1. トップページ
  2. 死者のバス

洞津タケシさん

うろつたけし と言います。本と創作が好きで、妄想少年のまま大人の階段を上った感じです。 少しでも面白い物を書けるように、頑張ります。

性別 男性
将来の夢 すごいけど、アマチュア
座右の銘 半歩でも前に進む。

投稿済みの作品

5

死者のバス

13/10/11 コンテスト(テーマ):第四十二回 時空モノガタリ文学賞【 都市伝説 】 コメント:7件 洞津タケシ 閲覧数:1623

この作品を評価する

深夜バスに、死者のバスが紛れ込んでいる。そんな話を聞いたことがあるだろうか。
これは、友人から聞いた話だ。

彼の先輩が社会人になって間もない頃のこと、初めての繁忙期で終電に乗って帰る日が続いていた。
毎日クタクタになって最寄り駅に降りる。駅前のバスロータリーには、まばらに深夜運行のバスが停車していて、疲れたサラリーマンや学生達を飲み込んでは、身を震わせて走り出す。
本数は少なく、料金は割り増しになるが、20分ほどバスに揺られた郊外にある彼の家に帰るには、欠かせないものだった。
その日は遅れているのか、ロータリーにはまだバスも、並ぶ先客達の姿も無かった。

「今日は座って帰れそうだな」

僅かな優越感に浸って無人のベンチに座ると、静まり返った駅前で1人、彼はうとうととと眠りに落ちた。
どれくらい眠っていたか、物音にふと目を覚ますと、目の前にバスが止まって、すでにかなりの人数が乗っているようだった。

「しまった!寝ちゃったよ!」

せっかく座れるはずだったのに。誰にともない悪態を、とりあえず呑み込む。
乗り遅れたらタクシーだ。心許ない懐事情が、彼を焦らせた。
もつれる足を必死で回転させて、降りる客と入れ違いにバスに飛び乗った。
その瞬間だ、首の裏辺りから背中にかけて、ぬるりとした嫌な感覚があったのは。

「なんだ…?」

顔をしかめるほどの不快感。
それなのに、首を触っても何もない。
確かに、毛の逆立つような、ひやりとしたものが触れた気がしたのだが。
勘違いだろうか。釈然としないまま、空いた席を探して車内を見渡した彼は、ぎょっとした。
バスの座席は、リザーブしてあるように不自然にひとつだけ空いていた。立っている客はない。
異常なのは、座っている乗客達だ。
全員が、青白い顔をして無表情に彼を見ていた。
脳の芯が、凍りついた。

なんだ、なんだこれは。
乗客達は、まんじりともせず、こちらを一斉に見つめている。まるでひとつの生き物のようだ。
あまりの異常さに眠気が吹き飛び、吐き気がした。

「ドア、閉まります。お掴まりください」

運転手の声に続いて、背後でドアがしまる。軋みながら硬く閉ざされたドアの向こうで、先ほど入れ違いに降りた客が立っている。
歩き出すでもなく、ただ立っている。
その輪郭が、ふいに辺りの風景に滲んだ。

おかしい。
そこでようやく、彼は事の不自然に気がついた。

なんであの客は降りたんだ。
ここが始発のバス停なのに。

振り返ると、ひとつだけ空いた座席が、鮮烈に目に飛び込んでくる。その回りで乗客達が薄ら笑いを浮かべて彼を見ていた。

引きずり込まれる。
咄嗟にそう思った。ここにいてはいけない、と。
身に迫る、漠然とした恐怖が全身を這いずり回って、弾けるようにドアに飛び付いた。

「お、降ります!降ろしてくれ!」
「発車しまぁす」

運転手の間延びした声が、冷たい響きとなってバスに染み渡り、応じて車体が震えた。

「開けろ!降ろしてくれ!」

彼は叫びながらドアをメチャクチャに引っ張る。が、分厚い鉄扉であるかのように、びくともしない。
叩いて、蹴飛ばして、涙目になりながら脱出を試みる彼を乗せて、無情にもバスは走り出す。
彼の叫びなど素知らぬ顔で、運転手焦点の定まらない目を正面に向けている。
降りた客の背中が遠ざかる。溶けるように透けて、いまにも消える。
もうだめだ。
そう思った瞬間、携帯電話の着信音で目覚めた。
そう、目覚めたのだ。彼はいまだベンチに座っていた。

