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リアルコバさん

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外は白い雪の夜

13/10/09 コンテスト(テーマ):第四十一回 時空モノガタリ文学賞【 恋愛 】 コメント:0件 リアルコバ 閲覧数:1459

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 彼女の瞳はまるで少女のように 邪気のない好奇心に溢れていた。 今はその瞳に入り込む光と色が つい先程までいた浦安の夢の国の残像と混ざり合い、時間の流れを遮断しているようにも見える。 高円寺サザンクロス、10人も入れば窮屈であろうその店内は香ばしい焙煎珈琲の匂いがマスターの気分で流されるジャズピアノと溶け合っている事だろう。 蔦に覆われた二階建の建物を早すぎる雪が染め始まっている。 蔦の葉の隙間から漏れる窓の明かりのなか、確かにそんな彼女の視線があった。

 そんな彼女の視線の中には何もないことを確かめるように振り返り重たい木製のドアに手をかける。後ずさりしてもう一度窓の中を遠目に見る。切り取られた写真の様な窓には僕と彼女の温度差を区切る透明であやふやなガラスがはめ込まれ、その向こう側に彼女はいるのだ。僕は自分の住むアパートの家賃より高い駐車場に車を置き店まで5分の道のりで どうやって切り出すか 別れ話を考えあぐねて来た。

 ドアを引く、カランカランカラン カウベルが鳴り珈琲が香り その後にオスカー・ピーターソンのピアノが僕を迎え入れた。窓際の席から彼女の視線と共に。
 木製のドアが軋みながら閉まり暖かな空間に入ると4人の視線が僕に当たる。一人目はマスター「いらっしゃい」顔は知っているが喋った事は無い。いつものように無表情にグラスを磨く。カウンターの奥にからは男女の視線、これは気にするほども無くすぐ外された。最後に彼女の視線に目を合わせる。よほど楽しかったのだろう夢から醒め切れない笑顔で僕を迎える。小さなテーブルには二つの水と彼女の珈琲、「ビール飲む?」僕は首を振る。今夜中に彼女を150Km先まで送り届けようと考えていた。「珈琲を「・・・」マスターは目で注文を受取りネルドリップを用意する。

 彼女は珈琲に口を付け一口飲んでから今日の想い出を語り始める。相変わらず少女の様な笑顔で。白いコーヒーカップに着いたルージュの跡がその笑顔とは対照的に妙に艶めかしくて僕はカップを眺めていた。話題が変わり明後日に迫ったクリスマスの予定を話す彼女を制して僕は「クリスマスは行けない」小さな声でしかしはっきりと言ったつもりだ。マスターが珈琲を置いていく時間が長い沈黙に思えた。「あのさ」「言わないの」諭すように優しい声で彼女は言った。「今日は言わないで欲しいの」少女の笑顔も澄み切った瞳も消されていたが、口調は穏やかで優しかったのだ。

 「いまから甲府に帰らないか 送って行くから」言いだせない言葉を車という小さな空間に移動させれば言える気がした。《ビシャッ》僕の顔面はびしょ濡れになっていた。マスターもカウンターの男女もオスカーのピアノでさえも止まった様に、僕に注目しているのだろう。その中で顔面の水だけがジーンズの上にとめどなく落ちて行く。「言わないでと言ってるでしょう」空にしたグラスを手に持ったまま語気を強めてそれでも低く小さな声で彼女は続けた。「今日は帰らない 明日電車で帰るから送らなくていいよ、クリスマスは楽しみにしてるから」ようやくグラスをテーブルに置き マスターに向かい「すいません、おしぼりを」僕の顔はどんなだったろう。驚きや怒りなどで無く、ただ開いた目が彼女の視線をとらえていた。


 翌日彼女は僕と一緒に満員の通勤電車に乗る。高円寺から新宿まで。新宿で僕も一度降り始発電車の(あずさ)に向かう。「クリスマスには必ず来てね」何事も無かったように屈託なく笑う彼女は綺麗だ。「多分・・・」言葉を濁して彼女を車内へ押し込み少し笑って手を振った。雪は止んでいたが街は白く染まった朝8時、僕たちはとりあえず別れた。


 あれから二十数年の歳月が経ち、高円寺のあの店もなくなった。雪さえもこの東京では降ることがなくなった。恋愛はまるで白い雪のように溶けていくのだろうか。だからこそあの時の雪があんなにも綺麗で、僕の脳裏から彼女の笑顔とともに離れない。愛されていたあの頃と、愛して掴んだ幸せとが、思い出の天秤の上で揺れる。 

《女はふた通りさ 男を縛る強い女と男にすがる弱虫と》そう歌ったのは吉田拓郎であった。私の知っているのは少し違う。《男に尽くす愛すべき女と男を惑わす愛される女》である。そして何時か誰も居なくなり一人ぼっちで最期を迎える人生だ。





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