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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
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阿波踊り幽連

13/10/07 コンテスト(テーマ):第四十二回 時空モノガタリ文学賞【 都市伝説 】 コメント:7件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2139

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 ついに徳島までやってきた。
 最初はユーチューブの動画で見た。阿波踊り。商店街での、練習風景だった。画面から発散される途轍もない迫力に魅せられた。女踊りの華やかさ、男踊りの力強さ。いずれもエネルギッシュで、いつ止むともなく踊りつづけるその熱気がもろに、画面から伝わっててきた。
 たちまち私は阿波踊りの魅力にとりつかれてしまった
 本番で踊る各連のあでやかな姿ももちろんすばらしい見ものだが、私にはそれよりも、商店街を何度も往復しながら練習に汗を流す、私服姿の男女の踊りによりひきつけられた。
 私が今回徳島にきたのもそんな、アーケードで夜、練習に励む踊り手たちをみたいがためだった。
 夕方、旅館の人に教わった練習場になっている商店街へ向かった。ユーチューブで繰り返しみた、阿波踊りの練習風景が目にできるとあって、私の胸は高鳴った。
 ―――私は商店街の入り口にたって、耳をすました。まもなくドクドグトクと、まるで脈拍のようにきこえる太鼓の音色が私をとらえた。
 水の中できくような、くぐもったその音響に戸惑いながら、足を進めているとふいに、なにやら歯のぬけたように店と店の間にぽっかり空いた場所に、十数名の男女が集まっている。三方むきだしの壁に囲まれた中を、ゆっくりと回りつつかれらは、二拍子のリズムで足を踏みだしながら踊っていた。佳境にはいっているとみえ、男も女も、一心不乱に身をおどらせている。しかしこの、いいようのない静けさはなんだろう………。
 ユーチューブでみた踊りとは異なる雰囲気に、奇異なものを感じながらも私は、しばらくみいっているうちに次第に、その幽玄ともいえる静々とした阿波踊りに、いつのまにか魅了されていた。
 ひとりの女性が、踊りから離れてこちらにちかづいてきた。
「ごいっしょに、踊りませんか」
 私ははにかみながら、首をふった。
「経験がないので」
「そんなものなくても―――」
 彼女の、濡れたようなまなざしが、私を強くひきつけた。腕が、ひとりでにあがって、いまにも一歩、踊りのなかにふみだしかけたそのとき、どこかからこれは陽気で、威勢のいいお囃子がきこえてきた。これこそまぎれもなく、阿波踊りを代表する『ぞめき』と呼ばれる調べだった。
 私をみいる女の顔に落胆ともとれる悲しげな表情がよぎり、あとは言葉もなく離れていった。
 商店街の向うから、大勢の踊り手たちがちかづいてくる。独特のふりつけ、特長あるリズムからかれらが、有名連のひとつだと私にもわかった。いまのいままで見ていたあの、なにともしれない連の踊りとは対照的な、躍動的で、活気にみちた踊りこそ、私がこれまでウェブでくりかえしみた阿波踊りにほかならなかった。
 私はふたたび目を、あの静けさに支配された踊りに転じた。と、そこにはもはや一人の踊り手の姿もなく、それどころか、歯が抜けたように開いていた空き地にはいま、シャッターをおろした店舗がうまっているではないか。
「どうかされたのですか? 顔色がわるいでようですけど」
 いまやってきた踊りのコーチらしい女性が、私をみて気遣うようにいった。
「ははは、笑ってください。ここでね、踊っている人たちを、みたような気がして………」
 話したところで、理解されないだろうなと最初からあきらめていた私に、相手は、きゅうに真剣な顔つきになって、
「見られたのですか。それは、幽連といって、阿波踊りを心から愛しながら、不幸にして病や事故で若くして亡くなった男女が、亡霊となってあらわれて、むかし練習場所にしていたここで、踊りに興じるのですわ」
「まさか、そんなことが―――」
「でもあなたは、見られたのでしょう?」
「はい」
「で、踊りに誘われなかったですか?」
「誘われましたけど、踊れないので、断りました」
「ああ、よかった。幽連の誘いに………」
 突然太鼓がドンドンと轟いて、私にはその後の彼女の言葉がよくききとれなかった。聞き返そうすると、彼女はハッとした顔つきになって、
「いえ、なんでもないです。どうぞ私たちの練習を、ゆっくりごらんになってください」
 あわてたように、踊りのなかにまぎれこんでいいた。
 私は胸にもやもやしたものを感じながらも、大迫力で展開するかれらのパワーあふれる練習にたちまち魅せられてしまった。
 気がついたときには、腕が足が、ひとりでに動いて、一度も踊ったことのない阿波踊りを、おどっている私がいた。
 さっきはききとれなかった彼女の言葉がいま、耳の中にはっきりよみがえった。
「幽連の誘いに、一度でものったらあなたは、一生踊りつづけなければならなくなるのです」
 そういえばあのとき、女にうながされて腕をひとふりした。それがわかったときにはすでに、私は踊り三昧の境地にあった。
 
 



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このストーリーに関するコメント

13/10/07 W・アーム・スープレックス

この物語はフィクションです。実際の阿波踊りに『幽連』は存在しません。

13/10/07 こぐまじゅんこ

拝読しました。

なんだか、ぞくっとするお話ですね。
でも、とても面白かったです。

13/10/07 W・アーム・スープレックス

こぐまじゅんこさん、コメントありがとうございました。

私自身最近阿波踊りにはまりましていつか、徳島にいって練習をみたいと思っています。そこでもし幽連にであったら、幸せいっぱいで踊っているかもしれません。

13/10/08 遥原永司

読ませて頂きました。

都市伝説、という括りでも当然差支えないと思いますが、個人的には是非とも怪談と呼ばせてもらいたい、そんな一作でした。
それだけこの国独特の不思議と情緒と恐怖とが、一体となって味わえる、まさに日本の怪談。実に楽しい時を過ごせました。

感想は悪い点も書いてくださいとありますので、一応書いてみますが、個人的にはラストがちょっと気になりました。
最後の踊りのコーチのセリフ、聞き取れなかったままでも良かったのではないかなと。読み手に想像の余地を残すといいますか、その方が余韻が残る場合もあると思います。
とはいえ、はっきり書いてくれないと嫌だという人もいると思いますので、ここはあくまでも作者様の判断に依るところでしょうね。とりあえずの参考程度に受け取ってもらえれば幸いです。

13/10/08 W・アーム・スープレックス

くくるさん、はじめまして。コメントありがとうございます。

そうですね。怪談と呼んでもおかしくないですね。私は怪談が好きなので、むしろうれしいです。読み手に想像の予知を残すというのも、大切なことだと思います。そのような方法も今後の課題とさせていただきます。楽しんでいただけてなによりです。

13/10/12 名無

踊りのもつ独特の熱気と雰囲気のなかで、幽連の存在が異彩を放っていて魅力的でした。
怖い話の筈なのに、阿波踊りの魅力をより引き立てていて面白かったです。

13/10/12 W・アーム・スープレックス

名無さん、こんにちは。コメントありがとうございます。

阿波踊りの魅力をより引き立てていて―――まさにそのことを言いたかったので、よくくみ取っていただけたと喜んでいます。もし時間があったらユーチューブで阿波踊りの練習風景(特に阿呆連のもの)をのぞいてみてください。作品であらわしたかった熱気と迫力が伝わってくるものと思います。
個人的な好みをもちだしてごめんなさい。名無さんの次回作、期待しています。

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