「夢?」

なんだ、夢か。
そうとわかれば、目尻に涙まで溜めている自分に笑ってしまう。
まだ猛烈な速度で鳴る心臓と、額の冷や汗もどこか間が抜けている。
息をついて、冷や汗をぬぐった彼の手が、止まった。
顔、顔、顔、顔、顔。
顔である。
バスはまだそこにいた。
窓という窓から、おびただしい数の青白い顔が彼を見下ろしていたのだ。
心臓が鷲掴みにされて、止まったんじゃないかと思った。
いや、本当に止まったかもしれない。
口々になにかを叫ぶ顔をぎゅうぎゅう詰めにして、バスが音もなく走り去るまで。
夢などではない、と、彼は語る。

「いまだに耳から離れないんだ。何がって、声だよ。乗れ、逃げるな、って声がさ」


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

13/10/12 クナリ

徐々に不気味な世界に足を踏み入れたことが明らかになっていく展開がよかったです。
やはり都市伝説は、ホラーがいいですね。

13/10/12 光石七

拝読しました。
これこそまさに都市伝説、というお話ですね。
夢オチで終わるかと思わせてさらに恐怖という展開が素晴らしいです。
大変面白く読ませていただきました。ありがとうございます。

13/10/12 遥原永司

読ませて頂きました。

超正統派なだけに突っ込みようがないなと思いました。
そして怖がりなので真面目に怖かったです。
そんでも怖い話は好きなので、よく読むのですが、これはそういった本に載っていてもおかしくないな話だなと思いました。もし友達と回し読みなんかしたら、あのバスのやつ怖かったよなー、って読み終えた後言ってしまいそうです。それだけおっかなかった。

正直物語の形自体はそう新鮮なものでもないと思うんです。深夜に徘徊するバス、この世のものでない乗客、夢だと思ったら目の前に出現、たくさんの顔、みたいなパターンはよくあります。
なのになぜここまで心を冷やされたのかを考えますと、やはりラストの、
>「いまだに耳から離れないんだ。何がって、声だよ。乗れ、逃げるな、って声がさ」
これにゾッとさせられました。

夢だと思ったら夢じゃなくて改めて発生・・・ではい終わり、というのは本当によくあるオチなのですが、そうした場合は結構ぷっつり終わるのが多いんですよね。でもこの話には更に一押しの「乗れ、逃げるな」があってこれには嫌なパワーを感じました。このパワーの正体は執念ですね。霊たちの執念、情念、それが無差別の怨念となって現われているのだなーというのが伝わってきて、いい意味で嫌な話だなと思いました。

13/10/13 草愛やし美

洞津タケシさん、怖くて、心臓がドキドキしています。

これぞまさしく都市伝説、こらは絶対あるなと信じている私がいます。

主人公のお方、どうかご無事で。過労死なさらないように、お仕事ほどほどにしてくださいと祈ってしまいました。逃れられない過酷な仕事を押し付けられても文句の言えないブラック企業も、世に多くあると聞いています。それが社会で問題視されるようになるのは、誰か社員が過労死してから……。犠牲者は、こんな風に都市伝説のバスに乗せられているのかもしれませんね。
面白くて一気に読みました、ラストまで行く間にどんどん高まるこのドキドキ感素晴らしかったです、ありがとうございました。

13/10/13 洞津タケシ

クナリ様、光石七様、くくる様、草藍様
コメントありがとうございます。
直球ど真ん中を楽しんでいただけたならば、幸いです。
いただいた評価に恐縮しきりですが、もっと面白いものを投稿出来るよう
精進していきます。

ありがとうございました

13/10/15 猫兵器

洞津タケシ様

はじめまして。拝読致しました。
これは怖い。怖いの大好きです。
凄まじい剛速球の「都市伝説」でございました。
死者を運ぶバス。これが電車だったり、エレベーターだったり、比較的よくある題材ではあるのですが、組み立て方が非常に巧みで、先が読めるのに問答無用の恐怖に叩き落とされました。
ひとつだけ残った座席、異様な乗客、開かない扉、そしてホラーにおける必殺技「上げて落とす」がバッチリ決まり、最後の猛烈なオチが最高の形で際立っています。
「世にも奇妙な物語」「ほんとにあった怖い話」あるいは「怪談新耳袋」あたりで実写化して欲しいと、強く思いました。

13/10/15 ふぐ屋

洞津タケシ様

初めまして、拝見させて頂きました!
都市伝説の原点、やはりホラーですね。夢オチかと思いましたが、最後に一つ恐怖を残していて、ぞわっとしてしまいました。
作品自体も非常に読みやすくて、徐々に世界に引き込まれていく感じがたまりませんでした。

ログイン