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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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響き童子  後編

13/09/30 コンテスト(テーマ):第十八回【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1543

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 烏がいやに騒ぐのに、山寺の住職はなにごとかと、裏庭の障子をあけた。
 すでに色づきはじめた柿の実がたわわにみのる木の下を、なにかが動いていた。
 夕暮れ時の赤々とした陽ざしの中に目をこらした住職は、その生き物が、絶え間なく湧き出す泉のように、体の表面を内側から繰り返し開くようにしながら、移動しているのをみた。
 開くたびに色が変化するので、全身に異様なまだら模様がひろがった。修行の成果かあるいは茫然自失のあまり煩悩まで喪失してしまったのか住職は、なんとか平常心を保ちながら、ゆっくりと庭をよこぎってゆくその奇怪な生き物の様子をみまもっていた。
 そのときふいに、茂みの影から小鹿があらわれた。と、生き物の一端がするするとのびたと思うと、蛇のようにうねって小鹿の背中にその先がべたりとはりついた。小鹿はびっくりしたように高々ととびあがり、宙で体を激しく痙攣させ、地面に横倒しに落下したきり、あとはピクリとも動かなくなった。
 住職はそのとき、小鹿にふれた生き物の先端が、灼熱したように赤く変色するのをみて、そこにはげしい憎悪に似た感情をよみとった。あの生き物がふれるどんなものも、たとえ人間といえども、いまの小鹿と同じ運命にみまわれることを住職は一瞬にしてさとった。
 彼は縁側にたちつくすと、いつのまにか日も落ちて、黒々とした影がひろがる庭に目をやった。
 と、その闇を透かして境内のむこうに横たわるなだらかな里山に、ちいさな、赤いかたまりがぽつぽつと浮かびあがるのがみえた。それが村人たちの掲げる松明の明かりだとわかるのに手間はかからなかった。松明は次第に数をましていきそのうち、何十という明かりが列をつくりはじめた。
 その松明の列がきゅうに、線香花火が最後にひときわ火花を散らすように、大きく乱れたかとおもうと、にわかにひとつどころに固まるのがみえた。かれらはなにかを見、はげしく動揺し、そしてひとかたまりになってその脅威と戦おうとしている。住職は、たったいま目撃した、得体のしれない生き物にふれた鹿の運命をおもいおこした。
「いかん、攻撃しては危険だ」
 住職は顔色をかえるなり、表に走った。だが、ふだんの運動不足と影にかくれての美食がたたって、足がみだれ、ころんだ拍子におちていた石に額をぶつけて、あえなく気を失ってしまった。

