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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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ガラハウス

13/10/28 コンテスト(テーマ): 第二十回 【 自由投稿スペース 】 コメント:4件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1809

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 当たった!
 仲介の不動産会社から届いた封筒から出てきた当選通知をみるなり、ノッくんはおどりあがった。
 なにせ入居確率千分の一。これまで何十回もの落選をくりかえしてきた彼なので、その喜びもひとしおだった。
 モッくんはさっそく、婚約者のネンちゃんに電話した。電話の向こうでも彼女がおどりあがるのが手にとるようにわかった。
 さっそく二人で、仲介の不動産会社ミナスムにでかけた。
 五十階建て高層ビルの最上階に事務所をかまえるミナスムだったが、高速エレベーターはかれらをわずか十数秒で目的の階に運び上げた。
「ちょっとまえならこの建物も、あたりで一番高かったんだけど、いまじゃまわりは、似たような高層ビルやマンションがびっしり立ち並んでるわ」
 シースルーのエレベーター内から外をながめて、ネンちゃんがいった。
 実際、最近の建築技術の発達はめざましく、たとえ高層ビルでもわずか数か月で立ってしまうのだった。一戸建てそのままを、空中移動させて、数日で購買者の待つ土地に運びこんだという話も、いまではめずらしくない。
「いらっしゃいませ」
 ミナスムの事務所にはいってきたふたりを、ウェアラブルPCメガネ型パソコンをかけた女性が迎えた。典型的な現代女性で、2113年の日本は彼女のようなアンドロイド的無表情をただよわせた女性でみちあふれている。
「ぼくたち、ガラハウスに当選しました」
 こちらは沸騰せんばかりの興奮ぶりでノッくんは、手にした当選通知をさしだした。
「それはおめでとうございます」
 相手はそれだけいうと、事務机からとりだした、小さな金属片を彼に手渡した。それが鍵というもので、今回当選したガラハウスの入り口を開けるためのものだということはノッくんにも理解できた。
「きょうから、住居可能です」
 それだけいうと、もう用はすんだとばかり、女は二人に背をむけた。千分の一の確率で当選したわりには、あまりにあっけない幕切れに、なかば憮然としながらも二人は、それでもきようからガラハウスに住めるのだと思うと、気持ちはいやでも浮かれた。
「ああ、いまから気持ちがわくわくするわ」
 ネンちゃんは落ち着かない様子だった。
「エアタクを拾おう」
 サブウェイの乗り口はまだ先にあった。地に足がつかないのはノッくんもおなじなので、それならいっそ、空中を飛んで行くことにした。
 のっクンはビルとビルの間の空をみあげた。そこには数多くのエアタクが飛び交っていて、こちらが手をひとふりすると、争うように地上にむかって殺到してきた。そのうちの一台に二人はのりこんだ。みるみる高層ビルの窓という窓が下降をはじめ、かれらのエアタクははるか上空に舞い上がっていった。
「どちらまで?」
 運転手にきかれると、ノッくんは得意げに胸をはった。
「ガラハウスまで」
 運転手はびっくりした顔をこちらにむけた。
「まさか、当選者じゃないでしょうね?」
 ノッくんとネンちゃんは、みかわした顔に幸せそうな笑みをうかべた。
「ぼくたち、そのまさかの当選者なんです」
「ええ、ほんとですか!」
 いきなりエアタクが運転手の驚きをあらわしてガクンと上下するのを、二人は心地よく体に感じた。
「きょうから、すむのよ。荷物はあとから、届くわ」
「わたしも、わたしの家内も、あそこにすむのが念願で、もう数えきれないほど抽選ハガキをだしているのですよ。―――よく当たりましたね。へえ。そんな方をお客さんに乗せるとは、きょうはなにかいいことがありそうだ」
 当たったのは後部座席の二人のはずなのに、運転手はまるで自分が当選したように興奮に声をふるわした。きくと、これまでこのエアタクを利用した客のなかにも、抽選に応募したものは少なくなかったが、そのことごとくが落選したと彼は語った。
「これまですんでいた家や高級マンションを売り払ってでもというひとばかりで、いやはやガラハウスの人気はまったく凄じいの一語につきますね」
 運転手は、ガラハウスに当選したということがよほど尊崇の念に値するらしく、目的地についても二人から代金をうけとらなかった。
「えっと、ガラハウスは?」
 この間みにきたときとはちがう方角に降りたために、眼前にたちはだかるデザインの粋をこらした建物にさえぎられて、ネンちゃんはきょろきょろとあたりをみまわした。
 地上以上に高層建築やドームが密集する地下都市の入り口からは、つぎつぎにさまざまな幾何学形態をした乗り物がとびだしてきて、空中に浮かびあがってゆく様子は華麗で、美しい見物だった。それらの光景は、まだ若い二人にとっては、羨望の的であるはずだった。がしかし、ぼくたちはガラハウスに当たったのだ。、ノッくんもネンちゃんも、いまはそんなものをみてもひとつも羨ましいとは思わなかった。
 のしかかるような巨大建築物の間をとおりぬけると、ふいにガラハウスが姿をあらわした。
「出た、出た」
 まるで月でも出たかのようにネンちゃんはいって、目を輝かせた。
 のっクンもまた、ガラハウスの全貌をまのあたりして、しばらく言葉がでなかった。
 それは二階建ての、木造アパートだった。二十部屋あって、どれも四畳半一間で、炊事場、トイレは共同、風呂はなくて入浴は、ちかくのスーパー銭湯まででかけなければならない。
「はやく、はやく」
 ネンちゃんの胸のときめきが、ノッくんにもつたわってきた。二人は狭くて暗い廊下につまづきながら、二階の自分たちの部屋まで上がっていった。
「ここが、わたしたちの部屋よ」
 ちょっと力をこめればはずれてしまいそうなドアのまえで、ネンちゃんは感動に目を潤ませた。
「鍵だ、鍵だ」
 オートロックしかしらないノッくんが、おぼつかなげに鍵穴に鍵をさしこんだ。
 しばらくガチャガチャするうち、ドアは開き、むっとするようなかび臭い空気が二人をみまった。
 腕をひろげれば両側にとどきそうな室内に入った二人の目に、雨のしみが模様をえがく低い天井や、ところどころ崩れた壁がせまってきた。
 窓ががたがたと軋みながら開いた。目の前に巨大ビルの壁がたちはだかっている。太陽光はほとんどさしこまなかった。一日中、室内は薄暗いままだ。
 じめじめとした、ダニやシラミに南京虫、そしてどこかに身をひそめているにちがいないゴキブリたちの巣窟ともいえる室内に、ネンちゃんはまた感動に胸をつまらせた。清潔一点張りの、キラキラとまぶしいガラスにかこまれた部屋しかしらない彼女にとってこの、不衛生きわまりない室内は魅力でいっぱいだった。
「なんてすてきな部屋かしら」
 歓喜のあまり二人は、たがいに手をとりあってその場で飛び跳ねた。
 そのとたん、横からか下からか、
「こら、うるさいぞ!」
 完全防音で、コトリとの音も伝わらない現代の家屋からは想像もつかないその、ほっこりと人のぬくもりを帯びた声に、叱られていながら二人は、いかにもうれしそうに微笑をうかべた。
「きょうからぼくたちは、ガラハウスで暮らすんだ!」
 ノッくんとネンちゃんは窓から首をつきだすと、周囲にびっしりと林立する超高層建築群にむかって、なかば勝ち誇ったようなまなざしをなげかけた。 
 
