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- 機械仕掛けの恋心
山田えみる(*´∀`*)さん

執筆歴は八年半になります(*´∀`*) 主にpixivの小説サイドで活動をしています→http://www.pixiv.net/member.php?id=927339 ブログはこちら→http://aimiele.blog136.fc2.com/ 2011/11/19のpixivマーケット2にてオリジナル小説合同誌を発行しました。
性別 | |
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将来の夢 | 趣味として、小説を書き続けられたらそれで幸せです。 |
座右の銘 | 死ぬこと以外はかすり傷 |
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このストーリーに関するコメント
13/10/04 草愛やし美
山田えみるさん、拝読しました。
自律人形という設定、人形が人のために作られ、家族といえる人々を喜ばせるために生きている。この世界素晴らしいですね。凪沙さんのコメントにもありますが、作者の技量が優れていて、言語などから、不思議な世界なのに、現実感がありますね。
人形の一途な気持ちが切ないですね。確かに、恋は出会いが第一、たとえ人形といえど理にかなっています。メアリー人形に、恋心が芽生えるのも時間の問題だとすれば、これから来る未来がとても楽しみに思えます。
ほんと素敵なお話、一気に読み終えました。ほわっとした温かみを感じるいい作品で楽しませていただきました、ありがとうございました。
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人形工房の朝は早い。
お日様が昇るより早くに目覚め、鶏が鳴く頃には家事に取り掛かかる。マスターが目覚める時間を逆算して朝ごはんを作り、仕事に専念できるようにいまのうちに工房の掃除も進めておく。
それがわたしの日課。
マスターの最初の作品にして、作業の助手を務める自律人形。
ここで造られた自律人形は数多く、いまでは街のいたるところで見ることができる。店番に、農作業をはじめとする力仕事、はたまた子供の世話。人形の活動域はますます広がり、社会にとって欠かせないものとなっていた。
わたしが鼻歌交じりにカウンターを掃除していたときのこと。
からんころんからん。
「おはようございます。申し訳ありませんが、開店はまだ――」
「お願いがあるの!」
カウンターに詰め寄ってきたそのお客さんは、まだ少女と呼べる背格好。街娘のあいだで流行っている服を来て、髪も肌もよく手入れがなされていた。が、わたしにはわかる。その青灰色の瞳の奥で、かちりかちりと焦点を合わせるためにクロックする歯車が。わたしと同じ、自律人形。
「私に恋をさせてください!」
「――ということがあったんです、マスター」
「これまた急な話だな」
結局、その要望を技師に伝えますというかたちで、いったん帰ってもらった。それからちょうど三時間後にあくびをしながらマスターが降りてきて、事の次第を話したというわけだ。
「子供のなかなか出来ない夫婦に購入され、実の娘のように可愛がられていたようなんです。本人も娘として振る舞うことを望んでいて、うまくいっていたようなんですが――」
メアリーと名乗った人形の少女は、街で知り合った友達を多く家に招いたらしい。両親はその様子をほんとうに嬉しがり、豪華なディナーを振る舞ったらしい。
「ただ、友達の恋愛話についていけなかったらしくて……」
メアリー曰く、そのときの両親の哀しそうな顔が脳裏に焼き付いているらしい。周りの女の子が声をあげて、顔を覆って、あるいは取引を持ちかけて、恋愛話に花を咲かせる中、メアリーは一言も発せられないまま、ベッドの上で膝を抱えていた。
「なるほど。難しい問題だ」
マスターはわたしが淹れたエスプレッソを苦い苦いと言いながら飲み干して(その割にいつもかっこつけて「エスプレッソで」と言うのだ)、工房へと向かった。そこには自律人形の思考を司るコアの設計書が並べられている。背表紙が10センチにも及ぶ膨大な資料だ。
人形は生殖をする必要性がない。そのため、恋愛感情は後天的に組み込まなければならないだろう。コアは非常に精密な製品で、ブラックボックスな部分も多い。ヒトが自分の脳で起こっている化学反応を自覚できないように、わたしもいまコアでどのような演算が行われているのかを知らない。
「擬似的な興奮状態を作り出すことは可能かもなぁ」
「それじゃダメだと思います。大事なのはリアリティですよ」
箒で掃除をしながら、マスターに返事をしていく。と同時に、頭の隅で少しだけ考える。恋とはなんだろう、と。わたしも少女を模して造られているから、メアリーの言っていることはよくわかる。人のために造られた人形として、両親を安心させてあげたいという気持ちも。
「ああ、もう。ほら。そんなに資料を散らかすと、珈琲こぼしますよ」
マスターはいつだってそうだ。人形に触れているときは職人技を発揮するというのに、日常生活となるととんとダメなのだ。わたしが家事をやって、こうして注意をしてやらなければ、何をしでかすかわからない。
「ちゃんと資料を戻すときは元通りの位置にですね、もぉ」
このあいだなんて、パジャマで買い出しに行こうとして全力で止めたものだ。わたしが造られてからこれで五年。ずっとこのありさまだ。少し自立が必要だと、家事を促したこともあるのだが、ついついわたしが手を出してしまう。そのたびにマスターは頭を撫でてくれる。嬉しいけど、腑に落ちない。
「ん?」
マスターが頭を抱えている中で、わたしはあることに気づいてしまった。もしかしたら、もう知っているのかもしれない。メアリーはまだ運命の人に出逢っていないだけで、人形の思考としては演算可能なのかもしれない。人に奉仕をするというアイデンティティと区別がつきにくいだけで、わたしはもうマスターにそう呼べる気持ちを抱いているのかもしれない。
でも。
「どした?」
「い、いえ。何でもありません」
いざ自覚するとどこか気恥ずかしいもので、わたしは真っ赤になった顔を隠すためにそっけなく後ろを向いた。困っているマスターを助けてあげたいのはやまやまだったけど、この気持ちを抱いていることを告白できるのは、もう少し先になりそうだ。