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猫兵器さん

「猫とアオゾラ」ソラネコ賞の入賞作品が発表されました。36作品、たくさんのご投稿、本当にありがとうございました。 いずれ劣らぬ力作ばかりで、非常に迷いましたが、3作品までという決まりでしたので、あのように選ばせて頂いた次第です。 青海野 灰 様、OHIME 様、そらの珊瑚 様、おめでとうございます。 ソラネコ賞、よろしければお受け取り下さい。 また、全ての投稿者の皆様、読者の皆様にも、心よりお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。

性別 男性
将来の夢 穏やかに、静かに、サボテンみたいに暮らしたい。
座右の銘 質実剛健・人畜無害

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呪いの掌編

13/10/20 コンテスト(テーマ):第四十二回 時空モノガタリ文学賞【 都市伝説 】 コメント:4件 猫兵器 閲覧数:1324

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「見つけたよ」
「ほんと!」
「見る?」
 麻衣子が差し出したスマートフォンの画面に、私は釘づけになった。4インチの液晶には、赤黒い濁った色相だけが表示されている。
 粘性を帯びた液体を思わせる画面をタップすると、そっけない白抜きの文字が映し出された。

【 呪いの掌編 】

「わ、マジだ」
 寒気がした。麻衣子も、私の肩ごしに自分のスマートフォンを覗き込む。
「ね、なかなか凝っているでしょ」
「本物?」
「たぶんね」
「すごい。どこで見つけたの?」
「掲示板にアップされていたのよ。すぐに消されちゃったけど、保存しておいたの」
「やるじゃん」
「まあね」
 夕日が陰影を刻む教室には、私たちの他に誰も残っていなかった。麻衣子の最後の言葉が天井の石膏ボードに吸い込まれると、白々しい沈黙が肩のあたりまで降りてきた。
「読まないの?」
「……読むよ」
 言葉とは裏腹に、私の指は引き攣るように動かない。いざとなると躊躇してしまう。
「怖い?」
「……うん、少し。麻衣子はもう読んだの?」
「読んだよ、昨日」
 麻衣子は私の耳元に、優しい声で囁いた。
「だから、私はもうすぐ死んじゃうの」
 
 読んだら、死ぬ。
 呪いの掌編、という噂話を私たちは耳にした。
 ビデオや画像、メールなどに寄生した呪いの話は幾つも知っていたが、掌編小説を媒介にする呪詛というのは、少しばかり珍しい。
 曰く、読んだ人間は、次の日の晩に発狂して死ぬ。
 それは極めて純度の高い呪いで、一度でも読んでしまうと、もう助かる術はない。身を守るには、ただそれに関わらないでいるしかないという。
 それだけ。
 あまりのそっけなさに、オカルト好きの私たちは逆にリアリティを覚えた。
 時間をかけて問題の『掌編小説』を探した。インターネットで関連のブログや掲示板を片っ端から調べ、オカルトサイトを通じて知り合った同好の士たちに聞いて回った。
 思った以上に情報が集まらなくて、私は少し飽きてしまっていたけど、妙に乗り気の麻衣子が探し続け、昨晩ついに『呪いの掌編』を見つけ出してきたのだ。

 ほっそりとした麻衣子の手が肩に置かれた。びっくりした。いつもの親友のスキンシップなのに、何だか居心地が悪い。身を捩ろうとして、それができないことに気が付いた。麻衣子の手には思った以上に力がこもっていた。
「ま、麻衣子?」
「なあに?」
 聞きなれたはずの麻衣子の声が妙に篭って聞こえる。
 思わず振り返りかけ、止めた。喉から飛び出しかけた悲鳴を必死の思いで飲み込んだ。手の中のスマートフォンに目を落とした。
【 呪いの掌編 】
 心臓が早鐘のように打ち狂った。

 麻衣子のすぐ後ろに誰かいた。

 髪に触れるような位置に、ぴったり寄り添っていた。一瞬だし顔はよく見えなかったけど、直感で分かった。絶対に人間じゃない。
 いつの間にか日は落ちきっていた。とろりとした粘性のある宵闇が教室中に充満した。赤黒い光を灯すスマートフォンの液晶ばかりが明るかった。
 自分と麻衣子の息遣いに、違う誰かのそれが混じっている気がして、頭がおかしくなりそうだった。
「志帆」
 麻衣子の声が、耳元で囁く。
「私だけなんてずるい」
 息が詰まる。
「あんたも読んで」
 これはもう麻衣子じゃない。
 肩に置かれた手を全力で振り払った。逃げようとして、何かに足を取られて派手に転んだ。起き上がれない。痛みからではなく、転んだ拍子に取り落としたスマートフォンが、すぐ目の前に転がっていたからだ。
 赤黒い画面が、触ってもいないのに、勝手にスクロールしていく。
「や、やだ」
 やがて画面に、文章が現れた。

 なんちゃって。

「ちょっと、大丈夫?」
 麻衣子は少し呆れたように、私を助け起こした。
「驚きすぎだよ。でも、私も悪いね。イタズラしてごめん。呪いの掌編なんて、見つからなかったの。それはただのジョークプログラム」
 麻衣子は地面に転がったスマートフォンを指差し、それから少し笑った。
「それにしても、こっちが驚かされちゃったわね。志帆、あんた意外に臆病なんだ」
「……いたずら?」
「そうよ」
 そんなわけあるか。
「あーあ、人のスマホ落としてくれちゃって」
 だって、私はさっきからずっと、麻衣子の後ろにいるそいつと目が合っているんだから。
「―――」
 麻衣子が何か言っている。ぜんぜん聞き取れない。そいつの大きな黒目から目が離せない。息が苦しい。呼吸がでいない。
 麻衣子、あんた、本当は呪いの掌編、読んだでしょ。
 麻衣子がスマートフォンを拾うために屈んだから、そいつの姿がよく見えた。ひどく痩せた女で、顎が外れるくらい大きく口を開けていた。そいつは麻衣子を乗り越えるように私に顔を寄せ、喉の奥から声を絞り出した。

「あたり」


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このストーリーに関するコメント

13/10/21 そらの珊瑚

猫兵器さん 拝読しました。

ホラーで来ましたか!
なんだ、いたすらかって安心させておいて、実は……
(それで終るわけないよな〜っ)ってと思いながら後半を読み進めましたら、最後の言葉、自分が言われているみたいで、ぞっとしました。

13/10/22 草愛やし美

猫兵器さん、このホラーは怖いです。

最後の台詞で私は、ここからε=ε=ε=(/ ̄□)/逃げます。これは読んでいませんからね!! 強調! 絶対読んでないから。

13/10/26 猫兵器

そらの珊瑚様

拙作をお読み頂き、ありがとうございます。
返信が遅くなってしまい、申し訳ございません。
「上げて落とす」はホラーの必殺技だと思っていますが、少し露骨すぎましたでしょうか。
怖い話は大好きなのですが、自分で書くとやはり上手くいかないものですね。反省反省。
読んで頂けて嬉しかったです。

13/10/26 猫兵器

草藍様

拙作をお読み頂き、ありがとうございました。
どうすれば怖いか色々考えすぎて、最後は何が怖いのかよく分からなくなってしまいました。
ちょっと失敗でした。一番悪いのは、怖く書きたい部分とそうでない部分のメリハリが効いていなかったところかなと、改めて読み返して思いました。
それでも怖いと言っていただけて嬉しかったです。
ありがとうござました。

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