 


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このストーリーに関するコメント

13/10/29 草愛やし美

W・アーム・スープレックスさん、拝読しました。

ガラハウス、どんなのって思いながら、読み始めました。最後のオチで、えっとなりました。なるほどねえ、ガラハウス、ガラパゴス状態になってしまったこの家、何と貴重なんでしょう。
凄い発想ですね、さすが、スープレクスさんですね。面白かったです、ありがとうございました。

13/10/29 W・アーム・スープレックス

草藍さん、こんばんは。コメントありがとうございます。

ガラハウス―――草藍さんには、わかっていただけると、思っていましたので、なおさらうれしいコメントです。自由スペースには好き勝手なことが書けるので、大変面白いのですが、そのかわり誤字脱字まで好き勝手なのは、本当にアカンと反省しています。

13/11/08 リードマン

拝読しました。
私は未だにガラケーです。w “彼女が夢見た四畳一間”、私の月の女神様の最終宝具であります。時代がかったフォークソングのような生活、貧しいけれど幸せな毎日、相思相愛の先にある、無敵の空間です。

13/11/08 W・アーム・スープレックス

リードマンさん、コメントありがとうございます。

素敵な時代をすごされたのですね。とうぞその想いを大切にこれからもガラ………失礼、フォークソングに歌われているような人間中心の日々を、お歩みください。

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