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クナリさん

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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十一月に噛み裂いた花

13/10/31 コンテスト(テーマ):第四十三回 時空モノガタリ文学賞【 スイーツ 】 コメント:18件 クナリ 閲覧数:2494

時空モノガタリからの選評

「噛む」「噛まれる」という行為が、「ばらばらに」なりそうな「ごみ」のような彼らにとって必要である状況がよく伝わってきて面白かったです。猫が甘噛みするような、動物的な、本能的な愛情で繋がっていた2人なのかもしれないと感じました。
ただ「恋愛関係も友情もなく、互いに依存」する関係に留まるのではなく、成長するために離れるべきことを自ら覚り前に進む、その過程も鮮やかに描写され、読んでいてほっとしました。

時空モノガタリK

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未明の、自分のアパートの不燃ごみ捨て場の中。
私は、壊れた机らしい木組みに挟まれてうずくまっていた。
短大に通い始めてふた月が経っていたが、友達はできず家族とも没交渉の日々。
こうしてごみの中にいると心が安らぐのは、自分をごみのようだと認識しているからなのだろう。
ふと、目の前で足を止めた人がいた。高校生くらいの、痩せた男子。
これは趣味なので放っておいて、と言う前に、向うが先に声を出した。
「きれいな歯ですね」
私は、右の八重歯だけがやたら発達しており、下唇に刺さるせいで、いつも口を半開きにしている。
「僕を噛み殺せそうだ」
温度の無い、月の砂漠のような瞳。
「死にたいの?」
「時々」

変な奴同士、気が合ったのだろう。
シンの家は和菓子屋で、出会って以来、試作品を私の所へ味見に持って来るようになった。
「あなたの歯が、僕の菓子を噛み裂く処が好きなんです」
変人ながら、シンの菓子は、どれも美味しかった。
奴は、季節感が大事なのだと言いながら、毎週のように新作を作った。その打込みように、一度訊いたことがある。
「なんでそんなに頑張るの」
シンは瞳を揺らしながら、
「許されたいからです」
と答えた。
はっきりとは言わないものの、何か、家族との確執が根底にあるようだった。
「気が楽になる方法、教えようか」
私はシンのシャツの首元をずらし、肩口に八重歯を当てた。
力を込める。
シンがのけぞり、声を上げたのを見て、肩を放した。青白い肌に、赤い点が灯る。
「望んで、痛い目を見るのよ」
シンは、僅かに熱っぽい瞳で、
「はい」
と頷いた。

それから、シンが私の部屋に来ると、まず試作品を二人で食べてから、私が奴の体に噛み傷を付ける、という奇妙な習慣が出来た。
噛まれる時、無感情な奴の目に、幽かに温度が生まれる。その度に、私は満たされていくように感じた。
出会ってから初めての春が過ぎた頃、私はふと、シンに訊いた。
「桜のお菓子食べてない」
「俗っぽいから、作らないんです」
格好付けめ。
「でも、節目には必要でしょ。お祝い事とか」
「嫌なものは嫌です」
よそを向くシンの後ろから服をまくり、肩甲骨の辺りを噛んでやった。
普段は素っ気無いシンが、従順になるこの時間は、好きだった。滑らかで冷たい肌は、私の牙には、菓子よりも甘かった。
恋人でも友達でもなく、色っぽい気配も皆無。そんな他人と会うことが楽しみになっているのが、不思議だった。
そんな自分は、初めて見つけた。

シンと出会ってから、二度目の十一月を迎えた頃、私の部屋のドアを開けるなり、突然奴が切り出した。
「もう、来るのをやめます」
菓子包みを提げて、そんなことを言う。
「何で?」
「好きな女の人が出来ました」
「でも、私達は別に……」
「そう、やましいことなどありません。でも、控えるべきだと思うんです。恋をした以上は」
靴も脱がずに、淡々とシンが言う。
「そんなに好きなの」
「その人に出会ってから、死にたくないと思うようになりました」
何だ。私とでは、それは変わらなかったのか。
畜生。
「有難う。あなたが慰めてくれなければ、僕はあの家の中で、きっとばらばらになっていた」
そんなことを言われても、嬉しくない。
私は奴の手を取り、
「噛んでいい? 凄く、深く」
と訊いた。手に傷があれば、調理ができなくなることを知った上で。
けれど奴は、
「いいですよ」
と頷いた。
できるか。ばか。
そしてシンは、最後の菓子の包みをくれた。
「さようなら」
「うん」