 掲げた松明から落ちる火の粉を頭からかぶりながら村の若者たちは、手に斧や山刀を握りしめ、血気にはやった顔を、暗がりの中に赤黒く浮かびあがらせた。
 山寺の住職の推察どおり、かれらはたったいま、寺の方からやってきた物の怪の姿を目撃していた。だれもがそれを、捨吉の変身した姿だとわかってはいたが、だれもそのことを口にすることなくただ、夜な夜な跳梁する妖怪変化とのレッテルを貼りつけた。かれらはみた。もののけが通りすぎたあとに、夥しい動物たちの死骸がよこたわるのを。沼には無数の魚が浮かび道々に、野良犬が、キツネが、馬が、牛が、無残な姿をさらした。いずれ人間に類が及ぶのは、時間の問題だとだれもがおもった。
もはや猶予はなかった。若者たちは、物の怪狩りに立ちあがった。あれは捨吉なんかじゃない。おらたちは、村に災いをもたらす物の怪を退治するのだ。
 ひとり猛反対したものがいた。修験者貧鈍坊は、かれを刺激してはいけない。たちむかえばかならず犠牲者がでる。おもいだせ。あの闘犬鉄丸の、こまぎれにされた死骸を。と声をかぎりにみんなを説得した。
 だが村人たちは、そんな貧鈍坊に耳を貸そうとはしなかった。
 貧鈍坊は目にみえて落胆した。もちろん、村人たちの身を案じたのは本心だったが、彼にはそれよりも、捨吉に殺人をおかさせたくなかった。いくら発作で乱心しているとはいえ、ひと一人殺したら最後彼には、生涯殺人者の焼き印が押されるのだ。
 村人たちをただおどろかせるだけの存在だったころなら、周囲もまだ、捨吉にたいして同情的だった。鉄丸の事件があってからは若干、風当りが強くなったことはたしかだが、まだそれでも、だれも本気で捨吉を倒せなどとはいわなかった。
 こうなったのも、なかばは捨吉に責任があった。キツネやタヌキならまだしも、村人たちにとって大切な家畜まで殺しはじめたのだから。
 三日前、夜中に突然変貌をとげた捨吉は、いつもの発作のようにすぐもとにもどることなく、いやますますその姿を怪物のほうに傾倒させながら、村の中を跳梁跋扈していた。いつ人死にがでてもおかしくない剣呑な空気が村中にはびこっていた。
 修験者は、物の怪を追ってかけまわる若者たちをつかまえては、説得した。
「捨吉をいたずらに刺激してはいけない。静かに見守るんだ。そのうちかれも、もとの人間に必ずもどるから」
 若者のひとりは、怒気あらくいいかえした。
「修験者さん、なにをたわけたことをいってるんだ。黙ってみていたら、つぎつぎに家畜たちがころされてゆく。そしてそのうち、人間がころされるんだ。あれはもう捨吉なんかじゃない。おそろしく邪悪な怪物なんだ。ほっておいたら、村が全滅してしまう」
 若者たちは完全に、頭に血がのぼっていた。もはやこちらがなにをいっても、聴くような状態ではない。貧鈍坊はそれをさとると、黙って足をかえした。
 その彼に、お杏が声をかけた。
「だめだったようですね」
 お杏と修験者は、あれ以来どちらも意識してちかづかないようにしていた。今回の出来事がもちあがってからというもの貧鈍坊は、もはやそれどころではなくなっていた。
「ああ。若者たちの激情をしずめることは、尋常なことではできそうにない」
 いいながら彼が、お杏のほうをみると彼女は、サッと視線をそらす。
「あたしもこの三日、ずっと弟を探しつづけていました」
「神出鬼没だからな」
「いつ、村の人が殺されたという報せを耳にするのではと、はらはらしっぱなしです」
「わたしもそれが心配でならない。そうならないまえに、なんとか探しだしてやりたい」
 ふたりはそして、じぶんたちで捨吉の捜索をつづけているうち、里山の下にあつまる若者たちをみて、いそいでかけつけてきた。

