1. トップページ
  2. バス停

W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

投稿済みの作品

1

バス停

13/10/20 コンテスト(テーマ):第十九回【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1461

この作品を評価する

 カフェの窓から、通りをへだてた向こうの歩道に、バス亭がみえた。
 いつもこの店でモーニングのトーストを食べながら安子は、バス停で待つ人々を、それとなくながめる習慣がついていた。
 9時30分になるときまって、男女四人がそこに立った。
 一人はランドセルを背負った男の子、サラリーマン風の黒縁メガネの男性がその横にならび、一人分あけてちょっと中年の、髪を亜麻色に染めた、見た目にとても若々しい女性が立ち、最後に女子高校生がいた。かれらのポジションは、安子が窓からながめるようになってから一度も変わったことはない。雨の日も風の日も、好天の日も、かれらはいつも、同じ場所に立っていた。
 その朝安子は、カフェのいつもの窓際の席に腰をおろした。
 カウンターにはすでに三人の客が、彼女同様モーニングサービスをまえにしてすわっている。彼女同様ここで朝の腹ごしらえをして、それぞれの仕事にでかけるのだろう。
 カウンターの端には小型の液晶テレビが掛けられていたが、安子のところにはは声だけしかきこえてこなかった。安子は注文したモーニングがくるまで、その声だけのニュースにいつものように耳をかたむけた。
「今朝未明、―――市のマンション一階で火事があり、逃げおくれた小学4年生の男児が焼死した模様です」
 安子はそのとき、バス停にいつもならいるはずの小学生の姿がみつからないのに気がついた。………でも、まさか。もちろん、これは偶然の一致だと、彼女は自分にいいきかせた。
 翌朝、安子はあのランドル姿の男の子がみたいあまりに、いつもよりはやく、カフェにやってきた。
 しかし、時間がきてもバス停に、やっぱり彼はいなかった。きょうはそして、あの亜麻色の髪の婦人がいなかった。
 テレビのニュースがはじまった。
「―――に住む女性が、会社からの帰宅途中に、うしろからきたバイクにショルダーバックをとられたはずみに転倒し、後頭部を強打して今朝未明に頭がい骨陥没で死亡しました」
 安子は、そのニュースをふりはらうかのように、はげしく首をふった。
 ―――どうしてあの婦人に、そんな事件がふりかかるというの。きっと、きょうは遅出かあるいは体調を崩したかなにかで、家にいるのにちがいないわ。
 だが翌日、やはりあの婦人はバス停にこなかった。
 いまは二人になった男性と女子高校生を、カフェの窓から安子はしばらくのあいだまんじりともせずにながめていた。そうすることによって、明日からもけっして二人がいなくならないようにと、祈るような気持ちをこめながら。
 翌日、まだバス停にだれの姿もないとき、安子はカフェのマスターに、大きな声でいった。
「お願い、テレビのニュースをかけないで」
 気のいいマスターは笑って、すぐにアニメ番組にきりかえた。いっときして来店した二人の常連が、カウンターにつくなり、
「また若い女性が、ストーカーにつけまわされたあげく、ナイフで脇腹を刺されて出血死したんだって」
 安子はそれをきくと、バス停をみるのがこわくなった。しかしみないとよけい恐怖がつのるばかりだったので、勇気をふるいおこして窓の外に目をやった。
 その顔からみるみる血の気がひいたとおもうと、彼女はテーブルにつっぷして泣きだした。
 翌日、バス停に立っているのはあの、黒縁メガネの男性ひとりだけだった。
 彼はその場から、道路をへだてた向かいの、マンションの下に店を開いているカフェをながめた。
 いつもここに立つと、あの右側の窓から毎日のように、ひとりの髪の長い女性が、さりげなくこちらをながめているのに、彼は前から気がついていた。出勤前に、モーニングでも食べているのだろう。たまにちらりと目があったりすると、おはようと彼は胸の中であいさつをした。
 彼はさっきから、その彼女がいるはずの窓に、なんども視線をなげかけていた。
どうして今朝はいないのだろう。休みをとったのだろうか。病気にでもなったのだろうか………。
 いろいろと思い浮かぶ憶測は、なぜか不吉なものばかりだった。
 なに、明日になったら、また元気な顔をあの窓からみせてくれるさ。そうおもいなおして彼は、ポケットラジオにつないだイヤホンを耳につめた。音楽でもきこうと、ダイヤルをまわしていると、いきなりニュースがながれてきた。
 ―――七時三十分ごろ、歩道をあるいていた会社員大峰安子さんに、いきなり普通自動車が衝突し、病院に搬送された大峰さんは30分後に心肺停止で死亡しました。普通自動車のドライバーからは大量のアルコール度が検知され、その場で逮捕されました。
 ………まさか、彼女じゃないよな。漠然とした不安に胸をしめつけられた彼は、もういちどだれもいないカフェの窓をながめた。
 やがて到着したバスにのってからも彼は、いまに彼女があらわれるだろうと、祈るような気持ちでカフェの窓をみつめていた。





コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン