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リードマンさん

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将来の夢
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彼女と彼と彼の妻3

13/10/21 コンテスト(テーマ):第十九回【 自由投稿スペース 】 コメント:3件 リードマン 閲覧数:1311

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 腹が減った。
 飯が食べたい。
 と、いう訳で、神業ともいえる制服への速着替えを済ませ、手早く三人分の朝食を用意して、
食卓に並べる、と、
「ふぁあ、おはよう、早いのね」
「おはようございます」
「・・・おはよう」
 二人組みが降りてきた。
 ノソノソと席に着くリリスと、サッと座るイヴ。動作一つとっても対照的。
 雷蔵は、まだ寝ているのだろう。あの老人は、午後になるまでは起きて来ないのが自然だ。
 テレビから流れるニュースをBGMに、黙々と食事を続ける三人。
 昨日の事で、彼女の腕前を大いに認めている二人は、カニでも食べているかのように無言。  
 そんな二人を前にして、どうも落ち着かない。
 あまり深く物事を考る方ではない自分が、今朝は珍しく哲学らしきモノをしてしまったせいか、なんというか、目の前のこの二人を、その、巻き込んでしまいたくなる。だってこの二人は、いやアイツを含む三人は、自らの妄想の通りだとするならば、この手の話をするのには、最適な筈なのだ。義務があるだろオイ! みたいな。
 意を決して、声を掛ける。
「・・・あの、さ」
「ん?」
「はい?」
 二人が箸を置いて注目する。
「例えばその、なんというか、デッカイ壁にブチ当たっちゃった時にさ、アンタ達は、一体どうしてるのかなぁ・・・なんて」
「壊すわ」
「壊しますね」
「・・・はい?」
 だから、その即答はなんとかならないのか。自分はその、悔しいが、そんなに速くはないぞ、何がとまでは言わないけれど。それにそんな二人揃って、次はどれにしようかなぁ、なんて、目が食べ物に釘付けじゃん。箸置いてくれたのは、嬉しいんだけどさ。それにしたって、何? それだけ? なら話はもう終わりよね? 食べていい? みたいなのは、ちょっとどうかと思う自分が間違ってるんですか? そうですか。美味しく食べてくれるのは、そりゃ、作った甲斐もあるってもんだし、素直に嬉しいけれどもさ。何、そんなに簡単、つかバカな質問だった訳?
「えっと! じゃあさ! 壊すのがスゴイ難しい、つか壊せない壁だったりしたら? これならどうよ!?」
「壊すわ、壊せない壁なんてないし」
「壊しますね、壊せない壁なんてありませんし」
「・・・」
 相変わらずの即答。
 あ、コイツ等、強者なんだ。
 悩みなんてそんなもの、あった事もないのでしょうね、ええそうですか。オイ、それはアタシの焼き魚だ、狙い澄ますな! じゃなくて。なんか、相談相手を間違えてしまった感はあるけれど、つか、マトモな受け答えしてないよね!? 全部自分の考えの押し付けじゃん!?
て、そうだ、コイツ等ならどうするか、なんて、回りくどい訊き方をしたのは自分の方だった。恥知らず。なんというか、もういいや、バカバカしい。ありがちだよなぁ、相談ネタってこういう帰結、なんて頭の片隅で考えながら、もう、訊くのは止めにした。そうさ! 自分は恥知らずの大バカですからね! なんか、楽になっちゃったし。だから、まぁ折角だから別の、もっと重要な、不安材料を取り除いておきたい。
「・・・アンタ達の旦那、何処に行ったか、心当たりってある? いや、いきなり駆けて行っちゃってそれっきりで・・・」
「学校でしょ」
「学校ですね」
「え? 学校?」
 声を揃え即答され、またしても理解が遅れてしまう。
 あ、言っちゃった。
 ともかく、不安的中、してしまったかもしれない。
「アンタの通ってる、なんだっけ? なんとか高校」
「御国高校みくにこうこうですよ、バカ姉さん」
「そうそこに・・・ってイヴ、アンタねぇ!」
「多少無理があるとは思いますが、今日から光さんも通います。あなたと、同じクラスに」
「ウチに!? アイツが!? え? だって制服とかは?」
 イヴは、噛み付くリリスを、片手だけで抑えている。崩れぬ微笑、迫力がある!
「それも含めて、色々と準備があるんですよ。どうやら、話はもう光さんから聞いているようですね? ガイアであるあなたを警護する為です。不自由な思いをさせてしまうかも知れませんが、我慢してあげて下さい」
「・・・聡いとか、そういう次元じゃないんだね、アンタ達」
 もう、何も驚くまい。
 イヴは、一度身を反らし、つんのめったリリスを、そのまま床へと叩きつける。容赦なし!
「ふがっ!!」
「私達はここに残ります。どうにも、最近は物騒ですからね。雷神に警護は不要だとは思いますが、念の為だとか」
「・・・そう」
 押え付けられているリリスの顔が、段々と、赤から青へと変わっていく。どうも、息が出来ないらしい。ジタバタともがく手足が、段々と、弱く、
「・・・殺す気かっ!!」
「あら、私はいつだってその気ですよ? 姉さん?」
 強引に戒めを解き、立ち上がったリリスは激しく怒っている。
 無視して、さっさと学校に行く事にする。空の食器だけ流しに移し、鞄を持って、部屋を出る、その前に、
「行ってきます」
「ん、気をつけてね」
「はい、行ってらっしゃい」
 返して直ぐに、取っ組み合いを始める姉妹。
 なんだかんだで、仲がいいんだと思う。
 苦笑しながら、家を出た。