 何十という松明が、ぐるりと円を描くなかに、なにやら黒く巨大なものがたちはだかっていた。松明の炎に浮かびあがるその姿を伝えるには、よほど筆のたつ、描写に秀でた者の手にでもかからないことには到底、書き表せるものではなかった。
 ただひとり、怪物をとりこむ人々の背後に立つお杏だけは、なにか胸の奥底に痛い疼きのようなものを感じていた。彼女はすぐ、あの夜の貧鈍坊との経緯におもいいたった。取り乱したじぶんの、抑制のきかなくなった激情………それがいま、あの火の中で形を得て、さらにはげしく、怒り狂っていた。
 お杏はようやく、捨吉のいまの変貌の原因を理解した。
「あれは、わたし、あれはわたし………」
 声をはりあげくりかえす彼女の肩に、そばから貧鈍坊がやさしく手を当てた。
「いま目の前にある現実をみるんだ。これから、どうするか、大切なのは、それだ」
 だれかがいきなり騒ぎだした。
「茂作がやられた。おらはみた、物の怪が茂作の体をつるしあげるのを」
 矢太という男が、わめくようにいった。みんなは、草むらの上にあおむけにたおれている茂作の姿をみた。いったいいつ、彼がやられたのか、だれもしらなかった。
 仲間がやられたことにより、かれらの敵愾心は倍増した。棒が、石が、松明が、物の怪にむかって投げつけられた。
 ひとり貧鈍坊は、倒れた茂作のうえにしゃがみこみ、こと切れた若者の体を仔細にしらべはじめた。
 まもなくお杏のところにもどってきた修験者は、あいまいながら首をふった。
「どうもおかしい。茂作の首すじに、縄の後が赤くのこっている。だれかが彼の首をしめたのではないだろうか」
「え、というと………」
 お杏も、ぴんときたらしかった。つまり、物の怪の仕業にみせかけるために、だれかが茂作を殺したのだ。そしてそのだれかというのが、もののけが茂作を殺すところをみたといった矢太のほかにはありえない。
「あたしが、捨吉をなだめてみる」
 いきなり前にふみだそうとするお杏を、貧鈍坊はひきとめた。
「捨吉は混乱している。たとえ姉でも、もはやみさかいがつかないかもしれん」
「でもいい。捨吉がああなったのは、あたしのせいよ」
 そういうお杏を、貧鈍坊は無言でみつめた。彼の中にもまた、三日前の夜中のできごとがよみがえった。男とし生きてきたお杏があの瞬間、煮えたぎるような女の感情をむきだしにしてじぶんに迫ってきた。それを邪険に拒んだとき、彼女の中にすさまじい怒りがほとばしった。そばからその様子をみまもっていた捨吉に、その炎と化した彼女の激情が、燃えうつった。たちまち捨吉は響いてしまい、彼じしんどうすることもできない怪物に変化してしまったのだ。
「責任は、わたしのほうにこそある」
 悲痛な調子で修験者はいった。
 猛り狂う若者たちの、いっそうはげしい石や棒での攻撃はつづいていた。下草が燃えひろがり、あたりはさながら火の海となり、しだいに、その炎のわのまんなかにいる物の怪のほうにせまりつつあった。
 物の怪のその体の表面はいまもはげしくなみうち、変化をつづけていた。その体がとりかえしのつかない、狂暴なものに変化するのに、あとわずかな刺激で事足りるように修験者にはおもえた。そうなったら、もはや捨吉は二度ともとの人間にもどることができなくなり、歯止めのきかなくなった彼の感情が、人間の殺戮にかりたてることは確実のように思えた。
