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アミノウォッシュさん

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恋愛アナグラム

13/09/27 コンテスト(テーマ):第四十一回 時空モノガタリ文学賞【 恋愛 】 コメント:3件 アミノウォッシュ 閲覧数:1983

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 停留所の屋根を叩く雨粒は、ますます大きくなっていた。
午後の快晴が嘘のように突然降り出した雨に黒岩望は逃げるようにしてここに駆け込んだ。
少し勇気が要ったが立ち続けているのにも疲れ、備え付けのベンチに腰を下ろすことにした。
 しばらくして目の前にバスが止まる。白いワンピース姿の女性が降車すると彼女も傘の用意が無いようで足早に屋根に入った。不意の来客に黒岩は悪い気がしなかった。

「すごい雨」そう言うと彼女は水滴の残る髪をかき上げ、ベンチに腰を掛ける。
つぶやきともとれる声に黒岩は戸惑い「そうですね」とうなずくように答えた。
 驚いた様子で彼女は声の方に視線を向けた。やはり独り言だったのだと黒岩は後悔する。
悪意は無かったものの「すみません」の一言が喉元まで出かけるが彼女の口が先に開いた。
「もしかして黒岩さん? 私、沙耶だけど覚えてる?」
 その名前に覚えがあった。黒岩は必死に面影を探した。
「……さっちゃん?」雨音に消えそうな声から出た言葉に彼女は目を輝かせた。
「そうそうそう! 覚えててくれたんだ。元気だった? 黒岩さん」
「さっちゃんの方こそ。随分、久しぶりだね」
 黒岩は数年ぶりの再開に嬉しさがあったが同時に寂しさを感じた。昔はのんちゃんと呼び、何処へ行くにも沙耶はついてきた。年月が過ぎたせいか2人の距離も長く離れたように思えた。
「ずっとこの街にいるの? 黒岩さんも都会の方に来ればいいのに。人はたくさんいるし、オシャレなショップとか美味しいお店もいっぱいあるし、遊ぶ所だってうんとあるのに」
 沙耶は夢と憧れからこの街を離れた。同じようにして多くの友人も去っていき、あの頃の仲間は数えるほどしかいない。
「それでも君はここに帰ってきた」沙耶は、ばつが悪そうな顔で笑った。
「ここには都会のような派手さはないけど、この街も少しずつ変わってきてるんだ。大型スーパーは出来たし、駅前には外食チェーン店が軒を連ねてる。前と比べて便利になったよ。ちょっと歩けばアミューズメント施設だってあるしね」
「よかったんじゃない? てっきりもっと田舎になってるかと思った」
「――どうだろうね。代わりに道草を食ったあの緑道も、いつもおまけしてくれた駄菓子屋に、それから立ち読みでよく怒られた本屋もみんな無くなったよ。俺らが通った学校も廃校が決まってる――だからかな。さっちゃんみたいに誰かがこの街にふらっと戻ってきた時、それを見たらきっと侘しくなると思うんだ。だからこうして俺は離れずにいるんだと思う」
「黒岩さんは変わってないね。私とは大違い。私は逃げてばっかりだから……」
 向かいの停留所をバスが過ぎていく。沙耶は大きく息を吐いた。
「私ね、結婚を前提に付き合ってくれないかって言われたんだ。別に嫌いなわけじゃなかったんだけど、それが何だか怖くなってここに戻ってきたの」
「さっちゃんのお眼鏡には適わなかったわけか」黒岩の顔がほころぶと沙耶もつられて笑みがこぼれた。
「だってそうでしょう? 3高と3Kを兼ね備えてない人は私と交際する権利はないの!」
「相変わらず手厳しいな。たしか、それに加えて6Yも必要なんだったよな。未だに他で聞いたことないけど。やさしさ、ユーモア、余裕がある……後は何だか忘れた」
 3高とは高学歴、高収入、高身長。3Kは価値観が合う、金銭感覚の一致、雇用形態の安定。それぞれ女性の持つ結婚への願望と理想である。
 沙耶は独自に6Yというものを作った。沙耶と結婚するためには合わせて12個の欲求を満たす必要があった。これを彼女は以前から口癖のように黒岩に話していた。
「覚えてたんだ! じゃぁ、私の夏休みの自由研究のことは覚えてる?」
「確か石を金に変えるとか言って、その辺の石を拾い集めてたやつのことか?」
「そうそれ! 錬金術の研究」黒岩は笑いを堪えることが出来なかった。
「研究も何も。結局、小石に絵の具を塗っただけだろ! そもそも可笑しな話だ」
「……そうかな。条件を満たした別々の物質が混ぜ合わさることで、違う別のものを生み出す力。すごく素敵なことだと思わない?」
 沙耶はスっと立ち上がった。遠くの方から雨音に負けないエンジン音が黒岩の耳にも聞こえた。
「帰るのか?」
「のんちゃん。もしかしてずっと気づいてなかったの? 私の錬金術はあの時から完成してたんだよ」
 黒岩は沙耶の言っている意味はよくわからなかった。ただ、安堵に似た感情から沙耶を帰してはいけないように思えた。
「なら研究成果を証明しないとな! もう少しだけこの街にいろよ」
「――オッケイ」2人を残しバスは過ぎていった。

 3高、3K、6Y。それぞれを平仮名に戻し、混ぜ合わせて新しい言葉を沙耶は作った。
【交際権、黒岩さん】これを黒岩が理解するのはこれから少し先のことである。


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このストーリーに関するコメント

13/10/05 アミノウォッシュ

>>凪沙薫さん
コメントありがとうございます。
巧いと感じていただけて何よりです。

部屋の壁に「起承転結」と貼っているので影響されているのかもしれません。

三高は死語みたいですね。
バブル世代ではないのでピンときません(笑)

確かに高身長には首をかしげますね。
パンダとキリンならパンダの方が人気ですし
人間どうしに置き換えても同じだと思います。

13/10/07 青海野 灰

遅ればせながら拝読致しました。
【交際権、黒岩さん】の言葉のギミックが秀逸ですね!実際にひらがなにしてアナグラムして「おおっ」と感動しました。
どのようなきっかけでこれを思いつかれたのか気になります。
さっちゃんの言葉の錬金術が、小学生(?)の自由研究の頃から時限爆弾のように秘められていたのなら、とても壮大で長大な計画ですね。のんちゃんがヒントもなく気付くのはムリそうです^^;
それでも愛の告白ではなく、「付き合ってもいいわよ」という趣旨の言葉が、彼女の高飛車さを物語っているようで面白かったです。
おもわず微笑んでしまうような、爽やかな二人の関係が垣間見えました。

13/10/11 アミノウォッシュ

>>青海野 灰さん
コメントありがとうございます。
今回は恋愛がテーマです。
何となく「好き」「愛している」といったような言葉を
直接使うのを避けたいなと思いました。
そこで近いニュアンスが「付き合う」「結婚」なのではということにしました。

僕自身、結婚をしていないので、どういった人が求められているのかを調べました。
そこで、3高と3Kを知りました。
ですが、3Kの「K」の条件が3高と比べ無理やり作った言葉に感じました。
この2つの言葉に関連性はないかと試行錯誤していると「こうさいけん○○さん」になるな〜
ということで、後は無理やり数字とアルファベットで苗字を付け加えた感じです。

アナグラムは無理やり組み立てれば、ある程度作れます(笑)

例えば「やさしい糸」→「愛しい、沙耶」。「置き傘、嬉しい」→「俺が先、言うし」
意味が正しく通るような言葉は難しいですが……。

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