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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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漂流の果てに

13/09/21 コンテスト(テーマ):第三十九回 時空モノガタリ文学賞【 待つ人 】 コメント:13件 そらの珊瑚 閲覧数:1610

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ぼんやりと意識が覚醒していく。――俺は生きている? 重い瞼を開けば、そこは見たこともない砂浜だった。夢じゃないか?
ジャリッ。口に中まで砂まみれで、濡れた身体は鉛にように重かった。まるで他人の所有物のようだ。なんとか起き上る。朝日が眩しかった。
 助かったのだ! 昨晩乗っていた船は時化に合い、あっけなく沈み俺は海へ投げ出されうねりの中で無我夢中で板をつかんだ後、意識を失った。荒れ狂う波の上で粗末な作りの船など一枚の木の葉に等しかった。
 冷静になって周りを見渡す。ここはどこかの国だろうか。夢に見た理想郷なのだろうか。それにしても腹が減った。俺は打ち上げられたゴミのような残骸のなかから何か食べられるものがないか探して歩いた。しばらく行って目が留まる。あれは人じゃないのか?
「おい、大丈夫か」まだほんの子供、長い髪の少女だった。
「う、ううーん」生きているようだ。まだほんの子供で、長い髪の少女だった。少女は目を開けたがしばらくそのまま動かなかった。砂浜を見渡したが他に人はいなかった。ということは奇跡的にこの浜に打ち上げられたのは俺と少女の二人だけか。その後旅行鞄をひとつ見つけその中に入っていたビスケットで飢えをしのいだ。少女にもその何個かを与えると貪るように口に入れた。
 
 少女はリノと名乗った。一緒にいた母親が昨晩ひとつだけ持っていたライフジャケットをリノに着せたという。昨晩の悪夢のような現実を思い出したのだろう。「ママ、ママ」リノはひとしきり泣きじゃくった。ちっ、これだから子供は嫌なんだ。
「おい、いつまで泣いてんだ。おいてくぞ」
 とりあえず俺はここがどこなのか確かめようと思い陸地に向かった。すぐうっそうとしたジャングルが現れ、その先は小高い山が続いている。
「まってよう」リノが追ってきた。道なき道を山に沿って登っていくと唐突に目の前が開けた。そこは断崖絶壁の切り立った頂で、ぐるりと島が見渡せた。
 なんだ、ちっぽけな島じゃないか。もしや無人島か?
 
 それから俺とリノのサバイバルが始まった。運よくバナナに似た果実を実らせる樹と小さな泉を見つける事が出来た。食糧と水。よし、これでしばらくは生き延びられそうだ。
「ねえ、おじさん、いつか誰かが助けに来るよね」
「そんなのわかんねえよ」
 リノはどこかで見つけてきたぼろぼろの布きれを木の棒に縛り、もし船が現れたらこれを振ってみつけてもらうんだと笑った。星が輝く夜は「どうかおうちに戻れますように」と胸の前で手を組み祈った。その横顔が美しかった。「おじさんも一緒に祈ろうよ」
俺はといえば、そのつど「助けがきませんように」と心の中で祈った。俺は嘘つきで悪人だった。
 もし助け船が来て国に戻ったら、人殺しでおたずね者の俺は捕まってジ・アウトだろう。目論んだ逃走劇は終わる、それならここでこの子と生きていくのも悪かぁない。
 ある日森の奥に雷が落ち、火の手が上がった。リノは瞳を輝かせた。
「おじさん、のろし、になるよ。もし船がやってきたらあの火を焚いて知らせよう。ねえ、火を取ってこようよ」俺は仕方なく従った。やれやれ、少女といえども女は人使いが荒いこった。それから二人で交代で火の番をした。
「おじさんは家族がいるの?」
「俺は天涯孤独さ」
「てんがいこどくって?」
「ひとりぼっちってことさ」
「ふうん。でも今はひとりじゃないよね。私がいるもん」
 俺は家族というものを知らない。貧民街で育った孤児だった。生きる為にパンを盗み、挙句に金のため人を殺めた。もし俺にこんな子供がいたら道を誤らずに済んだのだろうか。
「家族だね。私たち。一緒に寝て、一緒に食べて、一緒に助けを待っている、家族でしょう」
「よせやい、うっとおしい」
 早朝目が覚め海を見る。船だ!水平線近くにそれを見つけた。リノはまだ寝ている。このまま黙って見過ごしてもリノは知らない。そしたらここで家族ごっこが続けられる。
――いや、しかしもう道を誤ることはごめんだ。たとえそれが自らの破滅につながっても。
「おい、起きろ! 待望の船だぞ」
 大切に育てた小さな火に集めて置いた大量の木の枝をくべた。ばちばち……。瞬く間に火は大きな炎となって白い煙をもうもうと吐き出した。まるで天に昇る白い竜のように。
「おーい、おーい」リノは大声を上げぼろきれの旗を振った。
「枝を拾ってくる」「うん」リノはこれまで見たことのないような満面の笑顔を見せた。
これだから子供ってやつは。悪人の心をフヌケにしやがる。それから俺は山に登った。崖の上から海を見下ろす。漁船だろうか。徐々に近づいてくるのがわかる。ボー。遠い汽笛が響く。良かったな、リノ。これで助けてもらえる。
 俺が待っていたのは、船じゃない。人生をリセットするこの空だ。俺は迷わずに宙を跳んだ。


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このストーリーに関するコメント

13/09/21 光石七

拝読しました。
無人島で助けを待つ、というシチュエーションは私も思いついたのですが、話が膨らみませんでした。
よかったです、主人公の心に変化があって。
罪を償ったら新しい人生を歩んでほしいです。

