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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
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アイサと首切り半蔵

13/09/25 コンテスト(テーマ):第四十回 時空モノガタリ文学賞【 アイドル 】 コメント:8件 鮎風 遊 閲覧数:2598

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 黒崎半蔵は女性アイドルグループ、ヤンレディ18の地方公演を終わらせ、今会場から30キロ奥地にある山里へと車を走らせている。と言うのも、十年前トップアイドルだったアイサに会いに行くためだ。
「確かにあの時、彼女を退団させてしまったが……」
 曲がりくねった山道を運転しながらも、当時を振り返る。

 煌めくステージ上に18人の少女たちがいた。まさに活き活きと、軽快なリズムに合わせ跳ね踊り、甲高く歌っていた。そして、同じ世界を共有するファンたちはペンライトを振りかざし、熱狂していた。
 そのファンたちからの熱い視線が結ばれた一点、そこにスポットライトを浴びた──目映いばかりのアイサがいたのだ。
 間違いなくあの瞬間、この世で一番輝きを放つアイドルだった。

 そんなアイサが所属していたヤンレディ18、それは伝説的なアイドル集団であると同時に、結成されてから二十年、その人気は引き継がれ、現在においても陰りがない。
 なぜ連綿と、長年人気を維持できてきたのだろうか?
 いくつかの説がある。一般的な解釈は、時代時代にマッチしたパフォーマンスがプロデュースされてきたためだと。
 だが他に、古参のアイドルをタイミング良く切り、どんどんと新人へ入れ替えてきたからだとも言われてる。
 その中でも、一大事はやはりトップアイドルの交替だ。つまりトップの退団時期を判断し、宣告し、実行することとなる。
 こんな非情な仕事を、黒崎半蔵は請け負い、時には強引に、また冷酷に断行してきた。そのためか、『首切り半蔵』とあだ名され、恐れられてきた。

 ハンドルを握る黒崎、あの頃、まだアイサの交替は正直考えていなかった、少なくともあと1年は、と。
 だが、ある日、黒崎は見てしまった、神が降りたかのように踊り、そして歌うアイサを。
 きっと彼女は神仏の申し子だ。そう見えてしまった黒崎は、その気高き拈華微笑(ねんげみしょう)に思わず身震いを覚え、ビビッときた。
 アイサは今、輝きの頂点にいる、だから……、これからは色褪せるだけだ、と。
 首切り半蔵の執行は早かった。一週間後、アイサに「退団を要請します。これからは自分で歩んで行ってください」と告げた。
 こんな冷徹な申し渡し、今まで大概のアイドルたちは泣き崩れた。しかし、アイサは涙も見せず、唇を噛んだだけ。その上に、黒崎を真正面に見据え、「やっと私に、最高の輝きが降りたのですね。アイドル冥利に尽きます。だから、退きます」と笑みを零した。
 トップスターの誇りを汚さぬアイサ、黒崎はあらためてその潔(いさぎよ)さに感じ入った。
 されどもアイサの将来が気に掛かる。なぜなら、失意から生活を乱し、身を滅ぼして行ったアイドルたちを何人も見てきたからだ。
「どうするの、退団後は?」
 黒崎は手短に訊いた。しかしアイサに動揺はない。
「首切り半蔵さんは罪滅ぼしのため、退団十年後のアイドルに面会されてるのでしょ。その時に、お見せしますわ、その後の私の姿を」
 こう強がったアイサの瞳に、キラリと光るものがあった。


