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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
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恋は百均から

13/09/23 コンテスト(テーマ):第四十一回 時空モノガタリ文学賞【 恋愛 】 コメント:3件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1664

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 こんどばかりは、はん子もお呼びでなかった。
『恋愛』このテーマと彼女を結びつけることは、むずかしい。会社がひけると、総合格闘技のジムにでかけ、汗にまみれてハードな練習に励む彼女に、恋愛なんかしている時間が第一ないだろう。もちろん、彼女のすべてをしっているわけではないので案外、はん子にも愛とか恋とかいった浮いた話があるかもしれないが、ぼくはやはり、今回だけははん子に相談することはやめにした。
 ところで、このぼくもまた、およそ恋愛とは縁のない人間で、あいにくどの引き出しをあけても、ものになりそうな恋愛ストーリーなど入っていなかった。
 しばらく頭の中で、あれこれ考えてみた。あれこれいくら考えたところで、もともとなにもないぼくに、ラブストーリーを創り出すことは、ルウなしでカレーを作るようなもので、できたものは恋愛とは似て非なるものにちがいない。
 一回自分で、恋愛を経験してやるか。とぼくは、経験がないものだけがおもいつきそうな、イージーなおもいつきにすがりついた。
 当てはないでもなかった。漱石もいっている。恋愛は、暇人がやるものだと。
 それでぼくは、みるからに暇そうな女性をさがしに町にでた。
 一時間後にぼくは、商店街の一角にある百円均一の店の中にいた。暇をもてあましている女がいきそうなところはどこかと考えてあちこちさまよっているうち、百均にやってきた。重要で高価なものをもとめる女性は暇とは思えないから百均になどこないという、これまた安易なおもいつきに後押しされたのだった。
 だが案外、物事が成就するのはえてして、このようなたいして深く考えないときなのかもしれない。
 百円均一の品物がならぶ棚と棚の間には、ところどころ客がかたまるようにたちどまり、品定めに熱中している。―――その女性は、一人で、どこか所在なさげにたちつくしていた。なにげなくぼくは、女性のそばに品物を探すようなふりをしながら、ちかづいていった。彼女の前には、老眼用のメガネがならんでいて、どうみても本人とは縁があるとはおもえなかった。みると、まるで絵にかいたような、暇そうな顔つきで、まるでぼくに声をかけてもらいたそうなまなざしをこちらにチラチラなげかけてくるのだった。恋には、出会いがなければならない。この絶対の真理にぼくは駆られた。
「いいメガネがみつかりましたか?」
 老眼鏡だということをわすれて、ぼくはたずねた。すると相手は、まともにぼくをみかえして、
「メガネじゃなく、いい男性がみつかったみたい」
 ぼくはあたりを見回した。そしてそのいい男性が自分であることを確認してから、「百均にはよく似合うでしょう」
 わけのわからないことを口にしていた。
 彼女は笑った。
「わたしちょうど、すぐそこのカフェにいくところだったんだけど、お茶、つきあわない?」
「よろこんで」
 きっかけはできた。問題は、これからだ。ぼくはカフェで彼女とテーブルをはさんで座りながら、胸の中でつぶやいた。
 ぼくがこの関係を、恋愛にまで発展させるにはどうすればいいかを頭の中で模索しているとき、はたして彼女はいった。
「恋愛について、話し合わない」
「いいね」
「それは、筋書どおりにいくものではないわね。たとえばあなたとわたしのように、突然、ふってわいたかのように、起こるものじゃないかしら」
「それはつまり、10年つきあったからできるというものじゃなく、たった1日でも、なるものはなるということか………」
「そう思わない?」
 またしてもおもわせぶりなまなざしでみつめられてぼくは、はからずもぼうっとなってしまった。
 それにしても、大きな収穫だった。カフェで話していたのは2時間ほどだったが、ぼくはひじょうに充実した気持ちで家に帰ってきた。また百均であいましょう。それが別れの言葉だった。 
 帰宅するなりぼくは、バソコンの前にすわって、彼女とのいきさつを克明に書きはじめた。まだ胸の中には、ほのぼのとした彼女の名残があとをとどめていた。恋愛を体験すると人は、私小説を書きはじめるものらしい。彼女とのやりとりを一字一句飛ばすことなく、ぼくは2000字にまとめた。
 誤字脱字がないか、なんどもたしかめてからぼくは、作品をサイトに投稿した。トップだと思っていたところ、すでに投稿している人がいた。ネームをみると『なんすれど晶子』―――軽快な筆致が持ち味の常連だった。
 先をこされた悔しさに、アラを探してやるかとぼくは、作品をのぞいてみた。

 ………まさに、漱石先生のお言葉どおりの、暇そうな男がわたしにちかづいてきた。わたしの恋愛探究の材料にふさわしい、人畜無害な相手がみつかった。
 場所は百円均一の店。彼はいった。「いいメガネはみつかりましたか?」
 老眼鏡の前にたつというわたしの狙いは、見事に的中した。


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このストーリーに関するコメント

13/09/23 W・アーム・スープレックス

凪沙薫さん、コメントありがとうございます。

本当は彼女に出てもらいたかったのですが、なにかと忙しいようで。
今回は「ぼく」の独断場になりましたが、案の定、冴えないモノガタリに落着したようです。まさかはん子を待ちかねている方がおられるとは思いもしませんでした。彼女に伝えておきますね。しかしそうなると、もったいぶって、登場をしぶるかもしれません。むりやりひっぱってくるなど、恐ろしくて「ぼく」にはとてもできない相談です。

13/09/25 かめかめ

え!
ぼくとはん子って恋人関係じゃなかったんですか!
しょっきんぐ!

13/09/25 W・アーム・スープレックス

これまでのいきさつをかえりみても、あまり恋人らしいふるまいは、なかったような。『実のある………』を読んでいただいているので、ここでは多くは語りません。

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