 重々しい雷鳴が暗い森の中に鳴り響いた。
 繁みをつらぬいて稲光がきらめき、物の怪とそれをとりかこむ若者たちを一瞬、その場に陶器の人形のように浮かび上がらせた。
 突然、ものすごい雷鳴がとどろき、すぐそばの木の上が火花をちらして裂け落ち、下にいたひとりの若者に直撃した。
 まえのめりに倒れた若者に、まわりからみんながかけつけた。
「矢太!」
 落雷にやられたのをみているはずなのにみんなは、あたかもそれが物の怪の仕業でもあるかのように、いままたはげしい怒りをつのらせて、斧を、棒を、山刀をふりかざして物の怪に迫った。
 そんな若者のあいだから、ひとりお杏がとびだした。
 怒りに血迷った若者たちは、もはやそれがお杏とのみさかいもつかず、いっせいに襲いかかろうとした。
 物の怪の体がこわばり、とげとげしさをまして、若者たちのほうにみるみるのびはじめたのはそのときだった。内側からもりあがってきた目が、殺気をはらんでぎらついた。
 なにものかが猛烈な勢いで若者たちの間をかけまわった。その一瞬後、次々に若者たちがその場に崩れるように倒れはじめた。あとでわかったことだがそれは、逆上した若者たちを鎮めるために修験者が、とっさに気功をほどこした結果だった。すべての若者たちが気もちよさげに地面に横たわったとき、物の怪もまた動きをとげて、そのとげとげした体をしだいに軟化させていった。
 お杏が、物の怪のまえにたちはだかった。
「捨吉、ゆるしてちょうだい」
 いまではみあげるばかりに巨大になった、捨吉の変わり果てた姿にむかって、お杏は両手を合わせた。
「おまえをそんなふうにさせたのは、あたしのせいよ。あたしがいるかぎり、おまえはもとの捨吉にはもどれない」
 物の怪の体からいくつもの、触手のようなものが伸びては縮んだ。ふたたび内側からむっくりと目がもりあがり、その西瓜のような大きな目玉が、お杏をすいこまんばかりににらみつけた。
 お杏はそのとき、自分が自分をみつめているような気持に襲われた。あのとき、貧鈍坊に拒絶されたとき、自分の中にじぶんでも制御できない感情が芽生えた。あの瞬間は、この世のなにもかもを破壊しつくしてやりたいと思った。それがじぶんの中だけにとどまっていたなら、あるいは時間の経過によって、緩和され、記憶の襞にいずれうずもれていたかもしれない。しかしそれははからずも、捨吉という、なにものにも響きやすい心根の持主に飛び火し、彼の特異体質を必要以上にかきたてる結果になった。物の怪は、あたし自身の化身にほかならない。いまもそれは、あたしの感情を吸い続けて、さらなる凶暴な存在に成長しようとしている。
 お杏は、足元におちていた山刀を拾いあげた。
「お杏、なにをするつもりだ」
 貧鈍坊のといかけにもこたえることなくお杏は、刀の刃を、じぶんの首筋にあてた。
 背後から貧鈍坊が両腕をさしのばし、お杏にむかって最大限の気功を投げかけた。
 はたして気功は功を奏したのだろうか。だがお杏は、山刀をはなそうとはしなかった。首すじに当てた刃を、そのまま下に力をこめておろそうとした。
 そのとき、するするとのびてきたものが、山刀を刀身もろとも巻きこんで、彼女の手からそれをもぎとった。
 稲光があたりを真昼のように照らしたとおもった瞬間、この世のものともおもえない大音響が大地をゆるがした。

