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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

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第2巻 『これでもか物語 in 歯医者』(メキシコの巻)

13/10/02 コンテスト(テーマ):第十八回【 自由投稿スペース 】 コメント:2件 鮎風 遊 閲覧数:1606

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「ブゥエノス・タルデス」(こんにちは)
 高見沢一郎は今日オフィスの近くの歯医者の門を叩いた。
 実は日本で治療してきた奥歯のクラウン(かぶせ)が、二、三日前に外れてしまったのだ。そして、奥歯にごっぽりと穴が空いてしまっている。
 さほど痛みはないが、食事にはまことに不都合。クラウンを早く被せ直したい。
 そう思って、高見沢はメキシコ人のマネ−ジャ−に相談を持ち掛けた。すると、オフィスの近くの歯医者を紹介してくれたのだ。

 高見沢は今、南カリフォルニアのメキシコ側の国境の町・メヒカリのオフィスに駐在員として勤務している。
 メヒカリは南カリフォルニアの内陸部の砂漠地域に位置し、アメリカ国境に接している町。
 夏の気温は摂氏五〇度近くにも上昇する。そんな暑くて乾燥した灼熱の町なのだ。 
 こんな暑い町には悪いヤツは住めず、みんな逃げ出して行く。残っている者はみんな良い人間で、気のいいヤツばかりだと現地の人たちは自慢気に話す。
 そんな町の一つの特徴は、デンティストの看板がそこらじゅうに揚がっていることだ。どうも歯科免許は売買され、お金で免許証を買えば、誰でも歯医者になれるというもっぱらの噂。
 そんな状況でも、治療がすぐ出来て、手っ取り早い歯医者をということで、高見沢は自分で探してみた。だがたくさんあり過ぎて、どれがどれだかよくわからない。そこで仲の良い現地マネ−ジャ−に紹介してもらった。

 高見沢が「ブゥエノス・タルデス」(こんにちは)と言って歯医者に入っていくと、受付から年の頃は三〇歳前の妖艶な女性が現れ出てきた。
「スゴイ色気のある人だなあ。なんでこんなところにこんな美人がいるのだろうか? 掃き溜めに鶴とはこの事か。やっぱりこの地域はベッピンさんの宝庫なんだなあ」
 高見沢がこんな感心をしていると、ドクトルが満面の笑みを浮かべながら現れた。
 ドクトルは高見沢と同年輩のようだ。
 しかし、どう見ても歯医者さんらしくない風貌。どことなくヤクザっぽい感じなのだ。
「ミ・アミゴ!」
 ドクトルは高見沢を見るなりそう叫んで、ニコニコと人なつっこく寄ってくる。そして「アキ、ツカサ」とまで言ってくれている。
 これはこの地域の人たちの挨拶の定番セリフ。まずは相手を「私の大事な友達」と位置付け、そして「ここはあなたの家ですよ、だからリラックスして下さい」という歓迎の意思表示なのだ。
 高見沢はこれに対して、まずは「ムーチョ・グラシアス」(めっちゃありがとう)と返した。そして、「ジョ・テンゴ・ウン・プロブレマ」(ちょっと問題がありまして)と言って、持って来た金のクラウン(かぶせ)をドクトルに見せた。さらに、「これを填め直して欲しい」とドクトルに伝えた。
「ノー・プロブレマ!」
 日本語で言えば、「問題ない、私に任せなさい」という感じ。ドクトルからはえらく自信満々に、そして明るく返事があった。
 高見沢は「大丈夫かな?」と疑いながら、言われるままに治療室へと入って行ったのだ。
 しかし、治療室に入るなり高見沢はびっくりする。部屋には治療のための椅子が一つポツンと真中にあるだけ。それはどう見ても床屋の焦げ茶色の椅子。
 こんな情景、そう言えば、……。高見沢は幼い頃を思い出した。

 あれは随分と昔の事だった。
 田舎でおばあちゃんに連れられて、初めて虫歯の治療に歯医者さんに行った。
 それは夏休みの出来事だった。
 当時はク−ラ−もなく、診療室は暑かった。そしてその真ん中に、ぽつりと焦げ茶色の古びた椅子が一つあった。
 まさに時計の針を巻き戻したかのようなもの。その昔の情景、そのままなのだ。