ドアが閉まると、部屋を、騒音のような無音が閉ざした。
包みを開けてみる。
桜の練切が入っていた。

十一月だぞ。
季節感はどうした。
ああ、でも、
そう。
これが、私達の節句。

終わらせなければならなかったのは分かる。
でも、恋愛感情も友情もなく、互いに依存し合ったまま、時間ばかりを消費しながら、無味乾燥な季節だけが過ぎるような、醜い関係を終わらせる節目には、こいつは綺麗過ぎるよ。
一度溶け合ってから離れるのは、菓子を黒文字で切るようにはいかないんだぞ。
お前もちゃんと、辛いんだろうな。

日が暮れてから、部屋の外へ出た。
ごみ捨て場へ行くと、明日の朝を待たずに不燃ごみが大量に出されている。
久しぶりに、ごみの間で膝を抱えた。が、疎外感がひどい。
前は、あんなによくなじんだのに。
何だ、私は、ごみではなくなったのか。
夜気に触れた八重歯が冷たい。
甘い桜をかじる。
桜も冷たい。
でも甘い。誰かのように。
夜空を見上げる。
黒い天蓋の中の、青白い星々。
ああ。
誰かを大切にしよう。
それまで、きっと夜空を一人で見上げる度、私が白い肌に刻んだ、いくつもの赤い星を思い出すのだから。
ごみでなくなったのなら、きっとできる。

ああ、さいたのか。


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このストーリーに関するコメント

13/10/31 そらの珊瑚

クナリさん、拝読しました。

ふたりの不思議なちょっとイタイ関係、終わらせることできっとふたりのなかで何かが未来に向かって生まれたんだとおもいました。
セリフのような一人語りが、短いセンテンスを多用することによって効果的に心に響いてくるようでした。素晴らしかったです。

13/11/01 rug-to.

すばらしい。

13/11/01 草愛やし美

クナリさん、拝読しました。

何だか不思議な関係の二人。でもずっといてはいけない?
ゴミでなくなったということは感情も芽生えたということ。人間はであることを考えさせられたのかしら。意味深な二人、これからの二人が少し気になるなあと思っていたら、最後にやられました、余韻があって余計気になりました。

13/11/01 yoshiki

拝読いたしました。

クナリさん的、抒情とでももうしましょうか、それはともかく、人の心(機微、感性)の描き方が巧みで下賤な私なんぞはとうてい描けないなあ… と感じてしまいました。「ああ、さいたのか」が、きいていますね。
ありがとうございました。

13/11/01 クナリ

そらの珊瑚さん>
文字通り、わけのわからない、イタイ関係の二人でございました。
「依存」と、「依存への依存」からなるいびつな関係が、何らかの事故を生じる前に打ち切ったわけです。
一人称のいいところは、こういう言葉遣いで話が構成できるところですね。
書き手としても、楽しく書けた文章でしたッ。

rug-to.さん>
ありがとうございます。
ちょっと変な話なので、あまり評価されないんではないかと思っておりましたので、たいへんうれしいです。

草藍さん>
何の感情の交歓もなく、ただの寄りかかりあいのような関係というのは、ただ続けることには意味がないどころか、毒を生じると思うんですよね。
それでも、寄り添ううちに何らかの感情が生まれてしまうのが人間ですが、それはいい結果にならないことのほうが多いんじゃないかと。
じゃあ自分からやめたれと。
少年が恋をした相手は主人公でした、という展開にしようかとも思ったのですが、登場人物がどうしてもそうなってはくれませんでした…。

OHIMEさん>
変な導入、変な登場人物、変な展開の三拍子であります。
人間の再生、感情の獲得、というテーマは自分の中で普遍的なものなのですが、今回はごみでなくなる形で再生する人間の話でした。
『都市伝説』のときに書いた話とほとんど同じテーマなんですが、まあ自分のようなぶきっちょが全力投球できるテーマなんぞは限られてるわけでして、今回はこんな話です。
無粋とはとんでもない、OHIMEさんはけっこういつも、粋ですよッ。

yoshikiさん>
まず「抒情」の読み方からして自信のない自分などに、お褒めの言葉、ありがとうございます。
そしてぐぐる。
あ、叙情とおなじなのかー。読めてた読めてた。ほ。
下賤さではけっしてどなたにもひけをとらないクナリですが、読む価値のあるものが書けていたのであればうれしいです。
「咲いた」と「(噛み)裂いた」とをかけたことをもっと前面に出そうかとも思ったのですが、作意が見え透くかと思って、最後にぽつりと書きました。<さいたのか
充分見え透いてますか。
こちらこそありがとうございました。

13/11/01 murakami

すばらしい作品ですね。ため息がでてしまいます。
桜の錬切が切なくてよかったです。

13/11/02 クナリ

村上さん>
ありがとうございます。
和菓子、特に練り切りはきれいでとても好きなのですが、もっと心温まる話に登場させてあげられなかったのが申し訳なく(^^;)。
何かを作れて、その何かで気持ちを表現できる人はかっこいいなあと思います。
これからも村上さんにため息をついていただけるよう(?)、がんばりまするッ。