 太鼓の調べが、ひときわ熱を帯びて村じゅうに鳴り渡った。
 まつりはあさってにせまり、稽古も佳境にはいっていた。
 貧鈍坊は、寝泊りしているはなれをでると、捨吉が寝ている母屋をたずねた。捨吉は、確実に回復の兆しをみせていた。お杏はつねに彼のそばについて、すべての面倒をみていた。
 あのときの落雷は、まさに神の鉄槌だった。
 若者たちも、物の怪も、お杏も修験者も、あっというまに吹き飛ばされ、心配した芳米たちが様子をみにきたときにはだれもが、大地に意識をうしなって倒れていた。
 いちはやく目をさました貧鈍坊が、お杏の無事を確認し、そしてそのまえに倒れていた捨吉の姿をみとめた。
 そのうちひとり、またひとりと意識をとりもどした若者たちも、捨吉がもとの彼にもどっていることをしると、もはやそれ以上なにもすることなく、茂作と矢太の遺体をかついでひきあげていった。ふたりの死は、落雷によるものと報告された。

「こんなに重湯がたべれたら、もうだいじょうぶね」
 と、三杯も重湯をお変わりする捨吉に、なかばあきれるお杏だった。
「あさっての祭までに、元気になっていないと」
 それをきくと貧鈍坊も明るく笑った。
「こんどの祭りには、変面童子がやってくるぞ」
「………変面童子とは、なんですか?」
 その名の響きに、はやくも捨吉は胸をときめかした。
「わたしの知り合いなんだが、顔を、つぎつぎに変えることができるんだ」
「へえ」
 言葉みじかな捨吉の反応だったが、このときの彼は、その変面童子の言葉に、運命的なものを感じていた。
 そのおもいもあってか彼は、本当に三日のあいだに、めきめき健康になっていった。
 丈夫になった心身は、もはや風にそよぐ薄ではなかった。自制心が表情ちにあらわれ、響きやすい体質もひとまずはおさまったかにみえた。
 祭りの当日には、姉の目をおどろかすほど、元気いっぱいになっていた。
 捨吉はお杏と貧鈍坊に手をにぎられて、村の鎮守の祭りにでかけた。祭りをいっしょに行こうと約束をかわしていた貧鈍坊は、あすにも村をはなれるつもりでいた。捨吉の将来が気にならないでもなかったが、ひとつの場所に長くとどまることは、彼の性分にあわなかった。ちょうどいい潮時といえた。
 明るいうちから、神輿が威勢よく練り歩き、神社では神楽が舞い、この日のために稽古に稽古を重ねた歌舞音曲が、満を持して鳴り渡った。
 縁日がならぶ参道には人々があふれ、ふだん楽しみがない村人たちを喜ばすために、広場では遠方から集まってきたいろいろな大道芸が披露された。
 捨吉はつれの二人をひっぱりながら、変面をみせるという芸人のいるところへ、いっさんにむかった。境内のいちばんひろい場所に、その変面童子はいた。すでにたくさんの見物ができていた。捨吉は、おとなたちのまたぐらをくぐりぬけて、いちばんまえまでつきすすんだ。
 変面童子は、きらびやかな衣装に身をつつみ、頭を頭巾のようなものでおおっていた。すでに佳境にはいっているとみえ、彼はその場にくるりくるりと回転し、そして回転するたびに顔を変えた。しかしその顔は、顔にぴったりはりついたお面だった。それでも、瞬間瞬間にさまがわりする頭巾の中の顔には、だれもが驚嘆した。いったいどんな手法がこらされているのか、顔はまるでひとりでに変化するようにみえた。
「あっ」
 変面童子がいきなり声をあげた。一瞬、動作がとまり、見物人たちが眉をよせたときにはふたたび、彼は身軽に体をひるがえし、なにごともなかったかのようにすばらしい変面の特技を披露した。
 万来の拍手とともに、変面童子の壺の中になげつけられる銭の音がチャリンチャリンと、いつ止むともなく鳴りつづけた。
 見物人たちがあたりにちらばっていくなかにひとり、捨吉だけはその場にとどまっていた。
 その彼に、いま芸を終えたばかりの変面童子が歩みよった。
「きみは、どこの子供だね」
「芳平のせがれです」
「………ああ、地主さんの」
 しかし相手は、そのことにはあまり関心がなさそうだった。
「わたしが変面をやっているあいだというもの、それにあわせるように、きみのその顔がくるくる変わっていた。しかも、生身の顔がだ。じぶんでもわかっているかい?」
「そうですか。しらないうちにやっていたんだとおもいます」
「その芸を、もっと磨くつもりはないかね」
 捨吉の顔がぱっと輝いた。
「先生の弟子にしてくれるのですか」
「うん、わたしの変面が、曲芸なのにくらべ、きみは地でやっている。その顔を、たとえば竜のような架空の生き物や、印度の虎、また歌舞伎役者のような誇張した顔にすることができれば、観衆は仰天するだろう。どうした、なにか不安があるのか」
「そんなことして、人はおらのことを、化け物だといわないですか?」
「芸人のすることだ、工夫はいくらでもできる。いくら浮世離れしていようとも、おもしろければ、銭がとんでくる」
「それならおらを、弟子にしてください」
「うん。まずそのまえに、おまえの親を説得しなければ………」
 そこへ、お杏と修験者がちかづいてきた。
「そのことなら、われわれにまかせてください」
 貧鈍坊は、捨吉のための、これが最後の仕事とよろこんだ。

 貧鈍坊たちの努力もあって、捨吉は変面童子の弟子になることができた。捨吉は、変面童子について旅から旅をめぐり、変面の芸に磨きをかけていった。
 三年後ふたたび故郷の村にもどってきたときには彼は、その名も響き童子と称して、東西一とうたわれる変面の芸を村人たちに披露して、大喝采を博した。

                                    了


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