1. トップページ
  2. アクエリアム

世魅さん

蝉は嫌い。でも名前はせみ。

性別 女性
将来の夢 来世は野良猫。人間の近くで自由に生きる。
座右の銘 ふりーだむ

投稿済みの作品

1

アクエリアム

13/10/19 コンテスト(テーマ):第四十一回 時空モノガタリ文学賞【 恋愛 】 コメント:3件 世魅 閲覧数:1143

この作品を評価する

僕はきみのその、真っ白なからだをただ眺めていた。



私は冬が好きなの。と、はにかむきみを見つめる。


今は冬だよ。きみの好きな、冬なんだよ。


僕の吐いた言葉は、白くなって冬の曇天に溶けた。
もうすぐ雪が降るかもね。なんて空を見上げて嬉しそうにする、寒さでうるんだきみの瞳は、僕や空や街の灯りをころころと映し出す。


雪はまだかな。きみの好きな、雪はまだかな。


僕は冷え切った手に暖かな息を吹きかけつつ、灰色に濁った道に視線を落とした。
そしてふと、壊れないようにそっと、僕の隣で楽しそうにしているきみの手を取った。冷たい。きみは僕のほうを見ようともしない。とても冷たい。驚くほど。


でも僕は驚かなかった。分かっていたから。


氷みたいな風が突然、地面に張り付いた雪をまき散らしながら駆けていった。寒かった。とてもとても、寒かった。
その寒さはさっきの突風のせいだけじゃないような気がして、僕は。僕は、きつく目を閉じた。

また、そんな風に顔をしかめて。僕のこめかみに細い指を当てながら、きみが言う。


怒っているのかな。それとも、心配してくれているのかな。


ありがとう、ときみのやわらかな頬をなでると、きみのほおは林檎のように赤く染まる。照れ屋のきみ。愛くるしい。

何気なく触れたきみの長い髪は恐ろしいほど黒くて、僕は思わず手を引っこめた。喉まで絡めとられて、きみの一部になってしまいそうで。


いや、でも。なってしまってもよかったかもな。少し後悔。





ねえ。
きみは僕を見とめて。



私たち、もう――
僕はきみを見つめて。







「僕は、きみが憎いわけじゃない」

もう僕を見とめてくれないきみに。

「僕はきみを愛しているんだよ」

浅はかな僕の、心の底からの愛を。





「僕はただ、きみから離れたくないだけなんだ」
羽根みたいに軽いきみのからだを抱き上げて、僕は足を踏み出した。それとともに、暗い空から真っ白な雪が。

「僕らを祝福してくれているのかな」
小さな瞼を閉じたままのきみに微笑む。

「そんなわけ、ないか」
僕は歩みをゆるめない。雪は空から舞い降り続けて。

ああ、そうか。僕はうつむいてばかりいたから、きみと同じ景色を見ることができなかったのか。
きみに僕の想いが届かなかったのももっともだ。

「僕をあざ笑っているのかもしれないね」
返事はない。








しばらく歩いて、静かにたゆたう池の前で立ち止まる。そして僕は、


「これからもずっと愛していくよ」





力の抜けきったきみを、池の真ん中へと投げこんだ。





「僕のきみが、もう誰の目にも触れないように」


ちっぽけなきみには不釣り合いなほどの大きな水しぶきがあがり、僕の足元まで歪んだ波紋が拡がる。


「僕がずっと、きみを見ていてあげるから」


きみはしばらく水面を漂ったあと、手から足から沈んでいく。


「もう絶対に、離しはしない」


両手に残る、生暖かい甘美な感触を、僕はまだ。





雪に濁った曇り空の下。

まるで綺麗な水槽の中のように澄んだ池の底。

眠りに落ちるように沈んでいくきみ。





「ずっとずっと――僕だけがずっと――愛してあげる」


僕はきみのその、真っ白なからだをただ眺めていた。


















            アクエリアム − 水槽 − すいそう − 水葬



コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

13/10/19 ふぐ屋

世魅 様

拝見させていただきました!!
情景が目に浮かぶというか、主人公のとても深く純粋で、純粋だからこそ歪んでしまった愛情が手に取るように表現されていて、少し恐ろしくも切ない物語だと思いました。
言ってしまえば、死することは究極の愛の証かもしれませんね。
とても素晴らしい作品をありがとうございます!

13/10/20 世魅

ふぐ屋様

情景描写がまだまだ未熟なのですが、そう言っていただけると嬉しいです!
わたしは、純粋な愛と歪んだ愛は表裏一体だと考えています。

コメントありがとうございました!

13/10/25 世魅

凪沙薫様

コメントありがとうございます!
嬉しすぎて手が震えています。

タイトルは特にこだわったので、衝撃を与えることができたなら
成功だと言えますかね。笑

もっとボキャブラリーを増やしたいのが、今後の課題です。

ログイン