 学校までは徒歩で15分程だ。街外れの川近くにある自宅から、市の中央部、駅の直ぐ近くにある校舎までの道を行く。比較的人気のある学校で、千五百人近くいる全校生徒の内、約8割は市外から、電車でわざわざ通ってくる。成績優良者は、都内の幾つかの有名大学へエスカレーター式で合格出来る、という事もあり、勤勉な学生が多く、校風は極々穏やかだ。制服は基本的に自由。高校で指定している制服を着用しても良いのだが、この制服があんまりにも地味で不評な為、ほとんどの生徒は、校則の許す範囲で、思い思いの服装でやって来る。指定制服を身に着けているのは、大地のような、極少数の変わり者だけだ。
 が、しかし! しかしである! 朝の段階で大地が感じていた不吉な予感は、朝のHRの転校生紹介において、見事に的中してしまったのだ。
「闇影 光です! みんな、よろしく!」
 黒板にスラスラと名を書き汚い字だ声高らかに名乗ったこのバカは、なんと、黒スーツ白シャツ黒ネクタイという、例の格好のままだったのである! 繰り返すが、“非人”の装いはほぼ全国民に知れ渡っている。そのおかげで、担任含め、クラス全体ドン引きだ。皆一様に下を向いてしまっている。つか、良く許可したもんだな、この学校。
 可愛そうに、今年着任したばかりの、新米女性教師、新田 巴(にった ともえ)24歳独身は、それでも、懸命に自らの職務を真っ当しようとする。
「・・・えぇっと、少し変わった時期の転校ですが、ご両親の急な転勤の為だそうです」
「そうなんですよ〜いや全く、勝手な両親でして」
 茶番だ。もう耐えられない!
「アンタね! 一体何考えてそんな格好でどうどうと来てくれちゃってんのよ!」
 立ち上がった勇者大地に、この時ばかりは、視線が集まる。
無謀だ! 止めるんだ大神さん!
彼女なら、きっとやってくれる筈だわ!
(あれ? あんなコ、ウチのクラスにいたっけ?)
 クラスメイトの様々な思いを一身に受け、大地、大地に立つ! おそまつ。
「なに考えてって、俺、これしか持ってないんだけど?」
 何をバカな事を、なんて視線をバカから向けられる事程、ムカつく事はない。
「ウチはね! 私服登校だって全然構わないのよ! 無理にそんな制服着てくる必要なんてないの!」
 肩を怒らせ、戦う勇者大地。
 担任含む、クラス全員が真剣に見守る中、光は、
「や、だから、制服も何も、俺、服はこれしか持ってないんだよ。知ってるかもしれないけどね、着用義務もあんの、これ」
 暗黙の了解を平然と確定事項にする大バカ。
「そんな義務初めて知ったわ! つかね、アンタね! 少しは隠そうとか全然全くこれっぽちも思わない訳!?」
 自らの高校生活、始まって以来の大活躍を見せる大地。
 そう、まるでオルレアンの少女のようだ。
 フォロー! ミー! みたいな。
 鎧を身に着けてもいないし、
 大きな旗を振ってもいないが、
 己の使命を果たそうとしている、その姿勢が素晴らしい。
「なんでさ、俺、別にやましい事してないし」 
 シンと静まり帰る教室。
 大地は、全級一致のツッコミを悟る。
 別に、啓示を受けたわけでもないけれど。
「国家的犯罪者の言う事か!!」


