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呪い貸し屋

13/10/29 コンテスト(テーマ):第四十二回 時空モノガタリ文学賞【 都市伝説 】 コメント:3件 五助 閲覧数:1721

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 古い雑居ビルの地下に、その店はあるという。
 鈴木美保が階段を下りると『呪い貸し屋』と看板があった。
 扉を開けると、ロッカーと机とソファー換気扇が一つ回っているだけの簡素な部屋だった。
「いらっしゃい」
 奥から老婆が現れた。
 腰は曲がり背は低く顔は少し大きい。白髪を後ろに束ね、しわが垂れ下がっている。
「あの」
「さぁ、お座り」
 美保の疑問の声を無視するかのように椅子を勧めた。
「ここは」
 人を呪ってくれるところですか。ともいえず美保は口ごもった。
「ここは呪い貸し屋、呪いを貸す所さ」
「本当にそんなことができるんですか」
「話してごらん。誰をなぜ呪いたいのか」
 老婆は首を伸ばした。
「碕山英子を呪って欲しいんです」
 碕山英子は美保の会社の同僚だ。美保は社員二十人程度の台所用品販売会社の事務をしている。中途採用で同じ年代の英子が入ってきたときは話し相手ができると、うれしかった。だが、その気持ちは長くは続かなかった。英子は美保よりも仕事ができた。女子社員の少ない職場だ。どうしても比べられる。美保がミスをすると英子が出てくる。大丈夫ですかと。ただの嫉妬だと理解している。それでも考えてしまう。彼女がいれば自分はいらない。彼女がいなくなれば自分はいられる。考えてしまう。
 老婆は嬉々とした表情で耳を傾けた。
「後からやってきたのに仕事ができるなんて嫌な話だよねぇ」
 老婆は喉の奥で笑った。
「すいません、こんなことで人を呪うだなんて」
 美保は沈んだ声を出した。自分の考えが浅ましく思えた。
「何を言ってるんだい。何でもいいんだよ。人を呪うのに遠慮なんていらない。理由なんて些細な事さ」
 恐いことをいった。
「いいんですか」
「もちろん。恨み憎しみ妬みに呪いを貸すのが呪い貸し屋。お代はいただくがね」
 老婆は契約書と書かれた紙を出した。良心的な料金とは言い難い額がかかれていたが美保はサインをする気になっていた。自分の話を、身勝手な思いを聞いてくれたことがありがたかったからだ。ただ、一行だけ気になる記述があった。
「ここの、呪いが返ってくるときもある。その際は要連絡とは、どういう意味です」
「呪いの利子みたいなもんだよ。人を呪わば穴二つ、ていうだろ。そん時はぜひ店にきておくれ。後生だからね」
 老婆はもみ手をした。アフターケアも万全と言うことだろうか。
「そうですか。ここにサインすればいいんですね」
 美保は料金を払った。もうここに来ることはない。そう思っていた。

 数日後、美保は、老婆と英子が一緒にいるのを見かけた。老婆が英子に道を聞いているようだった。老婆は去り際に英子の服の袖をなでた。会社に戻り英子とすれ違ったとき英子の体から焦げ臭い匂いがした。
 その三日後、英子は病で会社を休んだ。同僚によると全身にみみず腫れのような症状が現れたそうだ。本当に呪いがあるなんて、解放された気分になった。職場を見渡し、英子が居なくても、たいして変わりないじゃない。そう思った。

 数日後、美保は呪い貸し屋に再び現れた。帽子を目深にかぶっている。
「どういうことよー」
 老婆に向け細い声を出した。
「いらっしゃい」
「どういうことなのよ」  
 美保は帽子を取った。右目周辺が紫色に変色し、皮膚が波打つような、みみず腫れができていた。
「呪いが返ってきたんじゃな」
 老婆は平然と答えた。
「返って」
 美保は契約書を思い出した。呪いが返ってくることもある。そう書かれていた。
「呪いは憎しみに沿って動く、憎しみには他人を憎む気持ちと同時に、他人を憎まなくてはいけない、自分を責める気持ちも同時に存在する」
 穴二つじゃ、老婆は付け加えた。
「何とかしなさいよ。あんたの所為なんでしょ!」
「もちろんだとも、呪いの利息は返してもらう。それが呪い貸し屋だからね」
 老婆が近づいてきた。
「なにをするの」
「もらうよ。あんたの呪い」
 老婆はしわに包まれた指を伸ばし、美保の額に手を当て下におろした。顎先までおろし、何かをつまみ取るような仕草を見せた。
「ふん、こんなもんだろうね」
 老婆の指先で半透明の何かがうねっていた。老婆は皺だらけの唇をさらにすぼめ、その何かを吸い込んだ。
「たべてるの」
 美保は目を見張った。
「とろけるねぇ、じゅひ」
 老婆は唾液を吸い込み笑った。
 美保は顔をなで手鏡を出した。顔の右半分を覆っていた、みみず腫れが消えていた。それと同時に、美保の中で渦巻いていた荒々しい感情がすべて消えていた。
「ありがとう、ありがとうございます」
 頬に涙が伝った。心が晴れ渡り、すべてのものに感謝したい、そんな気分だった。 
「安心おし、磯山英子にかけた呪いはどうやったって解けないからね。ひっひっひ」
 罪悪感が広がった。


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このストーリーに関するコメント

13/10/30 rug-to.

最後の一行、好きですね。
自分でもそう思うだろうなあと思う。

13/11/01 小田イヲリ

ぞくぞくしました。
その罪悪感が自分自身にも呪いをかけて、相手の憎しみも受けるのでしょうね……。
相手にかけられた呪いは、きっと骨の髄まで……。と、思うとすごくこわかったです。

13/11/08 リードマン

あっはっはっはっ!! 罪悪感? あはは、いやいやいや、ザマアミロスッとしたと言う所でしょうにw 
・・・すいませんね、本音が駄々漏れでした。超能力者が依頼主が頂くものというものは金銭以外である事が多いようですね、そう、それは・・・例えば・・・皆様の・・・。。。

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