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かめかめさん

http://ameblo.jp/kamekame1976/ ブログデシセイカツバクロチウ

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たまごのふわふわ ゆでぷりん

13/10/21 コンテスト(テーマ):第四十三回 時空モノガタリ文学賞【 スイーツ 】 コメント:7件 かめかめ 閲覧数:1778

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たまごのふわふわ ゆでぷりん

   材料(2人分)
卵      2個
牛乳   1カップ
砂糖   大さじ1
蜂蜜     適宜

   作り方
1. 卵をよく撹拌し砂糖を混ぜ溶かす
    (泡立てない)
2. 牛乳を小鍋で煮立たせる
3. 牛乳の表面にできた膜を取り除く
4. 鍋肌に添わすように卵液を流しいれ、すぐに蓋をし火を消す
5. 三分待ったら器に取り、蜂蜜をかける


※※※  ※※※  ※※※


私は熱を出しやすい子供だった。
小児喘息を持っていたこともあり、季節の変わり目に、体育会の前日に、プールの授業の後にと、ことあるごとに熱を出した。
そんなことだから熱のつらさには馴れて、まったくへいちゃらだったが、なぜか熱の時には水が飲めなくなってそれだけは困った。
肺からぜいぜいと嫌な音がするまま、だるくて重い体を横たえていると、口の中が渇いて舌が口蓋に張り付いた。苦しくて寝返ると頭の下、氷嚢のなかで溶けた氷がちゃぷんと音を立てた。

「あやちゃん、少しでもいいからお水を飲んでちょうだい」

母が泣きそうな声で懇願しても、私の喉はどうしても水を受け付けなかった。
りんごのすりおろしや、みかんの果汁を舐めるくらいはできて、
少しは楽になったのだが。
しかしそれだけでは熱のために大量に汗をかいた体には、水分の摂取量が足りなかった。脱水症状になって救急病院に搬送されたことも一度ならずある。

母は頭をひねり、私が飲めるものはないか、片っ端から試してくれた。
湯冷ましもダメ。スポーツ飲料もダメ。砂糖水もダメ。塩水もダメ。お味噌汁もお澄ましもダメ。果汁飲料も炭酸飲料もダメ……。
かろうじて、温めた牛乳だけは一口飲めた。
だが、それだけだった。一口以上はどうしても喉を通らないのだった。一口だけではとても充分な水分補給とは言えない。

母はもう一工夫して「たまごのふわふわ ゆでぷりん」を作ってくれた。
ぷりんが大好きな私は、そのネーミングに惹かれ、一口二口飲んだ。
ほんのり甘い玉子のふわふわ加減と蜂蜜の黄金の香りがじんわりとあたたかく、口を、喉を、胃をうるおし、私は一椀のぷりんを飲み干した。
「おかあさん、ぷりんおいしい」
と言う私を、母はうれしそうにほほえんで見つめていた。
胃が温まったためか、そのあとは水がすいすいと飲めるようになり、あっという間に熱は下がった。
それ以来、熱を出すたびに、母はゆでぷりんを作ってくれた。

私が高校生になったころにはすっかり喘息もなりをひそめ、ぷりんの出番はなくなっていった。
それと時を同じくして、母は持病だった心臓病が悪化し、肺水腫で患いついた。
呼吸困難のため24時間酸素マスクをつけたままで、ときおり咳き込んでは鮮やかなピンク色の痰を吐いた。
肺にたまった水は、注射針で抜いても抜いても止め処なく滲み出し、母の呼吸を妨げ続けた。
心臓が弱っているため手術ができないと医師から宣告され、私たち家族は、弱っていく母を、ただ見まもることしかできなかった。

最期の時、私は母のために、たまごのふわふわゆでぷりんを作って口元へ運んだ。酸素マスクを少しだけずらし、一匙のぷりんを口の中に滑り込ませる。
もう何日も水を飲むことさえできず点滴だけで生きていた母が、ゆでぷりんをつるりと飲み込んだ。
ぜいぜいと苦しい息の下、母はまぶしいくらいの笑顔で

「あやちゃん、ぷりんおいしい」

とささやいた。
母のほほえみは棺の中まで、絶えることはなかった。
私は母にウエディングドレス姿を見てもらうことはできなかったが、それよりずっと早く、大人になった姿を見てもらうことができたのだ。



久しぶりに、たまごのふわふわゆでぷりんを作る。
私のために、ではない。
お腹の中のこの子のためだ。
月のようにふくらんだお腹をなでながら語りかける。

早く出ておいで。
産まれておいで。

どんな苦労があっても、おまえが病気になっても、私が守ってあげるから。

つらいときにはふわふわの、ゆでぷりんを作ってあげるから。

そうしていつか大きくなったら、おまえが母さんにぷりんを作ってちょうだいね。

私の声に、お腹の中から小さな小さなノックが返ってきた。


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このストーリーに関するコメント

13/10/21 こぐまじゅんこ

拝読しました。

やさしいお話ですね。
実話かなぁ・・・なんて想像しながら、読みました。

13/10/22 光石七

拝読しました。
お母さんの愛情が詰まったレシピですね。
それを娘が母に食べさせて、今度は自分の子供へ。
受け継がれる母の味、素敵です。
私も作ってみようと思います。

13/10/23 rug-to.

ううむ、いいお話。

心洗われるようでした。ごちそうさまでした。
作ってみようゆでぷりん。

13/10/24 かめかめ

>こぐまじゅんこさん
コメントありがとうございます。
ご想像にお任せします^^

>光石七さん
コメントありがとうございます。
伝統の味は意外と……、ゲフンゲフン。な、なんでもありません。
ぜひお試しください^^

>rug-toさん
コメントありがとうございます。
お粗末さまでした。
ゆでぷりん、半熟がお好きなら早めに蓋を取ってくださいね。

13/11/02 芝原駒

拝読しました。
描写が丁寧で伝えようとする作者様の意志の強さを感じられました。大げさに演技かかった書き方もなく、非常に好感の持てる作品でした。
一方で良い話として終始しているのが勿体無くも感じられ、自分だったら最終段落をどんな風に締め括るか考えても見たのですが、思いつきませんでした。
作者様の次の作品にも期待しています。

13/11/09 かめかめ

>芝原駒さん
コメントありがとうございます。
甘甘なストーリーはお口にあいませんでしたか?

13/11/23 かめかめ

>凪沙薫さん
熱の時に食べたり飲んだりできなくなる子供、多いみたいです。
お母さんの苦労の味、きっと子供の数だけあるのでしょうね〜

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