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そらよるさん

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新しい世界、それは

12/05/09 コンテスト(テーマ):第五回 時空モノガタリ文学賞【 京都 】 コメント:0件 そらよる 閲覧数:2108

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「その先」

はっとなって振り向いた。
振り返った先には、藤色の甚平を着て、右手に煙管を持っている少年がいた。
雨が降っている。

(おいおい、未成年が喫煙だなんて―)

僕の声が出るよりも先に、彼の声が空気を揺らした。

「その先、行ってもいいけど、よくないよ」

チリン
古い街並みに風鈴の音が響いた。

よくない?よくないって何だ―
―また、自分の声よりも先に彼の声が聞こえた。

「古い場所って、いいところと悪いところがあるんだよ。まあ、そういうこと。
行ってもいいけど、逝くことになるよ」

行く?行く。いく。…逝く?
―恐ろしいことを。

格子窓から猫がこちらを覗いている。

「うん、雨って、歓迎の意味があるんだよね。良くも悪くも。あなたは歓迎されているんだよ。そっちに」

軒先にぶら下がる提灯に火が灯った。

―いいことじゃないか。拒否されるよりもずっと。

「でも、でもさ。逝ってしまうんだよ。その先に進むと。現にあなたの時間は今止まっているじゃない」

―逝ってしまう?…時間が止まっている?どういうことだ

また、はっとなって振り返った。
雨が降りやんでいる。

「止んではいないよ。止まっているんだ。傘の中に閉じこもってしまったから余計、そっちに惹かれている。」

―何が言いたいんだ?

瞬間、全ての提灯に一斉に火が灯った。
道の両脇を彩るように、自身が主役であると主張するように。古い街並みは一層古く見えた。

「『全てを君に伝えたとして、それを君が理解できるかと言えば答えはNOだ』。だから端的に伝えているよ。けれどあなたはせっかちで、どうも察しが悪いようだ」

(―どうして。どうして僕の空想を彼が知っているんだろう)

少年の後ろから、何か近づいてくる。それは隊列を組んでいるようだ。
一歩、また一歩とこちらに足を進めている。
いつの間にか、向かい合う民家の屋根と屋根とを繋ぐように、空に提灯がぶら下がっていた。

「雨に濡れた古都はまた美しい。けれどだから、誘惑もある。あなたは来てはいけないところに来てしまったんだよ」

隊列が彼に追いつく。それらは彼に従うように彼の後ろで足を止めた。

「さあ。不思議な世界はこれで終わりだ。あなたはその傘の世界から出ていく必要があるんだよ。」

―雨が。

「雨など元から降ってはいないよ。あなたが此処―今は京都と言うのかな―に来た時からずっと。」

どこから取り出したのか、藤色の少年は煙管の灰を地面に落とすと狐の面を顔に着けた。
耳が痛い。

「おれが背中を押すから、あなたは一歩足を動かして。それだけでいい。」

気付けば少年は僕の後ろにいた。隊列は彼にそう指示をされたのか、ピクリとも動かない。まるで呼吸すらしていないかのように。
よく見れば隊列もまた、狐の面を着けていた。

「お別れだ。偶にあなたのような人が来る。その度おれは街に出る。それじゃあ、行くよ」

とん、と軽く、確かに背中を押された。足は自然に前に出た。
瞬間、世界の音がした。僕の周りにはいつもの京都があって、観光客や商売人の声が響いていた。
周りの人間は傘など持っておらず、空は眩しいほどに晴れ渡っている。

(本当に―)

不思議なこともあるものだ。空想の世界が現実になったようだった。

僕もまた、傘など持っていなかった。


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