 昼休み、自主的に教室を離れ、屋上にやってきた大地は、やたら上機嫌で後からノコノコついて来た、“非人”リーダーに振り返る。彼女の背後が揺れている。凄い殺気だ。
 それに気付かないこのバカは余程鈍感なのか、やっぱりバカなのだろう。
「や〜、どれ位ぶりだろうな、学生生活なんて。やっぱ良いもんだなぁ、うん」
「・・・アンタのせいで」
 自覚の成果か、一瞬でガイア化する大地。余談だが、大地母神の特性によって、彼女の貧相なスタイルも、この時ばかりは無敵になる。ホントに余談。
「アンタのせいで! アタシの高校生活はメチャクチャよ!」
 正中線八段付き(ガイアVer.)をモロに喰らい、声もなく崩れ落ちる犯罪者。
「アタシはただ! 静かに暮らしたいだけなのに!!」
 何処かで聞いたような台詞を絶叫する彼女の肩を、何時の間に起き上がったのか、平穏の破壊者がポンと叩く。
「そんなもんだよ、人生なんて」
 見事過ぎる回し蹴りが後頭部に命中、目標、沈黙。
「アンタって奴は、アンタって奴は・・・」
 よろめきながらも、なんとか立ち上がる人類の祖。
「見事な回し蹴りだ。と、それはともかく」
 一度、頭開いてやろうかと半ば以上本気で考え、我慢する。雷じい、アタシ大人になったよ。
「・・・何よ?」
 ようやく怒りが収まったのか、元の姿へと戻る大地。
「昼飯、喰わなくていいのか?」
 いっつも空回りしている気がするのは、自分だけだろうか?
「・・・はぁ、ホラ」
 言って彼女が投げ渡したのは、弁当箱。
「うわ! なんだなんだ嬉しいな。手作りだよな!? うお! すげぇ!」
「・・・」
 目の前の人物とマトモなコミュニケーションをとる事など、不可能なのだと悟る。悟ったから、まぁ、一緒に昼食を取る事にする。
「うまいうまい! すげぇうまい! 死角ないのなぁ、ホント」
「・・・黙って喰え」
 大地は、殺人的な目付きの悪さを除けば、ほぼ完璧な女性像の具現だ。繰り返してしまえば、彼女の瞳を真っ向から受け止められる者にとって、彼女はまさに理想と言ってもいいのだから。
このネタも随分としつこいが、それほどなのだ。まぁもっとも、今の所そんなのは目の前のバカと、家にいる連中くらいのものだが。
 穏やかに過ぎていく昼休み。
 自らの命が狙われている事など、つい忘れてしまいそうだ。認めたくはないが、このバカが傍にいると、安心出来てしまう。彼に寄り添うあの二人の気持ちも、なんとなく、解るような気も、しないでもなくもないような。
「・・・ははっ!」
「ん? なんだ? 俺の顔に、米でも付いてるか?」
「・・・バ〜カ」
 首を傾げる彼を、軽く小突いて、また笑った。
 凄く、自然で、暖かな時間。


「・・・体育館に行きたい?」
 大地英雄説が本人の預かり知らぬ所で学校中に広まっている中、放課後の2-Aの教室で、大地が怪訝な顔をする。
「そりゃまた、なんで?」
「お前帰宅部だろ? 暇な時間があるなら、有意義に使おうと思ってさ」
 すっかりお前呼ばわりなのは気にしない。
「・・・ふぅん、ま、いいや、付いて来なよ」