「ふうん、なんとも言えないなあ。それにしても、なつかしいなあ」
 高見沢は妙に感心している。
 するとそんな時に、妖艶な受付嬢が突然現れ、近寄ってくる。そして高見沢を椅子に座らせてくれたり、前かけをしてくれたりする。
 これはどうも受付嬢が歯科助手への緊急的変身なのだろうか。しかしこの女性、妖し過ぎる。
 高見沢はあまりのあだっぽさになんとなくおかしいなあと思いながら、ドクトルの顔を覗き込んでみる。するとドクトルはニヤニヤッと笑っている。
 高見沢はそっと小指を立ててみる。ドクトルはまたニヤリと笑う。どうも小指の意味が通じているらしい。そして高見沢は、ドクトルがそばに来た時に、小さな声で聞いてみる。
「ラ・ノビア?」(恋人か?)
 ドクトルはヤクザっぽい割にはどうも照れている。メキシコ人らしくない。
「ツ・ノビア・エス・ム−チョ・ボニ−タ!」(お前の恋人、めっちゃベッピンだよ!)
 高見沢がそう持ち上げてやると、ドクトルは無邪気に喜んでる。
 しかし、高見沢はこんなドクトルが羨ましく、「クッソー! この色気のあるお姉さんは、おまえの女かよ。女に自分の助手をやらせて……、チェッ、人生、ホント気楽にやってやがんの」と頭にきた。
 高見沢がこんな事を思っている内に、いよいよ治療へと入って行く。ドクトルはすぐに研磨に取り掛かってきた。
 しかし、高見沢は研磨をしてもらっていて、どうもおかしいなあと感じ出す。なんとなく口からきな臭い匂いが出てきているのだ。
「ウン・モ−メンティ−ト。ネセシト・アグア」(ちょっと待ってよ、水がいるんじゃない)
 まずはそう訴えてみた。
 そうなのだ。研磨には冷却水がいるというのが、歯医者さんの常識ではなかろうか。
 ドクトルはハッと気付き、「わかった」というようなそぶりで水を歯にかけ出した。
 水をかけては研磨……、研磨しては水をかけるという具合にだ。 
「おいおいおい、研磨した後に急に水をかけたら、歯が冷却割れするじゃん」
 高見沢はそう思いながら我慢していた。しかし、その内にどうも口の中で、時々火花が飛んでいるようだ。
「もう止めてくれ!」
 高見沢はとにかくそう叫びたかった。
「親からもらった二つとない大事な歯、それを火花が飛ぶほど研磨して、その摩擦熱一杯の歯に水ぶっかけたら、歯が割れてしまうだろうが。だいたい水をかけながら研磨するのが常識だよ! 同時進行でないと駄目なんだよ!」
 ドクトルは高見沢のそんな怒りに気付いたのか、モゴモゴと一応反応する。だが結局は、「ノ−・プロブレマ」(問題なし)の一点張りなのだ。
 やっと研磨が終わり、今度はクラウンを被せる段に入った。しかしドクトルは、高見沢が手渡した金のクラウン、それではうまく装着できないと言い出す。
「一週間でクラウンを調整しておくから、……、待ってくれ」
 ドクトルから要望があった。
「まあ、ドクトルが言うのであれば仕方がないか」
 高見沢はその日の治療をそこまでとして帰った。

