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W・アーム・スープレックスさん

性別 | 男性 |
---|---|
将来の夢 | |
座右の銘 | 作者はつねにぶっきらぼう |
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このストーリーに関するコメント
13/09/25 W・アーム・スープレックス
OHIMEさん、コメントありがとうございます。
はん子は何回かこれまでの作品に登場していますが、初対面の方の印象がきけてよかったです。どちらかといえばぶっきらぼうな彼女ですが、やはり恋愛となるとつい、一家言が出てしまったようです。
OHIMEさんのラブストーリーも期待しています。
13/09/25 かめかめ
え!
まさか!
ぼくとはん子がなんだかいい雰囲気になるなんて!
13/09/25 W・アーム・スープレックス
しかし、次回はどんな仲になっているかは、わかりませんよ、かめかめさん。
13/09/28 W・アーム・スープレックス
凪沙薫さん、コメントありがとうございます。
怒っておられるのではないかと、案じていました。はん子の口は、作者でもふさぐことはできませんので。
今後の展開はわかりませんが、案外涼しい顔で、これまでどおりのコンビを続けているかもしれません。
恋の呪文―――舌をかまずに3回言えました。用途がちがいますか?
秋晴れの日曜日だった。
昨夜はジムで筋トレのはずだったから、むりかとおもいながらはん子に電話したところ、午後ならということで、ぼくたちはいつものカフェで会うことにした。
彼女は、5分おくれてカフェにやってきた。ぼくとテーブルをはさんですわった彼女の顔は、トレーニングの成果か、つやつやと輝いていた。
「なに、にやにやしてるの」
注文したオレンジジュースを、ストローでかきまぜながら、はん子はぼくにいった。
「きみを、よろこばしてあげようとおもって―――」
「まさかいい作品ができたっていうんじゃないでしょうね」
「まさか。そうじゃない。ほら、いつもぼくが投稿しているサイトがあるだろ。あのサイトでね、きみが登場するのを、待っている人がいるんだ」
「まあ、物好きな人も、いるものね」
「きみにしても、まんざらじゃないだろ」
「どうかしら」
はん子は、ジュースを一息にのみおえた。
「そこでだな、今回ひとつ、きみを主役にした物語を書いてみようとおもうんだ」
「あなたにそれだけの技量があるかしら。で、テーマは?」
「恋愛」
そのときちょうど店内に流れるクラシックが山場を迎え、はん子はききまちがえたらしかった。
「変態?―――あのサイトがそんな際物をもってくるかしら」
「ちがう、ちがう。れんあいだ」
ぼくは無意識に身構えた。人が怒る原因はまちまちなのだ。
ところが意外にも彼女は、軽く腕組みしながら、
「恋愛ね………ふうん」
あながち無関心でもないような顔つきになった。
「はん子、きみにだって、恋愛体験のひとつやふたつ、あるだろう」
なんとなくきなくさいものを感じながらも、ぼくはおもいきってたずねてみた。
「ききたかったら、リングにあがるのね」
「ええ!」
「わたしの恋の相手は、総合格闘技の四角いリングよ」
「それではしかし、きみの勇ましい姿がきわだつばかりで、恋愛のテーマからは、遠く離れてしまう」
「じゃ、今回はむりね。わたしはじぶんの恋愛体験なんか、いくらあなたでも、話す気はないもの」
「じゃ、やっぱり、あったのか!」
「わたしに恋愛体験があって、なにをそんなにおどろくの?」
「これは失礼。きみが話さないというなら、まずきけないということだ。わかった、なにもきくまい」
はん子は、どこか仔細ありげに、ぼくをながめた。
「でも、せっかく会ったんだから、すこしは実のある話もしなくっちゃね」
「実のある話って?」
はん子は、口にもっていきかけた空のグラスを、もとのテーブルの上にもどした。
「なにいってるの。あなたは、恋愛の話をききたいんでしょ」
「きみはさっき、しないっていったじゃないか」
それは無視してはん子は、ぼくの目をまともにみかえした。
「恋愛ってあなた、なんだとおもう?」
「どうか答えられない質問をしないでくれ。それがわかっていたらなにも、わざわざきみを呼んだりしないよ」
「答えられないのは、あなただけじゃないわ。だれだって、はっきりわからないのよ。だから、世の中の男女は、それを追い求めるんだわ」
「なるほどな。それは創作にも通じる。わからないからこそ、書き続けるんだ。けっして到達しないゴールをめざしてね」
はん子は、なにか確信めいたことをいうときのくせで、ぼくのほうにぐいと身をのりだした。
「恋愛には、典型はないのよ。したがってどの恋愛にも、類型はないわ。わたしたちもまた同様に」
「つまり、どういうことだ?」
「すこしはあなた、じぶんの頭で考えなさい」
ぼくは考えてみた。
「………ぼくたちはこれでも、一応、男と女だ。あ、殴るなら、あとにしてくれ。もしかしたらだよ、うーん、いっていいのだろうか―――その、やっぱり、やめとこう」
「男らしく、はっきりいいなさい」
ぼくはそれからも、ながいあいだ、ぶつぶつとひとりで質疑応答をくりかえした。だが、さっきのはん子の言葉を煮詰めていくとどうしても、あるひとつの結論にたどりついてしまうのだ。
「わかった、はん子。死んだ気になっていうよ。もしかしたら、きみとぼくのあいだもも………わあーっ」
「なにも逃げなくってもいいでしょう」
座席にもどったぼくは、こわごわはん子の顔をうかがった。
はん子は、静かに笑っていた。それはこれまでみたどんな彼女の表情ともちがう、柔和なものだった。
そのはん子の笑顔が語るものを考えたぼくは、突然、胸にはげしい衝撃をおぼえて、さっきのはん子のように、口にもっていった空のコーヒーカップを、ふるえる手で大きくかたむけていた。
ぼくたちが、恋愛関係に………
はん子のストレートパンチをまともに顔面にくらっても、こんなに衝撃はなかったにちがいない。