 私立御国高校はかなり広い敷地を持っている。全部で5棟ある校舎に、六ヶ所で同時に野球が出来る程のグラウンド、そして、市民全員を収容出来る程の多目的巨大体育館。今更な話だが、実は、この学園の総責任者は雷蔵だったりする。これもまた、大地は知らない事だが。この学園の規格外ぶりは、総責任者あってのものなのである。
「・・・デカいな」
「デカいよね、やっぱり」
 休日には無料解放されたりもするこの体育館は、ちょっとしたアミューズメントパーク級なのだ。さしもの光も、呆然としている。
 そんな体育館の第3運動場は、総畳敷きの柔道場である。先程まで練習をしていた柔道部員の姿は、今は無い。やって来た光が、何を思ったのか、強引に人払いをしてしまったのである。
「危ないからね。他の人達にも、ここには近付かないように言っておいてくれるかな?」
 とか言って、入り口には、『危険! 入るな!』の看板までご丁寧に提げてある。
 何処から取り出したんだか。
 動きやすい格好に、という事だったので、大地はいつものジャージに着替えている。
 光は、いうまでもない。
「・・・何するつもり?」
 完全に二人っきりの状況だったりもするのだが、どうもこれはそういう浮ついた状況でも無さそうだ。
「朝のランニング、禁止にしちゃったからな、その変わりさ。これから、対“狂人”用の模擬戦を行う。最初に断っておくけど、訓練だからといって、命の危険もかなりある。嫌なら止めるけど、どうする?」
 ここまでお膳立てしておいて、止めたければそれでも構わないという。確かコイツ、自分を守る為に来たとか言っていた筈なのに、命の危険を伴う訓練? どうにも掴めないが、目の前のちゃらんぽらんがここまでするという事は、何かしら意味があるのだろう。それに多分、訓練っていうものは多かれ少なかれそういうものなのだろうし。もしもの時には、目の前のバカがなんとかしてくれそうだし、というのは、少し甘え過ぎているか、気合を入れよう!
「おかげさまで人目も気にならないし、どうもアタシの為みたいだし、いいよ、やろう!」   
 瞬時にガイア化する大地。ヤル気十分。
「・・・あ〜えっと、俺、これからなりきっちゃうから、ちょっと引いちゃうかも知んないけど、俺は俺だから、安心してくれ」
「? うん」

「・・・クッ、ハハッ! シャーハァァ!」

 いきなりで、何が起きたのか解らなかった。
 背中に鈍痛、吹き飛ばされた?
「なっ! 何!?」
 腹部、胸部、脚部に鈍痛、遮られる、呼吸。
 怒涛の連撃はしかし、その一つとして捉えきれない。
 頭部にも、一撃、飛びそうになる意識を、無理矢理保たせる。
 気絶すれば、命にかかわると、彼女の本能が告げている。
 これが、訓練?
 バカか、こんなの、実戦以外のなんだっていうんだ?
空中で、いたぶられてるんだ!
「ハッハハハハッ!! ハッハッ!!」
 狂ったような哂い声、そう、コイツは哂ってる。自分をいたぶるのが、心底楽しくて仕方がないと、哂っているのだ。
 誰だ、コイツは?
 一瞬でハイになった思考のせいか、そんな簡単な認識もままならない。
 一つだけ、解る。
 このままでは、自分は、
「ふざっ! けるなっ!」
 掴まえた、どこだか判らないがとにかく掴まえた。
 そのまま、思いっきり叩きつけた。
「ギャヒッ!?」
「ああああああ!!」
 強引に停止させた眼下の男に、空中で加速しながら、襲いかかる。
 その、右拳を先頭に。
「グヒッ!? ガハッ!!」
 今のは、確かに手応えがあった。
 彼女は無意識で行ったのだろうが、今のはあり得ない一撃だ。
 空中で加速?
 どうやって?
 空間でも蹴ったのか?
 だっていうのに、彼女の渾身の一撃だったというのに、相手は圧し掛かったままの彼女をその怪力で振り払い、すぐさまその腕を振りかぶっている。
 その手の先には、真っ黒な霧が視える。
 歪んだ形相が視える。
 なんだ、腹には風穴が空いているじゃないか。
 アタシの手は、血に濡れている?
「ヒッハァアア!!」
「がっ!」
 数瞬とはいえ、棒立ちしていた大地は、その抜き手をモロに受ける。
 今までの比ではない激痛が走る。
 それでも、彼女は、その両手でしっかりと、伸びきった腕を押さえた。 
 停止する、両者。
・・・霧が、燃えている? 
 チロチロと燃える、黒い炎。
 大地は知らないが、英雄カカリビは霧状の炎を纏い、自在に変化させながら戦う無敗の戦士だった。当時の炎は紅蓮。それがどうした、この黒は。それはまるで、地獄の炎。
「オラアアア!!」
 蹴飛ばした。
 大穴の空いた腹ではなく、その胸を、全力で。
「ゲヒッ! ガッ!」   
 吹き飛ばされたケダモノは、そのまま床を転げ回った。
 ヨロリと、立ち上がる。
 それは、最初期の速さが嘘のように遅い。
 形勢は逆転した! 
 神速で肉迫し、トドメの一撃を!
「っ!?」
 おかしい。
 先程まで振りかぶっていた、右腕の感覚が、無い。
 いや、これは、
「うっ! 腕っ!? アアアアアアアア!!」
「シャハハハハハッ!! ハハハッ!」
 大地の右腕は宙を舞っていた。
 肩から両断されたのだ。
 先程まで相手を包んでいた黒霧は全て、長大な黒い焔刃と化している。
 あれでは、間合いも何もない。
 もう一振りされるだけで、自分は死んでしまうだろう。
 