「こんにちは。ヤンレディの黒崎です」
 玄関戸を開くと、庭から三人の幼児たちとアイサが現れた。
「黒崎さんですか? 十年後の面接、わざわざ来てくださって、嬉しいわ」
 三十路にもなったアイサ、少し所帯じみてはいたが、トップアイドルの残像が重なり合う中で明るく笑った。それから黒崎はリビングへと案内され、アイサはその後を一気に語った。
 人生波乱、事実いろいろあった。しかし、気が付けば、この山里の刀鍛冶(かたなかじ)に嫁いできていたと言う。そして今は、鉄隕石から立派な流星刀を作る、そんな夢を追った夫を支え、かつ子育てに奮闘中とのこと。
 きっとアイサは黒崎に報告したかったのだろう、アイドルを辞めてからの、決して順風満帆でなかった彼女の歴史を。
 そして黒崎は思うのだった。アイサが一番輝いた瞬間に退団を申し伝えた。もし、アイサに陰りが見え始めてからだったとしたら……、きっと自信をなくしたまま、それを引きずり、こんな十年の生き様にはならなかっただろうなあと。

「黒崎さん、これ、夫の流星刀なの」
 アイサが飾り棚から一振りの日本刀を取り出し、黒崎に手渡した。「ほー、ダンナさんとの共同作品だね」と、ずしりと重い刀をかざした。するとその刃面に、アイサが幸せそうに微笑む顔が映る。
 その輝きは、あの時ステージに立っていたアイサの煌びやかさとはまったく違う。それは無心であり、……深くて渋い。
 アイサはあの時トップアイドルを極めた。しかし、十年経った今、今度は夫を輝かすために生きている。そう気付いた首切り半蔵、ほっとすると同時に、不覚にも目から……。
 その一粒の涙が──刀に映る元アイドルの像を──滲ませ、消し去ってしまうのだった。


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このストーリーに関するコメント

13/09/25 平塚ライジングバード

鮎風様、拝読しました。

アイサを辞めさせた理由、そしてその後の彼女の描写には
非常に考えさせられるものがありました。
あの日、黒崎が彼女に見出だした輝きは、別の形で
残っていたんですね。
静的な展開の中で光る言葉のセンスには脱帽いたします。
何より、絶望的な展開になりがちな“アイドルのその後”
というテーマを前向きに書ききった鮎風さんの優しい
世界観に敬意を表します。

13/09/26 泡沫恋歌

鮎風さん、拝読しました。

トップアイドルを退いた後、落ち目になっても芸能界にしがみついてる人もいれば、
山口百恵さんみたいに潔く引退して、主婦になって家族を支える人もいます。

私はやっぱり山口百恵さんみたいにアイドルに憧れますね。

13/09/26 草愛やし美

鮎風遊さん、拝読しました。

一般的にどのアイドルにも、寿命がありますね、その後をどう生きるかは、人それぞれでしょう。でも、哀しいかな、酷い生き方になる者も多くいるのも事実です。華やかさを知れば知るほど、そこから降りた者には辛い現実が待っていると思います。
アイサが、素敵な生き様ができていてよかったです。しかし、その時期を見分ける力の備わった黒崎というこの男、ある種の超能力者かもしれませんね。

13/09/28 鮎風 遊

平塚ライジングバードさん

コメント、ありがとうございます。

時は流れるもの、されどまた違った輝きがある。
それを書かせてもらいました。

13/09/28 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

アイドルもいろいろ。
山口百恵のような美しい生き方、伝説ですね。

13/09/28 鮎風 遊

草藍さん

舞台に立つアイサの輝きはきっと本物だった。
首切り半蔵、黒崎という男、実は人情が深く、それに応えた。

ということになるかな。

13/10/06 猫兵器

鮎風 遊様

はじめまして。拝読致しました。
アイドルというお題で、「アイドルの引退とその後」に焦点を当てた本作は、新鮮に映りました。
とても面白かったです。
頂点を極めたことを契機に引退させる首切り半蔵の冷酷な優しさ、それに気づいているからこそ、「最高の輝きが降りた」ことを誇りに身を引いたアリサの言葉が、深く心に響きました。
お話の終わらせ方も、余韻があり、爽やかでとても良かったです。
タイトルも目を引く秀逸なものですね。
ありがとうございました。

13/10/11 鮎風 遊

猫兵器さん

コメント、ありがとうございます。

アイドルの輝きとその後、
強い生き様を書いてみました。

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