。自分の目標だった大学に受かった事は思いの外嬉しい事だった。これまでの人生で彼女と結婚する話の次くらいに幸せな事だったろう。
 現実を見つめていると、俺はなんだか先程の夢の事を彼女に話したい気分になって直ぐに電話を掛けた。電話口に出た彼女はとても気分が良さげで、愛してると囁けば、困ったような戸惑ったようなかわいらしい反応を返してきた。ああ、俺は幸せ者だ。

「こういう夢を見たんだよ、なんだか不思議じゃないか?」
「そう? 確かにまるで逆の世界だけど」

 彼女にその話をすると、くすりと笑って「私はこっちの世界のほうが幸せで好き」と小声で囁いた。
 明日彼女に会う約束をして電話を切る。幸せな気分が体中を充たし、何とも言えない香りが俺を眠りへといざなう。俺はそのままベットに倒れこみ、霞む瞳で右手の薬指に煌めく銀色の契りを見つめた。それは俺がこの世で一番幸せ者である印のように、俺の指をきつく縛っていた。きっと俺はこの世界で一番の幸せ者だ。俺以上に幸せな人間などいないだろう。きっとそうだ……。
 思考が緩みはじめ、瞼がゆっくりと落ちていく。幸せな気分が副交感神経を刺激して段々俺を眠りの境地へと落としていった。いつまでも彼女の傍に居れるなら、それはなんて幸福な事だろうか……。


 カサカサと枯葉が擦れる声がして俺は再び目を覚ました。霞む瞳を擦って、俺は辺りを見回す。そこら一帯には渡航前の荷物が乱雑に置かれていた。
 そう言えばアメリカに行くんだったな、とバックに乱雑に投げ込まれているパスポートを見てその事を思い出した。

 次目覚めた時彼女に教えてあげよう。


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このストーリーに関するコメント

13/11/14 リードマン

拝読しました。
星見の力と夢見の力、色々と視る力はありますが、万物を、見つめて下さい、ゆっくりと、心を込めて、何かを、感じ取れるように・・・

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