 途端、世界は、色を失った。
 
 死んでしまう? 
 自分が?
「シャッハアアアアア!!」
 ゆっくりと振るわれる、凶刃。

・・・ふざけるな

 空を斬る凶刃。
 大地は、ケダモノの、隙だらけの背後にいた。 
 その、今さっき失われた筈の右腕が、遅すぎる相手の、頭部を捉える。
「・・・ギ?」
「滅びろ」
 陳腐な表現だが、トマトのように飛び散る頭部。
 崩れ落ちる、死体。
 元の姿へと戻る、自分の体。
 終わってようやく、彼女は気付いた。
 自分は今、何をした? 
 自分は、光を!
「ハイ、ストップ」
 何に驚いたって、その一言だけで、落ち着きを取り戻せた事に、何より驚いた。

 気が点くと、彼はそこにいて、

「・・・ちょっと、刺激が強過ぎたかな?」
 腹に大穴が開いた首無し死体は、いつの間にか消えていて、血だらけで放心している自分の真ん前に、闇影 光の、確かな姿がある。
「・・・光!!」
 体が勝手に動いて、目の前の大バカに、つい抱きついてしまう。
 今度こそだ。
 自分は今、何をしている。
 こんな散々な目に遭わされたっていうのに、どうして自分はその元凶の胸で、声を殺して泣いているのだろう?
「・・・ああ、その、ゴメンな?」
 困った様子で頬を掻きながら、何事か言ってる大バカ。
 何を謝っているんだコイツは! 
 これだけの事をしておいて、赦して貰おうだなんて、なんて都合のいい!
「知るか! 責任取って! しばらく泣かせろ!」
「・・・了解」