 一週間後、高見沢は、四海兄弟を地で行くヤクザっぽいが人なつっこいドクトル、そして妖艶な歯科助手、この二人に再会するのが面白そうで、懲りずに訪ねて行く。
 その上に、ドクトルに手渡した金のクラウンがどうなっているのかも気に掛かる。
 高見沢がドアを開け、「ブゥエノス・タルデス」(こんにちは)と声を掛けると、あの艶々のベッピンさんがまたまた現れ出てきた。
 今日はスケスケルックで……、よりセクシー。高見沢を愛想良く、そしてねっちりと迎えてくれた。その後、いつの間にか古い友達のようになってしまったドクトルに再会した。そしてドクトルは、早速修理したという金のクラウンを見せてくれたのだ。
「ええっ!」
 高見沢はそれを見るなり自分の目を疑った。
 クラウンが……えらく薄っぺらになってしまっているのだ。先週手渡した時は、もう少し厚みがあったようにも思う。
 それに、どうも色調が……、金色から色あせた色に、そう、それは真鋳色に変わってしまっているようにも見える。
「ケパソ?」(どうしたんだよ?)
 高見沢はメキシコ人がこよなく愛する言葉、ケパソ、関西弁で言えば、「どないやねん?」とドクトルを問い詰めた。
 するとドクトルから、「これくらいの厚みの方が歯にしっくりくるよ。それに、硬度も上げておいたから」と、もっともらしい返事が返ってきた。
 一方、妖艶な歯科助手はというと、指に一杯のゴ−ルドの指輪をはめ込んで、ドクトルの背後から高見沢に嬉しそうに微笑んでくるではないか。
 高見沢はその指輪を見ながら、「あ〜あ、金のクラウンが指輪に。シャ−ナイなあ。その成分の変わった、硬い真鍮のクラウンを填めてくれ」とドクトルに渋々告げた。
 しかし、やっぱり現実には硬過ぎて、そのクラウンはしっくりこなかった。だが高見沢は不思議に、そんなに不満ではなかった。
 こうして治療はとりあえず終わったのだ。

「トドス、ラクゥエンタ?」(全部で、いくら?)
 高見沢は頃合いを見計らって勘定を聞いてみた。するとドクトルから信じられない言葉が返ってくる。
「いくらにしようか?」
 高見沢はこれを聞いて呆れてしまった。とにかく歯医者さんに行って、今までこんなアホな質問をされたことがない。初めてだ。
「いくらにしようかって聞かれてもなあ、困るよなあ」
 高見沢はそう呟き、あとは「う−ん」と呻きながら沈黙してしまう。しかしドクトルの方から、さらに意見が求められる。
「普通、世間では……、いくらくらいなの?」
「そんな事、突然聞かれても、歯医者の相場なんてわからないしなあ」
 高見沢は一旦迷った。しかしハズミで、適当に口走ってしまう。
「 USドルで、丸く、一〇〇ドルでどうだろうか?」
 ドクトルはこの高見沢の提案を聞いて、間髪入れずに大声で、「ノ−・プロブレマ!」(問題なし!)と一発合意。
 それはまことに簡単な値決めだった。
 高見沢がドクトルに一〇〇ドルを渡すと、堅い握手が求められてきた。そしてそれに応えながら、「そうだ、治療費を会社請求するから、レシ−トが要るよな」と思い出した。
「レシボ・ポルハボ−ル」(領収書を下さい)
 高見沢はドクトルに要求した。ドクトルはこれにも気前良く、「ノ−・プロブレマ!」(問題なし!)
 ドクトルはその辺にあるクチャクチャのメモ用紙をビリっと破る。そして出の悪くなったボ−ルペンで一〇〇US$と書き、サインをして、高見沢に手渡してくれた。
 高見沢はまたまたこれにも正直驚いた。
「勘定は、完璧に丸い数字。それに、このクチャクチャの紙っ切れが領収書かよ」
 しかし高見沢は、こんな自由奔放なやりとり、そしてそのいい加減さにメチャクチャ感動をしてしまう。
 世界は実に広い。だが、これほどまでに大雑把のところは世界中のどこにもない。
「こんなメキシコが、最高に愉快で面白いなあ」
 高見沢は思わずそう呟いてしまった。
 まさに愛すべきメキシコ。そして、自然と高見沢の口をついて出てくるのだった。
「ビバビバ、メヒコ!」 (メキシコ、万歳!)


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このストーリーに関するコメント

13/10/03 泡沫恋歌

鮎風さん、拝読しました。

こういう作品は海外生活の長い鮎風さんがから書けるんだと羨ましく思いました。

大雑把なメキシコ人の気質が良く分かって面白かったです(笑)

13/10/11 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

コメント、ありがとうございます。

メキシコの人たち、最高に面白いですよ。
言ってみれば、浪花節の世界ですね。

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