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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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名前の無い星

13/09/29 コンテスト(テーマ):第四十一回 時空モノガタリ文学賞【 恋愛 】 コメント:1件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1832

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 なにもない惑星だった。
 ここからでも、地平線の丸みがみえるほどちっぽけで、ひとまわりしたところで、時間はしれたものだろう。
 サタケは、その場に腰をおろして、墜落のショックから回復するのをまった。
 眼前には、さっきまで彼が乗っていた一人乗り探査艇の、半分地中に埋没した機体が突き立っていた。安全無比な艇のはずが、宇宙塵の衝突によって、あっけなくこの惑星への不時着を余儀なくさせたのだ。
 それにしてもよく、こんなちかくに惑星がうかんでいてくれた。宇宙塵がぶつかるまで、探知機はなんの反応も示さなかった。まるでこちらが堕ちてくるのを、ナイスキャッチしてくれたかのようだった。
 砂と土のほかにはなにもない大地をみわたしたサタケの口からは、ため息しかでなかった。この地で生き延びる術などおそらく皆無だろう。
 ふいに湿り気をおびた風が、サタケの鼻をかすめた。おやとおもって横をむくと、つい目のさきの地面に、水が湧きだしている。とびつくように、彼はその水に口をつけた。清水は冷たく、ひからびた喉をうるおした。
 夜になり、空一面星がおおう時刻になっても、気温はかわらずおだやかで、大地に横たわっても体は冷えることなく、むしろ彼に安眠をもたらした。
 翌朝、耳のそばで鳥のさえずりがきこえた。しかし彼をおどろかせたのはそれではなかった。あたりには、豊かな穂をたれるイネ科の植物がびっしりと生えていて、向こう側に枝をひろげる木の下では、ヤギがのんびり雑草を食んでいた。
 みると、泉はあふれて、その水の流れゆくところに、また青々と植物を茂らせているではないか。
 彼は一時間ほど、歩きまわっては、この一夜に出現した世界を感嘆のまなざしみてまわった。 
 流れには、多くの魚がみとめられた。どの木にも、様々な果実がたわわにみのり、これは無害だとサタケに教えるかのように、鳥たちがそれらの果実をしきりについばんでいる。
 いまみているものは、幻影でもなんでもなかった。断じて、墜落のショックによる精神の異常などではない。てのひらにつたわる水の冷たさ、香しい稲穂の匂い、頭をすりよせてくるヤギの仄かな温もりが、傷ついた神経が引き起こす幻覚とは到底おもえなかった。
 サタケは、甘く熟した果実を頬張り、体に生気がみなぎるのを待って、食糧とするための稲刈りをはじめた。最初は携帯していた電子ナイフを用いていたが、その焼け焦げる異臭に嫌気がさして、鋭利な石を鎌のかわりにした。
 サタケは、稲刈りにさわやかな汗を流した。つい昨日の、本当になにもない大地をみたときは絶望したものだが、いまはやることがありすぎて、うれしい悲鳴をあげた。
 日ごとに数をましてくるヤギの、乳搾りにも彼は精を出した。イネは、いくら刈っても、翌日にはまた生えそろっていた。。彼にはそれが不満だった。イネは、やっぱり、種から育てたかった。と、彼がそう望んだ翌日、刈り取ったあとにもはやイネは生えていなかった。
 惑星が、おれの気持ちをくみとって、ことごとく希望をかなえてくれている。
 そうとでもおもわないことには、これらの奇跡をいったい、どう説明すればいいのだろう。最初のころこそ、とまどいもあったサタケだったが、目の前の事実をみるにつれ、その心は素直な感謝でみたされていった。
 あるときサタケは、その感謝の気持ちをあらわすために、惑星に名前をつけてみようとおもった。
 彼は、はおもい浮かぶ名をひとつひとつ、口にだしていった。
 がどれも、なぜか違和感があった。
 惑星が、名前をつけられるのを、いやがっている。 
 そう直感したとき彼はもう、なにもいわなくなった。命名された宇宙のすべての星は、人間がじぶんたちの都合でつけた名前にすぎない。きっと惑星はそれを拒んだのだ。
 サタケはふたたび、日々の労働に黙々と精をだすようになった。
 彼はまったく、必要以上とおもえるまでに仕事に没頭した。まるでそうすることによって、なにかから気をそらしているかのようだった。
 ―――彼の住まいに、ひとりの女性がたずねてきたのは、それからまもなくのことだった。
 開いたドアのまえにたつ女性をひとめみるなり、サタケは喜びのあまり言葉をなくした。
 最初に水を、そしてイネや家畜、暮らしていくために必要なすべてをあたえてくれた惑星がこんどは、いまいちばん彼が希求しているものを、さしだしてくれたのだ。
 彼はながいあいだ、沈黙したまま、こちらに笑みをなげかける女性にみいっていた。そしておもわず、名前をききかけたところで、とっさに口をふさいだ。
 名前はつけないと、きめたのではなかったか………。
 彼女の顔にひときわ、優しげな笑みが輝くのを彼はみた。
 



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このストーリーに関するコメント

13/10/08 W・アーム・スープレックス

凪沙薫さん、ご丁寧なコメントありがとうございます。

もやもやしたものがお残りになったそうで、そうなんです、私もまた、もやもやのまま作品にしたしだいです。あるひとつのメッセージとでもいうのでしょうか、その答えは作品中にあるのですが、今回にかぎり、私の座右の銘どおり、ぶっきらぼうですませることをお赦しください。

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