「おやおや、なんとも、御暑い事で」
 唐突に響く、男の声。
 なんて事だろう、おちおち泣いてもいられないらしい。
「・・・ヤマタか、何しに来やがった?」
 光の声には、隠そうともしない怒気があった。
 コイツは今、自分の為に怒ってくれているんだと、大地は悟る。
「八股だなんて、人聞きの悪い。あなたと違って、僕はエキドナ一筋ですよ」
「取り込み中だ。冗談言いに来たんならサッサと帰れ」
「これは随分と冷たいですね。ねぇ、あなたもそうは思いませんか? ガイアさん?」
「!?」
 驚き、振り向く。
 男は、自分を庇う者と同じ服装をしていた。つまり、
「“非人”!?」
「その通り。僕は、八河 大蛇(やつかわ おろち)。そこの恐い御方の、御仲間です」
「帰れと言った」
「おお恐い」
 言葉と態度はまるで正反対だ。不気味な程の余裕を感じる。一見、美少年と見えなくもない。
そう、少年だ。少なくとも、外見上はそう見えなくもない。だが、どうにも人間だというには、余りに異質。銀の釣り目の瞳孔は縦に割れているし、隠し切れていない牙だって覗いている。その肌も、人肌にしては青ざめすぎている。なにより、その紫の頭髪は、まるで蛇のように、ユラユラと揺れていた。
「今日は、言伝に来たんですよ。伝えるまでは、帰れない」
 聞く限りでは、いかにも申し訳なさそうだが、内心はまるで逆だろう。確認するまでもない。
「“狂人”討伐の勅命が、正式にあなたに下りました。一週間以内に始末せよ、との事です。大変ですね?」
「・・・言われるまでもない。刃は、俺が確かに殺す。そう伝えろ」
「承りました。それでは」
 あっさりと、身を翻す大蛇。
「待て」
「なんです? あれだけ帰れと言っておいて、分からない人ですね」
 ここまで言葉と裏腹な奴もいまい。振り返ったその顔は、予定通りだと言わんばかりだ。
「くさい芝居は止めろ」
 言いながら光は、大地を後ろへと下がらせた。
 その背中が、彼女に動くなとつげている。
「見抜かれましたか。けれどね、あなたは勘違いをしていますよ、“独裁者”。僕は何もあなたと戦いに来た訳じゃない。少しね、お頼みしたい事があっただけです」
 大袈裟に両手を広げ、戦意がない事をアピールする少年。
「?」
「あの老人に伝えて下さい。『明日の正午、御国高校のグラウンドで待っている』とね」
 老人? 解る、コイツ、
「雷じいの事!? アンタ! 雷じいに何するつもりよ!?」
 大地は今にも飛び掛かりそうだ。
「なあに、決闘ですよ。無論、命懸けのね。もっとも、戦闘にすらならないでしょうがね。僕はね、ガイアさん。あの老人がのうのうと生きているのが、どうしても我慢ならないんですよ。僕らを迫害した、あの老人がね!」
 初めて、感情を顕にする大蛇。
「自業自得だろ? 実際、お前ら救いようがなかったんだから」
「何、ただのやつあたりですよ。僕はこれでも平和主義者ですからね。本当なら放って置くつもりでしたが、なんでも、“狂人”が世界を滅ぼしてしまうらしいじゃないですか? その前に、やり残した事をやっておこうと思いましてね」
「全部言い訳だな。白状しろよ、お前も刃と同じだ。負が集まり過ぎてる。元が怪物だからな、抑え切れないんだろ? 向いてなかったんだよ。お前、今日でクビだ」
「それも結構。あなたの仰る通り、このままでは僕は自滅します。その前にかつての、エキドナの無念を晴らしたいんですよ」
 光は、目の前の少年の真意を見抜いている。
 復讐の念に駆り立てられているというのも、嘘ではないのだろうが、少年は、そう、死にたがっている。
 ようするに、道連れか? 
 迷惑極るやつあたりだ。
 まぁ、それでも、
「お前が封じられてる間の悲劇だったからな。確かに、同情出来なくもない。いいぜ、場は整えてやる」
「っ!? 光!?」
 驚愕する大地。
「だがな、一つ条件がある。これが呑めないようなら、この場で、俺がお前を殺す」
「・・・なんです?」
 窺う少年、やはり、戦闘を避けたいというのは本当らしい。
「こちらから、護衛を二人就ける。いいな?」
 二人。あの二人か。大地の内心は穏やかではない。大丈夫なのだろうか? 本当に。
「あなたとそこのお嬢さんでさえなければ構いませんよ。僕も親殺しは、したくはありませんからね」
「?」
 疑問符を浮かべる大地。
「よしっ! 交渉成立だな。約束は守る。今度こそ、帰っていいぜ?」
「それでは失礼します。おっとそれから」
 そこで少年は、なぜか大地に、深く、頭を下げた。
「復活おめでとうございます。お見事でしたよ、母さん」
「っ!?」
 確かに、少年は大地の事を母だと呼んだ。
 そんなバカな! 
 身に覚えなんて一度もないのに!


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このストーリーに関するコメント

13/10/27 リードマン

私は地元の共学の県立高校に通っていたのですが、何を血迷ったのか理系の授業を選択してしまい、1年2年と男子クラスでありました(涙) 3年になってようやくまともなクラスとなるのですが、時既に遅く・・・、しかし1年の頃、数学現国現代社会英語のそれぞれの恩師に出会い、良きライバルや友にも恵まれ、非常に充実した学校生活でありました。・・・もちろん、辛い経験や、度々の失恋、いくらかのトラウマもあったのですがね。中学の物はともかく、高校の物となりますと、アルバムを紐解く事に大変抵抗のある私ですw

13/10/27 リードマン

ちなみに、小学校ではソフトボール、中学校では野球、高校では写真部に所属しておりました。

13/10/27 リードマン

言うまでも無い事なのですが、万年学年最下位だった私は、この時点で進学や就職を諦め、フリーターの道を志そうと思うわけですが、その前に、1年ほどプラプラとしておりまして、その間に、車の免許を取得してしまいました!w いえね、身分証が・・・

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