13/09/22 猫兵器

そらの珊瑚様、はじめまして。拝読致しました。
ひどく救われない話でした。嘘つきで悪人だったという「俺」が『もう道を誤ることはごめんだ。たとえそれが自らの破滅につながっても』という救いに繋がる決意を持っただけに、余計にそう思えました。
ただ、結果的に自らの業を受け止めきれなかった、弱さ故の悲劇は決して嫌いではありません。
「俺」とリノがサバイバル生活のなかで打ち解けていく様子が、もう少し見てみたかったです。
あと、『まだほんの子供、長い髪の少女だった。』の文章が重複してしまっていることをご報告いたします。

13/09/22 そらの珊瑚

光石七さん、ありがとうございます。

無人島で助けを待つというお話は割によくありそうなので、それがふたりだとしてどのような組み合わせにするか、悩みました。
主人公の心の変化を感じ取っていただき嬉しいです。
彼は生きることへの一縷の望みをかけて、崖から飛び降りたのかもしれません。

13/09/22 そらの珊瑚

猫兵器さん、はじめまして。ありがとうございました。

主人公にとって、無人島に流されてしまったことは幸運だったのかどうかわかりませんが、リノと一緒に救助を待つ時間は、もしかしたら幸運と呼べる時間だったのでは、などと思います。そのあたり、力不足で(字数の制限とはいいたくないので)描写が足りなかったと自分でも反省点としてあげたいと思います。
また文章の重複のご指摘ありがとうございます。推敲時に書き換えてもとの文を消し忘れてました。またまた反省です。

13/09/22 そらの珊瑚

凪沙薫さん、ありがとうございます。

サバイバルものは結構好きなので、もうちょっと苦難に遭遇させてみたかったのですが、2000字の壁の前に省略しました。(こんなに簡単に食料と水がそろうなんてご都合主義ですよねえ)
救いを感じていただけて嬉しいです。そして何よりこの作品のことを好きだと言っていただけて、書いて良かったと思います。

13/09/22 泡沫恋歌

珊瑚さん、拝読しました。

無人島のお話、良いですね。
こういうサバイバルな設定は読んでいて楽しいです。

この話に救いがないとか・・・そんなことは無いと思う。
悪党だった男が、無人島で小さな少女を助けることで、家族ごっこを始めて、孤独だった人生で、ほんの少し人間らしい心を取り戻すことができた。

そこがこの話の救いだと思います。

だからこそ、もう道を誤ることはごめんだ。たとえそれが自らの破滅につながっても。
という決意で少女だけでも救助されたいと思って船を呼んだのだから。
まあ、作品の受け止め方は人それぞれだと思うけどね。

私も「漂流の果てに」は珊瑚さんの中で好きな作品です。
最後まで、わくわくしながら読めました。

13/09/23 そらの珊瑚

恋歌さん、ありがとうございます。

漂流もののドキドキ感、いいですよね〜火さえおこすことのできない自分が果たしてサバイバルできるだろうか?なんて思ったりして。
救いを感じていただけてよかったです。(でも救われないと思われたとしても、それは読んでいただいた方の感じ方なので、そうなんだろうと思います)
今思ったのですが、恋歌さんの「羅刹丸」にちょっと似てませんか?(もちろんあれほどの力作ではないのですが)
作品を好きだと言っていただけるってほんとうれしいです!!励みになります。

13/09/24 草愛やし美

そらの珊瑚さん、拝読しました。

コメントを読ませていただきましたが、最後の一文が色々な意見が出ているようですね。
私は、読後、はっとして「自分だったらどうするか?」と考えました。やはり、船に乗れば、少女が描いている自分に対する夢を壊すことになるのが怖いということでした。自分を頼って、家族のように思ってくれている姿を壊すことは、彼にとっては死よりも避けたいことだったのではないでしょうか……。生き伸びる可能性だってあることを考えれば、この道を選ぶのが、人間愛に目覚めた男にとって相応しいのではないかと思います。

2000文字で読者にいろんな想像をさせて委ねるというのも創作の手法だと思います。私は、彼には相応しい良い終わり方だと思います。

13/09/28 鮎風 遊

悪人は少女に救われた。
一番の道を選んだのでしょう。

少女はやっぱり不思議な力を持ってますね。

13/09/28 ドーナツ

拝読しました。
無人島という、一種の極限状態のような環境にいて、初めて自分と向き合ったのかな、そういうことを考えて読ませていただきました。物事の善悪云々ではなく、ある意味、はじめて正直になれたのではないかと。
「これだから子供ってやつは。悪人の心をフヌケにしやがる」
このセリフ、心に響きます。

13/10/04 そらの珊瑚

草合さん、ありがとうございます。

実は書き始める前は、二人で船が来るのを待っているのだけど、そのうち一人は待ってはいなくて、せっかく見えた船も見ぬふりをして黙っていた、みたいなもっと救いのない話でした。書き始めたら、このような結末になってました。
善人だけの人もいないだろうし、悪人だけの人もいないだろうし、人はきっかけや環境できっと変われるんでしょうね。

13/10/04 そらの珊瑚

鮎風さん、ありがとうございます。

少女には大人になって失ってしまった無垢な部分があるからでしょうか。

13/10/04 そらの珊瑚

ドーナツさん、ありがとうございます。

誰しも最初から悪人であったわけではないし、悪人になりたくてなった人はいないと思います。
セリフ、気に入っていただいてうれしいです。

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