13/11/03 芝原駒

拝読しました。
結末に至るまで静かな展開が心地よい作品でした。趣味で不燃(粗大?)ゴミの中に身を横たえる短大生と、それを見下ろす痩せた高校生男子の出会い、という要素はドラマの始まりを感じずにはいられない魅力的な題材ですね。スイーツを和の物に限定し、主人公が決して甘党というわけでもなく、単にお互いの思うがままに動く二人のありようは、奇妙な関係をよく表していると思いました。

その一方で、二人の出会いから部屋に通うようになるまでがざっくり削られていることが惜しくも感じられました。仮に私が書くとしたら、文字数を割いてでもここを書いたと思ったので、単に個人的なわがままですが。ちなみにクナリさんが改行してからスペースを入れられないのは何か理由があるんでしょうか。

拙いコメントではありますが御容赦ください。

13/11/04 クナリ

芝原駒さん>
ありがとうございます。
変な二人の、変なつながりの話でありました。
少年がこの部屋に通いだすあたりは、全体で書く内容の優先順位をつけていったら「別にいらないかな」と思って書かなかったのですが、読むほうも納得いくような理由をつけて書いていくと、自分の筆力では単に回りくどい言い訳のような文章になってしまうので、控えたというのもあります。
未熟というのは悲しいものです。
改行してからスペースを入れないのは、「なんとなく」です。特に理由はありません。すみません(^^;)。

13/11/07 平塚ライジングバード

クナリ様、拝読しました。

「これは凄い!」とアホみたいに繰り返しながら、一気に二回読みました。
改めて自分には、クナリさんの作品を評するような語彙は無いのだなと、
気付かされます(苦笑)。

登場人物たちの行動理由とか背景とか、そういった一般的な物語の
根幹を成す大部分の要素が完全に抜け落ちていますが、それ故に
行為一つ一つが、描写一つ一つが確かな存在感を持って、物語の中で
息づいていますね。
芸術的なまでの技巧と感性に感服しました。
OHIMEさんもコメントしておりましたが、しばらく余韻に浸りたくなる
作品ですね。

13/11/08 クナリ

平塚さん>
ありがとうございます。
登場人物たちへの付随物を、今ここで出会った彼女たちより
前に起きた物事は、ばっさりとカットしました。
二人の交わり方と、忘れられないであろう別れにのみ
焦点を当てた話ですが、平塚さんに楽しんでいただければ
こちらはたいへん光栄であります。
個人的には、ここのところ、OHIMEさんから強く影響を
受けていると思います。
本家のいいところを、自分なりに消化できていれば
いいのですが。

13/11/09 日向夏のまち

拝読しました。

こういう痛い話、大好物、という言い方もおかしいですが、好きです。
読んでる途中から、なにかこう、掛け値なしで言葉に出来ないモノが渦巻いて来まして。クナリワールドにずるずると引き込まれまして。しかも他の皆さんが言うとおり余韻があるから、暫く出て来られそうに無いと来ました。

全くもう、どうしてくれるんですか……。

これだからクナリさん大好きです。中毒性に近いモノがありますよね。
以前申し上げました通り、感想文は苦手な挙句今回は言葉に出来ないぐるぐるさんが渦巻いておりますので、申し訳ありませんがとてもとても感想など書けたものではありません。
ので、これで失礼いたします。

ありがとうございました。

13/11/10 クナリ

日向夏さん>
ストーリー性については希薄な話なので、皆さんもそうなのですが、日向夏さんも言葉でこの話に感想を言うというのは大変だと思います。
ここがこう、とか、あそこがどう、とかいいづらいですもんね。
にもかかわらずコメントをいただけて、恐縮であります。
クナリ幸せものであります。
クナリワールドは、後ろ向きで、閉鎖的で、ありふれてて、いい加減で、ろくなものではありませんが、楽しんでいただければこれに勝る喜びはありませんッ。
ありがとうございました。





13/11/14 リードマン

拝読しました。
痛い! あまりにも痛い! 形の無いモノが凄く痛い! 全身が震えました! 素晴らしい作品です。・・・なんで日本って一夫一妻なんでしょうか?W

13/11/14 クナリ

リードマンさん>
一夫一婦制は、まあおそらく、昔の権力者さんがその方が国を治めやすいとか民衆をコントロールしやすいとか国体を維持しやすいとか、いろいろあったんでしょうね。
いろいろ痛い話ですが、お褒め頂光栄です、ありがとうございます!



13/11/28 リードマン

ただただ、愛、の一文字に尽きます

13/11/30 クナリ

リードマンさん>
その一文字に終始しようとする中で生まれる不純物が、この世で
起こりうるすべてを生み得るのですね。

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